「はぁ……」
ガタゴトと揺れる馬車の上。
落ちたのは一つのため息。
「ん~……どうかしたの?」
目指す場所は前回と同じ地底火山。
ターゲットはブラキディオス。今まではなんとか逃げていたけれど、ついに戦わなくちゃいけない日が来たらしい。
「いんや、なんでもないよ」
こてりと首を傾げ、心配そうな声をかけてくれた相棒に一言返事を落とした。ブラキと戦うのが嫌でため息が溢れたなんて、恥ずかしくて言えるわけがない。
今回のクエスト、失敗することはないと思う。いくらブラキと言えど相手は下位。今までは捕獲の時にしか使わなかったけれど、此方には罠もある。普通に考えるとよっぽど酷いハメ技を使われない限り、まずやられることはない。
それに此処で失敗するようじゃ、上位のブラキになんて勝てはしないだろう。
でも、嫌なものは嫌なのだ。
苦手なものは苦手なんだ。
いくら勝てるとは言え、ブラキは好きじゃない。
「ブラキディオスってすっごい強いんだっけ?」
ああ、そっか。相棒はブラキが初見になるのか。そうなるとかなり厳しいかもしれない。
今までのモンスターとは動きが全然違うし、爆発の範囲もかなり広く避け難い。俺も初見は本当に苦労したなぁ……正直なところ倒せる気がしなかった。
「うん、超強い。だから最初は無理しないよう攻撃した方が良いと思う」
とは言え、相棒の武器は操虫棍とブラキに対する相性も良く、この相棒はかなり上手い。案外普通に戦えちゃったりするんじゃないかと思っている。
まぁ、操虫棍と相性の悪い相手とかいないんだけどさ……強いて言うならエキスを3色集めることのできないドス系くらいだろうか? 操虫棍でダメなら他の武器だってダメだと思う。
「うわ……そんな相手私で大丈夫かな」
ん~……心配なところはあるけれど、よっぽどなことがない限りまず大丈夫だと思う。
ただ、やっぱり気乗りはしなかった。
罠、使うか……
―――――――――――
「そんじゃ、行くか」
「おおー!」
「おー」
地底火山のベースキャンプに着き、準備を終えてからいつも通り彼が声を出した。
でもその声はいつもより小さかったし、なんだか元気がないようにも聞こえる。私の気のせいかな?
今回の相手はブラキディオス。詳しくは聞いていないけれど、確か笛ちゃんの防具と彼の武器のために素材が必要なんだって。
そして今回は久しぶりの下位クエストです! すごく強い相手だって聞いているけど、下位なら私でも大丈夫……だといいな。
ベースキャンプから飛び降り、エリア1でクーラードリンクを飲み、さらに笛ちゃんの演奏を聴いた。これで咆哮を受けても耳を塞がなくていいんだって。便利なものです。
そしてブラキディオスの初期エリアは2番だって言ってた。だからどうして知ってるのさ? なんて思わないでもなかったけれど、どうせ聞いても教えてくれないだろうし、彼も困ったような顔になることもわかっているから私は聞きません。
それでもいつか教えてくれる日が来るといいけど。
エリア2は所々に溶岩が流れていて、ものすごく暑そうなエリア。クーラードリンクのおかげで何も感じはしないけれど、あまり長居したくない場所。
そしてそんなエリアにブラキディオスはいた。特徴的な角と腕。青黒く輝いている外殻。種族が同じなせいか、イビルジョーとちょっと似てるかも。
「頭が赤。後ろ脚が白。尻尾と胴体が橙。乗りまくってくれ」
「了解です!」
いつも通りの彼の指示。最近になって漸くエキスの特徴みたいなのがわかってきた。赤色のエキスを取ると、攻撃が沢山できるようになる。そして、だいたい頭が赤色のエキス。白色のエキスを取ると足が速くなって後ろ脚で取れることが多い。橙色のエキスを取ると……ん~よくわかんないです。でも、取れる部位は背中やお腹が多いっぽい。
自分の両腕を腕を舐めてからグオオ! と大きな咆哮を上げたブラキディオス。でも、笛ちゃんのおかげで耳を塞ぐことはない。
さてさて、サクッとエキスを集めちゃおうかな。
そんなことを考え、ブラキディオスに向かって虫を飛ばした時、ブラキディオスがぐっと身体を沈めたと思ったら、一気に此方へ飛んできて両腕を使って攻撃してきた。当たりはしなかったけれど、滅茶苦茶驚いた。
そして、ブラキディオスの両腕が着いた場所には緑色のネバネバしたものが残っている。何が何だかさっぱりだけど、近づかない方が良さそうだ。
とりあえず取りやすい赤と白のエキスを取って、橙はどう取ろうかと考えているとさっきのネバネバが爆発した。
……まじすか。
え? えっ、それ爆発するの?
どれくらいのダメージなのかはわからないけれど、あの緑色のやつにはホント近づかない方がいいっぽいです。てか、爆発はずるい。
爆発することがわかると、急にブラキディオスが怖くなった。今までのモンスターと比べて動きは恐ろしく速いし、もうちょっと勘弁して欲しいくらい緑色の奴を地面に設置しまくる。いつ攻撃すれば良いのか全然わからない。
「……乗ったー」
おおー、ナイス笛ちゃん!
そっか、私は乗りまくればいいのか!
笛ちゃんの乗り攻撃も無事成功し、ダウン中のブラキディオス尻尾から橙エキスをゲット。頭は二人に任せて私は尻尾を攻撃。ブラキディオスって尻尾斬れるのかな?
それにしてもブラキディオスってダウンでもしてくれない限り戦えないね。
こりゃあ大変な相手だ。
乗りダウンからブラキディオスが起き上がると、急に緑色だった部分が黄色くなった。たぶん怒り状態になったってことだと思う。
そして怒り咆哮を上げ――ようとした時、今度はスタンした。うむ、良いタイミング。
スタンしたブラキディオスの足元には何故か彼がいたから、それに気をつけながら尻尾を攻撃。彼は何をやっているんだろうか。いつもならずっと頭の前でハンマーを振り回しているのに。
スタンから起き上がったブラキディオスだったけれど、今度は痺れ始めた。ああ、何をやっていたのかと思ったらシビレ罠を置いていたんだ。
そう言えばそんなものもあったね。罠なんてフルフルを捕獲した時以来な気がする。
シビレ罠にかかったブラキディオス。そんなブラキディオスに対して笛ちゃんが頭。彼が腕。私が後ろ脚を攻撃。
そうやって暫く攻撃していると、シビレ罠の壊れる音がした。むぅ、罠の効果って意外と短いんだね。
これで拘束も解けてしまった。よしっ、此処は私のジャンプ攻撃でもう一度乗りを狙おう!
そう思った。でもね、ブラキディオスさんってば、また痺れ始めたんです。それはたぶん笛ちゃんの武器のおかげなはず。
……すごいね。さっきから全然攻撃させてない。
また痺れ始めたブラキディオスに対して、さっきと同じ立ち位置から攻撃。そろそろ麻痺も解けちゃうかなぁなんて思っていると、急にブラキディオスが横に倒れた。なにごと?
「寝たっ! 攻撃ストップ!」
響いた彼の声。おお、そう言うことですか。
そう言えば私の武器って睡眠だもんね。アレだけ斬ったんだもん。そりゃあ寝ちゃうか。
モンスターが寝た時は爆弾を置くと決めてある。だからいつも大タル爆弾をアイテムポーチへ入れてはあるけれど、今回は支給品に大タル爆弾がありました。
そんな支給品の大タル爆弾を寝てしまったブラキディオスの頭の前へどーん。さらに彼がブラキディオスの足元へ落とし穴をセットしていた。なるほど、起こした瞬間落とし穴へ入れるのか。
準備を終えると爆弾から少し離れたところで、彼がハンマーを地面へ叩きつけた。その衝撃で起爆。爆音が響き、ブラキディオスの頭は爆風に包まれた。
そんなことをしたのだから、流石にブラキディオスも目を覚ます。けれども目を覚ましたばかりのブラキディオスの足元には彼の設置した落とし穴。さっきから怖くなるくらい上手くいっている。
こんな戦い方もあったんだ……
落とし穴へ落ちたブラキディオスを攻撃すること直ぐ、落とし穴に落ちても暴れていたブラキディオスがくたりと前へ倒れた。どうやら頭の前で鈍器を振り回していた二人が2回目のスタンを取ったみたい。
落とし穴へ落としスタンを取って動かなくなったブラキディオスに攻撃していると、ブラキディオスは本当に動かなくなった。
おおー、笛ちゃんの乗り攻撃が成功してから一度も攻撃されてない! そして私はなんと一度も攻撃を喰らってないのです! うむうむ、今日はすごく上手くいった気がする。いつもこうできればいいんだけどなぁ……
「倒した!」
「うん、お疲れ様」
上手くいったことか嬉しくて、大きな声を出した。
そんな私の声に反応してくれた彼。そしてその彼の表情はなんて言うか……あまり嬉しそうではなかった。せっかく上手く倒せたんだしもっと喜べばいいのに。
「……今日は運が良かった」
「そうなの?」
倒したブラキディオスから素材を剥ぎ取っていると、笛ちゃんがぽそりと声を落とした。
よくわかんないけど、今回は運が良かったらしい。
「うん。だって、全然被らなかったし」
最初は何のことかなぁって思ったけれど、たぶん、睡眠とか麻痺がスタンや乗り攻撃と被らなかったってことだと思う。
そう言えばそうだね。今までって乗った瞬間スタンしたり、麻痺した瞬間スタンしたりってことは結構あったもんね。ふむ、今回はそれがなかったから上手くいったのかな?
とは言え、クリアできたのは確か。ブラキディオスは強いモンスターらしいし、それを倒せたのだからやっぱり私は嬉しい。この調子なら上位のブラキディオスもなんとかなる気がしてきた。
彼が今、何を考えているのかわからないけれど、無事倒せたのだしそれだけで充分なんじゃないかなぁって私は思います。