振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第33話~その提案にお断り?~

 

 

「ああ、素材も足りているようだし作っておくよ」

 

 ザボアとの戦いを終えた次の日。朝一番に加工屋の元へ向かい、新しい武器ができないか聞いてみた。

 武器の名前はファッティプッシュ。それは先日戦ったあの化け鮫の素材を使ったハンマー。正直なところ、見た目はブーステッドハンマーの方がカッコイイ。けれども、ファッティプッシュはブーステッドハンマーよりも武器倍率が10高く、氷属性120付与されマイナス会心もない。劇的に強くなるほど火力が上がるわけではないけれど、やっぱり少しでも強い武器を使いたいんです。

 

 どうせ化け鮫素材は使うこともなさそうだし、それならいっそ。な~んて思い、現在に至ります。

 

「完成するのは、明日の夕方か?」

「そうだな。それまでには作っておくよ」

 

 しかも、これでついに俺は2本のハンマーを持つことになった。つまり1本を強化している時でも、もう1本をクエストに持っていける。これがなかなか有り難いのです。

 HRが3となり天空山へ行けるようになれば、ブーステッドハンマーもファッティプッシュも強化できるはず。楽しみです。

 

「了解。そんじゃよろしく頼むよ」

 

 さて……そんじゃ、集会所へ行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、やっと来た。おはよー」

 

 そして集会所には相棒と笛の彼女の姿。む、ちょっと遅刻したか。

 前回言われた通りなら、これでHR3へ上がるための緊急クエストを受注できるようになったはず。そのことを聞くため、今日は全員集まることに。でも、前回のクエストの疲れもあるだろうから今日は休日にしました。

 

「おっす、おっす。おはよう」

「……おはよう」

 

 何処かボーっとした様子の笛の彼女。朝は苦手と言っていたし、まだ眠いのだろう。昨日も昼間から飲み始めたはずなのに、気づけば夜も遅い時間となっていた。そんなんだから今日は俺もちょっと眠いです。

 あと、新しい武器も作ってしまったしそろそろ懐の具合がマズくなりそうだ。この先、武器強化できるだろうか……

 

「んじゃ、聞きに行くか」

 

 そして、3人揃ってギルドマスターの元へ。

 

 

 

 

「やぁ、待っていたよ」

 

 ギルドマスターに会って直ぐ、まずそんなことを言われた。

 はてさて、次の緊急クエストはどんな内容なんでしょうね? ゲームではゴアなはず。けれども、そうではない可能性は十分にある。

 

「まずだけど、先日は申し訳なかったね。此方のミスでキミ達に危険な目に合わせてしまった」

「……別に気にしてない。アレくらいなら大丈夫」

 

 珍しく、ギルドマスターの言葉の返事へ笛の彼女が口を開いた。

 最近になってわかってきたけれど、この彼女は待つことが苦手……と言うか、気が短い方らしい。きっと早く緊急クエストの内容を聞きたいのだろう。

 

「ほっほほ。流石だね。さて、それで次の緊急クエストだけど……キミたちには選んでもらいたいんだ」

 

 ……選ぶ? それならできるだけ簡単なクエストが良いのだけど……どう言う意味だろうか? まぁ、聞いてみないとわからんが。

 

「選ぶってのは?」

「……さても素晴らしいキミ達の活躍は私も良く聞いている。そしてだね、今このバルバレのギルドはハンターが不足しているんだ。それで優秀なハンターを確保する必要がある。けれども、そんなことをモンスターは待ってくれない。そして毎日、多くのクエストの依頼が届く」

 

 ん~……何を言いたいのだろうか。

 此方としては早くクエストの内容を聞き、場合によっては色々と準備をしたいのだが。別に気の短い性格はしていないと思うが、目の前に餌をぶら下げられ我慢できるほどではない。

 

「もちろん反対意見もあった。あまりにも早すぎると。此処で慌ててしまい、もしキミ達を失うようなことがあっては、此方も大打撃となるからね」

 

 それは以前も聞いた。

 しかし……ふむ、意外と俺たちの評価は高かったのか。嬉しいことではあるけれど、評価が高いからと言ってメリットがあるわけでもないんだよなぁ。

 まぁ、低いよりは良いと思うけど。

 

「キミとキミはHRは2だ。HR2と言えば、まだまだ駆け出しのハンターと言ったところ」

 

 俺と相棒を見ながら言葉を落とすギルドマスター。

 

「けれども、私はキミ達を信じると決めたよ。だから何かがあった場合この件は私が全責任を取る。このことに前例なんてない。それでもキミ達ならきっと大丈夫なはず。だからだね……」

「……つまり?」

 

 何が何だかまだわからないが、どうしてかやたらに心臓が暴れる。

 

 そしてたぶん、これは――悪いことじゃあない。

 

 

 

「キミ達の飛び級を認めよう」

 

 

 

 ギルドマスターの言葉聞き、鳥肌が立った。

 つまり、俺たちはHR2から一気にHR4……つまり上位ハンターになるための緊急クエストを受ける権利があると言うことだろう。

 

「でも、それは私が押し付けて良いことじゃない。だからキミ達には選んでもらいたいんだ。此処で、前例のないHR飛び級のための緊急クエストを受けてくれるかどうかを。もちろん他のハンター達と同じよう、一つずつHRを上げていってくれても構わない。それでもキミ達は充分早い方なんだよ」

 

 ふむ……そう言うことですか。

 此方としてはそれは願ってもないこと。緊急クエストの内容にもよるけれど、このパーティーならクリアすることができる気がする。

 

 ただ、そのことを俺だけが決めて良いはずかない。

 

「えと……それって私も受けていいんですか?」

 

 何処か不安そうな声で相棒がそんなことをギルドマスターに尋ねた。

 

「もちろん」

 

 ……そりゃあ不安にもなるよな。

 この相棒は初めて大型種を倒してからまだ1ヶ月も経っていないのだ。そうだと言うのに、もう上位ハンターへ手の届くところまで来てしまっている。

 この世界のハンターたちが、どれくらいの時間をかけて上位ハンターとなるのかはわからないけれど、俺たちほど早くはないだろう。

 

「……少し、考えさせてもらっても良いか?」

「ほっほほ、そうだね。ゆっくりと考えるといいよ」

 

 焦る気持ちを抑え、どうにかギルドマスターにそんな言葉を落としてから別れた。とりあえず、これは話し合いですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「……さ、最初に言いますが、私は自信がありません!」

 

 集会所で話し合いをしても良かったけれど、どうにもあの五月蝿い中でする気にはなれず、俺の家で話し合うことになりました。

 俺一人の時はそう感じないが、この部屋に3人もいるとかなり狭く感じてしまう。

 

 そして俺の家に入って、まず相棒がそんな言葉を落とした。

 

「だって、私は君や笛ちゃんほど上手くないもん……」

 

 ん~……上手いか上手くないかで言ったら、この相棒は上手い。乗り攻撃は未だに失敗するけれど、ソレは初見のモンスターだからと言うことだと思う。

 それにこのパーティーで一番火力を出せているのは間違いなくこの相棒だ。だから実力的には充分だとは思うけれど……まぁ、そう言うことじゃないんだろうなぁ。

 

 ギルドマスターからの提案は嬉しい。上位ハンターとなれば、行けるクエストもかなり増え、今よりもずっと強い武器を使えるようになる。それはすごく楽しみなこと。

 ただ、それは俺の個人的な意見。そんな理由で、この相棒の意見を踏み倒して良いはずがない。それに此処で焦ったところで仕様が無い。

 

「君はどう思う?」

 

 笛の彼女に聞いてみる。

 そう言えば、この彼女の場合はどうなるのだろうか? 普通に考えれば俺たちと同じようにHR4となるだろうけど、もしかして一気にHR5まで上がるのかね?

 

「……私はこのパーティーが良い」

 

 ん~……俺たちに合わせてくれるってことかな。つまり、この件は俺と相棒で決めてくれと言うことだろう。

 

 そして、相棒の気持ちはわからないでもない。少し考え過ぎだとは思うけれど、こればっかりは仕方の無いこと。

 

 うん……しゃーないか。

 

「申し訳ないけどギルドマスターの提案、断ろう」

「……そうだね」

 

 これは俺だけの都合じゃないのだ。

 そりゃあ、上位ハンターにはなりたい。でも、例えこの機会を逃したところで、元々の予定より遅れるわけじゃない。用意された近道を通り過ぎるだけ。

 大丈夫、俺はちゃんと前へ進めている。

 

「い、いいの?」

「うん、問題ないよ」

 

 不安そうな顔をしながら言葉を落とした相棒に返事をする。俺だってこのパーティーでやっていきたい。だからこの相棒の意見を無視することはできないだろう。もし、この相棒の意見を無視して、このパーティーを離れられてしまうのはやはり悲しい。

 

「で、でも、君なら上位ハンターになれる実力はあると思う。だから私を抜かしてクエストを受けても……」

「そこに君がいないと意味ないでしょうが。それに此処であのじいさんの提案を断ったところで、今までと何かが変わるわけじゃないんだ。だから大丈夫だよ」

 

 飛び級の緊急クエストの内容はわからないけれど、この相棒がいないとかなり辛い。どの道、クエストを受ける気にはならない。

 

「うぅ……い、1日考える時間をもらっても良いですか?」

 

 えっ、いや、ホント別にあの提案を断っても良いんだけど……

 ちょっと気にし過ぎじゃないか? まぁ、気にするなと言ったところでどうにもならないとは思うけど……

 

「それは良いけど……キツそうならキツイって言ってくれて良いんだぞ? 別に焦る必要なんてないのだし」

「うん……ありがと。でも、ちょっと考えてみる。また明日の朝、来ます……」

 

 そう言って相棒は俺の家から出て行った。

 

 これで残っているのは俺と笛の彼女だけに。

 

 

 

 

「……もしかして俺の言葉のせいで余計に気を遣わせてる?」

「たぶん」

 

 ですよねぇ……

 ああ、もう! こういうは苦手なんです! 人の感情なんてわかるわけがない。どうしろってんだよ。何て言葉をかければ良いのか全くわからん。不器用な性格が此処に来て響く。

 

「君はどう思う?」

「……なにが?」

「あの相棒について」

 

 ふと、彼女が相棒についてどう思っているのかが気になった。あの相棒はこの世界の人間なはず。そして彼女はこの世界の人間が苦手だと言っていた。

 けれども、今までの関係を見る限り仲はそれなりに良さそうだった。

 

「……明るく、優しくて良い娘だと思う。それにすごく上手い。あれなら上位になっても大丈夫」

 

 だよなぁ。

 なんでそのことを本人がわからないのやら……確かに自分の実力はわかり難いけれど、初見モンスター相手にアレだけ立ち回ることができているんだ。それで下手なはずがない。

 不安になることなんて何もないんだけどなぁ……

 

 とは言うものの、俺と相棒の間にはどうしても超えることのできない溝がある。

 ゲームとは違うことも多いけれど、あの時に溜め込んだ知識や経験の差は大きい。そんなせいもあって、俺と相棒では考え方が根本的に変わってきてしまっている。

 

 この世界の上位ハンターがどの程度の価値なのかはわからないけれど、そんな不安になることなのかね?

 

 ま、どの道、HR3になるための緊急クエストは受注することはできるはず。

 ゆっくりと進んでいけば良いのだ。

 

 


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