恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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 前後編に分けると言ったな。アレは嘘だZE。前回同様に会話文多めですが御了承くださいm(_ _)m
 最近登校が遅れてきてる事に申し訳なさを感じております…………後ろで倭と時雨がフル装備で発破掛けてくれてるって言うのに…………なるべく早めに次回を投稿できるようにします。 ところで、2WSGにはWWⅡモードがある代わりにエクストラステージがありませんよね?という事で作者もエクストラ編を描きたくなってたので地道に作っていこうと思います(*^ω^*)


報告と大きな差 中編

 

「右舷対空班、左20度、仰角32度、距離240修正射。左舷対空班、弾幕薄いぞ。右35度、仰角45度、距離250で修正射。」

 重く垂れ込めた分厚い雲の隙間から絶え間なく襲い掛かる深海棲艦の艦載機が次々に爆弾や魚雷を投下してくるが、その爆弾の落下位置を精確に見抜いた副長の指示で素早く舵を切って避け続け、自分の指揮で15.5cm両用砲、35mmCIWS、40mm機銃が火を噴いて敵機を撃墜していく。

(もう4回目の空襲か………そろそろ副兵装の弾薬と砲身がヤバイな………)

 激しい対空砲火で敵機を撃墜し続けていた倭だが、流石に副砲と両用砲の弾薬が心配になっていた。それに現在時刻は〇九五一になろうとしており、戦闘開始から4時間が経過しようとしている。何が言いたいのかと言うと、如何に磨耗しない砲身を持っていたとしても何時間も連続で撃ち続ければ砲身が発する熱で内筒が融解を起こして、精密射撃の命中率が大幅に低下する恐れがあった。

先程から倭も副砲群を冷却するチャンスを待っていたが、敵がそんな暇を与えるわけも無く倭目掛けて攻撃が集中していく。こういう時は主砲の出番なのだが、時雨達の上空に張り付いた敵機を撃ち落す事に振り分けている為に自艦防衛にまわせる火力はどうしても副砲群と機銃のみになってしまう。その上対空ミサイルを発射しようにも急降下爆撃機が近くにいるので迂闊にハッチを開放しようものなら即爆撃を喰らってミサイルが誘爆を起こし、次いで弾薬庫も誘爆する恐れがあるので開放できない。如何に装甲化されたハッチといえど、内部まで装甲化は出来なかった。

それ以前に敵機がミサイル防空圏を越えてしまっているので発射してもあまり意味は無かった。次の敵編隊に撃ち込んでも良かったのだが、発射時に同じ様な危険性もあったのであえなく却下となった。

「……18度」カン

『取舵18!』ガラララララ

「機銃班、各銃座の状況を知らせ。」

『こちら機銃指揮所。現在の所焼け付いたという報告は来ておりません。代わりに弾薬を寄越せと引っ切り無しに言われてます。』

「機銃弾は腐るほど備蓄してあるから遠慮無くぶっ放せと言っとけ。」

『ハハハ笹川提督が聞いたらさぞかし怒るでしょうな。ちゃんと伝えときます。』

機銃群の健在を確認して内心で一息ついた倭だが、砲術長からの報告で顔を顰める。

『艦長、そろそろ副砲と両用砲の放射熱がリミッターの許容値まで後僅かです。射撃を直ちに中断して冷却を開始してください。』

「………」

『このままでは砲身融解による本艦の戦闘能力の低下を起こしかねません。』

「………砲術長、直ちに副砲及び両用砲の射撃を中断し、冷却を開始せよ。」

『了解。』

この時、倭は自身に向かってくる5波目の空襲に気付いており、その規模はこれまでの空襲はお遊びとしか考えられないような規模という事に倭は1つの対抗手段で応戦した。

「全主砲、超重力弾装填。目標は接近中の敵大規模編隊に指向せよ。」

『了解!』

横を見れば同じ様に横目で見てきた副長と目が合った。その目は使用制限が出てるんじゃありませんかと言っているが、この場に居る全員を守る為ならば命令違反など恐れていては守るものも守れなくなる、という意味を篭めた視線を送ると副長は溜息を吐いてやれやれと首を左右に振った。

第4波が撤退して行った間に何とか時間が取れた為、僅かな時間を使って弾薬の分配と砲身冷却を急がせていると電探室から新たな報告を受けた。

『電探室より艦長へ。第5波の約600機、尚も接近中。射程圏内まで後3分。』

「各駆逐艦に発光信号。内容は端的に『全艦、我ニ続ケ。』だ。」

「了解!」

「主砲全門開け!面舵60、両舷一杯!」ゴゴォォォォォォォォォォ

『両舷一杯ようそろ!機関最大出力!』

再び空間を揺るがす大轟音と共に12門の61cm砲が火を噴き、倭の船体が0.5度程僅かに左へ傾く。直後、急速に艦首を右に振って飛翔していく砲弾を追い掛ける様に進み始めたので、時雨達も置き去りにされながら慌てて追従する形になった。

 勿論その方角に本土があるわけではない。ではその先に何があるのか?倭の電探はその先にあるモノをしっかり捉えていた。

「……艦長、本艦前方の水平線上に多数のマストを確認!内一隻はイラストリアス級!コイツが親玉でしょうか?」

「電探、艦首方向に何か見えるか?」

『電探室より艦長へ。前方に戦艦8隻、重巡20隻、空母21隻、駆逐艦多数を探知。既に攻撃態勢に入っていると思われます。』

「待ち伏せ…ですね。敵にこちらの情報が漏れていたのでしょうか?」

「そう考えた方が妥当だな。暗号が解読されていなければこんな状況は考え辛い。」

実は倭の言った通りに深海棲艦達は潜水艦隊を日本本土とトラック泊地の間に配置し、日夜電波傍受を行って対倭用に解読を進めていた。陸軍の暗号文は難解であり、解読に時間を要したのは言うまでも無かったが、海軍の暗号文はドイツ製のもので、最近まで解読が困難だった。

だが大西洋で沈めた独戦艦から回収された暗号コードによって完全に解読されていた。その事に未だ海軍は気付いていない上に解読される筈が無いと慢心していた事もあり、各地で大規模作戦が展開されると必ず手痛い反撃を受けていた。

 そして、その解読された文には倭がトラック泊地から本土へ向けて出発する事と、護衛艦は駆逐艦4隻のみと言う事が記されていた為、前以て大規模機動艦隊を配置させる事が出来たのだった。だが今はそんな事を深く考えるより自分が抱える4人の艦娘と2000余名の人命を守る事を最優先としなければならない。その為に態々起きて来た笹川提督に睡眠薬を混ぜた珈琲を飲ませた上で厚さ1000mmの装甲で覆われた艦橋基部の司令塔に押し込めたのだから。

(後で何と言われようが甘んじて受けてやる。俺の大事な者を守れるのならば俺が代わりに受ける汚名など安いものだ。)

 

 

 

 

「帰艦機ガタッタ12機ダケダト?!タカガ1隻ノ戦艦ト4隻ノ駆逐艦ダケノ軟弱艦隊ダトイウノニ沈メラレナイノカ?!」

 既に4波の空襲で約800機もの航空機を向かわせたにも関わらず、帰艦したのはたった12機だけという事実に装甲空母姫はショックを受けていた。今向かわせている600機の攻撃隊も合わせれば1400機も発進させており、あまつさえ艦隊護衛用の戦闘機の大半まで爆装させて投入したにも関わらずその殆どが撃墜された事と、直後に入ってきた情報が装甲空母姫のプライドを大きく傷付け、彼女を暴走させる結果を生む事になった。

『装甲空母姫サマ!』

「何ダヲ級。」

『第5波攻撃隊ガ全滅シマシタ………偵察機ノ報告デハ『奴』ノ砲撃デ消滅サセラレタト………』

「何ダトッ?!タカガ18インチ砲搭載戦艦ノ一斉射デ800機ノ攻撃機ガ撃墜出来ルモノカ!!偵察機ヲ直グニ呼ビ戻シテ正確ナ報告ヲサセロ!!」

『実ハ先程ノ報告ヲ最後ニ連絡ガ取レナクナリマシテ………』

「クッ…ソレナラ戦艦ト巡洋艦隊ヲ派遣シテ殲滅サセロ!」

信じられない報告の連続に混乱し始めた装甲空母姫の頭の中には自分達が今まで唱えてきた航空主兵論に反対する大艦巨砲主義派が再び盛り返す切欠を作った巨大戦艦の朧げな姿が浮かんでいた。

(我々ハ憎キニンゲン共ガ我ガ深海軍ニ対抗スル為ニ生ミ出シタ巨大戦艦ヲ海ノ底ヘ沈メル命ヲ受ケテキタ。返リ討チニサレタトハイエ、コチラハ4桁規模ノ攻撃隊ヲ出シタトイウノニ何故奴ガ沈ンダトイウ報告以前ニ被害ヲ与エタトイウ報告ガ来ナイ。奴ハ、本当ニ不沈戦艦ダト言ウノカ?)

一応の対抗策として戦艦ル級efを主軸とした打撃部隊を巨大戦艦撃沈の為、行動に移させた。だが、この行動が彼女にとって最初で最期の間違いであった事は言うまでもなかろう。噂になっている巨大戦艦は深海機動艦隊が発するレーダーに捉えられる事なく足早に、確実に迫りつつあった。

 異変は打撃部隊が水平線に消えそうになっていた頃であった。突如打撃部隊の中心に居た戦艦ル級efが天に昇らんばかりの爆炎を上げて瞬く間に海の藻屑と化し、周囲に居た他のル級やタ級も同じ様に火の手を上げて戦闘不能に陥る。

 今度はあまりにも突然の事で対応が遅れた軽巡ツ級の船体中央に天から降り注いだ砲弾が命中しツ級は成す術なく二つに叩き折られて波間に消え、戦艦の救援に向かおうとしていた他の重巡や軽巡、駆逐艦達にも精確無比な弾雨が降り注ぎ到る所で轟沈艦が多発していた。

「何ダ……一体何ガ起コッテイル………」

唖然となっていた装甲空母姫達だが、その一瞬を狙った様にすぐ近くに居た空母ヲ級と軽空母ヌ級が遥か遠方から飛来した巨弾によって甲板を艦載機毎吹き飛ばされた。

 炎上する打撃部隊の向こう側から現れた巨大戦艦に気付いてようやく我に返り、応戦しようとしたが自分達の射程外からの砲撃に対処する術を失った今となっては撤退するしかなかった。

「クッ……撤退ダ!全艦急イデコノ海域ヲ離脱セヨ!」

『ハッ!』

残存艦が我先にと巨大戦艦の射程外へ逃れようと機関を限界まで回すが、相手は平行世界で幾度と無く厳しい戦いを潜り抜けてきた艦であり、その倭が目の前の敵を逃すわけが無かった。

 ジワジワと機動艦隊を追い掛けながら1隻1隻確実に撃沈してくる巨大戦艦はまるで自分達が航空機を出せない事を知っているかのようだった。ここに来て装甲空母姫は相手を『たかが18インチ砲戦艦』と甘く見ていた事を後悔させられた。

「コンナ………馬鹿ナ事ガアッテ堪ルカ………航空主兵論ガ通用シナイナド…ソンナ事ガアッテ堪ルモノカァァァァ!!」

『それは残念だったな。俺に貴様等如きの攻撃が通用すると本気で思っていたのか。』ザザッ

「オ、男ガ乗ッテイル、ダト?」

『装甲空母姫サマ!オ逃ゲ下サイ!私ガ時間ヲ稼ギマス!化物メ!ココカラ先ハ通サナイワ!!』

「マ、待テ!行クナ!」

通信を入れてきた巨大戦艦の行き足を少しでも遅らせて装甲空母姫の逃げる時間を稼ぐ為に巨大戦艦目掛けて体当たり同然の勢いで加速して行ったヲ級。それにつられたのか、ヌ級達も反転して体当たりを仕掛けていく。だが、そんな彼女達の勢いすら、

 

『どけ、雑魚共。貴様等に用は無い。』グンッ

『ギャァァァァァァァァァ!!』バキバキッ

 

巨大戦艦を止めるには全く足りなかった。先頭で体当たりをしようとしたヲ級を僅かな動きだけでかわして無防備に晒された横腹にその巨大な艦首をぶつけてめり込ませ、その勢いを利用して近くまで接近していたヌ級に艦尾を叩き付けた。これによってヲ級は巨大戦艦の艦首がめり込んだ船体中央から大量の浸水に見舞われ、ヌ級は圧壊した艦中央部から二つに分かれてあっという間に沈没して行く。

 通常の戦艦であればこのような体当たり戦法は行わないのだが、超兵器と戦う事の無いこちらの世界の戦艦や空母が超兵器と戦う為に船体強度と装甲強度が異常に堅くなっている倭と衝突すればどうなるのかは簡単に想像できるだろう。まして満載排水量が約1万トンや4万7千トンの空母に対して倍近い8万トンの戦艦の衝突エネルギーに耐えろと言う方が無茶なのだ。

 一度逆進をかけて艦首を引っこ抜き、再び艦首をヲ級にめり込ませて両断した後、その巨体で針路上に居たイ級数隻を纏めて粉砕しながら装甲空母姫目掛けて真っ直ぐ迫る。しかし、巨大戦艦の頭上から別の影が複数迫っていた。念の為にと発艦させておいた多数の戦闘爆撃機が巨艦の主砲付近目掛けて一斉に爆弾を投下して素早く離脱していく。

『コレデモ喰ラエ!』

『ヒャッハー!コレデ終ワリダゼェ!』

4発の爆弾が前部主砲2基に直撃し、派手な炎と煙が巨大戦艦を覆った。深海棲艦達はようやく明確な被弾が確認された事で少しだけ反撃の切欠を掴んだかに思えた。

『コレダケ浴ビセリャ大和型ダッテ大破モンサ。タダデ済ムワケガ………』

だが、その喜びを嘲笑うように煙を突き抜けて来た巨大戦艦は僅かに煤けているだけで凹みすら見当たらなかった。それもその筈、投下したのは徹甲弾と1t爆弾なのだ。本来ならば甚大な被害を受けるのだが、主砲の上面は厚さ800mmの装甲板によって固められており入射角次第では80cm砲弾すら弾ける様に設計されていた。それ故徹甲弾や1t爆弾が効果を発揮出来なかったのである。

『クソッ!ナラ今度ハ蜂ノ巣ニ変エテヤル!』ダダダダダダッ

 ここで魚雷攻撃に切り替えれば良かったのだろうが、現在上空に居るのは戦闘爆撃機のみであり爆撃経験はあっても雷撃経験など微塵も無いパイロット達が搭乗していた為、何度も爆撃と機銃掃射を仕掛けて対空兵装の減殺を試みたりしていた。

『12、7mmヲ弾クダト?!ッグアァァッ!!』

『何故ダ……何故アノ戦艦ハ被弾シナインダ!』

 しかし今度は対空兵装の防楯が機銃弾を悉く弾き返し、高性能機銃が爆弾を徹底的に迎撃してくるので兆弾や空中爆発にも警戒しなくてはならなくなった。その上、何処に爆弾が落ちるのかが分かっているかの様に鋭い回避軌道を描くので中々当たらなかった。

 そして業を煮やして闇雲に突っ込んだ瞬間、待っていたと言わんばかりに40mmの弾丸のシャワーをしこたま浴びせられて撃墜される機が続出した。雷撃経験や反跳爆撃経験があればそれなりの被害を与えられただろうが、何とか急降下爆撃で被害を与えようと固執してしまった結果、最終的に全滅するまで彼等は他の攻撃に切り替える事は無かった。

 

 

 

 

倭が暴れている後方で打撃艦隊の残敵掃討に当たっていた時雨達は倭の強烈な艦首攻撃に呆れ半分驚愕半分の反応を示していた。

「わー倭ったら派手にやってるねー(棒読み)」

『急にどうしたんですか時雨さん?』

「今の倭は僕でも止められないなぁって思ってただけさ。あの装甲空母姫が可哀想に思えて仕方ないよ。」

『でもまさか体当たりかますなんてあたしも思ってなかったよ。おっとこれで沈みな!』バシュッ

『盛大に突き刺さってましたけど、倭さん大丈夫でしょうか?』

「大丈夫大丈夫。ぶつかったくらいで倭が傷なんて付く訳ないもの。(多分倭の事だから艦橋で笑いながら指揮を執ってるんじゃないかな)」

そんな事を言いながら時雨は段々自分が倭達の世界の感覚に染まり始めている事を感じ、少し妙な気持ちになる。

 長波が辛うじて浮いて漂流中の戦艦タ級にトドメを刺した後、合流のために倭に近付いても良かったのだが手当たり次第に体当たり攻撃を行って深海棲艦達を沈めていく姿は悪魔に等しく、とても近寄れる状態ではなかった。

 両舷に配置された40mm機銃で敵艦の船体に攻撃しながら冷却を終えた副砲群で周囲に居るヲ級やヌ級を蹴散らし、主砲弾を装甲空母姫目掛けて叩き込み始める。

 周辺には艦隊を組んでいたであろう護衛駆逐艦と軽・重巡洋艦達の残骸が波間に漂っており、その殆どは主砲の至近弾によって撃沈されたものである事を記しておく。その護衛目標として20隻以上いたヌ級とヲ級は逃げる間も突撃する間も無く降り注いだ榴弾で5隻近くまで減殺されていた。飛行甲板や舷側に直撃を受け、大穴を穿たれて二つに折れながら轟沈していく仲間を見て、逃走を図った艦も居たが逃げようとした方向は時雨の搭載する新型超音速酸素魚雷の射線上だった。

(タイミングが良いのか分からないけど……この魚雷の真価を知る絶好の機会だ……やらせてもらうよ!)

新型魚雷『ゲイボルグ』を搭載する4連装発射管が稼動し、時雨の右斜め前方をよたよたと航行するヲ級に狙いを定めて発射号令を待つ。

「新型超音速酸素魚雷発射用意!目標、右舷前方の空母ヲ級!3番、4番連管発射!」シャキン

発射されたゲイボルグは着水すると同時にロケットモーターに点火して急激な加速を始め、目標目掛けて時速5400kmの速度で一直線に水中を駆け抜けていく。数秒後、ヲ級の艦首近辺と艦中央部にそれぞれ1発ずつ命中し、巨大な水柱と共に大爆発を伴いながら艦首から沈み始めた。

「……………え?」

『……………はっや………』

『航跡……見えました?』

『何、あれ…………』

『ナイスキル時雨。』

 倭1人を除いてその場に居た長波達や発射した時雨自身も発射から命中までの早さに驚く以外の選択余地は無かった。発射して命中するまでに時間が掛かるのが魚雷というものだと認識していた彼女達だったが、発射して僅か数秒で命中する魚雷とは彼女達は露ほども知らなかった。

「この魚雷……強過ぎる……自重した方が良いね………」

速い上に凄まじい破壊力を持つこの新型魚雷がどれだけ倭の世界で猛威を振るったかが簡単に想像できた。何せたった4発だけで対61cm装甲を持つ倭の艦首を吹き飛ばして中破させた記録を持つ恐ろしい魚雷なのだから。

そして、陸軍兵を送還させる任務の裏にはこの新型兵器が開発された事を聞きつけて本土で解析・量産化を図ろうとしている者が手引きしたのではないかと裏事情を考えていた時雨だが、倭の砲撃音で意識を切り替えさせられた。

 見れば、装甲空母姫が榴弾の直撃で激しい火災を起こしている。急降下爆撃からの被害を防ぐ為の装甲甲板は倭が放つ61cmの榴弾に成す術無く食い破られ、副砲と両用砲から断続的に降り注ぐ三式弾の猛射は着実に艦内機構を破壊していた。

 トドメと言わんばかりに主砲から放たれた榴弾は1発が精確に装甲空母姫の艦橋を粉砕し、残りの5発は穿たれた破孔へ飛び込んで炸裂。装甲・非装甲区画を貫いて機関部で止まるや否や起爆した際の膨大な破壊エネルギーで竜骨に甚大なダメージを与え、周辺の重要区画を纏めて吹き飛ばした。その破壊力は船体外殻に激しい裂傷を伴わせ、10kmほど離れた位置に居た時雨達にもその裂傷が丸分かりだった。

 この時既に装甲空母姫は戦闘可能な火器類を全て破壊され戦闘力を完全に喪失していたが、倭は攻撃の手を緩めず確実に息の根を止めようと砲撃を続行していた。

『倭、もうこれ以上の攻撃は止めなさい。これ以上はただの虐殺になるし無駄弾だわ。貴方はそんな目的の為にここに居るわけではないでしょう?』

そこへ、笹川提督が待ったを掛けた。

 

 

 

 

「倭、もうこれ以上の攻撃は止めなさい。これ以上はただの虐殺になるし無駄弾だわ。貴方はそんな目的の為にここに居るわけではないでしょう?」

「何故だ?奴等は敵だろう。確かに無駄弾かも知れないが装甲空母姫と呼ばれているアレが本土に近い位置に居るのなら尚の事撃沈すべきだろう。」

「ただ撃沈すれば良いわけじゃないのよ。私の胃まで破壊する気かしら?」

目覚めてすぐに防空艦橋へ上がってきていた私に待ったを掛けられた事で、倭は砲撃を中断してこちらへ振り向いた。相変わらず不気味に輝く紅い目をしているのだがそんな事に怯む事が無くなった私は自分の胃を破壊する気かと言い放った時、倭の中でこの提督が常々無駄撃ちするなと五月蝿いのは胃潰瘍になりそうだからかとかなり違う解釈をしていたが。

「まぁ確かにたかがイラストリアス級に61cm砲を無駄撃ちするのは良くないな。それ以前に俺の砲弾に耐えられる奴が来ないのが悪い。」

「いやそれに耐えられるのって超兵器ぐらいでしょ。兎に角これ以上は止めときなさい。良いわね?」

「………トドメは刺さずに放置して見せしめにしてやっても良いだろうか。どうせこいつ等は待ち伏せてただけの斥候連中だ。」

「要は貴方にとっては雑魚同然と言いたい訳ね。」

無言で頷いた後、火災によって船体各所で爆発を起こし廃艦同然となった装甲空母姫を置き去りにして時雨達と合流した倭は再び日本本土目指して西進していく。

「でもどうして待ち伏せなんて………」

「暗号コードが深海棲艦側に流出してそこから我々の通信に混ざっている暗号や符丁を解読されていたのだろう。そうでなければ斥候艦隊など送り込みはしない。」

それは笹川自信も考えていた最悪の状況であった。まさに第二次大戦後期の日本軍の状態に置かれているのと同じなのである。

しかも敵は着実に数を増やしながら常に進化を続けている厄介な存在でありこれから先行われるであろう大規模作戦の重要情報が漏れ出した可能性も否定できない。もしそうなったら最前線の事を考慮しようとしない急進派連中が艦娘達に特攻作戦を強要する事は明白であり、この倭も例外なく作戦参加の命が下される。

それだけはどうしても避けたい。最愛の艦娘達を最善の策で、簡単な方法で護る手立ては無いものかと思案していた私の胸中を察したのか倭は、

「提督、心配しなくても俺はそう直ぐに沈んだりせんよ。この先どんなに無謀な作戦が待っていようと現場で抵抗の限りを尽くしてから俺は必ず戻る。俺の護衛に就いた艦は何があっても絶対に轟沈させずに生還させてやる。それが重装護衛艦として出来る務めだし、この約束は破る気は無い。」

と言ってくれた。淡々と言われただけだが、心強い約束をしてくれた事に内心でホッとした。だがそれは倭が自らの命を賭けてでも仲間の楯になろうとしている事を意味していると私が気付いた時、彼は笑って『自分の身は自分で護る。それくらい出来て当たり前だ。』となんでもないような素振りで言い切った。

「貴方の家は私達の居るトラック泊地よ。私達は戦友であり家族でもあると言う事を頭に叩き込んでおいて。」

「……了解。肝に銘じておく。」

ふと上空を見ると空が更に暗くなっており、見張妖精達が雨合羽を着用し始めていた。どうやらスコールが遅れてやって来たらしい。濡れ鼠にはなりたくないので第1艦橋へ戻ると、航海長以外の艦橋要員は居なくなっていたので訳を聞くとどうやら遅めの昼食を取りに行ったとの事。それを傍で聞いていた倭は足早に食堂へ向かって行ったが、私は艦長室に戻って日報を書いていた。書いている最中に食堂の方から明らかに食べ辛そうなカレーの匂いが漂ってきた上に3名程の絶叫が聞こえて来たものの、何があったのかまでは想像したくなかった。

 

 

 

 

 船体に当たる大粒の雨によってこびり付いた煤と硝煙の匂いを洗い流しつつ、倭に接舷した時雨達は食堂でとんでもない光景を目にしていた。その時の食堂には那羽呂少将を含めた50人ほどの陸軍兵も居たのだが、その彼等も交えて食堂の中央で輪になって何事かと覗き込んだり食事に戻ったりしている。

そしてその輪の中心に居る人物は倭と料理長、そして捕縛されて椅子に固定された副長、砲術長と何故か同じ様に捕縛された青葉の姿があった。どうやら青葉は密航してきたものの、艦内で迷子になった挙句、味方補給用予備弾薬庫に隠れていた所を当直で警備に当たっていた第4陸戦隊に見つかって捕縛されたとの事。結局倭に報告され、丁度良く処刑(笑)に処される2名の巻き添えになったらしい。

「で、態々密航してまで俺に聞きたい事は何だ?内容次第ではお前さんが一番最初に処刑執行という事になるが。」

「いや、その~時雨さんとの仲を詳しく聞きたくt『本当は?』平行世界から来た倭さんなら何か良いネタ記事になると思ってました…………」

「そうか…………一番最初は青葉。貴官だ。」

『ラジャー!!』ビシッ

「へ?!青葉本当の事言いましたよね?!」

「本当の事を聞いたからこそ執行の価値があると判断した。俺謹製の海軍カレー(激辛)を存分に味わってくれ給え。あぁそうだ、お代は俺の奢りにしておくよ。」ニッコリ

スプーンに乗せられた異色のカレーが有無を言わさず青葉の口内へ消えた瞬間、青葉は泡を噴いて気を失ってしまった。この時青葉が気絶したのは辛さではなく舌に発生した激痛によるもので、ワザと倭がカレーに入れるタバスコを多め(通常2本。青葉用に+1本)にした所為である。

「さて、副長に砲術長。君等はもう少し辛さの度合いを高めたものを用意して置いた。遠慮せずに食べてくれ。」ニヤリ

『え、遠慮させてもらいます………て言うか料理長、艦長を止めt「ヤダ。」即答された?!』

2人だけ明らかに青葉と違う処刑状況に抗議してみたものの、料理長に助けてもらえるどころか即答で拒否された挙句倭にホースを向けられると言う絶望的状況に陥る事になった。

「さぁ食え(飲め)。」グッ

『ノォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!』

結局ジャッジが下された3人の内、青葉は問答無用で営倉行きとなったが残りの2人は本土へ到着しても艦橋に戻って来れないほどの舌の痛みと腹痛に襲われたという。余談だが処刑(笑)実行の後、何故か倭だけ1時間ほど時雨に説教を受けたのは誰も知らない。

 場所は大浴場に変わるが、そこで倭は那羽呂少将と将棋をやるついでに少し雑談をしていた。

「もうすぐ本土へ着くが離艦の準備は出来ているので?」パチッ

「うむ。ガ島から本土までの我々の輸送、実に感謝している。」パチッ

「俺は任務を遂行しただけです。それに、苦しい時こそ助け合わねば成功する作戦も失敗しかねない。」パチッ

「尤もだ。我々陸軍も海軍の助力を得て協力しあわねば前大戦の二の舞になると危惧しておるのだ。だが嘆かわしい事に陸軍には『海軍の力など不要』と言って陸海軍共同作戦の立案を妨害する者もいるのだ。」パチッ

「………何時になれば人は戦いを止めて互いに手を取り合うのでしょうね…互いに妥協出来る所で妥協して互いが永く生きられるようになるかもしれないのに……あ、王手です。」パチッ

「むぅ…これなら………倭君何時互いに手を取り合えるようになるかは分からん。情けない事に人とは争い無くして生きていく事が出来ないのだよ。子供の頃から競争心を高めて他人よりも高い地位に就く事が素晴らしい事だと教えられて、な。」パチッ

「……………やはり人間とは理解しがたい……だが、俺は奴等ほど簡単に人を見捨てられない。だからと言って大事な物を護る為の戦いは止められない。……またまた王手です。」パチッ

「…………お手上げ、だ。流石に強いな。私もまだまだ弱いか。もし君が一番大事な物を護る上で迷った時の為に忠告をしておこう。躊躇ってはならん。いざという時には迷わず行動したまえ。」

「……………」

人として倭自身よりも長く生きている那羽呂少将の忠告は胸の内に響き渡り、倭にある種の答えを弾き出させる事となった。

(俺が、一番護りたい物、か………)

あてがわれた部屋へ戻っていく少将を見送りながら考え事をしていた倭の脳裏には何時も自分の後ろに付いて周る少女の姿が浮かんでいたがその彼女が本当に一番大事で護りたい物なのかは未だ判断できなかった。

(まだその事を考える必要は……無いのかも知れないな………どうせ一時の気の迷いでしかないんだ……)

 

 

 

 

 装甲空母姫達を撃破してから3日後、雨で視界が悪いにも関わらず前方には市街地の灯りが煌々と輝き、横須賀鎮守府が間近にある事を感じ取ったと同時に横須賀鎮守府の方面から1隻の駆逐艦が近付いて居る事も電探で補足しており、恐らく誘導役の駆逐艦だろうと推測していた。

『貴艦隊の誘導役を任されました横須賀鎮守府第4艦隊所属駆逐艦吹雪です。1番桟橋まで誘導しますが視界が悪いので見失わないで下さい。』

「こちらトラック泊地第2艦隊旗艦重装護衛艦倭。貴艦の誘導に感謝する。艦隊各艦は個別に指定された場所へ接岸せよ。」

 倭ほどの巨艦ともなると大和型用の長大な桟橋では微妙に長さが足りないのだが、無い物強請りをしても仕方ないと諦めて桟橋に沿って艦を止めて、本館へ向かう準備を整える。

 既に桟橋では誘導役の吹雪と秘書艦龍田が待機しており、乗艦していた陸軍将兵2000余名が先に離艦して陸軍参謀本部から来ていた輸送トラックに乗り込んで出立していき、倭が笹川提督の傘を広げて共にラッタルを降りていく。笹川自身は自分で傘を差すつもりだったが黒い外套を纏った倭が既に傘を広げて待機していたので止む無く行動を共にしていた。

「長旅御疲れ様でした。笹川提督、本館で総長がお待ちしておりますのでお急ぎください。」

「ありがとう龍田。ところで、彼の部屋だけど……」

「その点は心配しなくてもちゃんと用意してありますよ~。護衛の娘達と同室ですけど~。」

「さいですか………」

またしても男女共同部屋にされた倭が龍田に何とか変えられないのかと交渉していたが『総長権限だから無理です~』と突っぱねられていた。そんな中、吹雪は初めて見る並行世界の『倭型』に見惚れており『大きい……』などと呟いていたが、

「吹雪ちゃ~ん。早く部屋に戻らないと風邪引いちゃうわよ~?」

と龍田に呼ばれて慌てて本館へ向かう倭達に合流して移動して行く後ろ姿を主の降りた鋼鉄の城が雨に濡れながら静かに見送っていた。

 




 戦闘描写上手く書けてるか疑問です………空襲してきた張本人は装甲空母姫達ですが初登場の割りに倭にボコボコにされてますが…………
 そして最後の最後におふざけが混じってるのは御愛嬌という事で…………別に鋼鉄艦で艦これの敵艦に体当たりしても問題無いヨネ?
 前書きにも書いてますが、エクストラ編の準備進めておりますが本編制作にも追われているので何時になるかは分かりませぬが暫しお待ちください。
 もし誤字、ご意見等ありましたらご報告&メッセージボックスまで願います。

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