ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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合流

 

 「……フム、少し殺り過ぎたか」

 

 冷静になって辺りを見渡すと、そこには砕けた木々、飛び散る臓物、転がる死体は数知れず、当初の環境保護意識など欠片も感じさせない光景が広がっていた。

 

 「流石は少佐、お見事です」

 

 シズの賞賛に少し浮かれるタイラント。

 だが、この地獄絵図をそのままにしておくのは些か気が引けるし、何より近代火器の痕跡を残すのも問題がある。

 下手に誰かに見つかれば調べられ、いらぬ詮索を受けるやも知れない。

 

 中世程度の世界で近代兵器はオーバーテクノロジー過ぎるのだ。

 この世界では剣や槍、弓、が一般的な武器であり、一部の者が魔法を使えるのを確認している。

 個々の才能や努力にもよるが、武器を其なりに扱うには時間がかかる。

 剣にしても只闇雲に振っても物は斬れないし、弓にしても素人ではまともに矢を射る事は出来ないだろう。

 まして魔法など言うまでもない。専門的な知識や技術がもっとも必要とするに違いない。

 

 だが、銃は違う。

 

 まず扱うだけなら誰でも出来る。

 厳しい鍛練を積んだ剣の達人を初めて銃を持った一般人が倒すのも不可能ではない。

 要するに【近代火器】の存在はこの世界のパワーバランスを崩壊しかねない存在であるのだ。

 人間は新たな技術を直ぐに軍事に使用したがる。

 それは、この世界においても変わらないだろう。そして、いずれは自らの手で世界を、星を破壊する。

 

 「……度し難いものだ、人間とは」

 

 タイラントはそう吐き捨てると、魔物の血溜まりの中心で手を上げる。

 

 「生物兵器・創造(クリエイト・バイオウェポン)

 

 タイラントがそう言うと、地面から金属カプセルが飛び出した。

 ガコンッと重々しい音を立て蓋が倒れると中から【大きな球根の様な物】がゆっくりと姿を表す。

 

 それはT-ウィルスが植物に感染した結果誕生した巨大食人植物

 

 BOW【PLANT-42】

 

 もとは暇な研究者の興味本位で生まれた物兵器だが、この際それは置いておこう。

 タイラントは地を這う大きな球根【PLANT-42】を持つと辺りを見回し、とりわけ一番大きな木の上部へ向け投げた。

 バキバキと枝を折りながら太い木の幹へとぶつかると、球根から無数の触手が伸び、あっと言う間に大木の一部になってしまった。

 しかし、大木の一部と言うには禍々し過ぎる色合いの本体と巨大な触手、生物から養分を摂取する事に特化した触手の先端は固く口の様な作りになっており、捕まったら最後、哀れな獲物は生きたまま体液を吸い尽くされるだろう。

 またウィルスの影響である程度知能があり、多少の意思疎通は可能の植物だが、断じて可愛さなどはない。

この巨大な植物のBOWは対物理攻撃に非常に高い耐性を持っている為、生半可な攻撃ではダメージを与える事は出来ない。

 まぁ見ての通り植物なので火には滅法弱いが、この大型植物を焼き尽くせる炎を操れる人間はそう居ないだろう。

 

 「……今日から此処がお前の持ち場だ」

 

 タイラントの言葉を理解したのか、触手が活発に動き反応している。

 一応、創造主であるタイラントに敬意を示しているのか触手でおじきしている様にも見えた。

 素直な反応に少し可愛さを見いだしそうになるが、直ぐに考えを改める事になった。

 ウネウネと動く巨大な触手が自身の足下に散乱する肉片を片っ端から絡めとり捕食し始め、その植物らしからぬアグレッシブな養分補給は想像以上にグロテスクでゾワゾワと鳥肌が立った気がした。

 

 食事をしているだけなのに気持ち悪いとは心外だと言わんばかりに触手を動かしてタイラントに抗議している【PLANT-42】だったが、タイラントの塩対応に植物なりに悟った。

 

 (我が主は触手駄目系だったのか……)と。

 

 大量のゴブリンやらオークの死体を摂取してすくすく育つ【PLANT-42】は自身の支配地域を大木を中心に着々と広げる。

 剥き出しになった地面には太い蔓が何本も重なり伸びて、その蔓の蠢きは一帯の森そのものが生きている様な状態になった。

 放置していても太陽光と水があれば最低限生存出来る仕様な上に、肉をモリモリ食べた事によって貯蓄された養分により、強固な身体を形成、圧倒的な力を得たようだ。

 更に、この植物が本気を出せば独立した分身【PLANT-43】通称"イビー"を生み出す事が出来る。

 【PLANT-43】は【42】に比べ人の背丈程まで小型化してしまうが、植物の欠点である移動不可を覆す植物だ。

 凶悪な戦闘能力そのまま鈍足ながら移動出来る恐ろしい進化を遂げた植物、スーパー植物と言った所か。

 

 (ふむ、緑が戻ったな)

 

 今回破壊してしまった自然をPLANT-42を森に寄生させる事によって戻した事はタイラントの思惑通りだった。

 しかし、如何に植物と言えど強力かつ、冷酷で残忍な生物兵器である。

 並みの魔物、冒険者など太刀打ち出来ずに餌になってしまうのは目に見えている。

 確実に危険度の増した森になった事は疑いようもない事実なのだが、元々森の力の均衡が崩れていた今となっては些細な問題なのかもしれない。

 

 「……さて、このブタゴリラの処分をどうしたものか」

 

 自身の前に倒れるトロールの骸を見ながら溜め息混じりに呟く。

 一応、ハンティングトロフィー的な物を取るべきかと思うが組合の討伐証明部位が何処か分からない。

 かと言ってこのまま放置するのは些か勿体ない気がする。やはりこれは、古より続く我が祖国の伝統に基づく方法でやるしかないか。

 そう決めたタイラントはザシュッとトロールの首筋に手刀で一閃すると首がボトリと落ち、その首を拾うとロープで適当に括り肩に担ぐ。

 

 「……首を持っていけば間違いないだろう」

 

 「要らなければ、エントマが食べるかと」

 

 エントマと言わず俺が処理すると言っているが如く自己アピールする植物を軽くあしらい、引き続き森林の探索を開始しようとした矢先、深刻な問題が発生した。

 

 「この先から、強い力を感じるでござる!」

 

 突然聞こえた声に驚き、咄嗟に身を潜める二人。

 見ればやたら大きいハムスターが森の奥から現れ、かつ言葉を喋って此方に向かってくる。

 それだけでも十分衝撃的だが、タイラントズームアイはその後ろに続く人間5~6名を確認してしまった。

 

 

 (くそ、迂闊だった)

 

 PLANT-42の支配地域は熱源探知、動体探知が全く使い物にならないとは言え、此処まで接近を許すとは正に油断の極みか。

 臨戦態勢を取れとPLANT-42とシズに指示をし、自らも先制攻撃のタイミングを伺う。

 

 (……可哀想だが仕方あるまい)

 

 シズとタイラントは触手に捕まり木の上部へと上がると撃ち下ろしの射線でMG-42を構え、標的が射程に入るのを静かに待つ。

 この場でタイラントが直接始末しなくてもPLANT-42に任せれば良いとも思う。

 しかし自らの油断から招いたこの事態、念には念を入れるべきだと判断した。

 有効射程内侵入を確認し、ジャキンッと初弾を装填して引き金を引こうとした瞬間、タイラントは向かってくる人間の先頭を歩く者に見覚えがある事に気が付いた。

 

 (あれは団長、それと後ろに居るのはナーベラルか?)

 

 撃ち方待ての指示をシズにすると、颯爽と集団の前に飛び降りる。

 重さを感じさせない着地は漆黒の鎧を纏う戦士とその従者以外の者の度肝をぬいた。

 タイラントに続いてシズも飛び降り、不思議な格好の美女の優雅さすら感じさせる着地に一堂はまた驚いた。

 

 「……これ以上近づくな」

 

 タイラントは集団に立ちはだかると、マスク特有の低い声で 静かにかつ威圧的に警告をする。

 

 「理由を聞いてもいいかな?」

 

 先頭を歩いていた漆黒の鎧の戦士が警戒しながら答えた。

 

 「……手に負えん巨大な魔物が居る。死にたくなければ引き返せ」

 

 まぁ全然手に負えるけども、ここはそれらしく言って何とか誤魔化すしかない。

 まだ、ゴブリンやらオーガやらの死体だって残ってるし、汚いし、臭いし、etc……。

 残念ながら、余計な物を団長以外に見られるのは得策ではないのだよ。

 

 「何と!某に任せて欲しいで」

 

 (おのれ、空気を読め獣めが!ややこしくなるだろう!)

 

 【黙れ獣、殺すぞ】

 

 タイラントは"暴君の波動"をハムスターに当てながら睨む。すると巨大ハムスターは可哀想な声を出してひっくり返って気絶してしまった。

 愛玩動物に対して酷い仕打ちだと思うが、話がややこしくなるので即座に排除をせざるを得なかったと自分に言い聞かすタイラント。

 因みにタイラントはネコ派である。

 

 「それは君の力を持ってしても苦戦する程か?」

 

 「……如何にも、だが貴方が居れば話しは別だ」

 

 ガシッと固く握手をする親しげな真っ黒な二人。そのやり取りを見ている他の者は只呆然と見ている事しか出来なった。

 一つだけ分かる事は、あの誰も寄せ付けない雰囲気を出していたモモンがこうも親しく話すのだから、この男は余程の存在なのであろうと確信していた。

 

 「……ナーベも息災だったか」

 

 「はっ!お気遣い有り難く存じます」

 

 タイラントはモモンの後ろに控えるナーベにも親しげに声をかけるが、ナーベは方膝を地面について頭を下げる。あまりにも仰々しい挨拶にモモンの方を見るが、モモンは諦めてくれと言わんばかりに肩をすくめた。

 

 「な、何故あのナーベちゃんがこの不気味マスク野郎に……」

 

 何故かな後ろにいるぱっと見チャラ男の様な男がショックを受けている。

 しかし不気味マスクとは失礼な奴だな、法律と警察が居なかったらぶち殺している所だぞ。

 ふっ、このマスクの格好良さが分からんとはな。

 所詮はチャラ男よ、ハイセンス装備の価値が分からぬ俗物だと言うことか。

 

 

 「本当に無礼な下等生物(糞コロガシ)ね。ぶち殺すしかないわ」

 

 「いっぺん、死んでみる?」

 

 冗談なのか、本気なのか分からないが二人の美女から放たれる殺意はチャラ男へ向って一直線、取り敢えず南無阿弥陀仏と言っておこう。

 

 「その抉られる様な視線!大好物です!ありがとうございます!」

 

 (な、なんて強い(メンタルが)男なんだ……!!)

 

 タイラントはチャラ男にドン引きしつつも、ハートの強さに感心せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

  

 




やっと合流出来た……
初BOWはPLANT-42と言う微妙なチョイス。
PLANT君の性能を少し上方修正してます。
誤字、誤植、脱字等は発見しだい直します。
見落としが多々あるのでご報告があると助かります。
BOWについてはwikiを参照にしてますが何か不自然な点がありましたらあわせてお知らせ下さい。

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