「ぐぁあ……だず、げで……」
鎧の兵から悲痛な叫びが木霊する。声を発しただろう地面に倒れた兵の胴体に人の頭部ほどの幅はある剣が突き刺さっている。剣はずるりと持ち上がり
「ぎゃっ!!!!」
トドメを刺すように再び深く突き入れられる。絶命した兵は白目を剥きながら絶望に満ちた表情をしていた。回りに居る兵は恐怖し慄く、目の前に居る絶対的な力を持つ存在に。
ああ、そこに無惨に貫かれた仲間の様に自分達も殺されるだろう
そこに居る鎧の騎士に―――
数分前―――
「ふむ……」
豪華な漆黒のローブを纏った骸骨が鏡を見ながら、右手を伸ばしスライドさせたりしている。鏡にはその姿は映らず代わりに広大な草原が。
「この遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》の操作方法が解れば……」
声の主、モモンガは傍に居るセバスに聞こえないほどの声で呟く。指定したポイントを映し出す鏡型のアイテムでユグドラシルでも微妙と評価される物であったが、今となっては外の風景を見ることが出来る貴重なアイテムとして重宝される。
この遠隔視の鏡の操作を解明するために彼此一時間費やしていた。だが一向に解らず、こうして今も尚奮闘している。
(飽きたなぁ……)
だが投げ出すわけにもいかない、少しでも貢献しなくては彼の下にいるナザリックの者達に申し訳がたたないくなる。適当に両手を動かしていると
「おっ!」
俯瞰で見ていた視点が更に広くなり、より広範囲を見ることが可能になった。モモンガは喜びから声が上がる。するとセバスから拍手が起こる。おめでとうございますと言葉を受けた後
「流石としか申し上げ様がありません」
それほどの仕事はしていないのだが、ここまで付き合ってくれたセバスからの賞賛を素直に受け入れるモモンガ。
「ありがとう、セバス。長く付き合わせてすまなかった、本当に感謝している」
「主の御側に控え、ご命令に従うこと。それこそが私の生み出された存在意義です」
「そうか……もう良いぞ、下がって休め」
「いえ、モモンガ様がこうしてご奮闘されているのです、休むわけにはいきません……御厚意は非常に嬉しいのですが、執事は常に主に最後までお付き合いするもので御座います」
「……そういうものか」
真面目だなと内心呟く。さて、ともう一度鏡に向き直り操作を再開する。景色が流れ森が見え始め、村の様なものも確認できた。拡大していくと
「……祭り、か?」
村人であろう人間が慌しく動き回る。セバスが鏡の光景を目にすると
「いえ、どうやら祭りではないようです」
よく見ると村人達の近くには、全身を鎧で固めた騎士風の者達が。手にしている剣で一人、また一人とその騎士に切り殺されていく村人、抵抗も出来ないまま散り逝く命。
虐殺だ
目を覆いたくなる光景が遠隔視の鏡を通してモモンガの視界に入る。しかし彼はこの凄惨光景を見ても何も感じない、身体がアンデッドになってしまったからだろうか?その影響で心までも変わってしまったのからだろうか?恐ろしいほどに冷静で居る。もうこの村には価値はない、そう思っている自分に毒づく。
(俺は……どうすればいい?この世界にやってくる前であれば、助けに行くと直ぐに動いていただろう。だが今の俺はこの村を助けたところで、ナザリックの利益になるのかと考えている……こんな時たっち・みーさんが居れば、アルさんが居れば……!!)
すると突然動かなくなったモモンガを心配してか、セバスが声を掛ける。
「どうなさいました?」
「……何でもない」
「そうですか……それで、この村はどう致します?」
見捨てる。そう言おうとしたが、頭の中で別の言葉に書き換える。
「た、たっち・みーさんなら……アルトリウスさんならこの光景を見たら何と言うと思う?」
他人便りだ、自分で答えを出せないからセバスに聞くしかない。ナザリックの頂点に立つ者としてその言葉は如何な物か?セバスがそう答えると思い、今の言葉を撤回しようとしたが
「恐れ多きながら御答えさせて頂きます。たっち・みー様ならば『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』と、そしてたっち・みー様の御親友アルトリウス様がこの光景をご覧になっていたら『一瞬でもやりたいと思ったら、自分の意思を信じて行動すればよい』と仰るでしょう」
「!?……ッ」
そうだ、もし二人が居れば間違いなくセバスの言った事をそっくりそのまま言うであろう。目の前には困っている者が居る。一瞬でも助けたいと思った自分が居る。ならばやるべき事は一つだ
「セバス、私はこのナザリックの主。そうだな?」
「はい、モモンガ様はナザリック大地下墳墓の絶対なる支配者、その事実に揺るぎは無いかと」
セバスは胸に手を当て畏まり言う。
「ならばセバス、たっち・みーさんやアルトリウスさんの……アインズ・ウール・ゴウンの皆の意思を継ぐ。それがナザリックの主がすべき行動とは思わんか?」
「おお……それこそナザリックの主たるお言葉!そうで御座いますね……そうなさって頂けるならたっち・みー様達もお喜びになられるかと思います」
感銘を受けたセバスは深々と頭を下げてモモンガへと言葉を送る。
「この世界での私の力を確かめる良い機会にもなろう……ナザリックの警備レベルを最大に引き上げろ、私はこの村へと行く。アルベドに完全武装で来る様に伝えろ」
「後詰の準備も、ですね。では村に隠密能力に長ける者と透明化を出来る者を複数送り込んでおきます」
「ああ、セバス、守護は任せる」
「畏まりました」
時間は無い、モモンガは直ぐにでも行動を起こそうと考えた。二人の意思を強く胸に抱きながら……
※
村から離れたアルトリウスは現在、カルネ村へと赴こうとしていた。
「しかしあの、村長は悪い人ではなかったな」
明らかに怪しいアルトリウスを拒絶することなく、迎え入れてくれた。最初は余所者と言われて門前払いをくらうかと思っていた彼には僥倖だ。だが全てが全て良い人間とは限らない、見極め然るべき行動をとらないと今後に支障を来すであろう。
「む?」
何処からか叫び声に似た声が彼の耳に届く、もしかしたら村が近いのではと。しかし先程の声は明らかに悲鳴のようだ。すると木々の間から鎧を来た男達が、明らかな敵意を持って彼の前に姿を現す。
「何だ貴様、この村の者か?」
モンスターの次は人間か、とアルトリウスは呆れ返る。今回は人間だから話し合えば穏便に済むのではないかと、お互い出来れば争いは避けたいところであろうと、淡い期待を胸に持つ。
「私は旅の者だ、この先の村に用が在って来たのだが……」
「残念だがこの先の村には行けんぞ。妙な姿をしやがって、おまけに図体は立派と来た」
アルトリウスを囲むように複数の兵士達が剣と盾を構えて並ぶ。最初に相対した時から避けられないような気がしていた、アルトリスは頭を抑えたくなる。
「こいつを殺せ!!」
先程アルトリウスに声をかけた男はこの兵達の上に立つものであろう。男が叫ぶと一人の兵がアルトリウス目掛け突っ込んでくる。
「うぉおおお!!」
「やれやれ……」
剣はそのまま彼に振るわれた……だが
「……へ?」
兵士の振り下ろした剣はアルトリウスの身体には届いていない。彼の左腕に刀身は握られていた。
「くっ!離せっ!!」
その左腕から剣を引き離そうと必死に引っ張るがビクともしない、まるで岩に深々と刺さった剣を抜くようだ。彼の左腕に力が込められると
パキン!
硝子を砕くような感覚でアルトリウスは剣を握り潰した。パラパラと自分の剣の破片が落ちていく様を兵士は唖然として見ている。いや、目の前の現実を認識できなかったのであろう。
「え?何で?何で剣が……がっ!」
突如空いた右腕で兵士の頭を鷲掴みにし地面へと落とすと、グチャッという音と共に地面は赤く染まる。
「……は?」
何が起こったと言わんばかりに兵達はアルトリウスの腕に視線が集まる。仲間が頭を掴まれた後何をされた?そのまま地面に倒されてからどうなった?兜はぐしゃりと潰れ、守っていた中身は形状を維持することなく潰されたのだ。兜の隙間からは脳髄と思わしき固形物がはみ出ている。
アルトリウスは潰した兵を一瞥し
(あの化け物を殺す感覚と同じ……人間を殺す事に何の躊躇いも無い、何の罪悪感も無い。辺りを飛び回る虫が邪魔だから殺す、そんな感じだ。俺はもう……人間では無くなったんだろう)
この世界に来て少し経った後に気づいたことだ。自分はもう、心も身体も人間ではない。『洞上翔』ではなく『アルトリウス』として此処に居るのだと。
ようやく状況を理解できた男が
「何をやっている!相手は一人だぞ!?全員で殺しにかかれ!!」
怒号により兵士達はやぶれかぶれとなってアルトリウスに襲い掛かる。彼は深淵の大剣の柄に右手を添え
「ふっ」
抜刀の勢いのままその場で回転する。動きが止まると同時に兵士達も動かなくなった。そして二秒経つと全員の身体がずるりと滑り落ちた。刀身に着いた血を払い肩に置き、アルトリウスは男の方を向く。
「ひ……ひっぃいい!!!!」
今度は直ぐに理解できたのだろう、恐怖の色に顔を染め上げ股の辺りに染みが出来ると、後ろを向き逃げ出した。
「逃がさん」
アルトリウスは姿勢を低くし、走り出しその後を追ったのであった……。
冒頭のワンシーンはアルトリウス初見ムービーのような感じですね。今思えばあの時から彼に惚れて居たのでしょう……
後にキアラン達のデータを記載いたします。
DLC来る前は森で結晶エンチャの物干し竿で遊んでいた記憶があります。今もまだ森で対人が起こってるとか。久々に起動しようかなぁ……暗月技量or結晶技量とかのデータがメインでしたがw