「だから私も貴方たちのパーティーに入れて」
緊急クエストから帰って来ると集会所にはあのジンオウガの彼女の姿。何故かハンマーではなく笛を担いでいたことに疑問を感じていたら、そんなことを言われた。
……ちょっといきなりすぎるせいで、どうにも頭がついてこない。
正直なところ、俺から彼女を誘おうとは思っていた。けれども、まさか向こうからパーティーに加えてくれと言ってくるとは思わなかったんです。
いきなりどうしたと言うんだろうか?
「んと……あ~……別に俺たちと一緒に戦ってくれることは嬉しいんだけどさ。どうして?」
この彼女のHRは3。一方俺たちはと言うと、まだHR2だ。それもつい先程ネルスキュラを倒し漸くと言ったところ。
つまるところ、この彼女には俺たちと一緒に戦うことのメリットがほとんどない。そりゃあ、パーティーで戦った方がソロよりもモンスターを早く倒すことはできるし、安全だ。
しかし、俺たちのHRでは彼女の行きたいと思うクエストへ行くことは、ほとんどできないだろう。
ああ、いや……彼女が受注してくれれば俺たちも行けるのか? その辺のことは良くわからないけど。
「……おじいさんに、流石にソロじゃダメだって言われた」
え~と、おじいさん? 何のことだかさっぱりわからないのですが……
いい加減、独り身でいるな。的な? なんか違う気もするけど。
「それってもしかして、上位ハンターになるためのクエストのこと?」
相棒の声。
「そう」
ああ、おじいさんってギルドマスターのことか。漸く合点がいきました。
上位ハンター……つまりHR4になるための緊急クエストがこの世界では何なのかわからないけれど、そのクエストへソロで行こうとしたらギルドに止められたってことですね。
てか、そんなに進んでいたんだ。
此方はようやっとHR2だと言うのに……やっぱりこの彼女は相当上手いんだろうなぁ。どんどんと俺の立場が弱くなっている。
「……なるほど。なんとなく理解できたけど、でも俺たちはまだHR2になったばかりだから、君の行きたいクエストへ行くのはかなり時間がかかるぞ? それなら、一時的でも良いから俺たちよりHRが高い奴らと組んだ方が良いと思うんだけど」
結局のところわからないのは其処だ。
どうして俺たちと組もうとするのかがわからない。この相棒だって上手い方ではあると思うけれど、それでもまだまだだろうし、俺に至ってはもう武器もコレで、腕だって良くはない。
彼女の実力がどんなものかは知らないけれど、足を引っ張ることは多くなるだろう。
そのことは彼女だってわかっていると思うけど……
そうだと言うのに、何故?
「……だって、貴方がいるから」
俺の方を真っ直ぐと見ながら彼女が言った。
その言葉に一瞬ドキリとしてしまったけれど、まぁ、どう考えたってそう言う意味ではない。この世界とは違う世界から来たと言う共通点。それが彼女の何かを掴んだんだろう。
そのことがわかるだけに、少々残念に思うけれど仕方の無いことですね。ちょっとだけ期待していたり、していなかったり……俺だって男だもん、期待しちゃうのも仕方無いよね。
「……はぁ?」
再び相棒の声。其方を見るともの凄い表情をしていた。表情は豊かな方であるとは思っていたけれど、こんな表情は初めて見た。
てか、ちょっと怖いです。まぁ、傍から見ればあの言葉は告白にしか聞こえないもんね。驚くのも仕方の無いことかもしれない。
「え、えと……私にはどう言うことだかわかんないんだけど……」
「まぁ、ようは俺たちのパーティーに入りたいってことだろ。それで……別に俺は構わないんだけど、相棒さんはどう思いますか?」
ジンオウガの彼女だって、そんな誤解を招く言い方をしなくても良いだろうに……
表情が乏しいせいで、この彼女が何を考えているのかはわからない。こう言う人は正直、ちょっと苦手です。
「ああ、うん。私も大丈夫だよ。それに人が多い方が良いし。でも、貴方は私たちのパーティーに入っちゃっても本当に良いの?」
「……うん。他のハンターたちとは組みたいと思わないし」
……俺たちよりも上手い奴らなんて沢山いる。それでも俺たちを選んでくれたんだから、此処は素直に喜ぶところなのかな。
そして何より、この彼女の存在は有難かったりします。一人よりも二人の方がやっぱり気持ちは楽になる。
この彼女だって、もしかしたらそんなことを思っていたのかもね。
「そんじゃま、そう言うことだし、これからよろしくお願いします」
「お願いします」
「……うん、よろしく」
これでパーティーは3人となったわけだけど……はてさて、これからどうなるのかね?
もしの話だけど、次に加わるメンバーはできれば男の人だと嬉しいなぁ。なんて思います。女性二人に野郎が一匹。ますます立場が弱くなりそうです。
――――――――
これで俺たちのパーティーは3人となった。だからこれからどう進めていくのかとか、話し合いをしたかったけれど、とりあえずギルドマスターへネルスキュラの狩猟が終わったことを報告した。
報告を終えると、持っていたことすらほとんど忘れかけていたギルドカードへHR2と更新。そんなちょいと面倒臭い手続きをしたことで、俺たちは晴れてHR2となった。
その後、帰る途中相棒へ言ったように、新しい武器を作成するため加工屋へ。運の良いことに素材も足りていたらしく、相棒の素材だけで作ることができた。
俺もクラスターハンマーを作れるか聞いてみたけれど、クラスターハンマーを作るために必要なアイアンストライクがそもそも作ることができなかった。あと、もしアイアンストライクができていたとしても、クラスターハンマーも素材が足りないらしい。
リアルラックの差が現れ始めました。まぁ、良いさ。俺にはドリルがあるのだから。
武器を強化している間暇になるし、できれば武器は2本作っておきたかったんだけどなぁ……
ジンオウガの彼女が使っていたヴェノムモンスターをいただけたりはしないだろうか?
そんな諸々のことを終え、再び集会所へ。
「お腹空いた……」
そんな声を落とし、元気のない相棒。
わちゃわちゃしていたせいで、時刻はもう正午くらいになってしまった。考えてみれば、昨日クエストへ行く途中に食べたのが最後。それからは何も口にしていない。
応急薬と解毒薬は飲んだけれど、アレはノーカン。お腹膨れないし。
てなわけでお昼です。俺と相棒だけではなく、あの彼女も一緒に。
昼になると集会所はかなり騒がしくなるけれど、まぁ、其処は我慢。それに静まりかえっているよりはよっぽど良い。
「ねぇ、お酒飲んでもいい?」
「ん~……今日くらいは良いのかな。せっかく新しいメンバーも入ったんだし」
俺がそう相棒へ言うと、『やたっ』と嬉しそうな声を出し、ホピ酒と女帝エビを頼んだ。
あっ、すみません。俺もポポノタンとタンジアビールをお願いします。
今日はこの後なんの予定もないし、騒ぎ倒すのもありかもしれない。
「君はどうするの?」
ジンオウガの彼女に尋ねる。
「じゃあ……ブレスワインとロイヤルチーズで」
そんな注文を終え、全員の料理が揃ったところでグラスをあげる。
「「「乾杯!」」」
いつもは二人きりの食事も少しだけ賑やかになりました。
乾杯の言葉を落としてからグラスを傾け、一気にその中身を飲み干す。強めの炭酸が口の中で弾け、それでも無理矢理飲み込んだため、目からは少しだけ涙が溢れた。けれども、それが美味い。
「はやっ! もう飲んじゃったの? もう少し味わって飲めば良いのに……」
確かにそうした方が良いだろうけれど、ビールはこうやって飲んだ方が美味しい。ちびちび飲むような飲み物じゃないのだ。どっかの偉い人も言っていた。ビールは口ではなく喉で味わうものだと。
その後も、お酒を飲みつつ料理に舌鼓。お酒が入れば会話も弾むと言うもの。
まぁ、会話の提供はほとんどが相棒からなんだけどさ、俺もあの彼女も自分から話しかけるようなことは少ない。だからこんな時、相棒がいてくれて良かったと思う。
ただ、できれば酔い潰れないでもらえると嬉しいなって俺はそっと思うのです。でも、どうせダメなんだろうなぁ……
そんな予想は見事に的中し、相棒は机に突っ伏してしまった。
どうしてコイツは学習しないんだろう……
「……い、いつもこんな感じなの?」
「そうだな。いつも酔いつぶれてるよ」
もう慣れてはきたけれど、もう少しどうにかならないのかなぁ。
ただ、今日は明らかに相棒のテンションは高かった。HRが上がったと言うこともあるだろうけれど、たぶん新しい仲間が増えたことで、余計に空回りしたんじゃないかな。
お疲れ様。ちゃんと家まで送ってあげるから今はゆっくり休んでくださいな。
「そっか。楽しそうだね」
うん、楽しいよ。
いきなり知らない世界へ飛ばされ、そのことを悲しんでいたのを忘れるくらいには。
「君はどうしてソロでやっていたんだ?」
4杯目のビールを頼んでから彼女に質問。
以前も同じような質問をしたけれど、あの時は誤魔化された。問いただすつもりなんてないが、少し気になった。
「……最初は何処かのパーティーに入ろうと思った」
ブレスワインの入ったグラスへ視線を落としながら、ポツリポツリと語りだした彼女。
アルコールが回っているせいか、その顔は赤く染まっていた。
「でも、この世界の人たちがNPCとしか思えなくて、どうしても一緒にいられなかった」
NPCねぇ……
だとすると、彼女から見れば今机に突っ伏し寝ているこの相棒もそう見えるのだろうか。その気持ちはわからないでもない。だってこの世界は俺たちにとってはゲームの世界でしかないのだから。
まぁ、俺はそんなことを感じたことなかったから、彼女の気持ちを理解することはできないだろうけど。
彼女の装備はジンオウガ一式。発動スキルは力の解放と雷属性強化。そしてマイナススキルが一つ。
それは決して弱い装備ではないけれど、もっと良い装備はあったはず。しかもソロで戦うのならわざわざジンオウガ一式にこだわる必要はない。
ただ、ハンマーや笛などの頭を狙う武器の場合、このジンオウガ一式は非常に便利なスキルがある。しかし、そのスキルはパーティーでないと意味はない。設定上はマイナススキル。けれども、俺たちにとってあれほどに強力なスキルはなかなかない。
だから、この彼女はずっとソロじゃなくパーティーで戦いたかったんじゃないかなって思っていた。
それに笛使いはパーティーの方が輝けるもんな。ソロも悪くはないけれど、演奏はやっぱり誰かに聴いてもらいたい。俺はそう思うのです。
注文していたビールが届いた。
並々とビールの注がれたグラスを持ち上げる。
そして、彼女のグラスへぶつけた。
色々あるかと思いますが、これからよろしくお願いします。
パーティーでは挑発があるとハンマーは本当に戦いやすくなります
ただ、ひたすらモンスターに狙われ続けることもあるので、其処だけは注意です
と、言うことで第22話でした
話が進んだと思いきや進みませんでした
どうなってんでしょうか
もういっそ飛び級とかさせようかな……
次話は、何かのクエストへ行かせる予定ですが、もうコレわかりませんね
では、次話でお会いしましょう
感想・質問なんでもお待ちしております