振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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登場キャラの名前を決めていないことに気づきました
気にしないことにしました




第10話~後ろから飛び込み斬り~

 

 

「「乾杯!」」

 

 そんな声とともにタンジアビールの入った器をぶつけると、甲高い音が響いた。

 

 あまり疲れていないと思っていたけれど、帰り道の記憶はない。気がついたらバルバレに帰っていました。まぁ、いくら元気ドリンコを飲んだところで、昨晩はほとんど寝ていないのだ。帰れ道で寝てしまうのも仕方無いね。

 

「私今回一度もネコちゃんに運ばれなかったよ!」

 

 グラスを傾けながら、胸を張って相棒が言った。

 俺が寝てしまったせいで反省会はしていない。正直なところ、もっと直してもらいたいところはある。斬れ味がなくなったら直ぐに研いで欲しいとか、もっとモンスターの動きを見て攻撃して欲しいとか、だから俺に斬りかかるの本当にやめてくださいとか。

 けれども、前回と比べると彼女は格段に上手くなっている。それにこの相棒は今回一度も乙らなかった。それだけで今は充分だろう。

 

 もしかしたら、慣れていないだけでセンスはあるのかもしれない。

 狩猟クエストはまだ2回目。そうだと言うのに、足を引っ張るまではいっていないのだから。闘技大会で目標を達成するまで一ヶ月もかかったどっかの誰かとは大違いだ。

 

「うん、今回は良かったんじゃないか? 次も頼むよ」

「ふふん、任せなさい」

 

 ドスジャギィも予想通り強くはなかったし、これなら防具だって直ぐに作ることができそうだ。てか、アクセルハンマーが予想以上に強い。やはり斬れ味が緑まであるのが大きいのだろう。

 

「防具ってどれくらいでできるの?」

「ん~どうだろう。加工屋に聞いてみないとわかんないけど、あと3、4匹倒せば作れるんじゃないか?」

 

 一日一頭倒すとして、一週間もあれば一式装備を用意できる。問題はクエストがあるのかと言うことと、お金が足りるかと言うこと。

 それに防具ができたらアクセルハンマーを強化しないといけないし、彼女の武器だって強化する必要がある。絶対にお金が足りない。

 

「うへぇ、そんなにかかるんだ……」

 

 レア素材がないだけまだマシな方だと思う。この世界にあるのかわからないけれど、発掘武器があればもっと地獄だ。死んだ目をしながらゴリラを狩り続けるハメになる。そりゃあ、モンキーハンターとか言われもする。

 MH4の中で一番倒された大型モンスターって、あのゴリラじゃないだろうか。俺もゴリラだけ討伐数の桁が違ったし。まぁ、ハンターが乙らされたモンスターもあのゴリラが一番だろうけど。

 

「まぁ、のんびりやれば良いさ」

「うん、そだね」

 

 ……彼女は操虫棍使いだ。流石に今はまだ俺の方が火力を出せてはいるけれど、彼女の方が火力を出す日が必ず来るだろう。それも決して遠くない未来で。

 ホント、世知辛い世の中だよ。

 

 そんなことを考えながら飲んだビールはいつもより苦く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集会所で相棒と別れ、ほろ酔い気分で帰宅する途中、ハンマーを強化してもらった加工屋へ寄りジャギィ一式にはどれくらいの素材が必要か聞いた。

 んで、わかったことだけど、どうやらドスジャギィ素材は直ぐに集まるっぽい。けれどもジャギィ素材がなかなか手強そうだった。そして鉱石系も全然足りない。

 ドスジャギィはあと2頭も倒せば充分だろう。ジャギィ素材はその序でに集めればなんとか……なるかな?

 

 

 

 そして次の日。

 

「ドスジャギィのクエストですね! えと……ああ、ありますよ。それにドスジャギィは依頼の多いモンスターですし、クエストがないと言うことはほとんどありません」

「んじゃあ、それお願い」

「わっかりました。参加人数はお二人でよろしいですか?」

「うん、そだね」

 

 昨日と同じように朝早くから相棒と合流し集会所へ。

 朝が早いせいか集会所はいつもほど騒がしくはなく、どことなく新鮮な気持ちになる。

 

 クエストを受注し、空いている席へ座ってから料理を注文。いつも通り肉魚の煮込み料理。

 

「君ってその料理好きだよね。そんなに美味しいの?」

 

 美味しいことには違いない。ただ、好きかと言われるとどうだろうか? KO術が発動してくれる料理が他にもあれば良いのにね。

 

「クエスト前はこの料理を食べるって決めているんだよ。もう儀式みたいなもんだ」

「ふ~ん、変わってるね」

 

 そんな言葉を落とした相棒が頼んだメニューはピンクキャビアとヘブンブレッドの炒め物。確か、医療術が発動したと思う。

 俺も今度は違う料理を食べてみようかな。

 

 

「んじゃ、行くか。ああ、そうだ。採掘しないといけないからピッケルを持って行ってくれ」

 

 料理を食べ終わってから声をかける。

 今日中に鉱石系を集められれば後々が楽になる。早く防具を作り強いモンスターと戦いたいのだ。

 

「それなら大丈夫だよ。ピッケルならいつも持ち歩いているもん」

 

 ……準備万端なのね。きっとこの相棒のアイテムポーチは常にいっぱいなのだろう。

 俺なんて砥石とピッケル、焼肉セットしか持ってないのに。回復薬くらいは持ち歩こうかな。

 

 準備をしてから集会所の出口へ。

 さくっと行ってきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「っしゃー! マカライト出た!」

 

 遺跡平原に着き、昨日とは違って今日はまず採掘から始めた。

 そして嬉しそうな声を出した彼は、どうやら私の相棒らしい。元気良いね。普段はちょっと冷たそうなところがあるし、実際意地悪なことを言ったりするけれど、本当は優しくて明るい性格なんだと思う。

 私は大型のモンスターなんて一人じゃ絶対に倒せない。初めて対面した時も身体が固まりました。そんな情けないハンターなんです。

 けれども、彼はそんな私のことを“相棒”と呼んでくれた。それが、嬉しかった。

 

「あと一個出てくれれば、鉱石は全部集まるんだけどなぁ」

 

 ふふん、私はもう集まってるけどね! コツコツと採取ツアーをしてきたかいがあった。

 

 彼の知識はすごく偏っている。普通に生活していれば知っていることを彼は知らない。けれども、どうしてそんなことを知っているのかってことを知っていた。

 使ったことないはずなのに操虫棍の使い方は私よりもかなり詳しいし、他の武器のことだって詳しい。たま~にモーション値とか倍率とか意味のわからないことを言うけれど、それでも彼の知識が多いことは確かだと思う。

 

 まだ3色集めたことはないけれど、エキスの大切さも少しだけわかった。

 アレ取るとすごく動きやすくなるんだね。

 

「むぅ、出ないか……しゃーない。ドスジャギィ倒しに行くか」

「おおー」

 

 

 彼は私のことを知らなっただろうけど、私は彼のことを知っていた。声をかけたのは、あのアルセルタスのクエストへ行った日が初めて。

 けれども、私はそれよりも前から彼のことを見ていた。

 闘技大会でイャンクックとソロで戦う姿を。

 

 最初に彼を見たときは、あまり上手くないなって思っていました。乗りは失敗しちゃうし、態々モンスターの攻撃が届くところで戦い続けようとするし、回復をしないから直ぐに運ばれちゃうしと。

 

 そんな彼の戦い方ははっきり言って異常。ハンターの戦い方はヒット&アウェイが基本。でも彼は違う。インファイトだ。回復もガードも無しでひたすら相手を斬り続ける。そんな戦い方だった。

 私は初めて見た。そんなふうに戦う人を。そして、そんな姿に魅了された。

 

 たぶん、他の観客も同じだったんじゃないかな。最初は皆彼にヤジを飛ばした。でも日が経つに連れ、彼の被弾は減り終にソロでイャンクックを倒した。その時からヤジが声援に変わった。

 

 闘技大会へソロで出場する人はいないって聞いている。それでも彼は頑なにソロで出場し続けた。何を思っていたのかはわからない。毎日見に行けたわけでもないけれど、当時の闘技大会はたぶん彼が一番人気だったと思う。

 

 私も彼みたいになりたかった。でも、やっぱり私じゃ彼にみたいにはなれないってわかっていた。彼は何か違ったから。根元から、根本的に……

 

 だから私は声をかけた。一度でも良い。一度でも良いから一緒に狩りへ行きたいって思ったから。だって私だってハンターだもん。

 絶対に断られると思ったなぁ。彼はソロで闘技大会Sランクを出すハンターで、私はソロじゃ何もできないハンターだったから。

 

 それでも彼は私を連れて行ってくれた。

 ちょっと……いや、かなり嫌そうな顔をされたけれど、それでも私を連れて行ってくれた。我が儘な奴とか面倒な奴って思われたかもしれない。しかも、そのクエストで私は2回も倒れた。それでも彼と一緒に狩りができたのだから、私は満足。武器は片手剣からハンマーへ変わっていたけれど、あんな間近でしかも一緒に狩りができたのだから、それだけで充分。

 

 なんて自分に言い訳した。

 

 彼と一緒に戦ったときアレだけ固まっていた体は動き、狩りが楽しいって初めて思えた。私にとって彼と一緒に狩りをしたあの日は、そんな夢みたいな時間だったんです。

 

 でもクエストが終わり、夢も終わった。来て欲しくなんてないのに、現実が戻って来たらしい。

 

 そう思っていた。

 だからあの時、彼がかけてくれた言葉は本当に嬉しかったな。

 

 私なんかが一緒に行ってもいいのかな? って思う。二人で狩りをすればそれだけ報酬だって減る。それに彼ならソロでも充分戦えるはず。

 どうして彼が一緒に狩りをしてくれるのかはわからないし、怖くて聞くこともできない。

 

 

 それでも今――私は楽しいです。

 

 

 

「おけおけ、脚を引きずったか。ふはは! 何処へ行こうと言うのかね?」

 

 でも、クエスト中の彼はちょっと怖いです。

 いつの日か足を引っ張らなくなって、胸張って彼の相棒だって言える日が来るといいな。なんて私は思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯!」」

 

 昨日のように、集会所へ帰ってから二人で乾杯。

 ああ、クエスト終わりのお酒は美味しい……

 

 あと、今回も私は一回も倒れませんでした! 人は成長する生き物なのだ。

 

 帰り道は反省会をするのかと思っていたけれど、昨日のように彼は寝てしまった。そんな彼の寝顔を見ていたら私もつられてしまい、気がつくと集会所だった。う~ん、そんなに疲れていたのかな?

 

「あんまり飲み過ぎるなよ? 明日もまたドスジャギィへ行かないとなんだし」

「大丈夫だよ。私、酔いつぶれたことないもん」

 

 私がそう言うと、彼からチョップを喰らった。

 何をしやがりますか。

 

「はぁ……覚えてないだろうけれど、運ぶの大変だったんだぞ?」

 

 そんなため息と愚痴。

 自分の顔が赤くなるのがわかる。そして、たぶんこれはアルコールのせいじゃない。

 

「そんなこと記憶にございません」

「……でしょうね」

 

 一つ、嘘を落とす。

 彼はきっと気づいていない。

 

 私が覚えていると言うことを。

 その時の記憶が蘇り、さらに赤くなる私の顔。あの日は飲みすぎたせいで身体が動かなかったんです。これからも彼が私と一緒に居てくれることが嬉しくて、飲みすぎました。でも何故か、意識だけははっきりとしていて……。アレならいっそ寝てしまえば良かった。

 恥ずかしいったらありゃしない。だからこれは私の中へ閉じ込めておくことにします。それくらいの嘘は許して欲しいかな。

 

 

「これからもよろしくお願いします」

「……いきなりどしたの? うん、まぁ、よろしく」

 

 

 クスクスと笑う彼。

 

 こんな日が続けばいいって私は思うんだ。

 

 






MH4で一番倒された大型種ってやっぱりゴリラでしょうか?


と、言うことで第10話でした
初めての主人公以外の視点です
ちょっと主人公を持ち上げすぎた気もします
まぁ、どうせ直ぐ操虫棍に抜かれると思いますが

次話ではなんとか防具を完成させ、違うモンスターと戦ってもらいたいところです
では、次話でお会いしましょう


~語句説明~

読まなくても問題ありません

~DPS:Damege Per Secondの略~
秒単位の平均ダメージ効率のことです
“火力”などと言われることもあります
まぁ、つまりDPSが高い武器は火力の高い武器となります(威力と火力は別です)
ただ、DPSが高いといっても敵であるモンスターは動くわけですから、DPSが高い=早く倒せると言うわけでもありません

~ハメ~
モンスターに攻撃を全くさせない、若しくはモンスターの攻撃が当たらない場所から一方的に攻撃し続けることを指すことが多いです
閃光玉をひたすら投げそのひるみによるもの、ガンナーで睡眠や麻痺、罠を使うもの、ツタなど地形を利用するもの、高火力技でひるませ続けるものなどがあります
また、このハメを行うときはひたすら攻撃を繰り出せるので、前述のDPSが重視されます
ただ、一方的にモンスターを攻撃する所謂、作業ゲーとなるため嫌う人も多いです

~ゴリラ~
ラージャンのことです
たぶんMH4で最も多く狩られた大型種です
コイツの討伐数だけ桁が違う方も多いのでは?


今回はこんなところでしょうか
感想・質問なんでもお待ちしております

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