恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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タイトルから全てをお察し下しあ。ザ・タイマンですぇぇぇぇぇぇ!

※ぜかましファン、六駆ファンの皆様、轟沈描写がありますのでご了承ください。苦情は大本営にお願いします(丸投げ)

10/23加筆修正


緑神『荒覇吐』

 舷側に付けられた4枚のソーと海面下に半分沈んだドリルが回転を始め、唸りを上げる。3連装の381mmガトリング砲や舷側に配備された88mm連装バルカン砲、多弾頭ミサイル発射機は接近してくる大型戦艦()を照準に捉える。

 射程と単発火力だけ見れば倭に軍配が上がるかもしれない。だが、荒覇吐のガトリング砲は単発火力よりも連射性能に秀でている。荒覇吐に装備された3連装の381mmガトリング砲は帝国軍が荒覇吐型等の大型超兵器用に開発した特殊機銃であり、小口径バルカン砲しか保有していなかった解放軍を圧倒出来たが3砲身となって大型化した事で旋回性能は低下し、折角目標を補足しても旋回が遅く、取り逃がす事もあった。

それを補う為に開発されたのが88mm連装バルカン砲である。高い旋回性を有し、巡洋艦程度ならば軽く掃討可能な事もあって帝国軍では近接防御用に88mm連装バルカン砲が重宝された。

ただ、砲塔型としては35.6cm砲と同じサイズになっている為、搭載出来る場所が限られる等相応の欠点も抱えている為、他に搭載した多弾頭ミサイルや多連装酸素魚雷発射管とクリプトンレーザー等の武装で火力を補填している。

他に搭載した兵装の攻撃能力の低さに目を瞑ったとしても接近戦ならば倭より荒覇吐の方が遥かに強いのだ。尤も、荒覇吐には固定武装のドリルやソーがあるので危険な接近戦よりアウトレンジ砲撃で叩く方が“普通”は良いとされているが・・・・・・

 荒覇吐のガトリング砲が火を噴いた瞬間、荒覇吐は倭の砲撃を警戒して回避行動に出るが、倭は回避行動を取らずに381mm弾を主砲前面装甲等で弾き飛ばし、尚も接近を続ける。381mmガトリング砲が唸りを上げて大量の弾を倭の針路上へばら撒き、接近を拒む。

倭は急旋回を行って荒覇吐から見て90度右方向に針路を変え、そのまま荒覇吐自身やガトリング砲が追尾しやすい様に後背を見せながら大きく右旋回を始める。見え透いた罠である事は分かっているが早く撃破せねば危険なのは荒覇吐自身。敢えてその危険地帯に足を踏み入れるべく追撃を開始。対して倭は追撃されながらも主砲照準を荒覇吐に固定し、発砲。

轟、と腹に響くような砲声を発し、飛来した砲弾は寸分の狂いも無く荒覇吐の381mm3連装ガトリング砲1基と88mm連装バルカン砲2基、多連装魚雷発射管2基を吹き飛ばす。しかし、榴弾で吹き飛ばされただけで済んだガトリング砲やバルカン砲とは違って多連装魚雷は誘爆を起こし、爆炎が上がった。

 

 

 

 

「荒覇吐に命中!魚雷発射管2基を破壊!」

「針路変更面舵15、両舷全速。主砲、硬芯徹甲装填。副砲、両用砲は榴弾で砲撃継続。」

「荒覇吐、本艦の針路上へ扇状に魚雷発射!雷跡5!」

「急加速用意。魚雷の前を突っ走れ。」

「な?!魚雷の前を走るなど君は正気か?!ここは取舵で回避すべきでは無いのか?!」

今まで聞いた事の無い指示に私は耳を疑った。この艦息、回避は二の次と言わんばかりに、回避運動を行わず、あくまで最適砲撃位置を維持し続けている。

先の巨人機との戦いにおいても彼の回避行動は些か常識外れだと感じていたが、この行動はあくまで彼が必要だと判断したからこそなのだろう。それでも素人の私には理解しかねるのだが。

「そんな事をすれば間違いなくガトリング砲に捉えられてハチの巣にされるのがオチだ。敵の雷速はおよそ45~55kt。それなら急加速で少しでも前に進んで余分な動きをせずに撃ち返す方が楽だ。それと橋本中佐、何かにしっかり掴まっていろ。第一艦橋(ココ)は危険だから司令塔()へ降りていても構わないぞ。」

私の問い掛けに、艦息は振り返る事無く答え、更に指示を出し続ける。

「全推進装置、最大出力で急加速!4秒間突っ走れ!面舵5!」

『急加速4秒間!面舵5!』

 倭の艦底部に取り付けられた6基の巨大な水流補助推進装置が前方のノズルから大量の海水を取り込み、圧縮。その圧縮した海水を後方のノズルから一斉に噴射。倭は常速122.8ktに40ktも上乗せして瞬間速力162.8ktを発揮して一気に魚雷の針路上を横切って回避。

 当然慣れている彼等と違って私の身体には凄まじい負担が掛かるが、そんな事は彼等にとってはどうでも良いのか、一切気遣う様子は見られない。しかし、依然として『荒覇吐』と呼ばれた掘削機械が付いた超兵器は大量の砲弾を放って追跡してくる。

 魚雷から逃げたと思えば、倭の右舷機銃群が一斉に超兵器の方向へ向き、白煙を吐いて突っ込んでくる噴進弾と誘導噴進弾目掛けて大量の機銃弾を浴びせて叩き落す。更に副砲と両用砲が超兵器に向けて発砲。超兵器に大した損傷は与えられないが、右舷側にあった多砲身連装砲数基が吹き飛び、火災を発生させる。しかし、倭は強い衝撃に揺さぶられた。

 見ると、右舷機銃群の一部が銃座毎吹き飛ばされ、後部両用砲の一部が破壊されていた。恐らく敵超兵器の多砲身三連装砲によるものだが、敵弾は銃座の部分でエネルギーを減衰させられ、その下に隠れていた倭本体の装甲に弾き飛ばされて僅かな凹みを付ける程度に留まる。

『16番、28番、30番、34番機銃大破!14番、26番機銃及び、10番CIWS損傷!』

『8番、12番両用砲貫通されました!10番両用砲は損傷軽微!それ以上の問題無し!』

この被害報告を受けても倭は微動だにせず応対していた。今度は倭の主砲が腹に響く咆哮を轟かせて荒覇吐に12発の巨弾を見舞う。荒覇吐の多砲身三連装砲2基、煙突、後部艦橋を吹き飛ばし、前部艦橋も根元から破壊したが、残っていた1基の多砲身三連装砲の攻撃が倭の煙突を直撃し、そのまま倭の第二艦橋を貫通。

先程より激しい衝撃と共にガラスが砕け、鉄が拉げる音、妖精達の悲鳴や怒声が聞こえてきた。それと同時に第二艦橋に勤務していた妖精の多数が死傷し、第二艦橋は放棄されたが戦闘行動に支障無しと判断した倭は戦闘を継続していたが、彼には『撤退』という選択肢等無いのだろうか?

『第二艦橋被弾!死傷者多数!救護班急いでくれ!』

「煙突もやられたか・・・・・・まああそこは擬装(ダミー)煙突だから問題は無いだろう。」

 

「超兵器は・・・・・・やったのか?」

 今、荒覇吐の艦上構造物の大半は破壊し、船体の各所で爆発が発生している。その上横転を始めているのだから誰もが喜ぶべき所であった。勿論私も超兵器を撃破したと思っていた。―――倭副長の言葉を聞くまでは。

「荒覇吐、転覆・・・・・・っ?!い、いえ!完全に引っくり返りました!敵はまだ戦闘態勢を取っています!警戒してください!」

「オイオイ嘘だろ?!引っくり返っても戦うなんてアリかよ?!」

「艦底部に潜水型司令塔と魚雷発射管に・・・・・・艦首のは拡散プラズマ砲か?」

あまりにもおかしい光景だった。何処の世界に転覆しても尚戦おうとする戦艦が居るのだろうか。だが、目の前の超兵器は転覆しても『それがどうした』と言わんばかりに倭目掛けて突撃を開始した。

「・・・・・・急反転面舵90。艦首を荒覇吐に向けろ。主砲、硬芯徹甲装填。」

「?!」

「了解!急反転面舵90!」

「主砲、硬芯徹甲装填!」

どちらも頭の螺子が飛んでいるとしか思えない。倭とその乗組員達は平然としているが私は全然平気ではなかった。前方から巨大な回転衝角(ドリル)を付けた巨大戦艦が迫ってきているのだから。

 

 

 

 

『・・・・・・急反転面舵90。艦首を荒覇吐に向けろ。主砲、硬芯徹甲装填。』

乗艦していた春風でこの言葉を聞いた時、私は戦慄を覚えた。幾ら何でも真正面から突っ込む事など可笑しいと。

「春風、今倭が戦っている超兵器って何?」

「先程の通信で聞いた限りですと“別次元”から来た超巨大ドリル戦艦『荒覇吐』でしょう。私の知っている荒覇吐は艦首ドリルと舷側ソーを含め全長650m、全幅140mに加えて速力55.3kt、対46cm装甲、武装に対艦用大型艦首ドリル1基、対艦用大型舷側回転ソー4基、406mm連装ガトリング砲5基、203mm連装ガトリング砲8基、対艦ミサイルVLS多数、20cm12連装噴進砲多数、無砲塔型新型拡散プラズマ砲4基、新型エレクトロンレーザー1基、対空パルスレーザー多数と近距離専用の物が揃っています。」

巨大なドリルと回転ソー・・・・・・何処のSF世界だろうかと思うくらい聞き慣れない武装だが、触れれば間違いなく強制終了させられる物だとはすぐに察する事が出来た。

「倭の被害状況は?かなり近くで戦っているみたいだし・・・・・・」

「・・・・・・何とか繋がりました。電波状態は良好ですが私が中和し切れなくなったらご注意ください。」

「ありがとう・・・・・・倭、聞こえる?笹川よ。」

『・・・・・・どうし・・・提と・・・・告か?』

成程、無線があまり通じなくなってるわね・・・・・・超兵器ノイズの影響ってこんなに大きいのね・・・・・・春風が中和し始めたけど何時まで持つか分からない状態だから早めに通信を終えるべきか。

「そうよ。被害報告を頂戴。」

『取り敢えず荒覇吐の艦上構造物の大半を破壊したが、16番、28番、30番、34番機銃大破。14番、26番機銃及び、10番CIWS損傷。8番、12番両用砲が敵弾貫通により使用不能。10番両用砲の損傷は軽微。煙突と第二艦橋を敵砲弾が貫通し死傷者多数。それ以上の損害は今の所無い。』

第二艦橋を破壊された、となれば航法装置がやられてマトモな航行も出来なさそうね。他に被害は無いか確認を取ると、帰って来た答えはとんでもない物だった。

『他に被害は無い。無いんだが・・・・・・荒覇吐が転覆した。』

「なら良かったじゃない。」

『いや、荒覇吐の艦底部の武装を起動させて未だ戦闘態勢を取っている。』

何と言えば良いのだろう、超兵器が転覆したのは良いけどまだ戦闘態勢を取っている?あり得ない。あり得ない事だが超兵器にとって良くない状況なのかもしれない。

「倭、全力で叩き潰しなさい。」

『もとよりそのつもりだ。それより誰もこちらに来ない様にしておいてくれ。機動艦隊の修理状況は?』

「了解。後は赤城のエレベーター1基だけよ。」

『分かった。』

報告を受けて通信を切る。ふと春風の顔を見ると、顔は既に真っ青になり、床に滴り落ちるほど大量の汗を掻いていた。倭等の大型艦は兎も角、中型艦の大きさを持つとはいえ彼女は駆逐艦である為、体力を激しく消耗する超兵器ノイズの中和作業は酷なのだ。

「春風、無理をさせてしまったわね。」

「い、いえ・・・中和したのはこれが初めてでしたから・・・・・・」

「え?でも倭と一緒に居た頃も中和装置を使ってたんじゃないの?」

「あの時は・・・ハァ・・・倭の中和装置に任せ切り・・・ハァ・・・でしたから・・・・・・本当に・・・・・・超兵器ノイズの恐ろしさを実感・・・・・・しました。倭は何時もあんな気分を抑えて・・・・・・戦ってたのね・・・・・・私も、頑張らないと・・・・・・」

倭と共に戦場を駆け抜けた歴戦の猛者の1人であろう春風が気分を悪くするほど超兵器ノイズは強力なのか。いや、春風の反応が正常なのだ。中和措置も取らずにノイズの只中へ飛び込んでいった倭は多分『慣れている』で返すだろう。まあそれはそれでどうかと思うが。

兎に角、倭と超兵器だけの戦闘海域に誰も近付かない様に目を光らせていた。しかし、私と春風は倭と通信していた間に5隻の影が倭達に向かって移動していた事を見落としていた。

 

 

 

 

‐横須賀鎮守府の何処か‐

横須賀鎮守府の何処かで小会議が行われており、数人の海軍士官と何処かの企業から来た者が机を囲んで話し合っていた。

「さて前回話した倭だが、現在ミッドウェー島沖80km地点で超兵器と交戦中との情報が入っている。」

「しかし、彼奴を如何にして抹殺すると言うのかね?総長も『超兵器には倭達以外近付くな。』と言っていたと思うが何か策はあるのか--君?」

「もちろんです。それと我等の同志は解放されたのでしょうね?」

「ああ。私が偽装して作った書類と金をチラつかせたらすんなり解放してくれたよ。いかに憲兵達の下っ端共が優秀でもそれを束ねる上が金に釣られる様ではまだまだ甘いな。」

そう言って嘲笑いを見せた男達は更に計画を練り続けた。自分達の同朋を取り返し、1隻の艦息をこの世から消し去り、自らの理想を成し遂げる為に。その為に何人死のうが彼等には関係無く、私腹を肥やし海軍を掌握するまでそれらの止まる事は無い。そう、自分さえ満足すれば他人など幾ら死んでも構いはしない組織だからこその発言であった。

「して、どのような形で作戦を立てたのかね。」

「は、少々古い手ですが増援を装って旗艦に島風を据えた第六駆逐隊を送り込みました。超兵器との戦闘中に『誤射』と言って魚雷を叩き込めば奴とて海の藻屑です。それに大和型を拡大した戦艦で倒せたのですから超兵器等何程の事も無いでしょう。」

「この戦い、我々の勝利ですなぁ。今夜の酒は美味そうだ。」

だが、彼等は知らない。倭に差し向けられた筈の刺客達は荒覇吐の逆鱗に触れ、難無く返り討ちに遭い、永遠に帰投する事は無かったのだから。

 

 

 

 

 荒覇吐は前方から突っ込んでくる倭目掛けて突き進んでいた。だが、自分達に近付いてくる5つの小さな影に気付き、邪魔者であると瞬時に判断。如何に雑魚であろうと倭と自分の決闘に水を差されるのは非常に気に入らない。よって先に排すべき存在と認識し、針路を変える。

 どの道“艦娘”連中には電磁防壁という防御装置は無く、そんな高価な物がホイホイ取り付けられるほど余裕の無い軍である事は御見通しだった。だからこそ、艦首の新型拡散プラズマ砲を起動させ、駆逐艦達の射程外から新型拡散プラズマ砲の猛射を浴びせる。それだけで2隻の駆逐艦の魚雷を誘爆させ、爆沈させる。

 無線越しに艦娘達の悲鳴が聞こえ、司令官らしき男の怒声も聞こえる。荒覇吐が瞬時に2隻を葬った事に臆したのか、駆逐艦達は全速で反転離脱をし始めたが、荒覇吐に逃がすつもり等さらさら無かった。倭との一騎討ちに水を差そうとしただけならまだ良かった。

 

=大分前に捕虜にした眼鏡を掛けた軽巡洋艦が吐いてくれた情報が正しいとするなら奴等の目的は倭を葬る事。冗談ではない。倭を葬るのは我等超兵器達にとっての大事な目標なのだ。その邪魔をするのであれば容赦はしない。もがき苦しみながら死ね。=

 

荒覇吐にとって射程と命中精度に勝る倭が自分の土俵に合わせてくれた事に感謝しながら全力勝負を仕掛けようとしていた。そこへ現れた増援の水雷戦隊が現れただけで水を差されたと悟り、怒りを感じていたが、たった2隻やられただけで逃げ出した事が荒覇吐の怒りの炎に油を注ぐ形となったのだ。激怒の感情に駆られた荒覇吐は43.3ktの速力を持って散り散りなって逃げ出した駆逐艦を1隻、また1隻と艦首ドリルで海の藻屑にしていった。

そして最後に残った1隻、島風は任務達成の為に荒覇吐を追い掛けて来ていた倭に向けて魚雷を放とうと試みる。が、倭は発射させなかった。主砲から撃ち出した榴弾を持って島風に警告射撃を行ったのだ。

 警告で怯えきった島風は結局魚雷を発射する事無く倭に背を向けた。しかし、司令官らしき男の怒声と何かを殴る音が聞こえた瞬間、荒覇吐は島風の後方僅か10mに迫っていた。荒覇吐のドリルに気付いた時には既に手遅れであり、島風の後部主砲、後部艦橋、左舷部、魚雷、煙突、前部艦橋、前部主砲と順に抉り取っていった。そのまま残った部分を舷側ソーが切り裂き、哀れな刺客達は海中へと没した。

 この様子を倭とその乗組員達は哀れとすら感じず、自業自得だという目で見ていた事は荒覇吐も知らない。何せ倭は以前にも超兵器戦には転位組(自分)が対応する、と会議の場で通達しているのだ。それを無視し乱入してきた挙句敵わないと気付いた瞬間逃走しようとした。これには倭や荒覇吐が激怒するのも無理は無く『邪魔者』と見做された要因であった。尤も、戦闘に介入して倭の援護に就いたとしても倭の足手纏いになるのは目に見えて分かっていたが。

 

 

 

 

「友軍艦、荒覇吐により全滅。如何為さいますか艦長。」

「救援は不要、と言いたいが生存した妖精は救助する。救命ボートと角材を幾つか放出しておけ。」

「な、何故友軍を見殺しに・・・・・・」

「以前から既存艦で超兵器に挑むなと警告はしていたが向こうが警告に従わなかった。警告を無視して自滅を選んだ輩など助ける必要は無い。それだけだ。」

「荒覇吐転舵!本艦に向かってきます!」

「こちらも荒覇吐に向けて突っ込め。両舷全速。」

「両舷全速ようそろー!」

 5隻の“元”味方駆逐艦達を葬った荒覇吐が俺に向かって再度突撃を開始。それに呼応するように俺も荒覇吐に向けて全速力で突き進む。あっという間に彼我距離は縮まるが、まだだ。

「使用可能な全砲門を右舷へ向けろ。各機銃は自動攻撃に切り替えと同時に防水防弾ハッチ閉鎖。副砲・両用砲、榴弾装填の後、高速射撃用意。主砲、APCR(硬芯徹甲弾)を装填。」

 弾薬庫から上げられた巨弾とそれに見合ったサイズの薬嚢が砲身に詰め込まれ、発射の時を待つ。既に彼我距離4000m・・・3500m・・・と近付いていく。距離100mまであと少し。その間にも荒覇吐から新型拡散プラズマ砲と多連装酸素魚雷が浴びせられるが電磁防壁βによってプラズマ砲と同じ出力のエネルギー防壁が展開され、船体や兵装への損傷が殆ど無い静電気レベルまで緩和される。酸素魚雷も倭にとっては見えているも同然で、発射された分は全て迎撃していた。そして、距離は遂に100mを示そうとしていた。

「今だ!取舵10!バウスラスター作動!急加速!」

「取舵10!急加速!」

「バウスラスター作動!右舷1/2!」

急加速の影響で艦首が僅かに浮き上がり、バウスラスターの力も加わって左に振られながら荒覇吐の側面へ抜ける。そこは舷側ソーまでが絶好の攻撃ポイントとなる無防備な横腹だった。視界の右側に見える緑色の艦底部分を照準が捉え、倭は号令を下す。

全門斉射(フルファイア)!」

 61cm砲の砲音が轟き、硬芯徹甲弾12発が荒覇吐の横腹に突き刺さり内部を破壊して反対側へ飛び出す。それと同時に副砲・両用砲の猛射が魚雷発射基や司令塔に損害を与えていく。しかし至近距離で主砲を射撃した際の代償として爆風被害が発生し、倭自身も各所の窓ガラスが吹き飛び、機銃や木工甲板の一部が吹き飛んだり歪んだりしていた。

「面舵5!舷側ソーをやり過ごしたら面舵一杯!荒覇吐の後方に回り込め!」

前方から舷側ソーが唸りを上げて倭の横腹に迫るがそんな事はお構い無しに舵を切る。荒覇吐もとんでもない旋回能力を発揮してこちらの後ろに喰い付こうと旋回。だが喰い付かれるわけには行かない。

巡航速度まで速力を下げ、互いに後ろを取り合うドッグファイトを始める。態々荒覇吐の土俵に上がったのは超兵器に対する敬意を持っているから。確かに超兵器は憎いが超兵器に対する『畏怖』と『敬意』は忘れていない。

 傍から見れば戦艦同士のドッグファイトに驚くだろうが、倭にとってこれも日常茶飯事でしかないのだ。本来なら至近距離戦(ど付合い)に装填速度、旋回速度が遅い超大口径砲を用いる事は無いのだが。

 何度目かの旋回戦を経て荒覇吐の艦底部装備の殆どを剥ぎ取り後一押し、という時、荒覇吐は2つある推進装置のうち右舷側を微速に落とし、残る左舷側を最大出力に上げる事で倭の急旋回と同じ旋回半径で倭に同航戦を仕掛けた。

「・・・・・・総員、衝撃に備えろ。荒覇吐を此処で仕留める!」

「総員、衝撃態勢!」

倭は荒覇吐に躊躇う事無く接近し―――

 

「両舷全速、急加速しつつ面舵一杯。」

『え゛?!』

「後で幾らでも治せる!ぶちかませ!」ゴゴォン!

 

―――荒覇吐の舷側目掛けて艦首をぶつけた。それも急加速によって加速しながらぶつけた為、倭全体がこれまで以上無いくらいに揺さぶられる。更に倭の艦首は衝撃で喫水線上部付近が僅かに左に折れ曲がる結果となった。その上、

「・・・・・・チッ!」ズキッ!

「舷側ソーと接触!右舷垂直装甲大破!」

倭の横腹が荒覇吐に接触した為、必然的に舷側ソーに触れて610mmの垂直装甲が切り裂かれてしまう。だが、それに構う事無く倭は再び船体を荒覇吐にぶつけた。

「もう一回叩き付けろ!」ゴォォォン!

「艦長無茶です!」

『右舷40mm機銃群8割消滅!危険です!』

既に倭の足元は鮮血で紅く染まり、ぶつける度に血飛沫が撒き散らされるほどの重傷でありながら、倭は顔色一つ変えずに立っている。アドレナリンが大量に分泌されたから痛みを感じていないのだろうか?

『右舷大破孔より大量浸水!速力低下します!』

「それは織り込み済みだ!主砲全門、徹甲炸裂焼夷弾を叩き込め!」

『現在艦傾斜角10度!これ以上は限界です!』

「大丈夫だ!そのまま撃て!」

 傾斜していようがお構い無しに射撃を強行し、荒覇吐に徹甲炸裂焼夷弾を撃ち込み続ける。12発中9発が荒覇吐内部で炸裂し、対51cm装甲で覆われたはずの緑色の船体があちこちで爆ぜる。

もう一斉射浴びせようとした時、荒覇吐から鉄が軋む音が聞こえ、それと同時に荒覇吐は小爆発を繰り返しながら速力を次第に低下させて行く。と、荒覇吐から発光信号が送られてきた。

「荒覇吐より発光信号!読みます。『本艦ノ我ガ儘ニ付キ合ッテクレタ事、実ニ感謝スル。先ニ冥府ニテ待ツ。マタ会オウ。』以上です!返信はどうしますか?」

「・・・・・・いい。向こうに受け取る暇はもう無い。これより本艦は中間棲姫の艦砲射撃に向かう。」

『了解!』

「右舷の修理が済むまで両舷微速。修理が済み次第、全速航行で第1打撃艦隊と合流する。」

 荒覇吐が海中へ消えて行く傍で、倭は11ktで航行しつつ、破壊された舷側装甲の修理を始めていた。左舷に注水しつつ右舷に流入した海水を排水し、最上甲板まで舷側装甲を補強した後、甲板や削り取られた機銃座の部分は海水が流入しないように予備の鉄板で塞ぐ。

「右舷、応急修理完了。しかし良かったのですか?艦長の力で完全修理すれば速いでしょうに。」

「それに頼ってばかりだと工作班の技量が落ちるだけだ。それに、応急修理は使う度に俺の命を削るようなもんだ。そう頻繁に使っていたら俺が死んでしまう。」

「ご冗談を。」

「橋本中佐、お怪我は?」

「大丈夫だ。何とも無い。それよりも君の方が酷い怪我ではないか。」

「・・・・・・これくらいは慣れている。」

何でもない風を装ってはいるが、今まで以上に激しい損傷を受けた事に間違いは無いのだ。その分、倭本人に負担が掛かる事は言うまでも無い。

 

「・・・・・・荒覇吐、貴艦の勇姿、忘れはしない。安らかに眠れ・・・・・・」

 

 修理を終えた倭はミッドウェー島に針路を取り、海をかき分けながら進んでいく。今頃は機動艦隊から発艦した攻撃隊と共に打撃艦隊の砲撃が始まっているだろうと推測しながら。

 




ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛倭中破ァ!!

荒覇吐「反転してから本気出す。」

※倭が体当たりをやらかした理由は単に荒覇吐に凹みを付けたかった(凹んだのは倭自身だが)だけです。


次回:改三式弾の猛威


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