「~♪」
何処からともなく陽気な鼻歌が聞こえる。そこは古びた木造の内装、内装にあわせた木のテーブル。大の大人サイズの木箱しかない殺風景な部屋だ。再び鼻歌が聞こえるが、この部屋には誰もいない。いや、人はいない。要るのはテーブルの上に乗っかっている丸々とした猫だけだ。
「~♪……おや、随分と懐かしい顔だね」
猫が喋った、本来なら驚愕することであろうが、声をかけられた人物、アルトリウスは気にもとめず猫へと返答する。
「久しいな、アルヴィナ。元気そうでなによりだ」
「あんたもね、キアランから帰ってきたとは聞いていたけど、いつ顔を出すか待ってたんだよ」
「それはすまない、立て込んでいたものでな」
「いいさ、わたしゃ所詮猫、気にしなくていいよ」
「拗ねるなよ」
「拗ねて無いさ。ところで何のようだい?」
「武器を幾つか持っていきたい。ちょっと試したくてな」
「わかったよ」
アルヴィナは木箱に視線を移すと蓋が勝手に開く。アルトリウスはその木箱の中身を物色する。
「そういやアルトリウス」
「ん?」
「竜娘にはあったかい?」
「……まだだな」
「会いに行っておやりよ、あの娘だってキアラン達と同じくあんたの帰りを待ってたんだからさ」
ふとアルトリウスは思い出す、白く美しいかの容姿を。アルヴィナは実のところアルトリウスが作成したNPCではない。彼の友人が作りこの部屋『黒い森の小屋』を守護するように設定したのだ。アルトリウスのNPCは他にいる、彼が最後に作り上げたNPCが……
「そうだな、落ち着いたら行くとしよう。彼処にも用はある」
「そうするといいさ」
そしてアルトリウスは幾つか武器をアイテムボックスに収納する。
「さて私は行く、また来るよアルヴィナ」
籠手に包まれた手でアルヴィナを優しく撫でるとゴロゴロ喉を鳴らす。
「そんな優しくされても何もでないよ」
「期待してたのだがな」
「言うねぇ、坊や」
「坊や言うな。ふっ、それではな」
手をヒラヒラさせながら出口へとアルトリウスは歩む。
「……良かったねぇ、シフ。これで寂しい思いはしなくてすむよ」
※
ほの暗い通路を歩くアルトリウスとシフ。進路を塞ぐ鉄の格子に阻まれるとそれは勝手に持ち上がって行く。格子の向こうへと行くと視界に映るのは円型に大きく空けた天井、何層にもなった客席だ。此処は円形劇場アンフィテアトルムと呼ばれる第六階層にある闘技場だ。
丁度中心にこの階層の守護者、アウラ・ベラ・フィオーラとその双子の弟『マーレ・ベロ・フィオーレ』がおり、アルトリウスの存在に気付き
「「アルトリウス様!」」
アウラは元気よく、マーレはまるで女の子のような走り方で彼の下へと。
「マーレ遅い!」
「お姉ちゃん速すぎるよぉ~はふぅ……」
「全く!おっと、アルトリウス様、シフ、ようこそ!円刑劇場へ!」
「ぐるぅ」
「突然来てすまないな、迷惑を掛ける」
「そんな滅相もない!至高の御方の一人、アルトリウス様が来られて迷惑何て一切思いません!」
「……」
ふとアルトリウスはマーレを見るとマーレはビクッと身体を跳ねさせ顔を伏せる。アウラはムッと表情を変えてマーレの背後に周り
「マーレ、アルトリウス様に失礼でしょ!」
「ううぅ……ごめんなさいぃ……」
ギュ~とマーレを締めるアウラ。何故かその光景にアルトリウスは微笑ましく見る。
「(……こんなに元気に動くなんてな、あの人にも見せてあげたかった……)」
軽く咳払いをし
「アウラそれくらいにしておけ」
「はい!」
アウラはパッとマーレから離れると、アルトリウスはしゃがみマーレと比較的近い目線になる。するとマーレは少し目線を反らす。
「どうしたんだマーレ、私が何かしたか?」
「えっと……その……」
口ごもるマーレ、呆れたアウラが
「マーレ、まさかあんたアルトリウス様の事、怖がってるの?」
「お、お姉ちゃん……!」
成る程とアルトリウスは呟いた。確かに彼は表情が伺えない為何を考えているか解らない、それに基本的に物静かなためあまり良くない印象を与える。アウラの言う通りマーレは気弱な性格のためアルトリウスを怖がっているのだ。
「マーレ、怖がることは無い、私にとってお前達は大切な存在だ、傷つけるようなことは一切しない。だから安心してくれ」
金色の頂点をアルトリウスは撫でるとマーレは顔を赤くしていた。さてとアルトリウスは立ち上がる。
「アウラ、マーレ。私が此処に来たのは少し実験をするためだ。此処を借りてもいいか?」
「勿論です!ところで何の実験ですか?」
「私の武器について……む?」
アルトリウスの頭のなかに声が流れてくる。声の主はアインズのようだ。
『アルさんいまどちらに?』
『闘技場です、武器の性能を確認しようと』
『俺も行ってもいいですか?ちょっと息抜きをしたくて……』
『構いませんよ』
会話が終えるとアウラ達の方を向き
「どうやらアインズさんが来るようだ」
「アインズ様が!?」
「ああ、今すぐに来ると……噂をすれば」
彼が入ってきた入り口からアインズがやって来た。
「アルさんの武器興味があったんで来ちゃいました」
「ユグドラシル産の武器に比べれば地味に見えますよ……」
苦笑しながらアインズ達から距離を置く。
「アインズさん、最悪の状況も考えられるのでアウラ達の前に」
「わかりました」
アイテムボックスに腕を突っ込み一つの大剣を取り出した。全体がまるで岩のような質感で刀身は所々が橙色になっており何かの紋様のように刻まれている。
そして思い出す、ガゼフに託した剣の事を。
「(飛竜の剣は彼処まで強力な衝撃を放つことは出来なかった、此方の世界に来て威力諸々が変化したのかもしれない……ならば同じくドラゴンウエポンのこいつはどうなるか)」
ドラゴンウエポンの一つ『古竜の大剣』の柄を両手で持つ。
「はっ!」
剣を高く持ち上げ降ろす勢いで地面へと叩き付けた。すると軽く4mは越す凄まじい衝撃波が放たれ、地面を這って行く。やはり想像していたものよりも衝撃波の規模が大きくなっているとアルトリウスは確信する。衝撃波は闘技場の壁へと当たり、壁を伝い駆け上がっていく。そのまま闘技場の外へと消えていった。
「規模は上昇し、能力は健在か……使えるな……では」
古竜の大剣はしまい新たな剣を取り出す。次の剣は柄に当たる部位は紐で縛られており、刀身が美しい黒曜石のようなもので形成されている。この剣はアルトリウスの所持しているドラゴンウエポンの中でもお気に入りの一つとして存在している物だ。
「アインズさん、防護壁張っておいてください。この武器の威力、私も把握できません」
「?解りました……マジックシールド!!」
自分の前面にアインズは魔法防御を発動する。それをアルトリウスは確認すると柄を両手で逆手に持ち地面へと突き刺す。
「!?」
アインズは目を疑った。刀身が地面へと刺さった瞬間、この闘技場全てを覆いつくさんとばかりに黒い炎がアルトリウスを中心に発生した。炎がマジックシールドに触れると鬩ぎ合い、今にも砕けそうになる。アルトリウスが慌てて刀身を引き抜くと少しづつ炎は消えていった。
「すごい……」
思わず声が漏れたアウラ。アルトリウスは『黒竜の大剣』を眼前へと持っていく。
「……これは側に味方がいるときは使わない方が良いな」
黒竜の大剣をアイテムボックスへ収納する。
「凄まじい威力ですね、アルさん」
「正直予想外です。恐らく私の持っている武器の殆どが威力が向上している……そうだ、アインズさんに前々から渡したかった剣があるんですよ!」
「俺に?」
「ええ、アインズさんにも装備できるように調整して完成させたんですけど……これこれ」
アルトリウスがアイテムボックスより引き出したのはおぞましい外観をし、異様な瘴気を纏った反り返った剣だ。それをアインズへ手渡すと彼は空へと掲げ様々は角度から見る。マーレは恐る恐るその剣を見ていると
「……もしかして、骨で出来てるんですか?」
「鋭いな、マーレ。その剣は『墓王の剣』。死の瘴気を纏っていて、生命を持つ者に対して強力な猛毒となります。きっとアインズさんに似合うと思ってずっと持ってたんですよ」
「おお……これ貰っても良いんですか!?」
「その為に作ったんです、お気に召しましたか?」
「良いですよこれ!おお~墓王の剣か~」
「ナザリック地下大墳墓の王たるアインズ様に相応しい剣ですね!」
アウラは剣を見ながらに言う。喜んでいるアインズの姿を見て、アルトリウスは全身を骸骨で作り上げられた死を司る王を思い出していたのはまた別の話である。
アインズは墓王の剣を手に入れた!
ずっとアインズ様にこの剣を持たせて上げたかった……次回、アルトリウスと階層守護者の一部のお話に。お楽しみに!