恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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どうもCFAです。投稿が物凄く遅れてしまい、申し訳ありません。実は本日8/25は恋雨~重装護衛艦『倭』~の一周年でございます。無事一周年を迎えられた事を嬉しく思っております(感涙)
 
読者の皆様、本当に短い挨拶ですがこれからも本作を宜しくお願いします!




では本編スタート!


MI再攻略開始

 夜明けの日差しを浴びながら海原を駆け抜ける鋼鉄達。前方の打撃艦隊や後方に展開する機動艦隊とは丁度20kmずつ離れているが、もうすぐ雨月達が深海側の制空権内に突入する頃合いだ。今の所、俺と雨月、春風の長距離電探に超兵器ノイズは捉えられていないが油断は出来ない。超兵器は何時現れても可笑しくは無いのだから。

超兵器機関は稼働中のみノイズを発するが、停止している場合は全くノイズを発さない為、入り江やフィヨルド等の複雑な地形に合わせて島の一部等に擬装されると捜索に多大の手間を掛けさせられてしまう。出来れば今回はそんな事が無い様にして欲しいがそうは問屋が降ろさないかもしれない。

「春風より通信です。開きます。」

「どうした春風。」

『いえ・・・特には・・・』

「・・・・・・超兵器と戦うのが不安か?」

『ええ。超兵器と戦うのは・・・苦手です。ノイズで頭の中を掻き混ぜられている様なあの感覚にはどれだけ経験を重ねてもそうそう耐えられるものじゃないです。』

「・・・・・・」

俺と長い間戦ってきた彼女が弱音を吐くのは非常に珍しい。彼女が正常な反応であったとすれば、あの感覚に慣れた故に特に何も感じない俺は異常者なのだろうか?

『そういえば倭は超兵器ノイズに慣れてましたね。何かコツとかありましたか?』

「・・・・・・超兵器と至近距離で撃ち合え。嫌でもそんな感覚を忘れられるぞ。」

『それは嫌でも忘れますね。でも寧ろ命の危機ですからね?』

「死にたくなかったら砲弾なんて弾けば良いじゃないか。」

『無理です。そんなゴリ押し戦法が出来るのは多分倭だけよ。』

「・・・まあ、そうだよな。」

 そういえばここ最近、幽閉しっぱなしの戦艦棲姫の様子を見てこなければならない。春風との通信を切って司令塔下部へ向かい、電子ロックを解除する。

「アラ、テッキリ忘レラレテイタノダトバカリ思ッテ居タワ。」

 何事も無かったかの様子で座布団に座り、自前で淹れた緑茶を飲んでいる戦艦棲姫を見ていると心配していた俺が馬鹿だったような気持ちになる。妙に馴染んできているのは絶対に気の所為ではないと信じたい。

「一応食事と必要最低限の環境は提供していると自負していたんだがな・・・・・・」

「ソノ事ハ感謝シテイルワ。」

「・・・・・・」

「何カ言イタイ事ガアルンジャナイノ?」

流石にバレているのは分かっていたが、今更嘘を付く必要も無いだろう。既に作戦は発令され、行動に移されているのだから。それにこれ以上彼女を匿っているわけには行かない。そもそも情報を引き出す事は叶わなかった時点で解放する事はある程度考えていた事だった。

 軍紀違反と言う事は重々承知しているが敢えてMI再攻略が開始された事、これから解放する事を告げて誰にも見られる事なく彼女を艦内のとある部屋へ案内する。そこは天井から1本のロープが垂れ下がっており、それ以外は何も無い無機質な部屋だった。

「俺がこの部屋を出てこの水密扉を閉めた事を確認してからそこのロープを引け。そうすればスロープで海上へ放り出される。可潜艦のお前なら問題は無いだろうが見つかるなよ。」

「中々楽シマセテクレテアリガトウ。『また会えた時にお礼をさせて貰うわ。2人きりで、ね。』」

「・・・・・・ではな。」ガチャリ

水密扉が完全に閉まった事を確認した戦艦棲姫は言われた通りに垂れ下がるロープを引く。すると彼女の足元の床が開いて(つまりボッシュート方式で)そのままスロープを滑って海上へ放り出される。着水と同時に潜航を開始し、倭から離れていく。行く先は彼女にしか分からないが、今更中間棲姫の援護に向かう事は出来ない。今行けば間違いなく倭の砲撃で沈められるし、周囲に居る艦娘達にタコ殴りにされるだけだ。今はただモンスターと呼ばれ、同胞達を悉く海の藻屑に変えてきた男から離れる事だけに集中する。『力は弱きを守る為に振るうモノ』と言う中々面白い戦艦だと上官の戦艦水鬼に知らせる為に。

 戦艦棲姫が離脱していく事を音探で確認し、艦橋へ戻ると何時の間にか橋本大祐中佐が来ていた。彼は東山中将が言っていた通り、素行・思想に関して全く問題は無い人物だ。目を見る限り、所属している艦娘達からの信頼は勝ち得ているようだ。

「後どれくらいで戦闘が始まるのか分かるかね?」

「後5分ほどで敵索敵圏内へ侵入します。雨月の電探も恐らく敵索敵機を捕捉していると思われます。一応主砲に改三式弾を装填し、雨月達打撃艦隊への対空支援準備は完了しています。」

「流石だな。総長達が一目も二目も置いている理由が何となくだが分かったよ。この安心感は君が居るからこそ、だろうな。」

「お言葉ですが私の性能を過信しないようにしてください。私は砲撃能力に特化しているだけでそこまで万能ではありませんので。」

「分かった。肝に命じておく。(主砲の命中率95%という時点で大分可笑しい気もするが・・・黙っておくべきだな・・・)」

 

 

 

 

「レーダーに感あり!機数300。方位045、距離4万2千!」

「来たか・・・」

敵偵察機を撃墜してから30分ほどで敵機が来襲するとは向こうも迎撃準備が整っているという事か。

「・・・主砲、改三式弾装填。次弾も同じ。」

「主砲、改三式弾を装填。」

「艦長、武蔵より通信が着ています。」

「繋いでくれ。」

『水元だ。雨月、もう来たか?』

「取り敢えず私が改三式弾で落としてみます。尤も兄上ほどの命中率は期待出来ませんが。」

『やらないよりはマシだ。頼むぞ。』

そう会話している間にも改三式弾の発射準備が完了する。雨月搭載の61cm砲は55口径と倭の60口径より5口径短いが、それでも艦娘の持つ大口径砲より遥かに高い火力を叩き出せる。

しかし同じ倭型とはいえ、倭以外の同型艦は艦隊行動に支障が出ない様に出力を抑えた原子炉を搭載され、80kt前後まで速力を押さえ込まれていた。倭の場合は単独行動が大前提とされていた為軍艦の基本である艦隊行動は度外視される事となったのだが、対超兵器用として高速性と大和型以上の火力と防御力を要求されていた為、致し方ない事ではあった。

 兎に角、艦隊行動を共にし易いと判断されたのは雨月が77.4ktと倭型の中で最も鈍足である事が起因していた。雨月本人としては微妙に納得が行かない点もあったが必要とされた以上は任務を全うするだけだと内心で決めていた。それに倭型の自分が居るだけでも深海棲艦達に十分な衝撃を与えられる事はいうまでも無いだろう。後方とはいえ敵陣営から『モンスター』と称される兄上が居るなら尚更だ。

「1、2番主砲、一斉射!撃ぇ!」

 5口径分違うとしても性能差が有ろうとも破格の火力を備えた61cm砲である事に変わりはない。発砲と同時に周囲を薙ぎ払う爆風と巨大な閃光、そして轟音が響き渡り、他の戦艦娘達の船体をも震わせる。この轟音と閃光は20km後方に居た倭でも観測され、後々の雨月戦闘記録の1ページとして刻み込まれる事になる。

『っ!?』

『・・・・・・当たりたくは、無いな。』

「炸裂まで後1分30秒!」

「炸裂後の誤差修正並びに次弾装填を急げ!」

『残り10秒で装填完了。』

「全対空機銃、自動火器管制システムとのリンク完了。全自動射撃準備良し。」

雨月が改三式弾を発射した事を皮切りに大和、武蔵が三式弾での対空射撃を開始。打撃艦隊を取り囲むように展開していた護衛艦隊からも対空射撃準備完了の声が聞こえてくる。

「炸裂まで10秒。9・8・7・6・5・4・3・2・炸裂、今!」

61cm砲用に開発・搭載された6発の改三式弾が敵編隊の中央と左翼側で同時に炸裂し、編隊の8割強が叩き落される。しかし未だ20機程度の敵機が残っている。更にその後方に600機近い敵大編隊をレーダーが捉えてしまう。

「新たな目標をレーダーが探知!この編隊には新型機が含まれている模様です!」

「現在相手をしている敵編隊を目標群A(アルファ)、その60km後方より接近している敵大編隊を目標群B(ブラボー)と識別!艦隊各艦は目標群Aへ攻撃。遊撃艦へ目標群Bに対して攻撃を要請せよ!」

「こちら雨月通信士。倭、第1打撃艦隊の前方に展開する目標郡Bへの長距離対空射撃を要請。詳細データは今送る。」

『倭了解。目標群Bに関してはこちらでも捕捉・射撃準備は完了している。改三式弾による長距離対空射撃を実行する。そちらでの双眼鏡使用禁止を通達せよ。・・・・・・1、2番、連続斉射。撃ぇ!』

倭の方を振り向けば、水平線ギリギリの場所が僅かに光り、長距離対空射撃が実行された事が確認出来た。

『炸裂まで4分30秒。』

「誤差修正はどうする?」

『それはこちらの判断で行う。最悪調整した超重力弾で纏めて吸い込むから心配するな。続けて第二射を行う。』

「了解。頼むから味方だけは巻き込んでくれるなよ。」

『・・・・・・善処する。』

「・・・・・・百発百中で頼む。」

『5%の確率で外れるぞ。』

「頼むから当てないでくれ。」

通信士と倭の間でちょっとしたやり取りが行われている間に今度は三式弾を発射。今度は長門型・金剛型と護衛艦達からも対空射撃が行われ、曳航弾と炸裂する砲弾、そして撃墜された敵機が空を汚していく。

『炸裂まで後2分。』

「敵機、主砲防空ラインを突破!」

「副砲群は迎撃開始!超怪力線照射用意!慌てず、落ち着いて敵機を処理するんだ。後方の機動艦隊からも支援がもう間も無く到着する。」

「来ました!一航戦と三航戦より発進した零戦二一型・烈風・紫電改の援軍です!」

「機銃射撃管制装置に味方機の識別表は記憶させてあるか?」

「作戦前にしっかりやっておきました!問題ないはずです!」

上空に到着した味方戦闘機隊が次々と編隊を解いて我々打撃艦隊に雷爆撃を行おうとしていた敵機に牙を突き立てていく。味方機が混じった事もあって機銃等の対空兵装で追い払う程度の対空火戦を張る。

「敵機直上!急降下!」

「CIWS!迎撃開始!」

我々打撃艦隊の任務は囮等ではなく敵中間棲姫と敵艦隊の全てを殲滅する事とされているのだ。少しでも本命に近付く為、前進するように艦隊旗艦の武蔵から指示が飛び、打撃艦隊は回避機動を取りつつ前進していく。

『炸裂まで後30秒。双眼鏡の使用を一切禁止。衝撃に備えよ。第二射も後1分後に炸裂予定。』

 もう間も無く倭が放った改三式弾が炸裂しようという時、対潜警戒も行っていた五十鈴から通信が入る。

『こちら五十鈴。三式探信儀に反応あり。対潜攻撃に移るわ。』

『了解。雨月お前も対潜攻撃に回ってくれ。五十鈴達だけでは手が足りんだろう。』

「音探α・・・敵潜多数捕捉。対潜ミサイルVLSハッチ全解放。・・・・・・榛名さん、その位置から少し後ろへ退いて下さい。」

『はい!』

『第一射の炸裂まで後10秒。9・8・7・6・5・4・3・2・炸裂、今!』

カウント終了と同時に目標群Bの眼前で炸裂した改三式弾は24個の巨大な火球を生み出し、長距離射撃に気が付けなかった敵機400機近くを跡形も無く消滅させる。突然の攻撃に敵機が動揺する間も与えずに飛来した第二射は生き残っていた新型機を含んだ100機を業火で焼き払う。

 目標群Aも戦艦娘達の三式弾と雨月搭載の超怪力線照射装置によって大きく数を減らされ、その後背から追撃を仕掛けた零戦達に散々なまでに食い荒らされる結果となった。

『うわぁ・・・やり過ぎでしょ・・・』

 あまりにも無慈悲極まりない攻撃に艦娘の誰かが思わず漏らした言葉についつい雨月は苦笑してしまうが倭にはしっかり聞こえていたようだった。

『俺や雨月を含む倭型は戦略兵器に近い存在なんだ。これくらい出来て当然だし戦いにやり過ぎなど無い。』

『でも・・・戦争にもルールが・・・』

『戦争にルールはあっても誰も守らない。それ以上でもそれ以下でもない。』

『・・・・・・』

『兎に角第1打撃艦隊は先へ・・・・・・分かった、すぐに向かう。』

「機動艦隊関連ですね?」

『ああ。春風からの報告で重爆と大量の攻撃隊らしき機影を捉えたとの報告だ。暫らく向こうに掛かりきりになるかもしれん。』

「兄上こそお気を付けて。」

倭が発光信号で雨月に『武運ヲ祈ル』とだけ伝えた後、反転して機動艦隊方面へと向かって行くのを見届け、雨月自身も残っていた潜水艦カ級に対潜ミサイルを叩き込んで全滅させる。上空支援に就いていた直掩機も母艦に危険が近付いているという知らせを受けて烈風と紫電改が引き返し、航続距離の長い零戦二一型が上空で旋回しつつ警戒を行ってくれていた。

「あの零戦・・・胴体の一部にピンク色の塗装してますね。」

「確か瑞鶴所属機だったな。敵機をバタバタ落としてくれたし、頼もしい限りだ。」

雨月の視線に気付いたかは定かではないが、ピンク色の塗装を施された1機の零戦二一型が士気を鼓舞するかのように雨月上空で見事な宙返りを見せてくれた。

 そして雨月のレーダーでは敵の前衛打撃艦隊への有効射程まで後少しという時、雨月のソナーが敵艦隊の背後へ迫りつつある巨大な物体を捉えた。

 

 

 

 

「主砲全門撃ちぃ方始め!」

「撃ちぃ方ぁ始め!」

長砲身(65口径)の15.5cm砲から次々に発射される改三式弾の大半は雲霞の如く押し寄せてきたSBD(ドーントレス)TBF(アヴェンジャー)F6F(グラマン)達を消し炭にするが、所詮は15.5cm砲用でしかないため、倭や雨月のような広域攻撃は期待出来ない。その代わり、手数と搭載量を活かして敵航空機群を絡め取るのだ。倭の場合は装填速度・超射程・命中精度が異常な所為で雨月の方が“普通”に思えてしまうが。

 一応徹甲弾や榴弾なども搭載しているが、今回だけは対空戦闘を重視して全て陸揚げし、弾薬庫目一杯に改三式弾を搭載してきていた。15.5cm砲用とはいえ、並の戦艦(長門型)程度やそれ以下の艦船なら改三式の猛射を浴びせて血祭りにあげる事は容易い。それに正規空母や大型巡洋艦すら一撃で(流石に戦艦は防御面から見て難しい)吹き飛ばせる火力を誇るのだ。軽巡洋艦以下などは跡形も残さず消えるだろう。

 まだまだ攻撃隊だけでなく高空から爆撃しようとする重爆隊を迎撃しなくてはと思った矢先に高度1万m辺りで巨大な火球が出現した。あの規模の爆発は間違いなく倭の改三式弾だ。

『間に合ったな。』

「もう少し早めに迎撃してくださいよ。あの重爆隊、爆撃態勢に入ろうとしてましたよ。」

『結果的には撃墜出来た。問題は無い。』

機動艦隊の前方から倭が姿を現し、SBDに向けてSM-2ERブロックⅣ4発を発射。私は素早く電子支援を開始してミサイルを誘導する。レシプロ機のSBD4機に逃れる術があるわけも無く、直撃を喰らって爆発四散。

 だが、それでも敵は空母上空へ向かおうと突っ込んで来る。こんな時はすぐに大量の機銃で火線を張れる倭が羨ましい。強大な主砲有し、その過剰な火力を対空攻撃にも割り振る事が出来る倭と比べ、幾ら対空攻撃に割り振ったとしても私の場合は近付かれ過ぎるとCIWS以外が使えなくなる為、潜り込まれる前に何としても叩き落さなくてはならない。ミサイルは一度撃ち出してしまえば港に戻って補給するか倭に横付けして補給してもらわなければ再発射は望めないしバカスカ撃てばすぐに弾薬切れになる。

 今も倭の専属護衛艦として戦っているがあの戦争で旗風型は真価を発揮する事は出来なかった。駆逐艦よりも巡洋艦、巡洋艦より空母、そして戦艦が数多く生み出され、思う存分猛威を振るっていた。その中で旗風型は駆逐艦としては重巡洋艦に匹敵する大型艦となり、魚雷も最新鋭の新型超音速酸素魚雷を搭載してもらった。だが、いざ戦場に出てみれば旗風型は巡航ミサイルやハープーンを撃ち込むアウトレンジ戦か護衛対象の側で戦闘を行うだけのミサイル発射プラットフォーム、いや置物に近い状態になっていた。運用コンセプトが違うから倭の様に戦場のど真ん中、それも超至近距離で超大口径砲を叩き込んだり、同じ駆逐艦で同じ魚雷を持つのに白露型の様に素早く懐に潜り込んで魚雷で屠る事も出来ない。

 しかしそれでも旗風型は戦場に呼ばれ続け、多くが沈んで行った。そして、倭の最期を看取った唯一の存在でもある。性能差が有るとしてもそれは倭達のような向こうの世界の技術で生まれた艦船に対してだ。第二次世界大戦を再現しているような相手に押されていては倭達が嘆くだろう。だからこそ、私はもう1つの攻撃手段を選んだ。押し寄せてくるならその大元を絶つまで。今は倭と直掩機の連携で敵機が近寄って来ていない。この攻撃が命中すればこの時代の空母なら一撃で撃沈可能だろう。

 

「トマホーク発射用意。倭、並びに雨月、支援をお願いします。」

 

 私の宣言と共に、倭、雨月の両艦から敵空母群に関する情報が送られてくる。機動艦隊の近くに居る倭からは陣形情報と敵の艦種の情報が。敵機動艦隊と戦闘に入ろうとしている雨月からも倭と同じ情報が得られる。

 全ての情報を入力し終え、艦後部にある多目的ミサイルVLS8基のハッチが4つずつ解放される。そこにはBGM-109B『トマホーク』巡航ミサイルが納められており春風は32発を搭載されている。

 

「トマホーク、攻撃始め!」

 

倭、雨月から送られてきた座標を基に最大射程640kmを誇る長槍が解き放たれ、敵空母を叩き折るべく、32本の(トマホーク)はあっという間に水平線の彼方へ吸い込まれていった。

「春風、今のは?」

「あれがトマホーク巡航ミサイルです。ブロックⅠ呼ばれる初期型なので得られた座標に向けて飛ばして慣性、アクティブレーダー、PF/DF(電波受聴・方位探索)で敵を捉えれば逃げる術はありません。」

「射程と威力は?」

「最大射程640km(210マイル)を持った巡航ミサイルです。弾頭には454kgの通常単弾頭及び改三式弾の半分程度の威力ですが気化弾頭が使われているのでこの時代の空母程度ならほぼ一撃で仕留められます。戦艦等の超硬目標に対しても有効打ですが、それでも確実に沈められるわけではありません。」

「これはまたとんでもない物を持ち込んできたわね・・・・・・」

「倭よりはまだ現実的かと思いますよ。倭の迎撃能力は異常ですし。」

ともあれ、倭と雨月の両艦でも春風のトマホーク発射を確認していた。倭は特に影響しないが雨月は気化弾頭を恐れて迂回航路を取って敵艦隊と敵基地の間に入り込む。挟撃される恐れもあったが、光部大将が機動艦隊より差し向けた攻撃隊の猛攻によって敵打撃艦隊を壊滅寸前まで追い込んでいた。が、巡航ミサイルが敵空母を捉えるまで後30分近く掛かる。

 そんな時、レーダーにノイズが走る。倭もそれを察したのか倭の主砲が最大仰角に上がり、空を睨んでいる。レーダー上のノイズは現在3つ確認されている。雨月の方面に1つ。もう1つは私達の方に向かっており、残りの1つは様子を窺っているのか、倭の射程外で遊弋している。と言う事は明らかに倭を警戒している。

 こちらに迫る超兵器は移動速度から見てヴィント級か飛行型しか考えられない。スコールに覆われ始め、視界が悪くなっていくがデジタル技術を駆使して戦闘を継続する。レーダーに映ったノイズは深海棲艦の艦載機達を駆逐しながら視認出来る距離まで迫り、通信機の向こうで倭副長妖精が接近した超兵器の名を読み上げる。

 

『超巨大爆撃機アルケオプテリクス接近!』

 

 暗雲と降り注ぐスコールの隙間からオレンジ色の機体のような物体と紅い炎が僅かに見えたと思えば、轟音を発して機動艦隊上空を通り抜ける。抜けて行った先は雨雲が途切れている場所でもあり、そこで反転し、こちらに機首を向けてくるが、その異様さに笹川は思わず息を呑んだ。

 オレンジ色の胴体に二つの機首。そして全長600mはありそうな巨体に載せられた多数の砲塔。だが機動艦隊や春風には興味を示す事無く倭へ向かって突き進む。

敵超兵器の高度が低い事も相俟って倭が改三式弾を使う事は無いだろう。そう誰もが思っていたが、

 

『目標アルケオプテリクス。主砲、改三式全門斉射!』

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 味方への被害を考えもせず容赦無くぶっ放した。思わず司令官が声を出してしまったのも仕方が無いだろう。私自身も味方の真上、それも守らなくてはならない機動艦隊の上空を通ろうとしているアルケオプテリクスの針路上に改三式弾をバラ撒いてくるなんて予想出来なかった。

 だがそれはアルケオプテリクスも予想していたようで、危険空域から逃げ出す為にホップアップで機首を持ち上げて急上昇を掛ける。あんな巨体で急制動が出来るなんて報告書には書かれていなかった。獲物から外れた改三式弾は指令起爆によって私達の上空200m付近で一斉に起爆。改三式弾は炸裂すると直径50~100mの範囲を高温で焼き尽くし、同時に余波として生み出される爆風と衝撃波で周囲100m前後にも攻撃を加えてくる厄介な砲弾でもあり、その時に発生した強烈な爆風と衝撃波によって機動艦隊に多少なりの怪我人が出るだけならまだ良かっただろう。

私はCICのモニターが数秒だけ砂嵐になるだけで済んだが、この時代の電探や音探はまだまだ信頼性に欠ける物が多かった事が更に被害を増加させた。そう、機動艦隊の全空母に搭載されていた電探や航海機器類は軒並み爆風と衝撃波でお釈迦になり、中には脱落してしまった艦もいた。現在は各艦の被害状況を集計している所らしいが、正直言って全員が被害を受けた事に代わりは無い。

 更に被害はそれだけに留まらなかった。航空機を飛行甲板へ押し上げたり収納したりするエレベーターが炸裂した衝撃で動かなくなった、と大鳳や加賀等の大型空母から報告が飛んで来た。恐らく修理は間に合うだろうが基地攻撃と打撃艦隊支援任務に大きな支障が出る事は間違い無いだろう。

 それに今の倭は周りの事等一切考えていない。目に映るのは上空を飛び回るアルケオプテリクスの事だけだ。周りにどれだけの被害が出ようと歯牙にも掛けず超兵器を追い回し、攻撃し続けるだけの機械になっている。

 倭の放った改三式弾3発の内1発がアルケオプテリクスの左主翼の中程で炸裂し、粉々に吹き飛ばす。お返しとばかりにアルケオプテリクスは搭載された30.5cm砲や57mmバルカン砲、対艦ロケット弾を放って倭に攻撃を加える。更には航空魚雷と誘導爆弾による空と海中からの立体攻撃で攻め立てた。

 しかし倭はそれで仕留められる程甘くは無い。急加速を多用して砲撃や魚雷と誘導爆弾をかわし、上空から降り注ぐ対艦ロケット弾を徹底的に叩き落しながら副砲と両用砲の釣瓶撃ちで機体下部後方に設置されていた30.5cm砲を粉砕してアルケオプテリクスの死角へ潜り込もうとしている。潜り込んでしまえば後は一方的に叩きのめせる事を知っているからこその行動であり、ついでとばかりにエンジン付近に設置されている緊急加速用ブースターを機銃群で狙い撃ちにして破壊しようと試みている。

『墜チロ、始祖鳥。お前ハ地で這イ蹲っテいる方ガ御似合いダ。オ前に手間取ッている暇等無イ。』

『まだだ。まだここで墜ちるわけにはいかん!』

聞こえてきた倭とアルケオプテリクスらしき男の声だが倭の声は何時と違って狂気が滲み出ているような気がする。あの日私の姉、旗風が撃沈された日もアルケオプテリクスに今と同じ攻撃を受けて酷く損傷していたと報告書には書かれている。

もしかするとあの日の記憶が倭を突き動かしているのだとすればそれは非常に危険な事だ。先程から何度か無線で呼び掛けても応答は一切無い。非常に不味い事態になりつつあるが、それでも戦況は推移していく。

 一時的にではあるが機動艦隊は敵の攻撃対象から抜け出す事になり、周囲に深海棲艦の潜水艦も見当たらない事から急いでエレベーターの修理に取り掛かった。

 

 

 -戦闘はまだ始まったばかりだ。どうなるかはまだ、分からない・・・・・・-

 

 




まさかの超兵器3つ同じ襲来(笑)
そして改三式弾で機動艦隊に被害発生。守る気が感じられない主人公。これで良いのか(良いんだ)

次回はもう少し掛かるかと思いますので気ままに本編を読み返していてください。では!

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