響になった僕は人の温もりを知る   作:緒兎

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 電車... 乗り間違えた。これで2回目です。来た駅を遡るのは本当に心に来ます。

 そして長い電車の待ち時間、もう俺の心は粉々です。


北上の助け

 キッと鋭く睨んでくるのはぶつかった相手ではなく、その後ろの人物。その女性はまるで前の女性が私の"もの"だと言わんばかりの言い方で、僕に罵声を浴びせた。

 

 「で?何か言い訳でもあるわけ?」

 

 うざったそうに、心底邪魔だと言わんばかりに僕を睨むその女性は、果たして謝って欲しいのか欲しくないのか、さっさとドケという思いがひしひしと伝わってくる。

 

 怖い... 黒髪の穏やかそうな女性だけなら謝って直ぐに去ることが出来たのだろうが、この女性がいるとまた話は別になってしまう。

 怖くて、体が動かない。あまりにもの恐怖に体がひきつり、僕の言うことをまるで利かない。

 

 「ぅ...あ... 」

 

 「なに泣いてるのよ。あんたが北上さんにぶつかってきたのに、なんであんたが泣く必要があるのよ」

 

 「うぅあ...っう」

 

 「いいからさっさと謝んなさいよ」

 

 体の限界が、心の限界が近かったのだろう僕の目からは涙が溢れだし、ぽろぽろと床や制服を濡らしていた。

 しかし、女性はそんなことお構いなしといった感じで、さらに言葉をきつくし、只でさえ不安定な精神をかき乱していく。

 

 謝れば終わる、何度も何度も体に投げ掛けるが、体と口はびくともせず、只震えるだけだった。

 このままではいけない。そう思うも体は言うことを利かず、寧ろさらに動かなくなっていた。

 

 「ぅ...ご... めん、な... さ、ぃ... 」

 

 「は?聞こえないんですけど?」

 

 それでもなんとか振り絞った声は、小さく、震えていて、本当に聞き取れなかったのかムカついた表情を僕に向けてくる。

 

 もう心は限界なのだろうか、だんだんと意識が微睡(まどろ)み始め、何も考えられなくなってきた。しかし、恐怖は消えず他の意識だけが消え去っていき、ここからが本当の恐怖と知らせているみたいだった。

 

 もぅ... 無理ぃ... 。心が砕け散りそうな恐怖が僕を支配して飲み込んでいく。

 

 「大井っち、苛めるのはよくないよ~」

 

 と、救世主は意外なところからやって来た。それは今まで黙って見ていた黒髪の女の子、後ろの女性から北上さんと呼ばれ敬われていた子だった。

 

 チラリと心が砕けるのが止まる。

 

 「で、ですが北上さん!謝らないのはいけないことですよ!?」

 

 「でもそんなに威圧を掛けたらさ、ほらまだ小さいこだよ?謝ろうにも謝れないじゃん」

 

 「うっ... 」

 

 それは必死の言い訳だったのか、正論を北上へ訴えるがそれを北上は受け付けず、正論で反論する。大井と呼ばれた人物はその事に反論できず、言葉に詰まると渋々といった感じに引き下がる。

 すると、北上は此方を向き穏やかな笑顔を向けた。

 

 「ほら、早く謝ればそれで済むよ~」

 

 そこで漸く体に掛かっていた重圧は消え去り、言うことを利くようになっていた。知らず知らずのうちに涙も止まり、もう平気だと物語っていた。

 

 「ごめんなさい!」

 

 今度ははっきりしっかりと伝える。ここで小さい声なんかで言うと恐らくまたあの恐怖を味わうことになると心に言い聞かせて。

 

 「うん、こちらこそ大井っちが怖がらせてごめんね」

 

 「んなっ!?」

 

 僕が謝ったのを確認すると、今度は向こうが謝ってきた。その言葉を聞いた大井は心底驚いたと声をあげていた。

 それを言うだけ言って北上はさっき向かっていた方へと体を向ける。

 

 「ほら大井っち、早くいくよ」

 

 「あっちょっと、待ってくださいぃ~」

 

 そう言って一人で歩き出す北上に、驚き固まっていた大井は直ぐ様立ち直りそのあとを追いかけていく。

 その光景だけ見れば微笑ましい限りなのだが、アレを見てしまった僕には、大井が居なくなったことに安心しか出来なかった。




 誤字、脱字等があればよろしくお願いします。

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