響になった僕は人の温もりを知る   作:緒兎

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 今回はちょっとこの話とは違う雰囲気で書いてみました。世に言う第三者視点ですね。

 まぁ、とりあえずはこんなもんかと思うのですが、どうでしょうか?おかしなところとかあればどんどん言ってくださいね?歓迎します。


ご飯のお誘い

 静かな執務室。書類にペンを走らせる音だけがこの場に存在し、仕事に集中できる素晴らしい状況だ。

 

 その部屋にはただ一人、白い軍服を着た司令官、または提督が居て、一人寂しく黙々と書類に目を遠していた。時に判子を押し、時にペンを滑らせる。なるほど簡単な作業だ。

 しかし量が尋常ではない。その書類の束は、執務室にある机の高さを超え、天井にまで届こうかとしていた。

 

 そんな静かな空間に、突如地響きかの如く衝撃が走る。

 

 「うぉっ!?な、なんだ!?」

 

 提督はこの地響きの原因を突き止めるべくして辺りを確認する。左から右へと視線を動かしていく。

 すると真ん中で目が止まった。そしてそこを見た提督の瞳は大きく見開かれ、あり得ないと言わんばかりに驚愕していた。

 

 例えるならばこう。いきなり目の前に気にかけている子が、息を切らし、真っ赤な顔で汗をかいた状態で自分の部屋に入ってくる。そんな感じだ。

 

 しかし現状はそこまでラブコメとはなっていない。いやなっているのかも知れないが、この提督にはそんなこと分かるはずもない。

 

 「ひ、響か?ど、どうしたんだ... 急に... 」

 

 目の前には響。最近面倒を見てあげている異世界から来た中身だけが男の、謎多き人物。その性格は別に飛び抜けたものはなく、至って平凡だ。

 しかし重度の対人恐怖症を患っており、人と面と向かうことすらも出来ない。本人によれば虐め、虐待が原因と言っているが本当のところはどうかわからない。

 なるほど、これは厄介だ。

 

 だが提督はそうは思わない。最初こそ自分にも恐怖している一面を見せたが、それもすぐに無くなり、今では昔から仲のよかった親友並みには接っせられていると思う。

 

 ようは慣れれば誰でも仲良くなれる。人見知りの延長戦のようなものだと、そんな認識だ。

 

 だから、あまり自分には関わってこず、自立するだろうと、そう思っていたんだ。実際すぐに暁たちと打ち解けたのだ。そう思うのが自然というものではないだろうか。

 

 しかし現実とは物語よりも奇異なものである。

 

 響は明らか提督から離れることを嫌だと思っている。本人は認識していないだろうが、体がそう言っているんだ。

 

 ───離れたくない、と。

 

 だからだろうか、響は提督から離れることはなく、寧ろ恋心さえ抱いている。それは本人の認識している範囲なのかはまだわからないが、きっと間違いないだろう。

 

 現に今、提督のもとへ急いできた響がいる。恐らく食事の誘いだろう。

 提督はいろいろと察しがいいのだ。そのくらいのことは息をするかの如くわかるらしい。まったく、鈍感な主人公たちも見習ってほしいものであるな。

 

 「司令官!ご飯たべよ!」

 

 ね?当たっていたでしょう?

 

 響は提督の服をちょいちょいと引っ張るとそのまま連れていってしまった。

 

 そのあと執務室に残ったのは、大量の書類と、少したてつきの悪くなった扉であった。




誤字、脱字等があればよろしくお願いします。

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