響になった僕は人の温もりを知る   作:緒兎

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 お久しぶりです。今日から学校再開ですのでまた書きはじめます。

 今回は暁ちゃんがメインなので、響は最初以外出てこないです。では、どうぞごゆるりとご覧ください。


海中へと沈んだ響

 ドボーンッ!!

 

 始めに感じたのは体が落ちてゆく浮遊感だった。何が起きたのだろうか?なぜ僕の体は浮遊感を感じているのか?そんな考えが脳裏を過るなか、僕の体はどんどん沈んでいき、やがて頭が水中へと没してしまった。

 

 

 

 ぼこぼこぼこ───僕という異物が入った衝撃で海中は泡立ち、気泡が海面へと行かんばかりに向かっていく。僕の体に浮遊感はない。海中へと沈んでしまった僕は何故か海面へと上がれずにどんどん沈んでいく。

 

 ──あぁ、上がれないんじゃなくて上がろうとしてないんだ。

 

 どういうわけか僕の体は僕の言うことを聞かず、無抵抗のまま沈んでいく。頭では理解していても体が追い付かないのかな...?いや違う。きっとどちらもこの状況に追い付いていないんだと思う。僕はなぜ沈んでいる?何が原因でこんなことになってる?そう、僕が艤装のベルトを緩めてしまったから艤装が体から離れ僕は水面に立つことが出来なくなってしまったんだ。

 

 (息が...出来ない......!)

 

 艦娘といっても所詮は人間と同じ仕組みでできた体。とても水中で呼吸などできず、胸が苦しかった。ぼこぼこと空気を吐き出し、だんだんと力が抜けていく体。ヤバイ、そう頭が言うが体は全く動かない。決して抗うことのできない力に押さえつけられているかのように指一つ動かせなかった。

 

 ──あぁ...海中って、以外と寒いんだなぁ.....。あれ?だんだん暗くなってきたなぁ...もう、底かぁ...。

 

 深いのか浅いのか。どれだけの時間海中に居るのかわからない。だけど明かりが見えることから以外と浅いということがわかる。そもそもここは演習場なためにそこまで深いということはないだろう。

 

 だめだ...もう意識が......。深い浅いを考えていると気がつけば呼吸のできない苦しみから解放され、しかし回りが暗くなったりぼやけて見えたりと徐々に意識がもたなくなってきてしまった。

 

 朦朧としてきた意識のなか、海中に何かが入ってくるのを目にとどめ、僕は意識を失った。

 

 ────司令官.........。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 響が海中に落ちてしまった。それは私の平常心を壊すのに簡単なことだった。

 

 「響ぃぃいいっ!!!!?」

 

 響が艤装と離れてしまって沈んでしまい、艤装だけが海へとぷかぷか浮かぶ海面に向かって私は声をあげた。私だけではない、電や雷も声をあげる。しかし私はその誰よりも大きな声だった。

 

 私は知っている。

 

 艦娘は泳ぐことはおろか、浮くことさへ出来ないということを。艦娘そのものが船体の半分の質量を担っていることを。艤装だけではない、体もが船であるということを。

 

 まずい、非常にまずい。このままでは響を助けられない。いや、私たちだけでは絶対に助けることができない。響が助からないかもしれない事への不安と恐怖が体を支配し、まともな思考が出来なくなってしまう。どうしたらいいの!?

 

 ──ザ──ザザ...ザザ─

 

 不意に脳裏に走るノイズ。そして前の響の記憶。目の前で沈んでしまった、大切な家族の記憶。別れの記憶。怖い...怖いよ。また、私の前から居なくなっちゃうの...?ねぇ、どうしたら助けることができるの?また私はなにもすることが出来ないの?やだ、やだよぉ...私を置いていかないで!!

 

 「暁お姉ちゃんっ!!!!」

 

 「暁ねぇっ!!!」

 

 呆然と海面を見つめ、響を失う恐怖に尻餅をついてしまっていた私に声がかかる。誰が私に声をかけているのか...聞きなれたはずの声は今の私には誰のものなのかわからなかった。

 しかし声の主を確認する余裕はまだあるようでその重たい頭を持ち上げ、確認する。

 

 「暁ねぇ、大丈夫!?」

 

 「あ......」

 

 二人揃って茶髪でその見た目は双子を思わせるほどそっくり、だけど顔には強気な方と穏やかな方とでそれぞれ個性が滲み出ている。私と同じ服装をして私と同じクラスであることを意味するⅢのバッジ。私を心配そうに除き混んでくる雷とそれを泣きそうな顔で見守る電の姿が、私の不安に揺れる瞳に写った。

 

 なんで、私の心配なんて...。

 

 不意に沸き上がる疑問。響が海中にいて、溺れて息も出来ずもがき苦しんでいるのに、この二人はなんで私なんかの心配をしているのだろうか?それに、響の事はどうでもいいかのように、私だけを見ている。

 

 カッ!と頭に血が上る感覚。私はこの二人にたいして怒りを感じた。この二人は所詮響のことなどどうでもよかったのか、響を見捨ててこんな状態になっている私を心配しているのは、私を馬鹿にしているのか!?と。

 

 「貴女達...!響の事はどうでもいいって言うの!?こんな非常事態なのに、こんな辛くて怖くて苦しいときに、なんで私の心配なんてしてるの!!?なんで助けようのしない─────っ!!」

 

 二人に怒鳴り散らす。訳もわからなく私はとにかく怒鳴り散らしてこの怒りを沈めようとした。この二人を責めようと、言葉を発した。だが、不意に最後に言おうとした言葉で私は詰まってしまった。

 

 「あ、あぁ......」

 

 「暁...ねぇ......」

 

 「暁お姉ちゃん...」

 

 言いかけて気づいた。なんで助けようとしなかったのか。それは二人に向けて言った言葉でもあり、そして自分にも向けられた言葉であることに。私は...響が海中で溺れて苦しんでいるとき、何をしていた...?ただ一人、恐怖、不安に支配され呆然と立ち尽くし、腰を抜かして座り込んでしまっていた。あれ...?私は何をした...?───何も、していない。ただがむしゃらに悲しんで、恐怖して、ただそれだけ。響の心配をしたわけでもなく、自分が恐怖で潰れそうになるのを防いでただけ。現実から逃げていただけなのだ。自分を守ることしか出来なかった自分に、そんなことを言う資格があるのだろうか?

 

 「暁お姉ちゃん...響ちゃんは......」

 

 「ごめんな...さい...」

 

 電が何かを言おうとしたが、私はそれを遮って謝る。自分もなにもしていないのに、この子達を責めた私を許してとは言わない。だけど謝る。兎に角謝りたかった。それはこの子達へ向けたものだけではなく、響へと向けたものでもあった。

 

 私は長女なんだから、私がこんなんじゃ妹であるこの子達も不安になってしまう。怖くなってしまう。なのに私はただ恐怖に震えて座り込んでいるだけ。自分の心配しかしていなかった。これじゃあ私を心配してくれているこの子達の方がよっぽどましだ。

 

 「暁ねぇ!!」

 

 いつまでも謝り続ける私に声を荒げて呼び掛ける雷。顔を下げているからその顔は見えず、私を責めているのかもわからないが、恐らく怒っているんだろう。自分のことしか考えない自己中心的な私を怒っているのだろう。姉妹にあるまじき感情で、あそるおそる顔をあげる。そこにいたのはいつも通りの雷。いや、何処か私を微笑んでみている。なぜ...?私は理由がわからなかった。怒っているわけでもなく悲しんでいるわけでもない。どうしたらそんな顔ができるのかわからなかった。

 

 「暁ねぇ、来て!」

 

 訳がわからず呆然としている私の腕を掴み、抜けている腰も関係なく立ち上がらせる。足に力が入らなく、崩れ落ちそうになる私を電と雷が両側から支えてくれる。暖かい...。妹達の温もりを感じ、少し心が落ち着いてきた。兎に角、雷が連れていきたいところまで頑張って歩こう。フラフラの足に力を込め、自分の足でしっかり立つ。妹達に、迷惑はかけられない。

 

 どこへいくのかと、聞こうとも思ったけど兎に角響が溺れているところと別なところにいくようだ。響を助けなきゃいけないという気持ちが込み上げて留まりたい気持ちもあるが、私たちではなにもできないからおとなしく着いていくことにする。響...お願い、生きてて!

 

 いま助けを呼びにいくから!




 誤字、脱字等があればよろしくお願いします。

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