恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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 皆様明けましておめでとうございます
「倭:とっくに三箇日過ぎたのに何言ってんだ。遅筆過ぎるって何時も言ってるだろうが。」
今回は前編後編に分けてお送りいたしますです。いやー最後の後書きに妙なの載せましたがあまり気にしないでやってください。それにしても鋼鉄製規格外艦はやっぱり常識外れなんでしょうかねぇ
 作中にいくつか小ネタがあるので発見された方はメッセージでも送っていただければ幸いです。

それでは本編へ!


報告と大きな差 前編

 トラック泊地へ帰還した倭達の中で倭だけは休む間も無く本土へ向かう準備を進める。陸軍将兵2000余名を自らへ移乗させ、本土へ送り届ける事で任務終了とされていたからである。

 それと同時に大本営に新型兵装開発の報告を行う為に笹川提督も乗り込んでいたが、倭本人が艦橋に居ない上に抜錨予定時刻まで暇を持て余していた。そこで、倭艦内の資料室へやってきて色々と読み漁っていた。特に目を引かれたのは倭型直属護衛艦建造記録であり、倭を護衛していた艦船に関する事が書かれていた。

(倭建造開始と同時に旗風型ミサイル護衛艦及び白露型護衛艦10隻の建造を開始、か。こっちの白露型とは別格の性能の白露型って事かしら。)

旗風型に関しては何とも近代的な艦船の姿をしている事までは理解出来ても説明文が英文交じりなので所々が意味不明となっていたが、建造計画録はまだ読めそうだった。

 

◎①計画(直属護衛艦)

・速力:70kt

・航続距離:36ktで4万海里

・搭載主砲:口径は12.7cm又は10cm連装2・3基

・搭載魚雷:2基4連装

・防御装甲:12cm防御

・対空型

 

◎①計画(直属護衛艦)

・速力:70kt

・航続距離:31ktで4万海里

・搭載主砲:口径は15.5cmとし3連装4基

・搭載魚雷:2基5連装

・防御装甲:15cm防御

・多目的型

 

◎①計画(戦艦)

・速力:80kt

・搭載主砲:60口径51cm3連装4基

・搭載対空砲:両用砲及び40mm4連装機銃多数

・防御装甲:61cm防御

・攻撃型

 

ほぼ倭型用の護衛に計画された駆逐艦として10隻ずつ建造され、その殆どが対空・対潜を重点に置かれた設計が成されているが、倭型は現在と違って攻撃重視の設計が成されていた。

 その写真に写る戦艦の姿は今の倭に酷似した試作艦というべきだ。恐らくこの艦から得られた試験結果から倭型が出来た、という事だろう。

 続いて倭の戦闘詳報だろうか、所々赤黒くなった部分が目立ったものの、意を決して捲ってみた。しかしそれは読めなかった。資料が最初から最後まで赤黒く染まり、紙同士が張り付いて捲る事が出来なくなっていた。色々考えて私は首を振って考えるのを止めた。余計な詮索を入れるのは止めておきたかったし、それ以上聞く度胸など持ち合わせてないから。

 倭の戦闘詳報を読むのを諦めて白露型建造計画録と一緒に元の場所に戻した時、『戦歴:白露型』と書かれた書類がすぐ横にある事に気付いてそれを捲ってみた。

 

○白露型戦果

◇白露

・小型艇111隻

・輸送船11隻

・駆逐艦111隻

・巡洋艦111隻

・戦艦11隻

・空母11隻

・航空戦艦11隻

・潜水艦11隻

・航空機111機

 

◇時雨

・小型艇68隻

・輸送船98隻

・駆逐艦50隻

・巡洋艦37隻

・戦艦29隻

・空母29隻

・航空戦艦62隻

・潜水艦99隻

・航空機999機

 

◇村雨

・小型艇63隻

・輸送船29隻

・駆逐艦30隻

・巡洋艦12隻

・戦艦5隻

・空母25隻

・航空戦艦77隻

・潜水艦250隻

・航空機765機

 

◇夕立

・小型艇70隻

・輸送船98隻

・駆逐艦55隻

・巡洋艦30隻

・戦艦30隻

・空母29隻

・航空戦艦70隻

・潜水艦98隻

・航空機999機

 

1番艦白露から4番艦夕立までの戦果しか書かれていないが、明らかに駆逐艦のものとは到底信じ難い戦果を叩き出している。こんな戦果ありえないと思ったが、戦艦や空母が大量に建造されては大量に沈む世界なら分からなくも無い、と思いながら戦歴か何かが書いてあるであろう頁を捲っていく。

 

○白露型艦歴

・白露

 1997年11月11日竣工 200X年11月1日対デュアルクレイター戦にて戦没

・時雨

 1998年1月24日竣工 200X年12月31日北極海決戦にて戦没

・村雨

 1998年1月31日竣工 200X年11月1日対デュアルクレイター戦にて戦没

・夕立

 1998年1月31日竣工 200X年12月12日ジャワ島沖航空戦にて座礁放棄

・春雨

 1998年2月22日竣工 200X年7月17日カロリン諸島防衛戦にて戦没

・五月雨

 1998年2月23日竣工 200X年8月22日台湾沖航空決戦にて戦没

・海風

 1998年3月3日竣工 200X年6月6日対ドレッドノート戦にて戦没

・山風

 1998年3月23日竣工 200X年2月19日要塞砲攻撃作戦にて戦没

・江風

 1998年4月1日竣工 200X年7月17日カロリン諸島防衛戦にて戦没

・涼風

 1998年4月28日竣工 200X年8月17日台湾沖航空決戦にて戦没

 

「……………」

無言のまま白露型が壮絶な最期を遂げた事を記す書類を眺めていた。史実でも白露型は全滅しているが、それとは全く異なる形とはいえ全滅の運命は変わっていない事が悲しかった。恐らくこの書類を持ち込まれ、それ目の当たりにして来た倭も同じ気持ちだったろう。

「私も何にも分かってなかったわね………」

 

 

 

 

 その頃、倭は雨月の下を訪れある物を渡していた。

「兄上、これは……」

「返しそびれていたがようやく返す事ができる。倭型重装護衛艦2番艦雨月、貴官に軍艦旗を返還する。」

「確かに、受け取りました………」

倭の艦長室に飾られていた4つの軍艦旗の内の1つが雨月に返還された。雨月が畳まれた軍艦旗を受け取ると同時に軍艦旗は光の粒子となって艦尾に集束し、再び風に吹かれて翻った。

「本当は作戦前に返還するつもりだったんだがな。遅れて済まない。」

「いえ、気にしないで下さい。返されると思ってませんでしたので。それよりも超兵器戦での傷は如何なさいましたか?まさか船体だけ直したわけではありませんよね?」

雨月の指摘通り、倭の軍服の隙間から白い包帯が見え隠れしているわけでは無いが、明らかに船体だけ直して体の方は応急処置で済ませているのが丸分かりである。それは軍服の色が明らかにおかしい部分があるから誰にでもバレる筈なのだが。

「大した怪我ではない。たかが機銃座を吹っ飛ばされた程度の怪我など気にするほどでも無い。」

「そうですか。では後ろを御覧になってください。」

「む?」

言われて振り返ると、

「…………………」ニッコリ

笑顔の時雨が居た。だがその笑顔は何時にも増して威圧感があり、雨月すら一瞬だけ押されたほどであった。彼女にも倭が超兵器戦で損傷した事は知らされているので、その事で明らかに怒っているのは明白であり、心配かけて済まないとか言うものだと雨月は期待していたが鈍感戦艦と名付けられただけある倭は何故怒っているのか検討が付かなかった。

「どうした?君はまだ改装中じゃなかったのか?」

(何故そこでその言葉が出るのですか?!)

「改装はとっくに終わってるよ。」

どうやら改二改装は無事に済んだようで、前よりも幾分か大人びて見えるのだが、倭はそんな少女から只ならぬ雰囲気を感じ、曳船に引き出されてくる彼女達の船体を見て唖然となった。57mmバルカン砲2基、新型超音速酸素魚雷4連装1基、特殊弾頭誘導魚雷4連装1基を搭載した時雨と夕立は明らかに通常の改二改装とは異なる姿であった。

「それなら良いが……あの装備を搭載したか………で、それ以外に何か用があるのか?」

「超兵器と戦って損傷したって聞いたからね…………また応急修理をやったのかい?」

「ああ。小破以下の損傷だが心配するほどのものではないよ。向こうの世界ではこの程度日常茶飯事だったからな。」

軽く言っているが兄上の損傷は決して軽いものではなく一歩間違えば弾薬庫引火によって鉄底海峡の鉱床の一部になっていたかもしれない。兄上の事を好いている彼女が心配して当然と言える。

「それだけじゃないよね?僕確か前にも無茶しないでって言った覚えがあったんだけど。」

「確かに火災は発生したし、微量の浸水も発生したがどれも小規模なものだ。その程度で沈むほど俺達は柔に出来ていないがそれの何処が無茶になるんだ?」

だが兄上がその気持ちすら否定していく。“関係無い”“余計な御世話だ”“知った事ではない”そう言って周りから遠ざけられるような発言を繰り返し、閉鎖的な態度を取っていると他人から見られて独りになろうとする。しかし兄上も本心から言っている訳ではない。出来れば艦娘達が必要以上に超兵器に関わらない様にと配慮しているのだろう。

(今は兄上が大した被害も無く超兵器を撃破しているが、もし他の泊地に所属する艦娘達まで被害を受けた場合は間違いなく兄上は自責の念に駆られる…最悪は超兵器諸共自沈するかもしれない。そうなった時は私ではなく誰かが兄上を支えてくれれば良いが…………と言うかそれは彼女が適任、か………)

そうならない様に祈りながらも雨月の心中は穏やかではなかった。兄上は陸軍兵士達と笹川提督殿を乗せて本土へ向かうが自分はこの泊地で待機する事となり、随伴する艦は初霜、時雨、長波、清霜の4隻。

「……僕が君の事を心配するのがそんなに嫌かな?」

「そうは言って無いが…何故そこまで心配するのか不思議なんだ。俺達兵器は戦って傷付く消耗品でしかないというのに。そうだろう雨月?」

「まぁ…その気持ちは分からなくも無いですが……私としては折角受肉したので人の世の中をこの目でじっくり見聞きしてみたいですし、人並みに生活してみたいと思いますね。そう言った意味では時雨さんが兄上を心配されるのは当然かと。」

「俺には良く解らん……取り敢えず時雨、君の支度を手伝った方が良いか?」

「!そ、そうだね。手伝ってもらって良いかな?」

「というか時雨さん良く迷いもせずにこの部屋に辿り着きましたね。」

と良い雰囲気になり始めたので少し疑問になった事を聞いてみた。何よりこの倭型は前級の大和型より多少改善されたとはいえ、迷い易い構造になってしまっているのだ。実際に私が沈没する際に離艦しようとして迷子になりそのまま脱出できず私と運命を共にした者が殆どだ。だから彼女が何の苦も無くこの艦長室へやって来た事が不思議だった。だが彼女は笑いながら答えた。

「雨月さんより倭はもっと複雑だったからね。もう倭の中で迷う事は無いかな。」

成程、それなら彼女が簡単に此処へ着けた理由が分かる。それにしても兄上の艦内が私より複雑だったとは驚きだ。全く、解放軍の連中は一体どんな改造を施したのやら………

 

 

 

 

「ねぇ倭。」

「む?」

時雨から呼び止められた事に何の疑問も抱かずに横を向くと倭にとって奇妙な事を聞かれた。

「改装する前の僕と今の僕、どっちが可愛かった?」

その質問は可愛い云々という認識が非常に薄い倭にとってかなりの難題になっていた。確かに以前と姿は若干変わっているがそれをどう言葉に表せば良いのか分からない。だが前と変わらない部分もある事に気付いた。それは雰囲気だった。かつての時雨より力強さを感じるがその中に以前と変わらぬ儚さがハッキリと感じられた。だから倭は、

 

「可愛いというより、『綺麗になった』よ。君は。」

 

と言った。ただ、これは倭の本心から出た言葉であり決して世辞などでは無かった。それは時雨の心を確実に撃沈するには十分過ぎる言葉でもあったのだが、肝心の倭はその言葉の真意を理解していなかった。

「~っ///」カァァァァァァ

「?」

耳まで赤くなった彼女を置いて倭は荷物の搬入作業を手伝い、その都度新型魚雷を睨んでいた。あの世界でこんなモノが開発されなければ旗風が沈まなかったのに、と。

(いや、もう過ぎ去った事を嘆いていても仕方ないか。それにしても、俺も一航戦の連中をどうこう否定できんな。俺もまた過去に縛られ、抜け出す努力をしていない。だが………ゲイボルグまで開発された、となるとヤツが来るのか…………もうあの日の二の舞になって堪るか。絶対に誰も沈めさせはしない。)

 

 

 

 

 抜錨予定時刻1分前になってようやく戻ってきた倭は笹川提督が艦橋に居ない事に気付き、意識を集中した。幸いそう遠くない資料室に居るようなので、出港の合図を示す霧笛を鳴らして錨を引き上げる。

「機関微速。水道を出たら艦隊巡航速力12ktに合わせる。」

「艦長、合わせるって言っても艦隊巡航速力自体が本艦の微速じゃないですか。そりゃ最大戦速で突っ走ったら駆逐艦の燃料も来賓の寿命も吹っ飛んじゃいますがね。」

「まぁまぁ此処までのんびりした艦隊行動は取らなかったから仕方ないですって副長。向こうじゃ30kt以上が艦隊巡航速力でしたし。」

「そうなると何だか俺だけが規格外とか異常とか言われてるみたいなんだが。」

「「ええそうですが何か?」」

「…………(コイツ等2人極刑決定。後で地獄を見せてやる。)」

一応燃料は往復分積んできたが、向こうで補給しないと少し心許無かった。それにしても出港してすぐだと言うのに本土方面の空は暗雲が広がりかなり暗かった。往復で20日近くかかる航路を倭達は進みだす。その先に何かが待ち受けているのかも分からずに。

「陸戦隊、直ちに第2艦橋へ集合せよ。」

第1艦橋の指揮を副長に任せて倭自身も第二艦橋へ向かうと、そこには彼より早く迷彩柄の服に身を包んだ妖精達24人が揃っていた。彼等こそ倭の陸戦隊であり、過去に何度か倭がシュバルツ・ゾンダークへ舷側で体当たりをした際に切り込みを仕掛けて敵戦艦を拿捕したり鹵獲したりととんでもない戦果を上げていた。

 倭は総勢24部隊もの陸戦隊を保有しており、その人数は144人にも登り上記のような戦果を上げてきた猛者達で彼等の指揮下で負傷者は出たが戦死者は誰1人として居なかった。その隊長達を集めたのは、色々と訳ありだからだ。

「遅れたのは俺かな?」

「いえ。艦長がお呼びなるかもしれないと我々の独断で集まって居りましたので気にしないで下さい。」

「そうか。では君達に遂行して欲しい任務を言い渡す。本日より横須賀港へ寄港するまで本艦内部を巡回せよ。特に大浴場周辺は念入りにな。」

言い渡された任務とはただの巡回任務。その事に数名は首を傾げたが、察しの良い者は何度か頷いていた。それもその筈である。艦娘だって風呂に入るのだが、何より駆逐艦では風呂が小さい事もあって大型艦の風呂を借りる事がある。

前回の任務では扶桑姉妹が居たのでそちらに頼っていたが、今回大型艦で贅沢に水を使える艦といえば倭しか当て嵌まらなかったのだ。そして案の定笹川提督から自分と艦娘達に風呂を貸して欲しいと頼まれた。だが忘れてはいけないのが今の倭には陸軍将兵2000余名が乗り込んでおり、彼等もまた風呂に入るのだ。その為、間違いが起こらない様に艦娘達を先に風呂へ入らせ、全員の入浴が終わるまで陸戦隊を警護に就かせる。

「成程、陸軍さんも戦場ばかりで女に飢えていると。」

「そういう事だ。君等には負担を掛けるが万全の体制で任務に就いて欲しい。勿論交代制だから心配するな。尚、銃火器の携帯は必須だ。常に4人以上で警戒に当たってくれ。特に大浴場付近は8人以上で居るように。」

「配置等は我々が決めても宜しいのですか?」

「ああ。その辺は君等に任せる。では、頼んだ。」

『了解!!』

任務を伝え終えた倭が第1艦橋に戻る姿を見送ってから急いで各自が指示された事を部隊に告げて装備の点検等を済ませていく。

 

 

 

 

 そして各艦で食事を終えていよいよ入浴の時間となったが、大浴場へ来た時雨達が見たのは迷彩服を着てM249軽機関銃やM16A2ライフルにRPGといった艦娘達も知らない重装備で大浴場周辺を歩いている妖精達だった。4頭身程度のサイズでありながら、重武装をしている姿は阿修羅か何かかと疑ってしまう。理由を聞くと『今の陸軍さんは女に飢えていると推測した艦長から陸軍さんが間違いを起こさない様に警護に就けと仰せ付かりました。横須賀に着くまで艦内では我々がお守りします。』という。

 艦内のそこかしこの廊下で数名の迷彩服を来た妖精を見かけたのはそういう理由だったのかと納得すると同時にちょっとやり過ぎな気もした僕達だったけど、倭なりに『安心して入って欲しい。』という気持ちがあったんだろうね。

「しっかしあの妖精達見た事ねぇモン持ってたな~あんなので撃たれたらあたし等ヤバイかもな。」ガララ

「わぁ~!やっぱり戦艦のお風呂っておっきいなぁ~!」キラキラ

「ホントに広いわね………一体何人入れるのよ……」

「時雨さんって何度かここ使ってるんですか?」

「え?まぁ何度か作戦行動中に借りた事あるけど…急に如何したのさ?」

「何だか妙に倭さんの艦内を歩き慣れてるなぁって。ここに来るの一番早かったみたいですし。」

初霜から言われた事に確かにと頷く長波。清霜は倭の広いお風呂に大満足のようで、目を輝かせていた。何度かここに来た事はあるけど理由としては倭が停泊している間は良く艦内の散策に来ていたから勝手に覚えただけだった。

「倭がトラックで停泊してる間は掃除とか手伝った事あるからね。自然と覚えるものだよ。」ザバァ

「そういうものですか。」ザバァ

 

 

 

ーーーーーー1時間後。

 

 

 

「あ~良い湯だったぁ~」

「そうね。あれって薬湯かしら?」

戦艦には似合わないかもしれないが浴場の片隅に3種類の牛乳が入ったボックスが置かれているあたり、銭湯好きの妖精かはたまたは倭の趣味だろうか。各々がそれぞれの牛乳を手に取り飲み始める。

「あ、皆早く扉から離れないと掃除の人達が入れないよ。」

「え?使い回ししないの?」

「またお湯は入れ直すから心配しなくていいよ。」

「えっ?!お湯を入れ直すなんて何て贅沢な!はっ!!もしかしてこれが戦艦にだけ与えられた特権なの!?」

「いやそれ違うし。でも入れ直すってなんつー贅沢な……」

「勿体無くないですかね?」

明らかに間違った解釈をしていると悟った時雨は倭から聞いた倭の循環システムを提督達に話した。提督や長波、初霜は理解してくれたが清霜はいまいち理解しきれないままだったが何も知らないよりはマシだろう。

 すぐ近くでは掃除用具を乗せた台車を運んできた妖精達が動き出しており、既に中に入って湯抜きをしている者も居り、牛乳を補充している妖精も居た。

「つまりろ過し続けて綺麗なものにし続けている、と。だから水は使い放題だったのね。」

「でもその原子炉ってのを利用して分解してる水って事は放射能汚染とか大丈夫なのか?」

「だからさっきも言ったじゃないか。僕にも良く分からないけど特殊装置に入れて出来た蒸留水だから大丈夫だって。そりゃ信用できないなら仕方ないけどね………」

「一応消毒処理はしてるんですよね?それなら良いんですけど。」

「あの~提督さん、そろそろ陸軍さん等の時間ですんで……」

もうそんな時間かと大浴場前に取り付けられた時計を見ると既に予定の1時間が過ぎようとしていた。

 

 

 

 

少々服が着崩れたまま艦橋へ現れた笹川提督の姿に何の反応も示さずに倭は応対していた。既に日は落ち、第1艦橋は大分近付かないと顔が分からないくらい暗かったが、服のあちこちに付いている蛍光色のお陰で辛うじて位置は分かった。

「良いお湯だったわ。ありがとう倭。」

「それは良かった。では笹川提督、寝る時は俺の艦長室のベッドを使ってくれて良い。」

「あれ?倭は寝なくても大丈夫なの?」

「心配御無用。寝ずの番ぐらい慣れっこさ。それに夜目を慣らしておかないと夜戦でヘマしそうでね。俺の事は気にせず使ってくれ。部屋の鍵を渡しておこう、と言っても合鍵の合鍵だがね。」スッ

「そっか……ありがと。それじゃあ珈琲でも飲む?」

「いや、戦闘に差し支えそうだから遠慮させて欲しい。」

「連れないわねぇ……じゃ、先に休ませてもらうわ。多分〇六三〇までには起きて来ると思うから。」テクテク

「では、良い夢を。」

「ええ。」パタン

笹川は艦長室に入った瞬間、凍り付いた。部屋の中央で3つの淡く光りながら浮かぶ青白い玉を見てしまった。恐怖と突然の事で動けなくなっていると、その光の玉は壁に掛けられた軍艦旗3枚に吸い込まれていった。

(え?何アレ?もしかして倭はこの事を知っててワザと私をこの部屋に泊めたっていうの?いやいや私こんな状況で朝まで持たないって!)

と、そんな風に考えていたが勇気を出して持ち込んでおいた報告書の整理を軽くやってからベッドに入った。朝まで恐怖に怯えるのかと考えてもいたが結局日々の疲れが出たのか朝までグッスリ眠ってしまったので無意味だったが。

 

 

 

 

 翌朝〇六三〇になる前から倭電探室は大忙しだった。突然、艦隊右舷前方に偵察機と思われる機影を探知した直後、その後方に多数の敵艦載機が電探に捕捉されたのだ。程無くして倭から艦隊全艦に対空警戒を促すサイレンが流れ、その音で時雨達は叩き起こされた。

『や、倭、一体如何したのさ?!』

「君か。急いで対空戦闘準備をしてくれ。本艦は既に対空戦闘準備が完了している。艦隊全艦、速力を最大戦速へ上げろ。本艦は巡航速度にて航行を続ける。」

『わ、分かった!』

「状況はどうなってるの?」

「お早いですね。深海棲艦が飛ばしたと思われる艦載機がこちらに接近中です。その後方に約300以上の敵機が接近中。これより本艦は対空戦闘に突入しますが何か提督から意見はありますか?」

同じくサイレンを聞いて起きて来た笹川に手早く状況を報告する倭。

「出来れば艦隊に到達する前に撃墜して頂戴。但し報告にあった黒い渦弾は自重して頂戴。」

「了解。砲術長、全砲門対空三式装填。1、2番主砲、1番副砲、右35へ旋回。射角調定急げ。」

『了解です。』

「機銃班、配置は?」

『出来ております。何時でも撃てます。』

「後3分で敵偵察機が視認出来る。指示あるまで待機せよ。」

『了解しました。』

現状の天気は生憎の曇り空で、雲が厚く低空まで垂れ込めていたが、僅かな雲の隙間から黒い点のような物が倭の目には捉えられていた。

「主砲、今直ぐ右29、仰角38.5へ調定せよ。先に偵察機を仕留める。」

指示通りに巨大な主砲は素早く旋回と仰角の調整を済ませ、号令を待つ。その間に駆逐艦達は倭の主砲の爆圧を避ける為に大きく距離を取る。

「1番主砲2番砲身、てッ!」ゴゴォォォォォォォォォォン

号令が下された刹那、激しい振動と鼓膜を破らんばかりの轟音が艦全体に響き渡り、主砲が向いていた海面を大きく深く抉る。ただ1門だけの射撃でそれだけの影響を及ぼすのだから全門斉射でもしようものならどうなるのか気になった。

 その発砲炎を確認した敵偵察機は、敵艦隊発見の報を母艦へ送ろうとしたがそれより速く飛んできた1発の三式弾によって跡形も無く吹き飛ばされた。

「三式、命中。」

「まぁこんなものか。2番砲身再装填急げ。次は敵の大編隊が来るぞ。」

(距離1万の敵機を一撃で撃墜?!61cm砲って大きいから対空戦闘には向かないと思ってたけど実は対空戦闘向きだったりするのかしら………)

そんな笹川提督の思いとは別に戦闘は続く。

「対空見張り員より報告!敵機80機右舷前方より視認!距離1万8千!」

『こちら電探指揮所。雷撃機と思しき敵機80機が中高度より接近中。尚、敵機220機中90機が高高度より接近中。こちらは間違いなく爆撃機でしょう。』

「すると残りの130機は戦闘爆撃機か。少々面倒だがちょっと本気でやるぞ。」

「ちょっとだけですか?もう少し出しても文句は言われないかと。」

「それ以上出すなら特技を使う必要があるからな。秘密兵器ってのはここぞと言う時に使うものだろう?」

「ハハハ。そうでしたな。では今回自分もお供します。」

「頼むぞ。『三角定規の副長』の異名は伊達では無い事を奴等に教えてやれ。」

そう言って副長と共に階段へ向かい、防空艦橋へと移動していった。その眼前には雲が広がっていたが、多くの見張り員が右舷前方に釘付けになっている。そして、副長がおもむろに懐から取り出したのは三角定規。

「さぁて、敵さんの御手並み拝見といこうか。」ニヤッ

その定規を手に副長はニヤリと口元を歪めた。

「前部主砲、目標敵雷撃機。全て薙ぎ払え!」

46cm砲よりも大きい61cm砲の衝撃波は安全の為に2kmほど離れていた時雨達にまで伝わり、清霜のテンションが上がる結果となった。

「続いて副砲・両用砲群撃ちまくれ!」

ここで今まで沈黙していた副砲と両用砲群が唸りを上げて三式弾の乱れ撃ちを始める。だがそれは雑に撃つのではなく、極めて精確に敵編隊の外縁部に飛んで行き、叩き落し始める。しかし、敵は上からもやって来た。

「敵機急降下来ます!数20!その後ろから30機降下してきます!」

「……航海長、28度だ。」カンカン

『了解!面舵28!』ガラガラガラガラ

ぐーっと通常の戦艦より早く艦首が右へ振られ、艦の描いた航跡の方で水柱が上がった。三角定規を利用して爆撃回避などおかしく思えるだろうが、副長はそういった事が出来る優秀な乗組員である。

「………次、35度。」カン

『取舵35!』ガラガラ

常に上を見ながらなので、面舵取舵だの言うのが面倒らしく、伝声管を万年筆で叩いた音で航海長は判断している。因みにお分かりだろうが2回叩いたら面舵で、1回叩いたら取舵、と決めているそうだ。

 それはさておき、急降下してきた敵機に対して対空射撃が開始されるが、今まで時雨達が見た事の無い量の対空火線が倭の右舷側から飛び出していく。二段構えの40mm4連装機銃に加えて高性能かつ精確に敵を攻撃する35mmCIWSが濃密な弾幕を展開して敵機の接近と爆弾投下を拒む。突然始まったスコールのような対空射撃から逃れられずに急降下してきた50機中30機以上が瞬く間に撃墜される。その弾幕から運良く逃れたとしても、次は時雨達護衛艦達から狙い撃ちされて撃墜される運命を辿った。

 再び大きな振動が起こり、主砲を撃っている事を感じ取ったが、今のは全砲門を撃った時の独特の衝撃だった。と言う事は右舷から来た雷撃機は……

『第1艦橋より防空艦橋へ。敵雷撃機80機中77機は主砲で全機撃墜しました。』

「良し。主砲の目標は味方護衛艦上空の敵機に切り替え。なるべく味方艦の死角に入った奴を狙え。」

『了解!』

 右へ左へ素早く舵を切って爆撃をかわし続けながら全砲兵装を乱射する為、時雨達は更に離れる事を強要されたが、そんな事はお構い無しに倭は対空射撃を続ける。

「左舷、魚雷3発接近!」

「偶には当てさせてやれ。当たったところでどうという事は無い。」

「敵の魚雷は確か53.3cmですが?おっと13度。」カン

「その程度で穴が開くような脆い装甲は施されていない。兎に角敵の攻撃は本艦へ集中する様に仕向けろ。決して駆逐艦達に被害を負わせるな。重装護衛艦の意地を奴等に見せてやれ。」

「やれやれ、艦長には敵いませんよ……っと25度。」カンカン

敵機の内何機かが左舷前方に居た長波と右舷前方に居た初霜に肉迫して行こうと迫って居る事に気付いた倭が1、2番主砲で追い払う。

 直後、左舷で3つの水柱が上がり、艦橋にまで水柱が降りかかった。防空艦橋に居た者は全員ずぶ濡れになったが戦闘の興奮で寒さなど気にならなくなっている。魚雷三発が同時に当たったというのに傾斜もせず、その勢いを保ったまま驀進を続ける倭。その勢いに呑まれた敵雷撃機3機が逆に反撃の機銃弾を浴びて墜落していく。

 

 

 

 

 まるでミシン縫いを見ているかのような弾幕射撃で敵機をバタバタ落としていく姿は正に針鼠と称しても良い位だしもしかしたら今の大和さんの対空装備とタメ張れるかもしれないね…っていうか大和さんと倭を比べちゃダメだよな………

「うわぁ…死んでもあんなのに撃たれたくねぇや………」

「馬鹿な事言ってないで戦闘に集中してくださいよ。敵機30機。戦爆機こちらに接近中。」

「主砲と機銃で迎撃急げ!長波様がこんな所で沈んで堪るか!!」

迎撃をしようとした直後、凄まじい衝撃で15機以上の敵機が粉々に吹き飛ばされた。振り返れば、1番主砲をこちらに向けて尚も激しい対空戦闘を続ける倭の姿が。どうやら手助けをしてくれたらしい。

(へぇ上手く撃ち落とすもんだ。こりゃ負けてられないね。)

「さぁ反撃開始だ!撃ちまくって撃墜してやれ!」

「了解!」

上空にはまだまだ敵機が居残っている上に、今度は倭の甲板で火花が散ってるのが見えた。もしかして敵機が機銃掃射でもしているのだろうか。

「機銃掃射とはえげつない事するじゃねーか。」

だが、その心配は杞憂だったようで、すぐさま機銃群から百倍返しの鉛弾が撃ち返されて先程機銃掃射をした敵機数機が空中で爆発四散する。周りを見れば、自分の後方に居る時雨も搭載してきたバルカン砲やらで敵機をバタバタ撃墜しており、放たれた魚雷も素早くかわしていた。

 直後、轟音が響いたのでチラリと横目で見れば倭の横腹に魚雷が3本当たったらしい巨大な水柱が出来上がっていた。が、それが如何したといわんばかりに傾斜すらせず、速度も落とさずに進み続ける巨艦の姿に若干引き気味になった。

「マジで要塞戦艦だわ……」

 

 

 

 

 倭に魚雷が命中した事は長波の後方、倭の左舷後方に居た時雨にも確認されたが何の影響も無く進み続ける姿にホッとした時雨。だが、気を引き締め直して近寄ってくる敵機を57mmバルカン砲で只管叩き落とす。

 見慣れぬ兵器で反撃してくる時雨から距離を取ろうとした敵機も居たが時雨がそれを逃す訳が無かった。

「遅いよ。」ドガガガガガガガガ

一応倭から弾薬の補給等は受けられる為気にしないで撃てるのだが時雨はなるべく少ない発射数で撃墜出来る様に心掛けていた。

「左舷上空爆撃機3!」ダダダダダダ

「取舵一杯!」

「取舵一杯!」ガラガラ

時雨自身駆逐艦は小回りが効くが戦艦は小回りが効かないと思っていたが、改めて倭の動きを見るとその概念を完全に覆しており倭の急旋回が駆逐艦の急旋回より鋭いのだ。明らかに艦首のバウスラスターだけでは成し得ないと内心思っていた。何と言うか航空主兵論が通用しないとでも言うべきだろうか。並大抵の攻撃では傷も付かない対61cm装甲には感服だ。あれ無しでは倭は倭で無かっただろうから。

 航空主兵論によって大艦巨砲主義が敗れたのとは逆に、倭というたった1隻の大艦巨砲主義の前に航空主兵論が敗れ去ろうとしていた。何より今まで培われた方法が通用しない、というのは中々恐ろしい事だ。

 ふと上空の敵機の数が異様に減っている事に気付いた。自分はそんなに撃ってはいないし無駄弾を使う事は避けるように言ってある。それなら誰が?答えは考えるより速く解った。

 上空に居た5・6機の敵機が纏めて吹き飛ばされた。弾道の方向を辿っていけば、4番主砲をこちらに向けながら回避行動を行う倭の姿があり、他の主砲も初霜や長波、清霜の上空を狙っていた。つまり死角になり易い真上を警戒してくれていたのだ。

(ありがとう倭。今ので君の思いが伝わってきたよ。誰にも傷付いて欲しく無いんだよね。それなら僕はその思いに答える為に全力を尽くすよ。)

 4隻の駆逐艦は護衛対象から逆に援護を受けながら全力で本土を目指す。超兵器の情報と助け出した2000余名の命を送り届ける為に。

 




○応急修理
 倭のみが持つ特殊技能の1つ。艦これ界の物とは違い、通常は3回まで使用可能な技能である条件を満たせば修理回数が増える。弾薬が補給されないのは当たり前だが、凄まじく浸水して傾斜していようとも、酷く損傷していても、例え主砲や艦橋が吹っ飛ばされていても、舵や機関が故障していてもあっという間に元通りにしてくれる有り難い機能。
 接舷している味方艦にも影響を及ぼすという嬉しいオマケ機能付きだが、全部使い切ると戦闘終了時に身体が異常なまでの倦怠感や、激痛に見舞われる等のデメリットもある。
解放軍所属時、この能力のお陰で倭は帝国軍から『不死者』『化物戦艦』『ゾンビ』『亜細亜の不滅神』と渾名された。
 余談だが、高速修復剤があれば応急修理の回数を増やせたりするがバケツ2個で1回分増えるというだけなので止めた方が良かったりする。


○白露型護衛艦(例:2番艦時雨)
・排水量6348t(最終時)
・速力74.4kt
・巡航32.2kt
◇武装(前期)
・12.7cm65口径連装砲:3基
・68cm4連装魚雷発射管:2基
・25mm3連装機銃:14基
・噴進爆雷砲:1基
・爆雷投射機:2基
◇(中期)
・12.7cm65口径連装砲:3基
・超音速酸素魚雷4連装発射管:1基
・特殊弾頭誘導魚雷4連装発射管:1基
・25mm3連装機銃:14基
・噴進爆雷砲:1基
・爆雷投射機:1基
◇(最終時)
・10cm65口径連装砲:2基
・新型超音速酸素魚雷4連装発射管:1基
・特殊弾頭誘導魚雷4連装発射管:1基
・30mmCIWS:6基
・噴進爆雷砲:1基
・爆雷投射機:1基


 はい上の奴は鋼鉄製白露型駆逐艦です。実は最終時の方が弱かったりする事実がつい最近判明しました………まぁ仕様だからシカタナイナ。
 え?鋼鉄製白露型の戦果がおかしい?そりゃ鋼鉄製だからな。それ以上は知r(新型超音速魚雷命中
 笹川提督が見た火の玉は何だったのか。それはまた何時か………後半は大艦巨砲主義で航空主兵論を撃ち破りたかったからあんな稚拙な文に………申し訳n(61cm硬芯徹甲直撃

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