恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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投稿遅れた…………遅筆過ぎる筆者をどうか許して下さいまし。

※)後編は完全にリア充回です。バレンタインなんてとっくに過ぎてますがここの2人はまだだった模様。

これから更に遅れていく可能性が否めませんがどうぞ本作に御付き合いいただければ幸いです。


報告と大きな差 後編

 

 

「横須賀までの陸軍兵輸送任務、大変ご苦労だった。2千名余りしか救助出来なかった事は私から陸軍に謝罪をしておく。まぁそんな所に立ってないで掛け給え。」

「恐縮です。」

「ところで、倭。君が鉄底海峡近海で交戦した超兵器について皆の前で話してもらえないだろうか?」

「構いませんが……提督、あのディスクを持ってきていますね?」

「はいこれ。」

「では早速会議室へ行こうか。もう皆集まって居る。」

総長室に入ると直ぐに各鎮守府から代表でやってきている他の提督達が居る会議室へ入るように促された。笹川提督の後に倭が入室した途端、「あれが例の超兵器を2隻も沈めた戦艦か……」「男、か……気兼ねなく話せそうで助かった……」などと聞こえて来た。勿論会議室に居る提督全員が秘書艦を連れてきているので好奇の視線を向けられるのは当たり前だが、倭は然程気にもせず笹川の傍で微動だにせず黙って総長の言葉を聞いている。

「……であるからして、シブヤン海で我が連合艦隊はこの超兵器というものによって殲滅されたものである。その説明をトラック泊地第2艦隊旗艦として着任している倭君、君にお願いする。」

「分かりました。超兵器とは超常兵器の略であり私がこちらの世界へ来る前に居た世界、つまり平行世界に存在していた『帝国』が開発した通常兵器を超えるオーバーテクノロジーを持つ兵器です。尚、超兵器には超兵器機関と呼ばれる謎の機関が搭載されており、その機関の影響はあらゆる電波・音波を遮断する強烈なノイズを発生させます。我が解放軍ではこのノイズを『超兵器ノイズ』と呼んでいました。超兵器の力は圧倒的で私が解放軍に参戦するまで解放軍が所有していた通常の艦船達は悉く沈められました。3個艦隊程度が超兵器単艦に振り回され、解放軍は敗走を余儀無くされたという記録があるほどです。」

それだけ言うと会議室はざわついた。そして倭はそんな彼等を気にする事も無く淡々と語り続けた。

「超兵器に常識は通用しません。奴等は非常識の塊ですからこちらも非常識をぶつけて撃沈するしかないでしょう。これが自分と超兵器が交戦した際の映像資料です。」

ディスクをプロジェクターに飲み込ませ、再生させるとトラック泊地でも見た映像記録が流され、それを見た多くの提督達と秘書艦達の顔が見る見るうちに青褪めていく。こんな戦いがあって良いのか、と言いたそうな表情で笹川を見てきた東山中将だが、笹川がこれは全て事実ですという思いを込めた視線を送って何とか納得させる。

激しく動き回って超兵器からの攻撃を回避し、反撃の砲火を叩き込む倭とそれよりも遥かに巨大な超兵器の姿に全員が圧倒されていた。艦隊決戦思想も航空主兵論も関係なく己の持つ全力を叩き込もうと遠距離から撃つのでは無く超至近距離で文字通りの殴り合いを展開してみせる事でただの兵器では太刀打ちできない事を意味していた。そして最後に超兵器の名前が交戦順に並べられていく。

 

・超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント

・超巨大レーザー戦艦グロース・シュトラール

・超巨大潜水戦艦ドレッドノート

・超巨大爆撃機アルケオプテリクス

・超巨大高速潜水艦ノーチラス

・超巨大双胴戦艦ハリマ

・超高速巡洋戦艦シュトゥルムヴィント

・超巨大ドリル戦艦アラハバキ

・超巨大ドリル戦艦アマテラス

・超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイター

・超巨大氷山空母ハボクック

・超巨大航空戦艦ムスペルヘイム

・超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァー

・超巨大戦艦ルフトシュピーゲルング

 

「これが全ての超兵器だ。間違っても既存の艦娘で勝てるなどと勘違いしないで欲しい。既にこちらでドレッドノート及びヴィルベルヴィントを撃沈しているがこれから現れるであろう奴等は貴方方が想像する以上に危険かつ非常識な存在として全提督諸氏に理解していただきたい。」

『…………』

会場の誰もが沈黙する中、1人の提督が発した言葉が波乱を呼び寄せてしまうなど誰が想像できただろうか。

「フン……超兵器か何だか知らんが俺の艦隊が負けるわけがなかろう。大体貴様のような得体の知れん奴の話など誰が聞くか。」

「……………」

目を瞑ったまま溜息を付いたが、倭は何時の間にか紅くなった狂気の瞳で先程の発言をした提督を絶対零度の眼差しで見ていた。そして、

「俺が得体の知れないと言われるのは結構だ。だが超兵器に対抗する上で一体どれほどの艦娘が犠牲になるか考えた事はあるか?」

「そ、それは………」

「どれだけ艦隊を用意したとしても余程運が良いか悪運が強くない限り全滅は免れない。それも分からないのならその口を閉じて大人しく座っていろ。超兵器と正面からぶつかって勝てる、と言い切れるのなら代わりに俺が相手をしても構わんがな。」

「………」

何の感情も感じられない声音で提督を黙らせる。これほどの怒りを見せた倭は今まで見た事が無かっただけあり中々迫力がでていた。

「倭、既に2隻撃沈したと言うがそいつらの性能は分かるか?」

「勿論です。といっても大まかな事くらいですが。」

東山中将の質問に対して倭が答えた内容は、我々の理解の範疇を超えていた。

「最初に交戦した超兵器は超巨大潜水戦艦ドレッドノート。全長450m。最大速力は38kt。武装は40.6cm65口径連装砲2基、53.3cm酸素魚雷発射管12門、誘線誘導式48.3cm魚雷発射管、多目的ミサイルVLS25基。防御装甲は対36cm防御だったと思います。同型艦には超巨大高速潜水艦ノーチラスが居ます。こいつ等は名前の通り潜水艦と戦艦、両方の力を持っています。基本戦術として目標に対して雷撃を行い、撃沈に到らなければ浮上して搭載艦砲で叩く、といった所でしょう。これが浮上した時の写真です。」

写真に写るドレッドノートは伊401潜水艦よりも遥かに巨大でずっしりとした感じを思わせる蒼い船体を晒していた。左舷側から撮られたものだろうか、司令塔近くの船体外殻に激しい亀裂が入っているのが目に入る。

「対策はあるのか?」

「奴の場合潜水艦ですから兎に角浮上させる事が先決です。ただマスカーという非常に細かい泡を発して水中聴音機での探知を困難にする装備を備えているので見つけ辛くなっています。本艦の場合探知直後に対潜ミサイルで船体外殻部に被害を与え、潜行不能に追い込んでから浮上させて砲撃戦に持ち込みましたが、この時も奴は主砲だけでなく誘導魚雷等で攻撃してきたので全て迎撃した上で近接砲撃戦に持ち込み撃沈しました。」

どう考えても戦艦としての戦い方を逸脱している。誰が帆船時代の様に至近距離で撃ち合えと言ったのか。

「戦艦として何か間違った戦い方をしてないか?」

「本艦にとってはこれが普通ですが何か?」

「いや何でもない。」

だが本人はそれが普通だと言い切ってしまった。いやそうでもしないと撃ち破れないのかもしれない。

「次に交戦したのは超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント。全長520m。最大速力は170kt。武装は38.1cm65口径3連装砲4基、12.7cm連装両用砲4基、57mmバルカン砲14基、53.3cm酸素魚雷5連装発射管4基、48.3cm誘導魚雷5連装発射管2基、対空ミサイルVLS30基。防御装甲は対31cm防御。同型艦にシュトゥルムヴィントが存在する。神速を誇る巡洋戦艦だが機銃並の連続攻撃を加えれば足が鈍るのでそこを突けば一気に突き崩せる。基本戦術は一撃離脱で敵艦隊の戦力を確実に削ぎ落としてくる。」

『170kt?!』

聞いた事の無い速度に全員が唖然となるがまたしても倭はそれが普通のようだった。常識では計り知れない領域で戦い続けた戦艦は非常識こそ我が常識とでも良いたい様に見えたのは私だけだろうか?

「この世に時速314kmで走れる巡洋戦艦など存在し得ないはずですが。」

誰もがそう思ったであろう質問を倭に投げ掛けたのは霧島であった。本当に314kmの高速で動ける戦闘艦などあり得る訳が無い。が、倭はそれすら分かっていたかのように、

「事実だ。これは俺が直接戦って確かめたから間違いは無い。それに俺自身227kmで走り回れるんだ。あちらの世界では戦艦でも40kt以下は確実に鈍足扱いを受ける。」

『戦艦が40kt出しても鈍足扱い……』

初めて聞いた。あの時倭が島風を『鈍足だなコイツ』みたいな目で見ていたのはそういうわけだったのね……

会議室全体がざわつき始めたが総長が場を上手く取り纏めてまた静寂を取り戻し、

・もし超兵器を発見したのであれば即座に大本営かトラック泊地に通報すること

・間違っても交戦しようと思わず、極力刺激せずに接触を保ち続け、外見等を報告すること

・万一戦闘に陥った場合は即座に倭へ秘匿暗号文を送ること

の3つを厳守するように確約させてからその場は一時解散となった。倭と笹川は急ぎ足で会議室を後にし、時雨達が待つ宿舎へ足早に退散したのだった。

 

 

 

 

 急ぎ足で戻ってきた倭と笹川が目にしたのは部屋で青褪めて震える時雨達だった。何かがあったのかは察した倭の配慮の元、彼が一人部屋に残り、それ以外の全員が向かいの部屋へ退避させられた。

「何があったのよ?」

「あ、あぁ……アレが出たんだ………」ブルブル

「アレ?」

皆一様に震えていたが、長波が辛うじて言葉を搾り出して笹川に伝えた。

『G……』ブルブル

「あー…そりゃ私でも願い下げだわ……で?倭が何するって言ってたの?」

『G殲滅作戦……』

「………たった1匹相手にやって良いのかしら。」

『それで私達に平穏が訪れるなら。』キッパリ

「あそう。」

直後、時雨達の居た部屋が大爆発を起こして部屋が標的『G』諸共消し飛んだのは言うまでもなかった。

 再び部屋を変える事になった(古い宿舎の為、空き部屋の方が多い)ので部屋割りを決める事になったが、提督以外が倭との同室を願い出た。これに対して倭が4人のうち誰か一人を選ぶ等出来るわけも無く『じゃんけんという形で公平に決めてくれ。』と言った結果、長波が倭との同室を勝ち取ってしまった。

「やったぜ。長波サマにもようやく運が向いて来たって事か。」

「何がそんなに嬉しいんだ………」

「何がってそりゃアンタとの同室の権利が得られたからさ。」

「そんなに良いのか?」

「ああ。アンタは競争率高いからね。こういう時こそ距離を縮めるチャンスって訳さ。」

「案外他の誰かが襲撃して来そうではあるがな……俺だ……ああ分かったすぐ行く。」

「如何したんだ?」

「…………私用だ。」

突然立ち上がって部屋を出る準備をし始めた倭の行動に長波が問い掛けるが、倭は「私用」と言っただけでそれ以外何も言わぬまま出て行ってしまった。

「何だろな……」

外は雨だと言うのに傘も差さずに横須賀鎮守府の正門の方へ向かっていく倭を見て長波は何となく違和感を覚えた。まるで倭1人が皆から離れていくように思えたが何かの思い過ごしだろうと決め込んでベッドに寝転がる。が、何故か彼女の手には倭が置き忘れていったと思われる黒い皮手袋が握られていた。

「それにしても……脱ぎたての手袋ってこんなに暖かいのかぁ~同室最高だよ全く。」ヌクヌク

その皮手袋に自らの手を通して想いを寄せる相手の温もりを感じ取って御満悦な長波であった。

 

 

 

 

「こちらから呼び出しておいて遅れて済まないな時雨。」

「べ、別にそんなに待ってないよ。(やっと誰にも邪魔されないで2人きりになれた//////)」

横須賀鎮守府の正門前にやって来た倭を待っていたのは本来宿舎で休んでいる筈の時雨だった。外出許可書を貰えた嬉しさの表れなのか、傘を差して待つ時雨の顔は何時も以上に緩んでいたのは見間違いではない。御互い制服のままではあるが、防寒対策として時雨はカーディガンを、倭は制服と同色の外套を纏っている。

前に本土へ来た時から約束していた市内の案内の為、態々待ち合わせの1時間前に来ていた事は黙っておこうと心に決めた時雨であった。

「では行こう。何か俺でも分かるような場所があれば良いのだがな。」

衛兵に外出許可書を提示して2人揃って正門を出る時に衛兵達が時雨に対して『頑張って!』の意味が込められたグーサインを送っており、送られた時雨は赤くなっていたのに対して倭は気付きもしなかった。

 目指す所もなく歩き始めた2人だが、時雨が唐突に行き先を思いついたのか海軍カレー館という場所へ行く事となった。店で倭がタバスコ3本を要求する無茶をやらかした以外は特に何もなかったが帰りに通る夜の街と言うのは不届きな輩が出てくるものである。

「ようよう兄ちゃん。可愛い娘連れてるねぇ~」

「おっこの子艦娘じゃね?可愛いねぇ~」

「ねぇねぇ彼女~こんな無愛想な奴放っといてオレ達とイイコトしようぜ?」

などと倭にとって意味不明な言葉を発して3名ほどのチャラチャラした男達が近寄ってきた。近くに居た通行人達は絡まれた倭達をワザと大きく避けて我関せずの状態である。艦娘とは美人が多いので、街中を歩けばそれなりに視線を集めてしまうもので、時折このような手合いに絡まれる事も少なくなかった。

「兄ちゃんよぅ、この娘借りちゃって良いかな?何ちゃって!ギャハハハハハハ!」

「…………(何だこいつ等?これが副長の言っていた脳内御花畑というやつか?)」

だがそんな輩を知らない倭にとって意味不明な馬鹿共にしか見えなかった。しかし時雨は何度か絡まれた事があるので無視を決め込もうとしたが、

「アレアレ~?何処行くのかな~?オレ等良い所知ってるからさ、行こうぜ。」

「僕達これから行く所があるんだ。どいてくれるかな?」

「おっとそうは行かないよ~?」

「っ!……離してっ!!」

「わ~綺麗なお手てでしゅね~。」

男達の包囲網から逃げるどころか掴まってしまい、身動きが取れなくなってしまう。頼みの綱である倭の顔を盗み見た瞬間、時雨の動きは止まった。さっきまで蒼く綺麗だった瞳が激しい怒りに染まる紅い瞳に早変わりしているのだから。

「その手を離してもらえないか?その美しい御手は貴様のような下衆が触れて良いモノではないのでな。」

「はぁ?兄ちゃん頭大丈夫ですかぁ?」

「ああ。年中発情しっ放しで脳内御花畑の貴様等と比べれば数億倍は遥かにマシだ。」

「ンだとコラァ!!彼女の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ!!」

「貴様等、まだ死にたくはないだろう?」

突然雰囲気が変わった倭の様子に動揺を隠し切れない3人だが、時雨を人質に取る方法で状況を打開しようとした。そこまでは良かった、いやそうした事が不味かった。

「あぐっ!!」

「へ、へへっ。何かしようとしてみろ。このガキの首g…ガヘッ」

「………で?俺が如何しようとしたら“俺の女”を如何するつもりだったのか言ってくれるか?」ミシミシ

「あ、あが……」

倭の腕が時雨の首と男の腕の僅かな隙間を通り抜け、時雨を拘束していた男の首を嫌な音を立てて締め付け始める。発された言葉の一言一言全てに秘められた激しい怒りと憎悪の感情が上乗せされた所為で周囲に居た人々には低くくぐもった声に聴こえたが中心の3人に凄まじい恐怖心を植え付けるには十分だった。幾らもがいても振り解く事も出来ず、寧ろ締め付けを強くされて呼吸困難寸前まで追い詰めていく。

「これから俺達は戻るべき場所に戻るだけだ。貴様等の下らん用事に付き合う道理は無い。」

「ガッ」

残った男2人の所へ放り投げると3人を絶対零度の眼差しを湛えた紅き瞳で睨みつける。二度とこのような事をさせぬ為に。身長180cmの高身長に加えて無駄なく鍛えられた身体は男達3人がモヤシに見えてしまうほど。そこへ止めとばかりに紅く鋭い目で見下ろしているのだから殊更3人の恐怖心を煽っていた。

「俺を、怒らせないでくれ。最も、ここで土に還りたいのなら止めはせん。それが嫌なら今直ぐ失せろ。俺の良心が生きている内に。」

『ひ、ヒィィィィィィィィ!』

情けない声を上げて人ごみの中へ消えた3人など記憶から素早く消し去った倭は時雨の状態を素早く確認し、何時も通りの口調に戻す。

「怪我は無いか?何処か痛い場所があるなら言ってくれ。すぐに手当てをする。」

「だ、大丈夫だよ。何処も怪我なんてしてないよ。」

慌てて取り繕った時雨だが、内心は大分暴走しかけていた。しかしそれに気が付かないまま倭は時雨の手を取って歩みを進めていく。

(お、俺の女って言われた//////『俺の女』って//////わぁぁぁぁどうしよう!どうしよう!)

既に脳内の許容範囲を超え始めたギリギリの状態になっているが何とか平静を装うだけで精一杯だった。

戻る道中で時雨が『そこの公園で待ってて。すぐ戻るから。』と言って何処かへ走って行ったので1人公園へ立ち寄ったが夜の公園には誰も居らず、ただ幾つかの街灯が点々と存在しているだけで後は少ない遊具が置かれているだけに過ぎない。

 運良く屋根付ベンチと自動販売機を見つけたので暖を取る為に2つのココアを買って待つ事15分。息を切らせながら公園へ走り込んできた傘を差す1つの影。街灯に照らし出された影の頭頂部には大きく飛び出た1本の髪の毛(これは雨月曰くアホ毛というらしいが)。時雨が手元に何か抱えているがどうやら箱状の物だと直ぐに分かった。

「ごめん、ちょっと時間が掛かっちゃって。」

「別に待ってはいない。この雨で地面が濡れているから走ると転ぶぞ。」

「こ、転ばないよ。あ、これ今日中に渡しておこうと思ってね。」

「ん?」

「き、今日が何の日か知ってる?」

今日?確か2月14日は………何か海軍の行事でもあったか?いやそれなら朝からやってるだろうし……う~ん分からん……

「……何の日か検討すら付いてないんだね。」

「済まん。平和的な事には慣れていなくてな。」

「分かってるよそのくらい………今日はバレンタインだよ。」

ばれんたいん?何だそりゃ。何故か時雨が大きく溜息を付いた。良く分からんが俺の所為なのか?

「ばんれたんい?初めて聞く行事だな。海軍でそんな事やるのか?」

「違うよ……バレンタインだから……取り敢えず、既製品だけど……その…邪魔、かな?」

そう言って赤い包装紙に包まれた箱を差し出してくる。邪魔、では無いが………何だろうか先程から妙に暖かい気分になり、その箱を受け取れと頭の中で声が聞こえる。だがその一方で暗い声も聞こえて来る。どうやら自分の内に秘めたモノ(狂気)はこんな平和な時間が嫌いらしい。

「邪魔、と言った覚えは無い。ありがたく頂こう。」

「そう、良かった……」フウ

丁寧に包装紙を取ると、これまた少し薄めの赤い箱が出てきた。蓋を開けると甘い匂いを発し、ハートを模したチョコレートが鎮座している。御丁寧に『I only love you. Would you love my?』と書かれている。割ってしまうのはどうかと思ったので手持ちの鉈ナイフで文字の部分だけ切り出して素早く口に入れてしまう。時雨が横で『何て器用な……』なんて呟いていた気もしたが気のせいだろう。

 だが、最後に1つだけ大きめの欠片が残ったので取ろうとした時、隣に座っていた時雨がその欠片を口に含んでしまい、自分で食べる事は叶わなかった。

「さぁ倭、こっちが本当に贈りたい君への気持ちだ。一口分しか無いからちゃんと味わって食べ切っておくれ。」

そう言いながら時雨が先程口に含んだチョコを銜えていた。それは時雨の熱で少し融けかかっており、早くしないと時雨の口がチョコ塗れになる事は馬鹿でも分かる結果だろう。

(こういうのを“はっぴーばんれたんい”と言うのか?……今だけは幸福、という思いをしても誰も文句は言わないよな?)

そんな事を考えながら、倭は隣に座る少女の味がするチョコを貰う為に口を重ねた。その日、夜遅くに戻った事を問い詰められたものの「食事に行っただけだ」と言い切って公園での件は伏せる事にした。バラして俺自身が被害を被るのは構わなかったが彼女に被害が出るのは何故か無視できなかったからだ。

 

 

 

 

 翌日、早朝から横須賀鎮守府は喧騒に包まれていた。哨戒任務に出ていた初春から齎された情報によれば、十機の大型爆撃機が帝都目指して飛行しているというのだ。すぐさま横須賀鎮守府所属の全艦娘が出撃準備に入ったが既に間に合わない事など承知していた。横鎮に所属している最強の大和型2隻が対空射撃準備に入るが帝都上空までの距離は45kmであり大和型の最大射程は42km。帝都上空まで届いたとしても当たる確立は低かった。

「総長!最早一刻の猶予もありません!今直ぐ大和型2隻に対空射撃を命じましょう!」

「ダメだ!それではもし不発弾が発生した時に帝都に被害が出たら如何する気だ!」

「では如何しろと言うのか!大和型2人以上に長射程の艦が何処に居るというのだ!」

「……倭に任せるより他にあるまい。彼なら帝都に被害を出さずに確実に全ての爆撃機を粉砕してくれる。」

「ではその倭にどれだけの可能性があると言うのですか!」

「少なくとも現時点で100%の可能性を持つ戦艦だ。彼の主砲最大射程は100km。その半分にも満たない距離に敵爆撃機は居る。彼なら仕留められる。総長もそうお考えなのでしょう?」

「………やれやれ。見抜かれていたか。彼は主砲最大射程での命中率95%を記録した驚異的な戦艦なのだよ。だからこそ彼に任せたいと思う。どうせ盗聴器か何かでこの会話を聞いているのだろう?倭よ。」

総長と秘書艦龍田以外は驚いて周囲を見回すが何も無く、総長が引き出しを開けてみると小さな小包が現れた。その小包を広げると黒い機械が現れる。そしてその機械から仕掛けた張本人の声が聞こえて来た。

『バレてたか。』

「どうやって仕掛けたのかは分からんが敵爆撃機を全滅させて欲しいのだ。」

『昨日そっちに行った時龍田に頼んで置いて貰っただけだよ。で、敵爆撃機の数は?』

久遠が龍田を横目で見ると彼女はペロリと舌を出していた。

「数は十機。帝都目指して侵攻中だ。高度は1万m以上を悠々と飛行しているらしい。まるで超空の要塞みたいだ。」

『あんな紙飛行機ちっとも怖かないね。迎撃に上がった機は居るのか?』

「今出撃し始めている。」

『間に合わないな。こちらの独断で攻撃を行うがそれでも宜しいか?』

「好きな様にやりたまえ。君を信頼しているぞ。」

『了解。』

プツリと音を立てて切られて無言となった盗聴器を机に仕舞い込んだ後、集まった全員の顔を見直してこう言った。

「この仕事は彼以外に任せる気は無い。こういう時の為に信頼関係をちゃんと築いて置かねばならんぞ?」

 

 

 

 

「全主砲対空戦闘用意。改三式通常弾装填。次弾も同じ。方位012、各砲塔仰角最大で合わせ。発砲回路の確認急げ。」

『改三式通常弾装填。最大仰角。』

巨大な主砲4基が素早く旋回し、仰角を合わせ始める。目標が既に射程圏内に居る以上、1発たりとも狙いを外す事があってはならない。

『1番、発砲回路良し!』

『2番、発砲回路良し!』

『3番、発砲回路良し!』

『4番、発砲回路良し!』

「艦長、全砲門発射準備完了です。」

「警告ブザー鳴らせ。」

けたたましい警告音と振り上げられた61cm砲の圧倒的姿に思わず倭を振り向いた艦娘達も居たが鳴り響く警告音で我に返り、急いで退避する。

“現時点で世界最強最大の主砲”を振り翳す倭の姿を遠目に見る大和型の2人は何も出来ぬ事に歯痒さを感じてすら居た。

「私達と比べるまでもないくらいにデカイな。」

「ええ。命中率95%がどれ程のものか見せてもらいましょう。」

そんな会話がされているとも知らず、退避を確認した倭は号令を、敵爆撃機にとって最悪の処断を下した。

「全砲門1斉射!」

『斉射!』

停止していても発生する爆圧と爆風は凄まじく、隣接していた艦と周囲の建物のガラス類は悉く吹き飛ばされた。特に61cm砲の間近に積み上げられていたコンテナ類は全て圧壊してしまう。

 砲身を下げる事無く次弾を装填し終えると同時に再び発砲を行い、以後の射撃を終了した。まるでもう終わったと言わんばかりの動作であったが、着弾の報告も修正も無しに立て続けに砲撃を行った事が倭関係者以外に沢山の疑問を抱かせた。

「この流れてくる風……これが61cm砲の爆風か………近くで浴びたくは無いな。下手をすればこちらがミンチにされかねん。」

「私達大和型の最終形態と言っても過言では無さそうね。」

尚、この会話を傍受していた倭は自嘲的な笑みを浮かべていた事は誰も知らないが、最終的に敵爆撃機全滅の報告を受けて倭達トラック泊地艦隊は自らの母港へ向けて出港していった。

 

 

 

 

「爆撃隊ガ全滅シタカ……」

「ハイ。ソレモ横須賀カラノ対空砲撃デヤラレタソウデス。」

「馬鹿ナ事ヲ言ウナ!横須賀カラ東京マデ45kmアルノダゾ!ソレヲドウヤッテ…マ、マサカ『モンスター』ガヤッタト言ウノカ?!」

「仰ル通リデゴザイマス空母棲姫様。『モンスター』ハ我々ノ想像モ及バヌ領域ノ艦ノ様デス。如何致シマショウカ?」

「撤収スル。『モンスター』メ…何時カ必ズ沈メテヤル……必ズナ……」

(空母棲姫様ガオ怒リニナラレテイル。無理モ無イ……部下デアル装甲空母姫様ガ惨殺サレタ挙句見世物ノ様ニ放置サレテイタノダカラ………憎ンデモ仕方ガ無イカ………)

千葉県九十九里海岸の遥か沖合いで発進させた爆撃機全てが『モンスター』に撃墜された事を知った空母棲姫達は『モンスター』への復讐を誓って暗い海の底へ姿を没していった。

 この日、東京湾上空で24個の巨大な火球が観測され、深海棲艦の爆撃機と思われる浮遊物が多数発見された。この火球についてはニュースにもなったが軍の大和型が新兵器の実験を行ったのかもしれないという小規模な話題として取り上げられていた。

 




倭「如何に筆者が知ったか乙なのか良く分かる内容だな。」
何言ってんのさ。君十分時雨とイチャイチャさせてあげたでしょ?
倭「は?」


と、と言うわけで笹川提督の所にはG殲滅作戦時にぶっ壊した宿舎の修繕費、発砲時に壊した物の諸々の請求書が届いている筈です。え?無線傍受の件は如何したって?倭が時雨とd(ryに行っている間に笹川が装甲空母姫撃沈と一緒にちゃんと報告してますので御心配なく。

改三式通常弾:三式通常弾の効果範囲を広げる為に中身を気化爆弾に入れ替えただけの広域攻撃兵器。早い話ACEZEROのMPBM(散弾ミサイル)をご想像ください。

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