ナザリックへと私達は帰還した……のだが帰還して早々に第六階層に連れて来られたのだが、何故だろうか。玉座の間に皆を集めていると言うし……待たせては不味いんじゃ。オーンスタインも玉座の間へと既に足を運んでいるだろうし。
「アインズさん、始めに玉座の間に行く予定では?」
「その前にアルさんと会わせなきゃいけないんですよ」
思わず首を傾げる。ん?こちらの方向は確か……
「……」
森が開けたところに出て、目に入ったのは懐かしの最初の火の神殿……そうだ、私は第六階層の森林エリアにこれを創ったんだ……ん、もしかして
「まさか会わせなきゃいけないのって」
「アルさんのNPC達ですよ。ほら早速……」
突然地鳴りがする。此方に何かが来ているのだろう……とても大きな何かが。それが木々を割るように出てくると
「久しい顔だのう」
低く篭った声で私を見ながら巨人は……四騎士の一人『ゴー』が懐かしむかのような言葉を掛けてくれる。
「おぉ、モモンガ様もご一緒で」
跪こうとしたがアインズさんが手で静止し、ゴーは立ったまま此方をもう一度見る。
「久しぶりだな、ゴー」
「それはこちらの台詞でもある、永らく姿を現さんものだから心配したぞ。だが見る限り元気そうだな、何より何より」
はっはっはとゴーは笑う。まさか帰ってきてここまで喜ばれるとは。オーンスタインの時も感じていたが、私のNPCとこうして会話をするというのも中々不思議な感覚ではある。だが私は寧ろ感動の方が大きい、こうして心配していると言ってくれただけで涙が流れるならとっくに号泣していることだろう。そうだ……
「ゴー、キアランは―――」
「此処に居る」
既にゴーの足元に仮面を着けた女性、キアランが其処にいる。キアランは後ろで束ねた絹のような金髪を揺らしながら此方に歩み寄ってくると、私の腕にそっと触れた。
「……何故突然姿を消したのかは理由は聞かない……だけど私達はお前が帰ってくるのをずっと待っていた……だから言わせてくれ」
伏せていた顔を上げる。
「お帰り、アルトリウス」
「……ただいま、キアラン」
キアランと言葉を交わすと、ゴーは笑いながら茶化す。
「おーおー、キアランが仮面の中で顔を赤くしとるのぅ」
「だっ!誰がしているか!!適当なことを言うな、ゴー!!」
勢いよく振り返り羞恥からか声を荒げる。すぐにはっと我に帰りアインズさんに頭を垂れる。
「お見苦しい所をお見せしました、モモンガ様」
「いや、構わない。ところであいつはどうした?」
「あいつ?……ああ、シフの事でしょうか。シフなら……」
その時、森を何かがとてつない速さで駆け抜けてきた。私は気づけば心が昂っていた。居る、直ぐ側まで。それは森から飛び出し、私の目の前へと着地した巨大な狼。私が最初に作り出したNPC……
「シ……フ」
名前を呼ぶと頻りに私の匂いを嗅ぐ。
―――がう
小さく吠えた。私はゆっくりと頭に手を伸ばそうとすると、その場に伏せた、撫でろと言わんばかりに。その灰色の毛並みに触れようとし、一瞬止まったが迷わず触れる。
「ッ……」
とてももふもふしている、ここまで触れて気持ちがいいと感じたことがない。優しく撫でているとシフは耳をピクピク動かし、尻尾を振り眼を閉じている。僅かに感じるシフの鼓動……。
そうだ、生きているんだ。オーンスタイン、キアラン、ゴー……そしてシフ。彼等はもうNPCという命令を待つだけの存在ではない。各名前を持った意思と命を持った生き物なんだ。アルベドも、そして他の存在達も……
手を止めてそんなことを考えていたらシフが鼻で腕を弄る。もっと撫でろと言っているのだろう。
「すまん」
もう一度撫で始めると満足そうな表情に見えた。私はしゃがみ
「シフ……寂しい思いをさせた。お前だけじゃない、皆にだ……」
シフと視線が合うと、私はその頭に自分の頭を当てる。
「安心してくれ、もう私は何処にも行かない……最期まで一緒だ……」
顔を撫でるとシフは立ち上がり
アオオオオォォォォン
天を仰ぎ遠吠えを上げる。この森全てに響き渡るようなその遠吠えは私の心は震えた。
シフは私にとって初めてのNPCだ。まだ右も左も知らない時代、アインズ・ウール・ゴウンの皆の協力でNPCを作った。真っ先にシフを生み出した時はインしてはシフの下で二時間は共に居た。私にとっての原点にも近い。だからシフには他のNPCとは少し違う思い入れがある。勿論、他の生み出した四体も深く愛している。皆、私のかけがえのない‘友’なんだ……
離れはしない、寂しい思いはさせはしない……二度と……。
「ありがとうございます……」
アインズさんにそう感謝の言葉を言う。彼はシフ達に会わせたくて先に私を此処へ連れてきたのだろう。本当に優しい人だ……だからこそ私はこうしてアインズさんに着いて行くことを決めたんだ。
「シフ達が喜んでいるようで良かったですよ、ではそろそろ行きますか。今後の方針、そして俺の名を変えたことを全員に伝えに」
「はい、キアランお前も一緒に同行してもらいたい」
「わかった」
「シフとゴーは待っていてくれ、後に最初の火へと行く」
「心得た、では待つとしよう」
「がう」
よしと呟き
「では行きましょう」
「ええ、っとその前にアルさんに今後の方針、先に伝えときますね。実は――――」
※
玉座の間にて、多くの者達が居た。人ではない、多種の異形が何かを待つように跪いていた。その何かは時を待たずしてくる。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを右手に持っているアインズだ。彼は玉座
へと深く腰を落としそこから見える光景に
「(圧巻だ……素晴らしい)」
心の中で喝采を送る。
「さて、今回勝手に個人で動いたことについてを詫びよう。カルネ村で何があったかはアルベドから聞くように。そして至急、ナザリック地下大墳墓の皆に伝えたいことがあるのだが……まず彼の帰還を喜ぼう」
一同が後ろを向くと玉座の間の扉が開く。現れるのは右には竜狩りオーンスタイン、左には王の刃キアラン、そして中心に位置するのは深淵歩きアルトリウスだ。数人から声が漏れ出す。
「ア、アルトリウス様だ……」
「アルトリウス様が御戻りに……!」
それらの言葉を背景にアルトリウス達は歩き出す。一定の距離を進むとオーンスタインとキアランは左右に別れ、列に加わりアインズに跪く。アルトリウスは列の中心が割れて行くのを確認しそこを進んでいくと、玉座まで来、アインズの直ぐ横へ立つ。
「我が騎士アルトリウスが此処に帰還した。では……」
二人は顔を見合わせ頷くとアルトリウスは皆のほうを向き
「まず先に皆に謝ろう、誰にも告げずナザリックから姿を消した事……本当にすまなかった」
軽く頭を下げると辺りはどよめくが彼の言葉に静まり返る。
「私は永らく旅をしていた、何時も気に掛けていた……このナザリックの事を。そしてナザリックは私の帰るべき場所だと恥ずかしながら後に気づいた……正直どのような顔をしてここに立つか恐怖していたのだが、皆の顔を見てそれは和らいだ……あまり私に時間を割くわけにはいかないな、アインズ様」
ああとアインズは相槌を打ち
「上級道具破壊《グレーター・ブレイク・アイテム》」
‘モモンガ’を意味する旗が床へと落ちると皆は旗からアインズへと向けられた。
「私は名前を変えた……アインズ・ウール・ゴウン……アインズと呼ぶが良い。異論のある者は立ってそれを示せ」
誰一人として立つ者は居ない、皆が彼に、アインズに忠誠を向けている証だろう。アルベドが顔を上げ
「ご尊名伺いました……アインズ・ウール・ゴウン様」
「よし、それではこれより私達の方針を厳命する……皆、私は争いが嫌いだ」
アインズは手で顔を覆う。
「今回赴いた村で解った事、どうやらこの世界は争いで満ちているようだ……私とアルトリウスはそれについて嘆いた、何処に行っても起こる争い、もう十分だ。だからこそ!」
カツンとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが地面を突く音と共に立つ。
「アインズ・ウール・ゴウンの名の下に、この‘世界を一つ’にする!!そして───」
アルトリウスが一歩前に出て
「この世界から争いを‘無くす’それが我等、アインズ・ウール・ゴウンの最終目的だ」
「所詮夢物語と笑うかもしれない、だが私とアルトリウス、そして皆が居ればそれが可能と思っている!だからこそ、私達に力を貸して欲しい……このアインズとアルトリウスに!!」
玉座の間の皆が一斉に立ち上がる
「アインズ様万歳!!」
「アルトリウス様万歳!!」
「全ての者よりアインズ様、アルトリウス様に絶対なる忠義を!!」
シモベ達が唱和する、震えんばかりの声がアインズとアルトリウスの耳に届く。
「生きているものに知らしめろ、我等が戦に終焉を迎えさせる者だと!今はこの世界の事を解りきっていない、準備の段階だが何れ本格的に動き出すことになる。その時はこのナザリックの力を最大限に使わせてもらおう。皆の活躍、私達は大いに期待している!!」
再び賛美が沸き起こる。アインズ、そしてアルトリウスは互いに顔を見合わせ決心する。このナザリックを何時か帰ってくるかもしれないアインズ・ウール・ゴウンのメンバーに見せても恥じない存在にすることを。そして世界にこの名を広め、もしかしたら自分たちと同じようにこの世界に来ているメンバーに名が届くようにと。
これより始まるのだ、我等ナザリックの物語が……
これにて第一巻の物語が終わりです。次回数話空白期の話を更新使用と思います。
そしてアルトリウスの言ったシフ以外の四体。オーンスタイン、キアラン、ゴー、そしてもう一体は誰か?次回それを明らかにしますのでお楽しみに!
シフにもふもふオオカミの通り名がつきました(大声