「そんじゃ、反省会始めるぞ」
「よ、よろしくお願いします……」
クエストを終えての帰り道。ガタゴトと揺れる馬車の上、彼女に声をかけた。
一ヶ月以上前にも、この道を俺は通った。あの時は情けなさやら悔しさでいっぱいだったが、あの時よりもう少しだけ上を向くことができていると思う。
「まずだな。乙るのは仕方ない。それも初めての狩猟クエストなんだ。ぶっちゃけ成功できただけで充分」
失敗することだって十分に考えることができた。彼女の実力はわからなかったし、俺だってクック以外の大型種と戦ったことがなかったのだから。
しかもお互いに初期武器、初期防具。アルセルタスが予想以上に弱くて本当に助かった。
「そう言う技術的なことは言って直ぐに直るものじゃないから、これからゆっくりでも良いから覚えていけば良い」
明らかにモンスターからタゲを取られているのに、無闇に突っ込んでいくな。とか、SAのない俺へ後ろから斬りかかって来るの本当にやめてください。とか、乗りを失敗するなら乗り攻撃するな。とか言いたいことは沢山ある。
けれども、それよりも重要なことがあった。
「エキスってわかる?」
「それくらいならわかるよ。虫がモンスターから取ってきてくれる奴でしょ? 緑色だと回復するから助かってる」
……態々緑エキスを取る必要ってあるのだろうか。納刀して薬飲んだ方が早そうだけど。
そしてどうやら、彼女の言葉を聞くにエキスのことはよくわかっていないらしい。そう言えばゲーム中でもエキスの説明って詳しくはされなかったよなぁ。
「そのエキスなんだが、エキスには4種類あるんだ。赤、白、橙、緑の4種類。んで、難しいことは考えず、とにかく赤白橙の3色を取りなさい。モンスターによっては橙が取りにくい奴もいるから、その時は赤白だけで良いからさ」
操虫棍は強い。調整を間違えてるんじゃないかって言うくらいの強武器だ。全ての攻撃にSAがついているし、抜刀状態の移動速度も速い。耳栓スキルだって勝手についてくる。そして何より火力がおかしい。ぶっ飛んでる。
けれども、それはエキスを3色取った状態での話。エキス無しの操虫棍ははっきり言って弱い。エキスなしの操虫棍ならハンマーの方が強いくらいだ。
「ん~……それを取るとどうなるの?」
攻撃モーションの追加、攻撃力1.25倍、防御力1.08倍、スキル金剛体発動、全攻撃モーションにSA付加、MPFはハンマーの約2倍となります。
どう見ても調整ミスです。本当にありがとうございました。
一刻も早い修正が望まれる。
それと比べハンマーはどうだ? 肝心の縦2からホームランをする時にはSAがなく、スタンを取るために必須なカチ上げには、仲間の吹き飛ばしが付与。ダメージを出すために使うスタンプとホームランにも吹き飛ばしがついてくる。
モンスターの動きを考え、仲間の位置を見つつ漸く攻撃ができる。それでいてなんとかぶち込むハンマー最大火力技のホームランは、操虫棍のXXAループ1回にも勝てない。どうなってんだよ。
まぁ、だからこそハンマーは面白いのだが。
「3色取るとだな、こう……身体が光って強くなる」
「意味わかんない」
いやだって、他に説明の仕様が無いんだもん。
「まぁ、とりあえず騙されたと思ってエキスを取ってみてくれ。やってみればわかる。全然違うから」
「う~ん、そんなに言うならやってみるけど……でも君って操虫棍使ったことあるの?」
1000回は使いました。
ゲームの中の話だけど。あっ、とは言っても俺のメイン武器はハンマーだからな。浮気とかじゃないぞ。ゴリラを狩るのに少し使っただけです。
「あ~……いや、使ったことないんだけどさ。ほら、興味があったからそう言うことは詳しいんだよ」
「元気ドリンコの味も知らないくせに?」
それは関係ないでしょうが。
仕方無いでしょ、この世界へ来てまだ一ヶ月しか経っていないのだから。
「ま、色々とあったんだよ」
俺がそう曖昧に返すと、彼女はふ~んと怪訝そうな顔を此方に向けた。
気がついたらゲームの世界にいただなんて言えるがわけない。それにしても、俺はどうやったら元の世界へ帰ることができるんかねぇ……
その後も、ガタゴトと揺れる馬車の上での反省会は続いた。反省会と言っても、ほとんど雑談をしていただけな気もする。
動きや立ち回りを口で説明するのは難しいし、言葉だけじゃ聞いている側も理解し難い。結局のところ、上手くなるには実際に動いてみるのが一番なのだ。
そんな雑談をしながらの帰り道で気付いたことが一つ。1ヶ月前のあの日はこの道が随分と長く感じたけれど、こうやって話をしながらの帰り道はやたらと短く感じた。
「着いたー!」
元気な彼女に続き、俺も馬車から降りて体を伸ばす。むぅ、意外と疲れているな。
しかし、うむうむ。クエストをちゃんと成功して帰ってくることができたのだし、今はなかなかに気分が良い。
此処まで運んでくれたアイルーにお礼を言ってから集会所の中へ。報酬金と報酬素材をいただかなければ。
「お疲れ様です。此方が報酬金と報酬素材になります」
受付カウンターへ行くとそんな声をかけられてから、クエストの報酬を受け取った。素材は予想以上に多く、しっかりと確認はしていないけれど、たぶんアクセルハンマーを作るだけの量はありそうだった。
まぁ、ブーステッドハンマーを作るのにまた素材がいるんだけどさ。それに蛙の素材も必要だったよなぁ……
報酬金は2乙してしまったせいで、一人あたり350z。つまり料理一回分と少し。
……こりゃあ、本格的に金策を練る必要がありそうだ。
「わぁー。素材がこんなにいっぱい……ふふっ、何作ろうかなぁ」
嬉しそうな彼女の声。うん、良かったね。
とりあえず君は防具を作った方が良いと思うよ。操虫棍なら初期のままでもそこそこ強いし。全く、妬ましい限りだ。
所持金は約6000z。まだまだ余裕はあるけれど、これから2回武器を強化して、さらに防具も作って……ま、まぁ、足りなくなったらクエストへ行けば良いか。
とにかく今は――
「そんじゃ、ま。打ち上げでもするか」
「うんっ!」
キンキンに冷えたエールビールを浴びるように飲みたい気分だ。
「これからどうしよっかなぁ……」
集会所で適当に空いている席へ座り、炙りポポノタンとタンジアビールを注文。運ばれてきたタンジアビールを煽っていると彼女が呟いた。
ああ、ビールが身体にしみていく……
一方彼女は、ホピ酒とピンクキャビアを注文したらしい。
「俺はこれから防具を作っていく予定だけど、君も一緒に作れば良いんじゃないか? まぁ、ジャギィ一式で良いならだけどさ」
ポポノタンは、適度な弾力があり噛めば噛むほど味が口の中へ広がった。少し濃いくらいの塩味が上手い。こりゃあお酒が止まらなくなりますね。
「へ!? え、えっ? 私、また一緒に行っても良いの?」
驚いたような彼女の顔。
そんなに驚くようなことじゃないと思うんだけど……アレ? 最初に声をかけてきた時からそう言うことだと思っていたけど、違ったのかな?
「そりゃあ別に構わないよ」
「でも私、足手まといじゃない?」
正直に言ってしまえば、その通りです。けれども、最初なんて皆そんなもんだろう。それにずっとソロで戦い続けるのが利口なことだとは思わない。グラビやダレンとかソロじゃやりたくない。
そして何より、操虫棍を使い続けてくれるのなら、いつか絶対に大きな戦力となる。
「んなもん、練習すれば良いさ。ああ、でも嫌なら別に……」
「行く! 行かせていただきます! これからも、よろしくお願いしますっ!」
あっ、はい……
うん、此方こそよろしくお願いします。
ビールの入ったグラスを彼女に向ける。そして、彼女の持ったコップにコツンと当てた。一人で飲むお酒も嫌いじゃないが、やっぱり皆で飲んだ方が美味しいと俺は思うんだ。
そして一杯目のビールを飲み終わり、二杯目を注文しようとした時だった。
ぽてぽてと集会所の出口から歩いてくる、あのハンマーの彼女を見つけた。目が合ってから手を挙げると、彼方も手を挙げ此方へ近づいて来た。
たぶん今、帰ってきたところだろう。グラビはどうなったんだろ?
「どうだった?」
「……30分針。二度とやりたくない」
お疲れ様です……
そうか毒ハンマーでもそんなにかかるのか。彼女の実力は知らないが、下手そうには見えない。少なくともソロでジンオウガ一式を作る力はあるのだし。
「そっちは?」
「漸くアルセルタスを倒したところ。んで、今はその打ち上げ」
お金に余裕はないけれど、パーっとやりたい気分だったのだ。だからこれは必要経費だ
「……一人で?」
「いんや、彼処で店員と喋ってる奴と一緒に」
俺がそう応えると、彼女は酷く驚いたような顔をした。
何ですか? 俺がソロじゃないのがそんなに意外だったんですか? ああ、でもそう言えば俺って変なハンターって噂になっていたんだっけかな……
「一緒にどう?」
「え、えと……私はいい。それじゃ、また」
そう彼女が言葉を落とすと、慌てたように離れていった。
むぅ……フラれてしまったか。貴重なハンマー使い同士、もっと仲良くなりたいんだけどなぁ。
とりあえず、ビールを追加で一つ注文。
「さっきの人、知り合いなの?」
「ああ、そうだよ。たまに話をするくらいだけど」
グラビを倒したってことはHR3以上だよなぁ。追いつける日は来るのかねぇ。いつか一緒に狩りへ行ける日が来ると良いけど。
「あの子、いつもソロだって噂だよ。すごいよね。私じゃソロで狩猟クエストなんて行ける気がしないのに。ただ、すごく無口なんだってさ」
「まぁ、喋りたがる奴ではなさそうだな」
愛想が悪いってことはないが、取っ付き難いところはある。
ふむ、決めた。当分の目標は彼女に追いつくことにしよう。此方は二人、彼方は一人。それなら追いつくことだってきっとできるはず。
運ばれてきたビールを煽りながらそんなことを思った。
ハンマーを使い続ける理由? 愛だよ、愛
と、言うことで第7話でした
はいはい、見事に何も進みませんでした
平常運転です
虫棒強いですよね、ちょっとやめてほしいくらい強いですよね
4Gになれば弱体化すると思っていました
むしろ強化されました
もう笑うしかありません
次話は武器を作ってから防具作りへ入る感じでしょうか?
では、次話でお会いしましょう
感想・質問なんでもお待ちしております