恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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どうもCFA-44です。え?呼んでない?そんな事言わずに居させて下さい!

さ、さっきの事はさて置き、倭が誰にも離さなかった過去について春風が暴露します。が、ちょっと書き足らない部分や私が忘れてしまった部分もありまして(マテ

最後の方は・・・ちょっとキモイです(爆笑)


隠したかった過去

 

 鼠色の空からシトシトと降り注ぐ小雨が軍港を濡らす中、2つの影が防波堤の突端に佇んで会話をしている。両者共に高身長の男性であり、闇に溶け込みそうな紺色の軍服の上に同じ色の外套を纏っている。片方はこの泊地最強の切り札である『倭』。もう片方はその最強の切り札の相方を務める『雨月』。そんな2人の会話の内容は倭が傍受した敵味方両方の通信内容だ。

「敵の通信内容とは一体何だったのですか?」

「ルンガ泊地壊滅関連だ。せっかくショートランド・ラバウル方面へ侵攻しようと画策して資材と戦力を集めたのに俺が夜襲を掛けたお陰で全部水の泡になったらしい。」

「結局残存勢力は残さなかったそうですね。」

「後顧の憂いを残して余計な被害を受けるくらいなら全滅させた方が早い。敵が何処を根城にして居るのかは流石に分からんが次の作戦は大規模なものになると見て良い。」

「そうなりますと、ミッドウェーとフィジー辺りが怪しいですね。いや南方海域は殆ど該当しますか。」

「お前にも出撃命令が下るだろう。その時は頼りにしているぞ。」

「承知しました。兄上こそ、無茶は禁物ですぞ。」

分かっている、と返して倭は今頃執務室で自己紹介何なりしているだろう春風の事を思い出し、自分の船体のすぐ横に停泊している1隻の巡洋艦のような艦に目をやった。あれで9998tと殆ど重巡に匹敵する巨体に、長砲身の15.5cm砲。時雨と夕立に搭載されている物より1本多い5連装の魚雷発射管。船体後甲板を埋め尽くすVLS。艦上構造物を取り囲む多数の30mmCIWS。

 極め付けは高雄型並にデカイ艦上構造物だ。俺ですら初めて見た時は転覆するんじゃないかと思った程に高いアンテナマストも1つの要因となって強烈なインパクトを与えているのだが、何より建造国が“こんなに大きくても駆逐艦です”と言い張ったのだ。どう見ても巡洋艦にしか見えないのに駆逐艦と言い張れる度胸は俺には無いが。

 ベースとなった艦が確か「こんごう型イージス護衛艦」と聞いているがそれにしても武装がとても駆逐艦とは思えないほど重武装化している。これが普通の人の反応だろうが俺にとってはもっと重武装で巨大な艦を相手にしてきた。それこそ巨大な船体で180ktの神速を発揮する艦や海水で自己修復する空母などの常識を逸脱する化物を相手にしなければならなかったのだから自分が多少人と違う見方をしている事は自覚している。

 目の前に停泊する春風や雨月、そして俺はこの世界から見れば十分に化物と見做されているだろう。本来こんな戦略兵器級の戦艦が存在する事自体間違っているのだから。

 

 

 

 

目の前のソファに座る少女の見た目は照月にそっくりだ。だが髪の色と付けているアクセサリに違いがあった。赤茶色の髪に二重反転式プロペラのアクセサリ。極め付けは妙高並みに身長が高い事だ。これで駆逐艦だと言い張るのだから頭が痛くなる。

「本当に貴女が駆逐艦だという根拠は何処にあるのかしら?」

「先程も言った様に私の武装を見れば分かる筈です。」

「あんな重武装した駆逐艦なんて私知らないんだけど………何か最上達みたいね。」

「確かに私の装甲は脆弱なのは否めませんけど、戦艦に匹敵する火力は持ち合わせていると自負していますよ?」

あの船体の何処に戦艦に匹敵する火力があると言うのか……軽巡クラスの15.5cm3連装砲が4基と倭や雨月にも搭載されているCIWSとかいう多砲身機関砲が片舷5基とミサイルVLSとやらがざっと見ただけでも14基。今は明石と夕張が調べまわっているが恐らく構造的に重巡洋艦達と変わらなさそうだから倭の時みたいに出口を探して4時間もさ迷い歩くような事は無い分はず。

「あのVLSというモノには何が?というかVLSって何?」

「VLSとはバーティカルランチングシステム、日本語で表すと『垂直発射システム』或いは『垂直発射機』とも呼ばれるミサイル発射機構です。あそこには倭と同規格のRIM-7シースパロー、RIM-156 SM-2ERブロックIV、RIM-162ESSM、対潜ミサイルやRGM-84ハープーン、BGM-109Bトマホークの5種類を搭載しています。性能は良いのですがどれも弾数が限られるので倭から補給を受けられない海域では慎重に使わないといけないのが難点ですね。」

「倭から補給?そんな事出来たの?」

「多分隠してるだけだと思います。この世界にとってミサイルすら十分イレギュラーですからね。誰かに悪用されるより誰の目にも触れさせないで隠しておくのも致し方ないでしょう。」

(あんた等全員の存在自体が十分にイレギュラーだっつーの・・・・・・)

笹川が心の中でツッコミを入れた事など気付かぬまま春風の武装と速力関係の情報を聞き出していく。

「成程・・・・・・最大速力60.3ktで巡航速度が30.15ktね・・・・・・うん十分化物ね。航続距離4万カイリとか地球2週旅行でもしたいの?」

強力な誘導兵器もそうだがその中で一番驚かされたのが航続距離だ。巡航速度で4万カイリは事実上地球を2週弱出来てしまうほど長い。十分イカれている。戦闘で消耗する分を考えても余りあるくらいだ。尤も、食料という足枷があるので一切無補給、というわけには行かないだろう。

「倭は原子力で行動し、航続距離は理論上無制限ですからそれに追随出来なければ話になりません。当然ですが倭型専属護衛艦は速力・航続力を優先に設計されています。その分食料庫にしわ寄せが来ましたけどね。」

「何で倭と言い貴女と言い居住性を無視してるの?指揮が落ちたりしない?」

「確かに居住性が低いのは否めません。ですが倭よりは大分マシですよ?新兵達にシャワー付の部屋が与えられるくらいですからね。それに我々に居住性を求めても無理な注文ですよ。居住性を追及する暇があったら武装の追加を検討されるくらいですから。中には主砲と主砲の間にVLSを突っ込んだ戦艦や隙間無く多目的ミサイルVLSを載せた駆逐艦も居たくらいですし。」

(そんな艦には絶対乗りたくない・・・・・・)

「まあアイツは潜水艦と同じかそれより狭かったわね・・・・・・」

新米兵からシャワーが与えられる・・・かなり贅沢な気がするのは気のせいだろうか?と、なると通信機能は倭よりも高いかもしれない。何しろ最新鋭の艦みたいだし。

「一時期倭にもヒノキ張りの湯船があったそうです。でも大戦中期頃に撤去した、と聞きましたけど。」

「本当に風呂には金を掛けるのね。日本人で良かったわ。」

「戦闘中の被弾で真水のタンクが破損した時は『お風呂に入れない』と悟りましたからね。まあ倭がお風呂を貸してくれたおかげで何とかなりましたけど。」

「ボイラー搭載艦なら確実に詰んでたわね。」

「白露型護衛艦はボイラー艦ですよ?δ型とε型ガスタービンの量産が間に合わなかったので当時最新鋭だったε型ボイラー3基と同型タービン2基で間に合わせてましたから。」

今春風が発したボイラーとタービンは今の所6隻分しか出来上がっていない。何しろ開発費が高い上に今の駆逐艦娘達には重量制限も相俟って載せ辛くなっている。この機関と例の新型魚雷を載せる為に時雨と夕立は船体を駆逐艦の中では秋月型に匹敵する巨大な船体に造り替える準備をしているくらいだ。

「そうホイホイ生産出来たら苦労しないわ。特に倭の弾薬消費癖がね・・・・・・軽く6桁もふっ飛ばさないで・・・・・・」

「(まぁ普通そうなるわよね・・・)その分戦果も上々なのでは?」

「それが問題なのよ。戦果を上げて階級手当てで貰える資材量も増えたけど今7桁キープするだけで精一杯なの。アイツも輸送船団護衛に行かせてるんだけど寧ろ消費が増えたような気もするわ。」

おかげで遣り繰りに苦労していると言うと、春風は苦笑いしていた。それもその筈、倭の弾薬消費スピードはかなり速い。搭載している主砲も砲弾も巨大である為、積載スペースが限られてしまうのだ。

搭載弾数が低いと、短期決戦で命中が期待出来る距離まで敵艦隊へ接近しなければ弾薬欠乏を起こして浮かぶ的になってしまう恐れがある。その為、倭は搭載弾数1800発に対して予備弾薬庫を設けて砲弾200発の上乗せや特殊砲弾を運用し、出来る限り重防御を施す事で継続戦闘力と生存性を高めているのだが、それでもやはり心許無い。それは貴重なミサイルを運用する春風にも言える事で、1セルにつき1発しか発射出来ない上に高コストのミサイルも存在する。よって、発射する場面を考えないと無駄弾になってしまう。

「1対多数で戦闘する事が良くありましたからね。特殊砲弾で効率良く敵を仕留めないと一気に不利になるのは間違いなく我々でしたから。」

「アイツの予備弾薬庫ってどこら辺にあるの?」

「多分後部艦橋の真下で2番副砲の弾薬庫と隣接していた思うのですが・・・」

そう言って春風は胸の間から何かの図面やそれらと同じモノを幾つか取り出した。

(ちょっと待って、どうして設計図がそのデカイ胸の谷間から出てくるのよ。四次元ポケットか何かの代わりにでもなってるの?)

危うく出かけたそんな疑問を強引に飲み込んで取り出された図面を見ると、それは倭が焼却されたと言っていた筈の倭型の設計図だった。御丁寧に『倭型重装護衛艦【倭】』と書かれている所を見るに間違いなく倭本人の図面なのだろう。しかも同じく取り出されていたモノはブロック毎に分けられた設計図だ。その中から後部艦橋付近の図面を探し出すが、後部艦橋の下にそんなモノは描かれていない。

「無いわね。」

「新造時には無かったのかな・・・じゃあこっちの第1次改装の図面を見てみましょう。」

もう1つの図面を見ると、かなりの規模の改装が施され、新造時と内部構造が格段に複雑かつ狭くなっている。目的の後部艦橋の真下に『予備弾薬庫』と記された設備がある。そんなに大きくないものの、砲弾やミサイルを多数搭載可能とされている。それだけでなく、4番主砲をコの字型に囲う様に予備燃料タンクが配置されている。搭載量もなる事ながら、これを全て積載した際、軽く10万トンクラスに跳ね上がるかもしれないと容易に想像できた。

「本当に洋上の武器庫ね・・・・・・被弾したらヤバイ場所多いわよ・・・・・・」

「この戦艦を空海の敵から護る為に私が居るのですよ。司令官、これまでに倭を護衛した艦は対空対潜兵装を充実させていましたか?」

「それなりに。」

「・・・・・・彼の過去は何処まで知っていますか?」

「超兵器と戦って沈んだ、くらいしか知らないわ。それ以上は本人が言わないし聞けないもの。」

何気無く聞かれた事に答えると、春風の顔は少し青褪めていた。まるで不味い事が起きている、と言わんばかりに。

「そう、でしたか。・・・・・・これからお話しする事は口の堅い人にしか話せません。出来れば司令官と・・・・・・時雨、それとそこの6人、貴女達にもここに居てもらいます。」

「ぼ、僕も?」

「貴女、倭の事を知りたいのでしょう?倭の為になると思って聞いて。」

「・・・・・・・・・」

そこまで時雨に関係あるのか分からないけど取り敢えず執務室に屯していた艦娘を退出させ、9人だけになる。ソファに座った私と西村艦隊の面々と応接テーブルを挟んだ反対側のソファに春風が座る。何となく重苦しい雰囲気が出ているから多分凄く長い話になるわね。

「では、倭が隠している過去について御説明させていただきます。超兵器や同型艦との戦いで彼自身傷付いている事は御存知だと思いますが、これから話す事は恐らく倭が隠し続けようとしている事です。まず、私が転位する前の世界で行われた戦争は第三次世界大戦や超兵器戦争と呼ばれ、第二次大戦以上の人命と艦船が失われました。はっきり言って史上最悪の戦争です。極め付けは北極海を中心とした北半球の半分が高濃度の放射能で汚染され、漁業が壊滅的になった事です。」

「第二次大戦より酷いって・・・・・・」

「向こうの世界で倭は呉へ帰港する事が出来ませんでした。いえ、領海に入る事さえ禁じられました。核動力艦であったが為に、それも国民に原子炉である事を伏せていた当時の政府にも問題はありました。それでも・・・それでも祖国の政治家や国民達は倭に!倭に徹底的に批判を浴びせました!金に目の眩んだ政治家達ならまだ対処が出来ます。しかし一般市民には対処出来ません。一部の政党と防衛庁・自衛隊・在日米軍を除いて倭に対して全国規模で抗議デモまで起きて・・・その影響で帰る事が出来ずに私達護衛艦のみを帰港させて倭自身は土佐湾沖150km沖合いで遊弋する水上ドック艦イズモに黙って引き返していきました。結局倭の乗組員の大半は母国の土を踏む事は二度と訪れないまま北極海へ消えました。」

「補給は、どうしたの?」

「在日米軍と我々専属護衛艦達が共同で少しずつイズモへ運び込みました。でも3回の補給だけでは倭が必要としていた1/10にも満たなかったのです。」

話している最中、春風の顔を見てみたがまだ青褪めたままだ。それにしても何をどうしたら全国規模の抗議デモが起きるのよ・・・・・・

「何故3回の補給しかしなかったのかしら?」

「そうしないとしつこいマスコミや鬱陶しい自称軍事評論家達の網に引っ掛かるからです。倭に持っていく弾薬を私達の後部格納庫に納めた上で、イズモへ物資を運搬していました。在日米軍は高速輸送船を供与したりその輸送船で夜陰に紛れた高速輸送を手伝ってくれましたが、4度目の補給準備中にマスコミに嗅ぎ付けられてその事がすぐに報道された所為で余計に反倭派を刺激して鎮守府の正門前までデモ隊が押し寄せた事で取り止めになった上、イズモに戻る前に毎回臨検を受けさせられたの。」

「それって帝国の残存兵が裏に居たんじゃ・・・・・・」

「調べてみたら今司令官が仰った通り、帝国の日本方面指揮官が裏で政府やマスコミ達に賄賂を渡して情報操作をしていたんです。」

「愚かしい事ね・・・日本が造った艦が解放してくれたのにその救国の英雄を批判するなんて・・・・・・」

私達には想像も付かない当時の状況を思い返して春風は強く手を握り締めていた。その帝国軍指揮官は倭がそれほど憎かったのだろう、その情報をマスコミに流し、国民の反戦感情を焚き付け、倭を追い込む心理作戦か何かを考え付いたに違いない。何と言うかその指揮官は相当なクソ野郎ね。

「その時の僕はどうしてたんだい?」

「護衛艦時雨はイズモから動いてないわ。幾ら解放したとはいえ、帝国の残存艦がうろついている可能性も考慮して時雨と夕立をイズモの護衛に残していたの。交代で本土へ戻ったりはしたけど大抵はイズモに居たわ。」

「じゃあ何で倭だけが悪く言われるの?雨月だってその核動力じゃない。」

話を聞くだけで嫌になってくるが、母港に戻る事を許されず、護った筈の国民から非難を浴びせられても忍の一字を貫いて戦いに赴いた倭の気持ちまでは分からない。それでも苦しい思いをしていた事は間違い無いだろう。

「倭建造時の書面には通常動力搭載艦、それ以降は実験用反応炉搭載艦とされていただけです。その方が2番艦以降の予算の獲得がし易かったのかもしれません。勿論この事は国民に伏せられていたのが後になって帰国拒否に繋がると判断出来なかった我々のミスだと理解しています。ですが解放の為に倭がどれだけ辛い思いを、どれだけ身を削ってきたのか分かろうともしないくせに、安全な場所で帝国の甘い蜜に群がって利を貪っていただけの奴等は倭を徹底的に叩く事で更に私欲に走った!私達護衛群が叩かれても文句は言わない!でもあいつ等は私達の・・・倭乗組員達の遺族まで批判した!それが一番許せない!非核三原則を破って倭達を造った事を当時の政権が全て悪いと言い切って責任逃れをしようと裏で色々と画策していたみたいだけどそれは1つ残らず私が潰したわ・・・それで倭の痛みが消えるわけでも死んでいった人達が帰って来ない事は分かっています。非核三原則を破らなければ滅亡するしかない事を知っている私達は悔しかった!倭が世界を護る為に自らの命を投げ出した事を“憲法違反を犯した艦には相応しい死に方”、“丁度良い形で沈んでくれた”と沈んでから5年経っても詰り続けられるのには・・・もう耐えられません・・・・・・どれだけ耳を塞いでも聞こえてきてしまうんです・・・・・・」

「成程、それで倭が本土配備を嫌がってたのね・・・・・・」

思わずこちらが怒り狂ってしまいそうだったが、春風は床に赤い雫が滴り落ちるほど拳を強く握り過ぎていた。その様子を見て最上が備え付けの医療セットで手当てをしていく。また胸から取り出した物があったがそれは『北極海決戦』と書かれた1枚のディスク。要するに倭視点の映像だけでなく、近くに居た者が見た映像も見ておけという事だろう。

「手当てありがとうございます。ああ見えて倭は1人で抱え込む癖があります。私や雨月だけでは解決出来ないかもしれません。その時は助力を要請します。それでは失礼しました・・・・・・」バタン

春風が出て行く事を誰も止めなかった。いや、止めてはならないと気付いていた。倭と雨月、そして春風。この3人が抱え込む闇は何処まで、それこそ生命活動が停止する日まで続くのだろうか?

渡されたディスク。普通の者が見れば何の変哲も無い様に見えても、解る者にはこのディスクに死闘が収められていると解る。

念の為、プロジェクターを再設置してディスクを飲み込ませると、究極超兵器と呼ばれる巨大戦艦との交戦している倭の姿が映っていた。が、春風のカメラが何度も見ている方向は氷山と氷山の間に3つほど出来た狭い水道の1つであり春風はその水道へ針路をとっていた。

倭の主砲が唸りを上げる音に紛れて少し大きな爆発音が聞こえる。カメラが進行方向の水道方面を映すと、先程まではなかった黒煙が立ち上っている。それだけではなく、時々聞こえる怒号の中に『時雨が爆沈したのは事実か?』と言う声が聞こえる。そうなると、この極北の海域には倭、春風、時雨、究極超兵器の4隻が戦っている事になる。そして時雨が超兵器の攻撃ないし別の要因で撃沈された事も。

 倭側との交信を終えるとカメラは超兵器に向かって砲撃を開始し、恐れる事無く突撃していく倭を暫らく映した後、正面を向く。そこには夥しい重油が広がり、その中に多数の救命ボート、辛うじて浮かんでいる艦首があった。そしてそこで救助を待つ乗組員の姿が見える。救助の様子も映っており、何とか脱出出来た者も身体中に傷を負っている。

 春風はそのまま艦首を南へと向けて倭と超兵器が戦っている場所から離れ、水道を抜けて30分ほどの場所で非常にゆっくりと遊弋している巨大な艦と会合を果たす。

「これ何処のペン○ゴン?」

「こ、これがイズモ・・・・・・もう要塞よこれ・・・・・・」

朝雲の言う様に、水上ドック艦イズモは途方も無く大きかった。正に『海上の戦闘国家』と言える巨体と武装を誇っている。後背に回り込んで接近していくとイズモの後部がハッチのように開く。その内部はドックになっていた。速力を落とし、内部へ入り込むと、天井は多数の機械腕やクレーンが並んでおり、倭ですらすっぽり収まるくらい高かった。

 春風は時雨の生存者を降ろすと同時に巨大な砲弾を積み込み始める。大きさから推測して倭用の砲弾だ。それ等を乗せ終わるとすぐにドックを離れていく。外で待機していたらしいフレッチャー級駆逐艦6隻に囲まれ、氷河の入り口までやってくると、周りに居たフレッチャー級駆逐艦は陣形を解いてイズモの方へ引き返していく。去り際に『貴艦ト我等ノ英雄倭ノ武運ヲ祈ル。』と発光信号を残して。

全速力で狭い水道を駆け抜け、極点海域へ到着したが、超兵器が大きく傾き、船体のいたる所から黒煙を吐いている姿と、砲身1門を残して第3主砲が煙を噴き出し、左舷内火艇格納庫が貫通された倭の姿があった。

あまりにも厳かな戦いに笹川達は声が出せない。いや、出そうにも目の前の映像がそれを許さなかった。次元が違う、想像を逸している、そんな事は倭が持ってきた資料で十分理解していた、つもりだった。

 だが映像に映る2隻は互いにネームシップ同士。そして対超兵器用戦艦と究極超兵器。映像の中とはいえ、そんな相反する者同士の戦いを妨げるのではないかと思って声が出せなくなってしまう。

 幾度かの撃ち合いで倭の主砲弾が超兵器の艦橋らしき部分を貫くと超兵器は動きを止めて静かに沈降を開始した。その間に倭へ接近して春風は砲弾を渡していく。それを終えた直後、巨大な水柱が立ち上る。春風が入ってきた中央の水道の真正面、1箇所だけ大きく開いた水道がある。そこにカメラが向けられると同時に薄霧を裂く様に現れたもう1隻の超兵器。春風は2隻を映しながら流れ弾を受けないように回避機動を取り続けるが、倭は回避をしながら究極超兵器へ接近していく。倭の主砲弾が超兵器の主砲の1基を破壊すると同時に倭の船体後部が大爆発を起こす。

 3発の砲弾で倭の第3主砲、第4主砲、後部艦橋が吹き飛ばされた。それだけで無く第3主砲は大きく跳ね上がって倭の左舷後方の海中へ消し飛ばされ、2番副砲、後部艦橋はただの瓦礫となった。戦闘力を半減させられ、反応が遅れた事で更に何発かの直撃弾を浴びる。ここで山城と最上がある事に気付いた。

「倭さん、傾いてないかな?」

「ええ。傾いてるわ。多分8度から9度の間くらいかしら・・・これでお手上げね・・・・・・」

流石に速力の低下までは気付いていなかったが、次第に右へ右へと傾き出している事に山城と最上は気付いていた。山城も傾斜によって主砲射撃が困難になる事は知っている。だからこそ、映像の中の倭が取った行動に固まった。

「・・・・・・・・・・・・え?」

10度近く傾いて発砲が困難なはずの61cm砲が強引に射撃を再開したのだ。今の倭は人間に例えるなら片腕を失い、右の脇腹と両足の激痛に耐えながら生きているようなものだ。常識的に考えれば破損した主砲塔で起きている火災での弾薬庫誘爆の恐れがある以上、退艦した方が良い。その方が言いに決まっていると誰もが信じていた。だが倭は残った砲門全てを開いて超兵器へ反撃を続ける。退く事が出来ないと悟っているのか、それともただの自殺か。だが春風が言った言葉がその場に居た全員の脳裏をよぎった。

 

『倭は世界を護る為に自らの命を投げ出した』

 

つまりそれは平和の芽を摘ませない為に、僅かに残された明日の平和を勝ち取る為に自らの命を犠牲にする覚悟を決めたという事。だがそれは時雨にとって、

 

『俺の犠牲で世界に平和が訪れるのならそれで本望だ。』

 

と、言っているように聞こえてきた。故郷へ戻る事を許されなくても尚、戦い抜く意思を見せ、満身創痍になりながら超兵器を打ち倒そうと最期まで攻撃を続ける。

 

(もう・・・もう戦わなくて良いよ倭・・・・・・もうこれ以上戦わないで・・・・・・)

 

 瀕死の究極超兵器の艦首に光が集束し始める。目標は言うまでも無く倭。だが倭は静かに狙いを定めていた。その光の集束が一際大きくなる数秒前、倭が主砲を放つ。最期の賭けに放たれた巨弾は3400mもの距離を一瞬にして駆け抜けて極限まで凝縮されたエネルギーを解放しようとする魔砲の砲口へ飛び込み、炸裂する。たったそれだけで魔砲は暴発を起こし、持ち主諸共エネルギーの奔流に飲み込まれて消え去った。

 その光景にホッとしたのも束の間、カメラが倭に向き直ると倭は洋上に停止していた。完全に行き足が止まり、更に右へ傾斜していた。その周りや甲板に人影は無い。破壊された後甲板は兎も角、前甲板は損傷を免れた箇所があり、その辺りに脱出してきた人影が見えてもおかしくは無い。だがもう1つ気になった。

「人が居る気配が無い・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』

そう、映像の中に居る倭から人の気配がしない。先程の暴発の余波で蒸発してしまったのかは定かではないが無人の廃墟と化した倭は確実に沈んでいく。右舷の垂直装甲板は大きな亀裂が走り、巨大な主砲や残った副砲や両用砲は重力に従って右へ振られ、見る見るうちに50度近く傾きながら艦尾から沈んでいく。

 倭が横転に近いまま完全に海上から姿を消した時刻は23:59:30。その28秒後、凄まじい勢いで天高く吹き上がった水柱。倭が沈降中に大爆発を起こし、船体が引き裂かれた証拠だった。

 それを見てしまった時雨は思わず画面に手を伸ばそうとしている事に気付いた。これを自分達に見ろと言って春風自身が退出した理由がやっと分かった。誰だって好んで大事な人が消えていく瞬間など見たくはない。

この映像を見て時雨達は倭が色々と抱え込まないように出来る限り相談しやすい雰囲気を作っていこうと考えていたが、既に倭に不穏な影はヒッソリと、しかし確実に近付きつつあった。

 

 

 

 

 今、俺の目の前では小さな睨み合いが発生している。先程までは何事も無かったのに、春風が来た瞬間、身構えてしまった事に雨月がついつい言い返してしまった所為だ。

「だから私に敵意は無いと何度言えば分かるんだ!」

「そんな事言って闇討ちしてくる気じゃないでしょうね!」

「闇討ちなんて出来るか!私が兄上と戦えるわけが無いだろう!まして時雨さんと同棲しt「ちょっと黙ってろ。」はい。」

雨月・・・後で処刑決定。雨月が余計な事を言った所為で春風が固まってしまった。これは絶対に不味い事が起きる。嫌な予感しかしないんだ。俯いた事で何となく察しがついてるんだ。

「春風、大丈夫か?」

「・・・・・・ですか?」

「む?」

「時雨と同棲しているって本当ですか?」ユラリ

やっぱりな。どうせ隠し通せる訳が無いと思っていたが・・・雨月の所為だ。

「あー時雨の方から押し掛けて来たんだがな。」

そう、俺の出せる答えは正直に言う事しか選択肢が残っていないし春風に嘘を付いても無駄だ。で、こうなると大体お決まりの台詞が出てくるんだろうな。

「私も、同衾させてもらいます。今日から!」

出たよ。出ちゃったよお約束の“私も一緒に住む。”という台詞が。彼女はこう見えて頑固だから先が思いやられる。主に時雨といがみ合う事が無い様に願いたいものだ。勿論俺や他の皆に迷惑が掛からない範疇でお願いするが。

「今日からか・・・兄上、赤飯炊きましょうか?」

「さあ愚弟よ、ランニングに行くか海の藻屑になるか好きな方を今直ぐに選べ。」

海の藻屑は勘弁ですと叫んで戦艦寮に逃げ込もうとした雨月を突然目の前に現れた大井が何処かへ引き摺って行った。多分朝まで球磨型の部屋で麻雀とやらをやるんだろう。脱衣麻雀とかだったら遠慮なく潰しに行くが、2人共仲が良い様で俺は嬉しいぞ。

「・・・と!倭!」

「ん?」

「私の荷物運ぶの手伝ってください!それと部屋まで案内お願いします!」

「それくらい自分でやれって・・・重いのはこっちに寄越せ。どうせお前の私物は春本とゲーム機ばかりだろうし。」

「ナ、ナンノコトデスカ?」ギクッ

「やっぱりか・・・春本は置いといてゲーム機は艦に置いておけばどうだ?遠洋航海での暇潰しくらいにはなるだろう?」

「大丈夫です。持って行くのは携帯ゲーム機ですから!」ドヤァ

「いやそんな顔されても困る・・・・・・さっさと運ぶぞ。その後食堂で飯食いながら自己紹介でもしてくれ。」

分かってますよと怒りながら返してくる春風。桟橋に置かれた荷物を持とうとして―――

 

ドサッ

 

―――持てなかった。不思議に思って手を見ると両手が小刻みに震えている。振動工具を長時間・長期間扱っていると発症するとされる振動障害というものに似ているが、これは違うとすぐに分かった。

この震えは疲れから来るものではなく、俺自身が“アレ”を抱えているからかもしれない。どうしようもない不安に駆られるが、これは俺自身の問題。他の連中に言ってどうにかなる事ではない。何時ものように過ごしていればこんな不安は消えてしまうに違いない。

 

 このとき感じていた不安が、後々になってそれがこの世界に“超兵器”という災禍を招いた原因だと知った時、俺は激しく後悔する事になるとはまだ分からなかった・・・・・・・・・

 

 

 

 

‐倭艦内‐

 ここは倭の艦内。それも中枢と言える艦橋の真下に位置している場所であり、原子炉4基の真上に当たる部分だ。その部屋は倭と倭副長以外が入れない様になっておりその中に紅く、妖しく輝く物体があった。ソレは静かに、だが耳を澄ませばはっきり聞こえてくる鼓動を発していた。 

ソレは身に纏う為の殻が無いと判断し、目の前にあったパネルへ不可視の腕を伸ばしてパネルの内部を探し回った末、電力ケーブルを探し当て、そこから一気に配線を伝って倭の心臓とも言える原子炉制御設備へ潜り込む。一旦そこで動きを止めるが、更に別の場所へ、配線を伝ってあらゆる場所へ潜り込んで本人も意識せぬ内に手中に収めていく。

その際、重要区画に立ち寄る事もあった。ソレにとって喉から手が出るほどに手中に納めたかったが先に他の場所を取り込んでしまう事を優先し、敢えて手を付けずそのままにしていった。

 自分が動き回っている事が倭にバレてはならない。バレてしまっては北の海で沈められた復讐の意味など無いのだから。保険も置いてきたし何時でも重要区画は手に入れられるから焦る必要は無い。そう、焦る必要は無い。倭は自ら進んで超兵器との戦いに出向く。その時が一番良い。それまでは沈黙しておいてやろう・・・・・・

 

 

 

 

 




隠していた陰の部分は如何だったでしょうか?私は書いてて胸糞悪くなりました(だったら書くなとかは言わないで下さいwww)

大井が雨月に絡んだ理由?・・・日常編で書くのでお待ちくだされ。

最後のはちょっとマグネタイト氏のを参考にさせていただきました。ありがとうございました。

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