艦隊これくしょん〜ブラック提督(笑)の奮闘   作:SKYアイス

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金元さんボイスええのお…


第24話

独房を脱出し、資材庫に向かっている提督はある違和感を覚えた。

それは、道中に感娘はおろか妖精すらいない事

本来妖精は様々な場所で気まぐれに過ごしているが、鎮守府にいない事は無い。彼女達は鎮守府を支える者の一人だからだ、その妖精が鎮守府にいないのはどういう事なのだろうか?

 

この鎮守府が機能していないのを考えたが、そしたら感娘が大佐と一緒にはいないと思ったので、その考えは直ぐ改める。だがまだ違和感はあった。

 

「静かだ、静かすぎる」

 

余りにも静か。物音一つしない、まるで廃墟のような…不気味な静けさ

だが、それでも前に進むしか無い

 

「…………」

 

静かすぎても、慎重に行動する

誰にも見つからないのは逆に好都合だった、見つからない内に資材庫に爆弾を仕掛けて、爆破すればこの鎮守府の資材に大打撃を与えれる。

そうすれば出撃もままならない状態になる筈

 

 

「よし」

 

やがて提督は資材庫にたどり着いた。

慎重に周囲を確認し、誰もいない事を確認してから扉を開いた。だがそこには

 

 

 

「なっ!?」

 

 

何もない、資材庫には資材が欠片も入ってなかった

かつてこの鎮守府に来た時、確かにここに資材があったのだが、今はもぬけの殻だ

 

「バカな」

 

思わずそう呟くと、途端に周囲が明るくなった

驚き、銃を構えると同時に自分の置かれている状況に気付く。

自分の周囲をライトで照らされている、自分の位置が、存在がバレている。

 

「やっぱりね、君はここに来た…僕は君が優秀なのを知っていた。リスクを犯してもここで僕の手札を減らす事を考え、ここに来る事を選択した、うんうんうんうん、僕の考えた通りのシナリオだ」

 

そこにいたのは大佐一人、周囲に感娘はいない

 

「大佐、それは自分を罠に嵌めた…そういう事ですか?」

 

問いかけたと同時に、左手をポケットに忍ばせる

 

「罠とは酷いな、僕は君の性格上何を選択するのかを予想して動いたんだよ、現に見張りを付けなかったのも、ここら一帯を無人にしたのもそういう事さ」

 

「妖精すらいなかったのは、貴方の…?」

 

「そう、僕の指示さ」

 

大佐は満足そうな表情を浮かべ、ぱち、ぱち、ぱちと、拍手をする。その仕草に提督は酷くイラついた

 

「いやぁ、僕の書いたシナリオ通りの展開だ、君は必ず万が一の切り札は肌身離さず持っていると思っていた。君が慎重だからこそ…そう考えていた。君の性格を知っていたからこそ、この状況を作り出せた…改めて対話しないかい?」

 

この後に及んで大佐は対話を試みようとした。それに対し提督は軽く舌打ちをして、大佐を鋭く睨んだ

 

「対話?貴方と話す事は無い、このような仕打ちを自分にしたんだ、この事は大本営に報告させてもらう」

 

銃口を大佐に向ける。だが大佐は銃口が自分に銃口を向けられても、余裕の笑みを絶やさない

 

「まぁ、落ち着きなよ…君の鎮守府に戻ったところで、君は大淀君に何を言われる?大事な作戦前に姿を消し、大事な仲間を轟沈させようとした、そう思われるんじゃないかい?」

 

確かにそうかもしれない、彼女は酷く自分を嫌っているから…そう思われるのかもしれない、だが

 

「それでも…俺は進んで行く、この海を…あいつらから取り戻す為に!だから今はあんたが邪魔だ!雪平大佐!」

 

上司へ向ける言葉は最早ない!激しい怒りと共に、その引き金を提督は引いた。

その弾丸は寸分狂わずに大佐の胸を貫く…

 

筈だった

 

「そ、そんな」

 

だがそれは立っていた、胸に風穴を開けたまま

いや、風穴は開いているがそいつは笑ったまま立っているし、血も出していない

 

「良くできているだろう?この人形は」

 

それは口も動く、瞬きもする、表情も変えられる人形だった、人類の手ではできないそれは、明らかに妖精の技術が使われているのが分かる。

 

「さて、君の覚悟を見せて貰った所で、君には死んで貰うか」

 

大佐がそう言いだしたら、扉が勢い良く閉められた。驚いて後ろを振り返ると、そこには一人の感娘が立っている。

 

「君は…」

 

ピンク色の髪をした彼女は、発見されている中でも珍しい者。だが彼女の瞳には光は無い、表情も死んでいる、生きる気力を失った目

まるでこの先の運命を、受け入れているような…

 

「あと1分後に、この資材庫の床は爆破される、そしてその床下には無数の針が仕込まれているよ、そこの彼女は君を逃さない」

 

「あんたは彼女を捨てるってのか!?」

 

「当たり前だろ?駆逐艦ごとき、代わりはいくらでもいるしね、君が死んだ後は君の鎮守府は僕が貰い受ける」

 

「お前、お前、お前ぇぇぇ!」

 

「君らしくも無い、そんなに感情を出すとは…やはり君は愚かだな、愚かで、黒になりきれない男だ。最後に言っておくよ、()()()()()

 

そうして、大佐の人形は爆発四散した。

 

「くっそぉぉ!!!」

 

そして提督は、その感娘に突っ込んで行った、だが彼女は提督を止めようとはしなかった。

 

彼女はただもう直ぐ来る死を受け入れている、それだけだから…死ぬ時くらい、憎いあいつの命令を受けるのは止めよう。そう思っていた

 

「えっ?」

 

不意に彼女は、提督に抱き締められる

同時に扉が爆破され、扉の一部が破壊された。

その破壊された扉に向かって提督は飛ぶ。

そして、資材庫から脱出した。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

脱出したと同時にガラガラと崩れる音が聞こえてきた。後少し遅かったら串刺しになっていただろう。

 

「くそっ!爆弾を扉に仕掛けて正解だった、危うく連中から海を取り戻す前に死ぬ所だった!」

 

焦りから普段の口調は崩れ、本来の口調が表に出る。

 

「予定変更だ、向こうは俺を死んでると思ってるなら好都合だ、こっから」

 

「どうして、私を助けてくれたんですか?」

 

考えている内に、腕の中の彼女が自分に問い詰めてくる。

それに対して提督は何も答えず、ただ一言言った

 

「お前は、これでいいのか?あいつに使われるだけ使われてボロ雑巾のように捨てられる…そんな人生で良いのか?」

 

「それは…」

 

「悔しく無いのか!あいつに一泡吹かせたく無いのか!俺は吹かせたいね!」

 

提督は彼女と対話している内にも、奴をどう追い詰めようか?その作戦を練っていた、だがその最中に腕の中の彼女が震え始め

 

「悔しいですよ…訳も分からないまま、酷い扱いを受けて、駆逐艦だからって、あんな…無理矢理囮にされて!みんなみんな沈んで行って!!憎いですよ!名ばかりの司令官が!人間が!」

 

そして、彼女は泣き出した。

提督は黙って彼女を抱き締める、その表情は苦々しく…怒りに燃えていた。

そして提督は更に彼女を強く抱き締めた。

 

ただ彼女が泣き止むのを、黙って待っていた………

 

やがて彼女は泣き止み、提督がぽつりと言葉をかける。

 

「あいつはどす黒いよ、俺なんか足元に及ばない程の黒だ、きっと逆立ちしたってあいつには敵わない。でも俺には頼りになる部下がいる、足りない力は貸してもらえる…だから俺は全力で部下を支える、俺なりのやり方で」

 

「それは、貴方の艦娘ですか?」

 

「ああ、俺の感娘だ」

 

「…………」

 

彼女は驚いたような表情でこちらを見る。きっと彼女には分かったのだろう、自分がどういう意味で感娘と呼んだのかを

 

「何で私達を、感娘と呼んでくれるのに、貴方は自分の事を黒って…」

 

「俺は自分の事を白と呼ぶ気は無い」

 

「何ですかそれ、貴方の方があの人よりよっぽど白じゃないですか…」

 

「それは俺が決める事だよ」

 

「ふふ…ふふふ………」

 

彼女は提督の腕の中で、静かに笑った

 

「俺はお前を拒まない…お前が決めろ、人を信じられないならお前が静かに暮らせるように手配するけど…どうする?」

 

「確かに人は信じられません…けど、貴方なら信じられます、私を貴方の…感娘にしてくれませんか?」

 

「それがお前の選択なら、俺は受け入れるよ」

 

そして提督は彼女を離し、手を差し伸べた

 

「俺は海色 海斗、呉鎮守府の提督をしている」

 

「私は、白露型五番艦の春雨です、宜しくお願いします、司令官!」

 

彼女は笑顔でその手を取った。

 

 








呉鎮守府のデータその1

駆逐艦春雨

ブラック鎮守府から提督に救われたとの情報、ブラック鎮守府にいる時とは違い、その個体の特殊な能力を持つ。本人からの話によると愛故にとの事、
その愛の影響か、春雨の戦闘能力は駆逐艦と変わりはないものの、ケッコンカッコカリができる、もしくはしている感娘の愛情を暴走させ、混乱させる事が可能。

元々ケッコンカッコカリは一定の練度と愛情が無ければ不可能な為、限定的とはいえ感娘を混乱させる事ができる彼女は、ある意味呉鎮守府最強かもしれない。

余談であるが、一部の深海凄艦にも効果ありとのこと

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