振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

63 / 69
第61話~後ろ脚へカチ上……え?~

 

 

 テオを倒してから暫くは、何と言うか随分とのんびりとした日々を送った。

 

 できれば他の古龍種やダラと早く戦いたいところではあったけれど、残念ながらクエストがない。まぁ、古龍がそんなポンポン現れても困るってことなんだろう。

 そうなってしまうとやることがなくなる。武器も防具も揃っているし、鎧玉を使った防具の強化も終わってしまった。じゃあ、何をやるかと言うことになる。

 

 そして、テオを倒した日から3日間の休日を挟み、皆と相談した結果、何故か3人で釣り勝負をすることになった。

 勝負の内容は一番早く黄金魚を10匹釣った人が勝ちと言う、なんともわかりやすい勝負。んで、一番黄金魚を釣った数が少ない奴が、何でも言うことを聞くと言う内容。

 

 そんないかにも子供が考えるような内容だった。

 因みに笛の彼女が考えました。実は彼女が一番子供っぽいんです。クールなように見えて実は何も考えてないこととかあるし。最近になって漸くわかった。

 

 クエストは上位の採取ツアー。場所は遺跡平原のエリア10。つまり俺のホームグラウンドと言っても良いような場所。彼女たちには申し訳ないけれど、正直この勝負に負ける気はしなかった。

 

 

 

 

 そして、いざ釣り勝負を始めてみたわけだけど……相棒がおかしい。

 この相棒はネコ飯で釣り名人を発動させなかった。たぶん、釣り名人と言うスキルを知らないんだと思う。俺と彼女は魚・乳製品の揚げ料理を頼んだけど。いや、勝負なら全力でやるべきなんだ。

 

 そう……そうだと言うのに、早々に10匹の黄金魚を釣り上げた。俺はまだ3匹しか釣ってない。どうなってんだ。例え黄金ダンゴを使ったとしても、此処まで早くは釣れない気がする。

 素材の集まる早さと言い、この相棒は色々とおかしい。

 

「やたっ、10匹釣ったよ! 皆は?」

「俺は3匹です……」

「……6匹」

 

 はいはい、俺がドベですね。

 

 まぁ、そうなったわけですよ。つまり俺は相棒さんの言うことを聞かなきゃいけないってこと。相棒のことだし、鬼みたいなことは言わないと思うけれど、色々とぶっ飛んでいるところがあるからちょっと怖い。

 

「んで。俺は何をすれば良いんだ?」

 

 一回飯をおごるとかだと本当に嬉しいです。

 

「えっと……あっ、そうだ! 私の友達がさ、HR2になるための緊急クエストをクリアできなくて困ってるんだ。だから君が手伝ってあげてよ」

 

 ああ、良かった。それくらいなら、いくらでも引き受けようじゃないか。

 

「うん。了解」

 

 全く話したことのない相手だし、どうなるかはわからないけれど、相棒の友人なら悪い奴ではないだろう。

 

「ああ、あと、防具はリノプロ一式でハンマーはネコの奴でお願い」

 

 ……えっ?

 

「い、いや、どっちも持ってないぞ?」

 

 あとリノプロ一式は心の底から嫌なのですが。どうしてあんなデザインになったのか本当にわからない。だいたいあんな装備をしている奴が、クエスト手伝うとか言っても断られる。

 

「作ればいいじゃん。手伝うよ?」

「……私も手伝う」

 

 ……マジで?

 

 

 その後、どうにか有耶無耶にできないだろうかと頑張ってみたけれどダメでした。立場弱いんです。そして結局、リノプロ一式とくろねこハンマーを作るため、リノプロスやババコンガを倒しに行くことに。ゲームの中だと、ねこハンマー系を作るのにニャンターの証が必要だと思ったけれど、どうやら肉球のスタンプで良いらしく、割と簡単に作ることはできた。

 

 ずっと後になって知ったのだけど、あの釣り勝負をしている時、笛の彼女はこっそり黄金ダンゴを使っていたらしい。

 

 

 

 

 そんなことがあり、相棒の友人である弓使いの少女と一緒に狩りへ行ってから更に数日。あの日にできた心の傷も漸く癒えてきました。

 集会所で3人揃って飯を食べているところに、ギルドマスターが近づいて来た。

 

 ふむ……やっと来たか。

 

「やあ、狩りの方は順調かな?」

「まぁ、今のところは」

 

 何の用事もなくギルドマスターが俺たちに声をかけてきたとは思えない。

 つまり、何かの用事が俺たちにあると言うこと。そして今までのことを考えるに、ダラかそれとも……

 

「ほっほほ。それは良かった。今日はね、キミ達に頼みたいことがあるんだ」

 

 そう言ってギルドマスターはいつものように笑った。

 ゲームだとダラと戦う前のギルドマスターはかなり真剣そうに見えた。でも、今のギルドマスターは其処まで追い込まれているようには見えない。

 と、言うことはダラじゃないってことだろうか?

 

「先日、ラージャンが急に現れるようになったと言った。今は落ち着いたけれど、その原因はやはりわかっていない。そしてだね、先日またラージャンが1頭発見されたんだ。たぶん、それを討伐できればこの問題は完全に解決すると思う。そこで、そのラージャンの狩猟をキミ達にお願いしたい」

 

 ああ、ゴリラの方だったのか。

 確かにゴリラは危険なモンスターではあるけれど、ダラと比べ其処まで驚異ってわけじゃないんだろう。激昂ラージャンとなると少々面倒ではあるけれど、どっちにしろ一番戦った相手。テオも討伐数は多いけれど、ラージャンの討伐数は桁が一つ違う。

 それならなんとかなるのかな。

 

「どうだろうか。そのクエストを受けてくれるかな?」

 

 彼女たちに視線を向けた。無言で頷く二人。

 どうやら良いと言うことらしい。

 

「了解。受けさせてもらうよ」

 

 俺がそう言うと、やはりギルドマスターはいつもの笑顔をした。

 

 ダラではなかったのは少々残念だけど、強い相手と戦うことができるんだ。それだけで充分だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 ギルドマスターの話を聞いた次の日。

 早速ラージャンの狩猟のため、遺跡平原へ向かうことに。

 

 ラージャンとの戦いに備えて、回避性能から耐震にスキルを変えました。ラージャン相手なら此方の方が役に立つのです。

 ネコ飯はいつも通りKO術の発動するもの。日替わりスキルで火薬術でも出てくれれば嬉しかったけれど、残念ながらネコのド根性だった。うん。まぁ、悪いスキルではないと思いますよ?

 

「それにしても、どうしてラージャンが急に現れるようになったんだろうね?」

 

 遺跡平原へ向かう途中で、相棒の声が響いた。

 

「さぁ、そればっかりはわからん」

 

 一番考えられるのはダラが原因なんだろうけれど、ラージャンとダラってあまり関係してない気がするんだよなぁ。かと言って他に考えられるのはシャガルくらいか? でも、ラージャンは狂竜化しないはず。ギルクエのレベル100でもしなかったのだし。むしろ狂竜化なんてしていたら、さらに多くのラージャンが狩られることになっただろう。

 

 はてさて、何が原因なのやら。

 

 

 

 

 考えたところで、答えなんて出るわけがなく、遺跡平原へ向かっている間は結局いつも通り雑談をしていた。ギルドの人曰く、激昂ラージャンでもないらしいから、苦労することはあってもクリアすることはできるはず。たぶん即乙する攻撃もない。

 それにラージャンが相手ならあのテオよりもずっと戦い易い。

 

「着いたー!」

 

 そんなこんなで遺跡平原へ到着。

 ゲームの中で通常のラージャン1頭と遺跡平原で戦うことはなかった。激昂ラージャンやイビルジョーと抱き合せならあったけれど。

 実は激昂ラージャンでした~。なんてこともあるかもしれない。たまったもんじゃないが。

 

「っしゃ! 行くか!」

「おおー!」

「おー」

 

 まぁ、会ってみればそれもわかるか。

 ラージャンの初期エリアは確か4。段差だらけで戦い難いエリアではあるけれど……うん、頑張ろう。

 

 

 エリア4へ入ると段差の下にラージャンを見つけることができた。

 ふむ、激昂ではないのか。やっぱり俺の考えすぎだったんかねぇ?

 

 とりあえず戦い易い上の段にシビレ罠をセット。最初からガンガン罠を使わせてもらおう。そして、彼女の聴覚保護スキルを付与する演奏を聞きながら、ハンマーを構えてラージャンへ接近。

 振り向くゴリラ。そして咆哮。しかし既に此方には聴覚保護がついている。

 

 挨拶がわりにとりあえずカチ上げ。

 ラージャンは全モンスターで一番スタンの取り難い相手。特殊補正だかなんだか知らんが、実質の初期スタン耐性は500近くあると思う。明らかにおかしい。

 

 そんなモンスターだからこそ、スタンを取りたいんじゃあないか。

 

 カチ上げを決めてから、ラージャンの右腕の右側へ立つ。此処は基本通りにいかせてもらおう。直ぐにデンプシーがきた。回数は3回。右半身をラージャンへくっつけるようにしながら一発溜め1。

 振り向きではなく90°ターンを2回。倒れ込み、元気玉、振り向き、ビームのコンボが確定。つまり大チャンス。

 左へローリングで倒れ込みを避けてから縦1を頭へ。前ロリを1回。直ぐに腰へハンマーを構え、バックジャンプ元気玉を放ち降りてきたラージャンの頭へカチ上げ。また直ぐに横ロリで位置を調整し、横振り。レーザーを身体に掠らせながら縦2。そして、ホームラン。

 

 そこで、ようやっとラージャンが怒り状態となった。

 

 ああ、何だかすごく懐かしい気分だ。随分と間が空いてしまったけれど、身体はちゃんと覚えてくれたらしい。今ならTAをやっても良いタイムを出せそうだ。

 

「おーい、罠入れるよー」

 

 相棒の声が聞こえた。

 了解です。

 

 声を聞いてから直ぐに納刀し、罠の方へダッシュ。あんまりやりすぎるとまた彼女に怒られる。それはよろしくない。自分から頼んだことだけど、叩きつけられて喜ぶような趣味もないのです。

 

 ケルビステップをしながら俺を追いかけてくるゴリラ。彼女が少し離れたところへ落とし穴を仕掛けているのが、ちらりと見えた。

 そしてそのままシビレ罠へ誘導。

 

 シビレ罠にかかったラージャンへ腕に吸われないよう、縦1始動でホームランを2セット。流石にラージャン相手にハンマーと笛が共存するのは無理だから、今回ばかりは彼女に頼み後ろ脚を攻撃してもらうことに。

 

 一人でスタン取れっかなぁ……

 

 ラージャンがシビレ罠から抜け出したところで、次は彼女が仕掛けた落とし穴へ誘導。徹底的にやらせてもらう。

 誘導する途中、彼女がゴリラに轢かれたけれどたぶん大丈夫。避け難いよね、ケルビステップ。

 

 彼女を轢きながらゴリラは落とし穴の中へ。バタバタと暴れる腕に位置をずらされないよう気をつけながら、今度は横振り始動のホームランを3セット。3回目のホームランを叩き込んだとき、ラージャンの角が片方砕けた。

 

 うむ、良い感じ。

 

 さらに、落とし穴から出たラージャンが今度は相棒が頑張ってくれたおかげか、こてりと横になった。ナイスです。

 アレだけボコボコに殴られたと言うのに、のんきにお腹を掻きながら寝ているゴリラ。すごく頭の悪そうな光景だ。

 

「……爆弾、どこ置く?」

「頭の前で良いんじゃないかな。どうせなら角も破壊しちゃいたいし。ああ、あと、頭の直ぐ前にシビレ罠お願い」

「わかった」

 

 大タル爆弾Gを頭の前へ3人分セットしてから彼女が更にシビレ罠を仕掛けた。2回目だし拘束時間は長くないけれど、ないよりはマシと言うもの。

 そしてマタタビ爆弾で起爆。爆風の中、起き上がったラージャンは直ぐにシビレ罠にかかった。そんなラージャンへカチ上げ、横振り始動でホームランを1回。スタンはまだ取れない。

 

 むぅ……もうちょっとだと思うけど、そう簡単にはいかないか。

 

 さて、罠もほぼ使い切ったし此処からがキツいよなぁ。なんて思っていると、今度はラージャンが痺れ始めた。

 

「ホント笛さん素敵! 結婚して!」

 

 思わず叫んでしまった。

 

 そんな俺の言葉を受けてなのかどうかわからないけれど、彼女の笛によるスタンプが暴発。

 

 

「なんで私!?」

 

 

 それを喰らった相棒が吹き飛んだ。楽しそうだね。

 

 吹き飛んでいく相棒を横目に、麻痺状態のラージャンへとりあえず縦振り。そこで2本目の角が砕けた。だからどうしてコイツはスタンを取る前に角が壊れるんだよ。

 そんな愚痴を零しながらホームランを叩き込んだ。

 

 ゴロリと横へ倒れるラージャン。

 つまり本日1回目のスタン。

 

 っしゃあ!! 超嬉しい。本当に嬉しい。

 

「……ナイス」

 

 ありがとう。

 

 まぁ、アレだけ罠やらなんやらを使ってギリギリなのだし、誇って良いのかは微妙なところ。でもやっぱり嬉しい。

 

 スタンを取ったラージャンへ横振り始動でホームランを2セット叩き込む。これだけボコボコにしているんだ、流石にそろそろ倒せるんじゃないかな。

 

 スタンから起き上がるラージャン。

 

 

 しかし直ぐ、仰向けに倒れた。

 

 

 うん? 仰向け?

 

 2回目の睡眠なのか? それにしては早すぎる気がするけど……あと、もう爆弾は残ってません。

 

 

「……勘弁。これは聞いてない」

 

 

 ぽそりと彼女の声が聞こえた。

 嫌な予感。

 仰向けに倒れたラージャンを確認。

 

 その体は黒く……より黒く染まり始めていた。

 

 

 ……いやいや、ちょっと待てって。お前はダメだろ。お前だけはダメだろうが!

 

 慌ててラージャンへ近づき、既に2本とも砕けている角へホームランを叩き込んだ。

 そんなことは関係なしに立ち上がるラージャン。その姿は今まで見たどんなモンスターよりも恐ろしかった。

 

 そんなラージャンの咆哮が響いた。

 

 ちょっと待ってくれ。知らないぞ。こればっかりは本当に知らない。どうして? 何故? コイツが狂竜化? そんな疑問が頭の中をグルグルと回る。

 

 それでも無理矢理身体を動かし、ハンマーを右腰へ構える。落ち着けって、例え狂竜化したところでラージャンなのは変わらない。それにアレだけ殴ったんだ、体力だって残り僅かなはず。

 構えていたハンマーが1度光ったところで、その後ろ脚へカチ上げ。

 

 

 しかし、ガキンーーとカチ上げをしたハンマーが弾かれた。

 

 

 

 

 …………え?

 

 

 

 

 い、いや、カチ上げ……だぞ?

 

 意味がわからなかった。なんとか冷静さを保とうとしていた頭も此処まで。ラージャンが此方を素早く振り向いた。

 

 ヤバっ! デンプシー……頭の隅では理解した。でも、体は動かない。

 

 狂竜化するはずのない相手が狂竜化したこと。弾かれ無効な攻撃が弾かれたこと。今までじゃ考えられないことが連続で起きた。

 そんな混乱状態の俺にラージャンのデンプシーが直撃した。

 

 もうなんか逆に面白くなっちゃうくらいに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる俺。

 残っている体力は本当に僅か。クンチュウの転がり攻撃でも乙るほど。つまりド根性発動。ラージャンのデンプシーは確1ってことだろう。ホント洒落にならん。

 

 直ぐにマタタビ爆弾をセットし、秘薬を飲み込む。一度立て直さないと。

 秘薬で全回復したところでマタタビ爆弾の爆風で吹き飛んだ。ガッツポーズキャンセルです。

 

 直ぐに起き上がり、ラージャンと皆の状況を確認。

 

 見えたのは、ドス黒く変わったラージャンと倒れた彼女たちを慌てて運んで行く救助アイルーたちだった。

 

 つまり2乙。

 もう後はない。

 

 

「あはっ」

 

 

 乾いた笑い声が一つ落ちた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。