恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

27 / 54
 ドーモ、CFA‐44デス。前回から何日開けちまってたのか分からないですが新作です。はい。
 ちょこちょこ別の描写がありますが気にせず読んでいってください。年末ですので今年最後の投稿になりますがどうぞ来年も宜しくお願いします。


疾風捉えたり

 

 

 

 雨月達が餓島に着く数刻前、近付くヴィルベルヴィントの姿を確認しながら、倭は何処か違和感を感じて居た。どう考えてもヴィルベルヴィントの速度がこちらの想定していた速度よりも速い。何度計算しても相対速度が約541.71kmと出てくる。

「妙だな……副長、ヴィルベルヴィントの速力は確か85ktだったな。」

「ええ。ですが……何か問題が?」

「今見える白波で予測できたが奴は明らかに暴風《シュトゥルムヴィント》並の速力でこちらに向かってきている。」

そんな馬鹿なとざわつく艦橋内だが、砲術長の一言で状況は一変する。

「確か奴と初めて戦う前に輸送船団を襲撃してましたよね?あれって超兵器用の特殊燃料だったはずでは?」

その言葉に倭と副長は顔を見合わせた。まるで答えを見つけたかのように。

「………ヴィルベルヴィントに関する資料を徹底的に捜す様に資料室へ連絡しろ。」

「急制動を掛けてたら分かるものも分からなくなりますがね。」

「大丈夫だ。あいつらの根性を信じてやれ。」

「了解です。」

急いで走り去る通信兵と副長の姿を見送って倭は針路を少し変更。ヴィルベルヴィントの針路上に向かって突っ込む状態になるが、このままの針路を維持していけば61cm砲4基12門の全火力を叩き込める算段ではあった。当然相手は超兵器故に通用するとは考えていないが、やらぬよりマシ、な考えの下である。

 互いを射程圏内に捉えた瞬間、互いの主砲が発射され大気を震わせる。相手の方が半口径ほど小さく初速・装填速度に優れているが倭の主砲も大口径でありながら装填速度・威力・射程共に非常に優秀かつ多数の超兵器と敵艦を沈めてきた素晴らしい実績を残している。

着弾の予測を行いながら尚も前進を続けるが、当然のように彼我距離はあっという間に縮まり小さな点にしか見えなかったヴィルベルヴィントが巨大な艦影になり始めていた。ここで倭は針路を再度変更し、

「ヴィルベルヴィントの再発砲を確認!着弾まであと10秒!」

「急速反転取舵一杯!!主砲装填弾を徹甲炸裂焼夷弾に切り替え!」

敵艦の発砲を確認すれば回避運動を行うのは当たり前だが、倭とヴィルベルヴィントの距離は5kmも無く、撃てばすぐに当たる距離に居るのだ。勿論視界は殆ど0に近い闇に包まれているが、高性能の電探を装備した倭とヴィルベルヴィントにはハンデなど無きに等しい。

半ば強引に同航戦に持ち込み、射線を確保すると再び主砲が火を噴いて大気を鳴動させる。初弾こそ命中しなかったが、2斉射目で5発が敵艦の右舷両用砲と魚雷発射管を粉砕しながら艦内深くで炸裂。燃焼剤を撒き散らしながら進んだ結果、ヴィルベルヴィントの煙突直下から後部艦橋付近まで火災が発生した。

『超兵器の煙突近辺から後部艦橋付近にかけて火災が発生した模様!』

そんな報告を受け取った直後、倭は小さな振動に見舞われた。至近距離で同航戦を行う以上、どうしても避けられない被弾も幾つかあるのだ。直撃した38.1cm65口径砲弾5発は何れも徹甲弾であったが、倭の装甲を貫くには力不足だった。だが、ヴィルベルヴィントの狙いは倭の装甲を貫く事ではなく、迎撃能力の低下を狙う事にあった。

『こちら機銃指揮所!7・9番CIWSが破損!11・13・15・25・27番機銃が大破!迎撃能力大幅に低下します!』

「ちとくすぐったいな………被害報告は後で良い。取り敢えず消火作業を優先してくれ。(という事は、ミサイル攻撃の準備をしているのか。艦尾へ攻撃を集中した方が良いな。)」

『了解しました!我々も消火活動に協力してきます!行くぞ!』

艦内通信が終わると同時に主砲がヴィルベルヴィントの艦尾を狙おうとするが、それ以上に目標の速度が速過ぎて主砲の照準が追い付いていないのが現状で、予想以上の苦戦を強いられていた。

「艦長!良い結果が得られました!これで奴のあの速さの秘密が分かりますよ!」

「どういう事だ?っと!なるべく簡潔にな!」

全神経を艦全体と同調させている倭本人は艦長席から動けないが、簡単な説明なら聞くだけでも出来た。勿論先のダメージは気になら無い程度だが“普通の艦娘であれば”手痛いダメージを受ける事になっただろう。

本来被弾によるダメージは艦娘の身体や着用している制服等に伝えて逃がしているのだが、非常識が常識たる倭にとって機銃座を吹き飛ばしたヴィルベルヴィントの砲撃は小石をぶつけられた程度の痛みでしかなかった。勿論対61cm装甲で防御を固めているお陰なのだが。

「分かってますよ。簡単に言いますと、我々が襲撃した時既にヴィルベルヴィントは燃料不足で全速を発揮出来ない状態でした。だから容易に捕捉・撃沈出来たのです。ここまで言えばお分かりですか?」

艦橋内は倭本人を除いた全員が「???」状態であったが、言われた本人は目を瞑りながら冷や汗を掻いていた。資料室長の言いたい事を理解してしまった、という事もあるが何より今の状態こそヴィルベルヴィントの真の姿だという事を知り、この先に待ち構えているであろう超兵器達も本来の力を取り戻しているかもしれないと想像してしまったから。

「詰まる所、あの時のヴィルベルヴィントは本気ではなかった、という事か。」

「燃料の制約が解かれた以上、本艦を本気で殺りに来ている事は間違い無いでしょう。」

この瞬間、艦橋内が急激に冷えていく感覚に捕らわれた事を感じ取ったのはその場に居た全員であっただろう。

 

 

 

 

‐トラック泊地工廠‐

「え?倭さんがこっちに来てすぐに造ったボイラーとタービンを載せて欲しい?」

「そうなんだ。それも僕と夕立の改二改装と同時進行でやって欲しいんだ。」

「無茶言わないで。機関を取り出すために一旦上部の装甲を切り離さなきゃならないのよ?仮に積み替えたとして切り離した装甲を繋ぎ直すのって結構時間掛かるの。簡単な様に見えて大変なのよ?それに提督から許可は出てるの?」

「提督の許可書なら僕が持ってるよ………どうしてもやって欲しいんだ。今やらなきゃ置いて行かれる気がするから………」

機関換装は手間が掛かるからやらなくても良いだろうという明石の意見に押されるが、それでも時雨は機関換装を言い出した理由を大まかに話した。

「……そこまで言うならやるしかないわね。提督の許可書も持ってる事だし。パパッとやってあげるわ。」

少し話しただけで明石は時雨が何故頑なに機関換装を求めたのか瞬時に理解した。そしてその願いを実現させる為に動き出す。

「え、でも時間が掛かるって………」

「それは普通に人間がやった時の話よ。今は妖精さん達が居るもの。それに私は工作艦『明石』よ?大船に乗ったつもりで居なさい!」

「……それじゃあお願いするね!」

「お願いしますっぽい!!」

後の事を明石に任せて工廠の中にある武器庫へ行ってみた。もしかしたら何か強力な、超兵器級に甚大な被害を与えられそうな装備があるかもしれないと淡い期待をしながら夕立とあれでもないこれでもないと探し回った。が、目ぼしいものは何一つ無かった。あったとしても駆逐艦の自分達では到底積めない代物の象徴とも言える80cm4連装魚雷を筆頭にデスランスも1つ足りなかった。

「これと言って通用しそうなのが無いね……デスランスも1つ足りないし………」

「ん~そういえば此間倭さんが開発する所に6回分開発する用の資材運んでるの夕立見たよ?行ってみるっぽい?」

だが、開発部署の倉庫に搬入されて間もない資材が放置されていた、と夕立が切り出したので行ってみる事になった。

 

 

‐開発部署‐

「えっと……その資材は倭さんが帰って来たら使うから置いといてくれって言ってるんで……勝手に使うと不味いんですよ……」ナミダメ

「「……………」」無言の威圧

「そんなに使いたいなら倭さんに許可貰ってからにして「ごめんそれ無理(っぽい)」即否定された?!」

あまりの即否定振りに思わず泣きたくなった妖精さんだが、夕立の一言でコロリと態度を変えた。

「む~これから倭さんのところに行く準備してるのにぃ~」プンスコプンスコ

「あ、それならそうと早く言ってくださいよ。」

「「え?」」

「実は倭さんから伝言がありまして“これは超最新型魚雷開発用の資材だが他に魚雷の開発がしたいと言ってきた艦娘が居たら優先して使わせてあげてくれ。絶対に魚雷が出る魔法のおまじないが掛けてある”との事です。お2人とも魚雷開発目当てで?」

そう問われて2人とも同時に頷いた。じゃあ早速運びますねと言いながらレバーを操作し始めた妖精さんだが、勿論何が出てくるのかは知らないものの、61cm4連装魚雷でも出て来るだろうと勝手に推測していたがその“おまじない”という意味深な事をやったのは規格外の塊とも言える倭である。他の妖精達は『どうせ碌でもない物だろ』という顔で見ているだけだった。

 鉄の扉が開くと、そこには何の変哲も無さそうな4連装魚雷が置かれていたが明らかに自分達が良く見る魚雷より1回り大きかった。そして何が出来上がったのかを表示する電光掲示板には、

 

「新型超音速(酸素)魚雷4連装発射管『ゲイボルグ』」

 

と書かれていた。それを見た誰もが何だこりゃ状態であったが、魚雷を主武装にして戦う駆逐艦の時雨と夕立には一目で何故倭が潜水艦を苦手としているのかが解った。

(今なら解る……倭が潜水艦を嫌がってる理由が……この魚雷の恐ろしさが………一目見た瞬間に背筋が凍った気がした……でもこれを積めばきっと倭の力になれる筈!やるしかない……)

(時雨の気持ち、夕立にも解るっぽい………デスランスみたいな威力は無くてもこれはそれに匹敵する何かを持ってる……それも倭さんが嫌がるくらいに………しかも私達に合わせた様に4連装だなんて………)

「で、後5回あるんですけど、如何します?」

『3回やって。』

「アッハイ。」

有無を言わさぬ圧力に屈するしかない開発班長は逃げる事も出来ず、かと言って部下に助けを求める事も出来ずにレバーを下げる事になった。

結果として、4回中3回が新型超音速(酸素)魚雷4連装となり、残り1回は48.3cm酸素魚雷7連装が開発された。どの道時雨達は新型超音速魚雷を必要とした為、乗せる事になったが如何せん重量が増えて速力低下を招く事は分かっていた。仕方なく残った開発資材は砲兵装開発に費やす事となった。

駆逐艦の自分達が積めるのは精々12.7cm砲くらいなのでその程度で資材を突っ込んでみた所、出来上がったのは12.7cm50口径3連装砲3基、特殊機銃という奇妙な部類の1つ、57mmバルカン砲4基。12.7cm砲の3連装は分からなくも無いが、57mmバルカン砲という謎めいた物は流石に理解出来なかった。多数の砲身を束ねた多砲身回転式機関砲なら倭や雨月の搭載しているCIWSという高性能機銃で理解出来ていたが、この57mmバルカン砲はどう考えても陸軍で運用している戦車砲と同じ口径だった。

 だが、両方の兵器のデータを見比べると、威力が12.7cm3連装砲と57mmバルカン砲は同じだった。射程は流石に生粋の砲兵装たる12.7cm砲が勝ったのだが、装弾数・装填速度は57mmバルカン砲が優位に立っていた。連射の利かない砲より連射の利く特殊機銃の方が対空射撃に向いていると判断した2人は即座に2基ずつ搭載を決定し、明石の(魔)改装が終わるまで待機する事になったが、鉄底海峡付近では鉄の暴風が吹き荒れている事を彼女達は知らない。

 

 

 

 

 雨月の電探には深海棲艦の巡洋艦隊と思しき存在が近付いている事を示す赤い点が輝いていた。それを微動だにせず睨み付ける雨月は光学兵器の射程に入り次第攻撃を仕掛ける準備を終えていた。

『敵巡洋艦隊捕捉。超怪力線照射装置の射程まで後2km。』

「艦隊各艦へ通達。『我、コレヨリ敵巡洋艦隊殲滅戦ヲ開始スル。全艦扶桑ノ指示ニ従イ、戦闘海域ヲ離脱スベシ。』とな。」

「了解!しかし、我々に乗ってくる陸軍さんは誰も居ませんでしたね………」

「致し方あるまい。我々が到着するのが遅過ぎた事以外に理由が思いつかない。それはそうと、那羽呂少将は無事に扶桑へ乗艦出来たのか?」

「はっ!その事は確認しております。扶桑からも乗艦を確認したと報告が来ておりました。」

「扶桑乗艦の那羽呂少将より通信あり。繋ぎます。」

「何用ですか少将?」

思考回路を切り替えて目の前に迫り来る深海棲艦達に集中していたが、少将からの通信で止む無く応対する事にした。

『何用と言われてもな……本当に貴艦だけで大丈夫なのか?』

向こうは心配してくれているのだろうが、自分や兄にとってこの程度の戦力に苦戦していては超兵器やそれに着いて来る増援達に太刀打ち出来ない、と考えている。あまりに狂った思考だと非難されても何も言う気は無い。それこそが我々“鋼鉄《クロガネ》”の体を成しているのだから。だからこそこんな言葉が口から飛び出していたのだろう。

 

「あの程度の戦力相手は私一人で十分です。皆の手を煩わせる程の戦力ではありませんので。」

 

その狂気染みた言葉に通信機の向こう側がただならぬ恐怖に凍りついたのは言うまでも無かった。

「ククク…それでは奴等には地獄を見てもらおうではないか。」

「まぁ倭が加勢してくれればもっと早く終わるでしょうけどね。」

ついつい倭の加勢を期待してしまった副長の言葉に雨月は小さな問いを出した。

「兄上は超兵器の相手をしておられるのだ。あまり無理を言ってはならん。それに、私を誰だと思っているのかな副長?」

「『超兵器殺し』と呼ばれた“あの倭型”の2番艦、でありましょう?」

その答えはどうでも良い答えかも知れない。だが、その言葉の意味は雨月にとって何よりも重要かつ大切であった。

 その通り、と言わんばかりにニヤリと口元を歪め、深海棲艦に最悪の結末を見せるべく攻撃指示を下す。

「目標、敵艦隊先頭の重巡洋艦!レーザー、照射始めッ!」

2番主砲上部から少し上部へ飛び出ている照射装置のレンズが怪しく光輝き、その輝きが最高に達したと思われた刹那、赤く輝くレーザー光が迸り、海面を割りながら重巡ネ級の艦上構造物を貫いた。

その一撃はたかが一撃程度で何が出来ると慢心していた深海棲艦達に衝撃を与える結果となった。たった一撃で機能を停止させられたネ級は2度目のレーザー照射によって呆気なく轟沈し、その爆発の衝撃で我に返った深海棲艦達はレーザー照射から逃れようと必死に舵を取るが、それは122.5ktという超高速を誇る倭との交戦経験を持つ雨月にとってあまりにも遅く見えた。ましてそのような横腹を晒す行動は逆に亜光速で攻撃可能なレーザー兵器にとって格好の獲物であった。

(随分緩慢な動きだな。だが逃がしてやる気は私には無いぞ。兄上でなく私のレーザーで殺られるだけありがたく思うが良い。)

兄がここに居れば間違いなく全艦相手に61cm砲で近接射撃を仕掛ける、と考えが巡ったがそれは後にして次々にレーザーを照射し、6隻しか居なかった巡洋艦隊は僅か5分で殲滅された。勿論敵艦隊に射撃の暇など与えなかったが、その後方から戦艦レ級1隻と戦艦ル級2隻を含む戦艦部隊が電探に捉えられた。

「取舵90の後機関微速。敵艦隊に横腹を見せてやれ。VLSハッチ解放。ハープーン発射用意。目標は戦艦レ級以外の雑兵共。主砲も同目標を照準。弾種は通常榴弾を装填。戦艦3隻にはレーザーで攻撃を仕掛ける。両用砲・機銃群は接近してきた敵艦に対して攻撃を行え。」

その場で舵を切って微速に切り替えた雨月の行動は深海棲艦にとって正に最悪の展開となった。丁字戦法を利用して射程・命中精度共に倭と同等の雨月が持つ全火力を深海棲艦に向けて放てるこの好機を逃すほど甘くは無い。次々に主砲と両用砲が発砲を始め、赤い光線が何度も飛んで行く度に闇の中に炎が発生し、炎上している敵艦の姿がハッキリと見える。

 レ級は既に兵装の殆どが蒸発して飛行甲板もエレベーターごと破壊し尽くされ、何時ぞやの倭がやった様に原型留めぬ浮かぶ残骸と化していた。ル級は2隻とも複数のレーザーが直撃して弾薬庫引火によって爆沈し、その近くに居たロ級にも炎が降り注ぎ火災が発生していた。

 増援艦隊にいた駆逐艦隊は次々に飛来する61cm砲弾でどの艦も浸水被害が発生していた。中には着弾の衝撃で転覆する艦が仲間の航行妨害となり船足が鈍った瞬間を狙われ、20.3cm65口径連装砲6基の猛射を受けて爆発四散する艦さえ居た。

 勿論この出来事は雨月の射程内に居る艦にだけ限られており、辛うじて射程に逃れられたのは機関が故障を起こしてルンガ泊地へ戻ろうとしていた3隻の駆逐イ級のみであった。流石に雨月もこれ以上奥へ進撃するのは倭が此処へ来てくれた時にでもしようという事になり、先に離脱したであろう扶桑達の後を追う為に全速で離脱していった。

 その頃、倭とヴィルベルヴィントが激しい噛み合いを行っていたとは露ほども知らなかったのだが。

 

 

 

 

「右舷に回り込まれました!左舷魚雷発射管がこちらに向いています!」

「面舵一杯、急速前進!主砲斉射用意。両用砲群も引き続き射撃を継続する。」

「駄目です!間に合いません!」

高速を維持したまま舵を切ると、下手な話強い遠心力に引っ張られて転覆しかねないがそこは非常識を常識とする倭である為に転覆する事は無い。多少傾き、主砲の旋回が少し遅れる程度だがその程度は倭にとって問題ではなかった。

 ヴィルベルヴィントが何故以前より速くなっていたのか、それは単に燃料の制約という事だけである。かつて倭の襲撃を受けた補給船団が積んでいた超兵器用特殊燃料は海の底に消え、ヴィルベルヴィントの内部に残っていた燃料も全速で走れば間違いなく底を尽く状態になっていた。それ故倭との一騎討ちの際には巡航速度で走る以外にまともな航行は出来なくなっていた。

 それが今は燃料を気にせず全速航行が出来る状態になって居る事を鑑みれば180kt近い速度を発揮出来る事にも納得がいく。倭との速力差は実に50kt以上もあり、その速力差を利用して一撃離脱を何度も繰り返す姿は正に速き事風の如しと言う言葉がピッタリであった。だがそんなヴィルベルヴィントも前部主砲2基を倭の61cm砲で破壊されていた。如何に強力になろうと防御力を犠牲にしたタイプの巡洋戦艦ヴィルベルヴィントにとって砲火力の低下はかなり痛かったらしく、倭を撃沈しようと魚雷とミサイル、ロケットによる残存の火力を集中させて来ていた。

ビリビリと響く振動は間違いなくヴィルベルヴィントが放った魚雷の群れである事は想像出来たが、1発たりとも迎撃されていなかった。いや正確には迎撃出来なくなったと言えば早いだろう。

『左舷迎撃能力10%まで低下!CIWS3基じゃ迎撃し切れません!』

『左舷中部より微量ですが浸水発生!同じく左舷上甲板付近で火災発生!』

(まだ舵もスクリューも生きている。だがやられるのも時間の問題か……本隊到着までに障害物は撤去せねばならん……その本隊の到着までまだ時間が掛かる……さて、こちらもそろそろ本気で殺らせて貰おう………)

 黙って主砲に超重力弾を装填し、ヴィルベルヴィントの後部艦橋付近へ照準を定めながら残存の副砲と両用砲で艦前部に攻撃を集中させていく。

(まだだ、まだまだ……)

 左舷機銃群が炎に包まれている事を意味するかのように背中の左側が焼けるような激しい痛みに襲われる。だが、倭はこれを期にある感覚を取り戻す。

(そうだ…この感覚だ……旋風よ、もうすぐ貴様がこの世から消える時が来る………)

そう、倭は超兵器戦の感覚が薄れたまま戦っていた。しかし、ドレッドノートと戦ってある程度の感覚を取り戻していたものの、それで十分なものとは言えなかった。そこへ足されるのは超兵器に対する怒りや憎悪といった負の感情。そして何より超兵器に与えられた痛みで感覚を取り戻す速度を加速させた。

(12発分のマイクロブラックホールに、貴様は何処まで耐えられるかな?)

 ヴィルベルヴィントは両用砲の攻撃を避ける為に左へ舵を切り、主砲で反撃しようとした。だがその瞬間こそ倭が待ち望んだ好機であった。12門の61cm砲が唸りを上げて超重力弾を撃ち出し、ヴィルベルヴィントの後方へ飛来する。その間に倭自身は急いで引力が届かない安全な距離に移動していく。

 無論ヴィルベルヴィントも砲弾を避ける為に更に舵を左へ切ったが、丁度後部主砲2基の真上で12発の超重力弾が作動した。12発同時作動は倭すら想像しなかった程の強烈な引力を生み出し、主砲・両用砲・ミサイルVLSを含む船体後部だけでなく船体中央部まであらゆる物体をヴィルベルヴィントから削り取る。

「て、敵超兵器完全に戦闘能力を喪失しました……」

「敵超兵器にトドメを刺す。残存砲、全門開け!」

号令と共に主砲と生き残った両用砲・CIWSが大量の黒煙を吐き出し、激しい炎に包まれながら機関が破壊されて惰性で進むヴィルベルヴィントの艦橋目掛けて殺到し、蜂の巣の如く穴だらけにされる。直後、船体中央部から激しい爆発を起こして巨大な船体が二つに折れる。

「敵超兵器撃沈完了……」

「応急修理の後合流する。本隊の航路妨害にならんように少し移動する。済まんが次の戦闘は諸君に頼る事になりそうだ。」

「気にしないで下さい。我々はその為に存在するのですから。」

「心強い限りだ。良し、応急修理に入る。」

近く、というが倭から見て5km圏内の事である為、扶桑達からも前方で倭が炎上している姿はハッキリと視認出来た。応急修理を始めた倭は白い光に包まれ、火災を消し、浸水を止めて海水を何処かへ消し去り船体強度を元に戻して傾斜を復元。失った装備と凹んだりした装甲を再構築して各部に以上が無いかコンマ数秒で確認し作業終了。

「応急修理完了。兵装使用準備完了しました。」

「針路変更本隊に合流しよう。」

そして何事も無かったかのように復旧した倭は本隊へ向かうが、山城と満潮に説教されたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 その少女は月夜に照らされる海を眺めていた。防波堤にぶつかる波の音を聴きながら思い出していたのは初めての超兵器戦で改めて痛感させられた己の無力さ。情けない事に初めて超兵器を目にした時、足が震えて何も考えられなかった。だが、そんな恐怖など最初から感じていないようにアイツは立ち向かった。夕立達も勇気を振り絞って戦っていた。なのに俺は戦う事すら出来ず、アイツに指示されて逃げる事しか出来なかった。

 そんな自分に怒りが湧いた。仲間が命懸けで戦っている時に自分1人蚊帳の外である事が我慢ならなかった。それなら鍛えに鍛えて超兵器に対抗出来る力を獲得するしかない。その為にアイツを説得して協力を得る以外に方法は無いだろう。だがアイツは俺達が超兵器と戦う事に猛反対してきそうだ。だが既に俺達はあの時の恐怖を刻み込んでいる。

大本営も超兵器の存在を知った以上、俺達艦娘も超兵器戦に投入される事は間違い無い。そして深海棲艦とも戦わなければならないからどれ程犠牲が出るかも分からないし無駄な戦力は割けないし無駄に割く事など到底考えられない。

そんな事を考えていた木曾に声が掛けられた。

「こんな所で何してんのさ。風邪引いても北上様は知らないよ~」

「姉ちゃんか……アイツの帰りを待ってるだけさ……」

「帰ってくるって…あ~ワっちの事か~」

突然訳の分からない事を口走る姉に理解が追い付かなくなった木曾。

「は?わ、ワっち?」

「倭っちの渾名だよ。本人に聞いたら適当で良いって言うからね。ワっちで通じる様になったしね。」

「そ、そうか……で、姉ちゃんこそ何しに来たんだよ。もうすぐ見回りの時間だろ?」

「まぁね~……でもさぁ、昼の訓練も出ないで防波堤に座り込んでる子が自分の妹だったら尚更ほっとけないじゃん?」

確かに俺は今日の昼に訓練をサボってまで考えに耽っていたのは分かっていたがそれを姉に見られていたとは気付きもしなかった。

だが木曾が考えていた事とそれが今後の戦況に影響してくるだろうと伝えると、北上も流石に考えてしまう。

「そりゃ私は超兵器ってのに出くわした事無いから木曾っちの考えてる事はちょっとしか分かんないね。」

「まぁ映像で見るのと実物見るとじゃ全然迫力も威圧感も桁違いだからな。アイツはあんな化物と戦い続けたって言うんだから精神的にも相当強いだろうな……」

「………強い、ねぇ……私はそうは思わないけどな~」

「何でだよ?」

「強さと弱さって実は表裏一体って事知ってるよね?」

「知ってるけどそれと精神に何の関係があるんだよ。」

いまいち北上が言いたい事が理解出来ない木曾だが、姉の一言で言いたい事を理解してしまう。

「あのさ、私と大井っちは重雷装艦じゃん?てことは火力は高いって事じゃん?でも装甲とかは全然弱っちいまま。これだけ言えば分かるでしょ~?」

「つまり外が強くても中は弱い……それをあの強さと精神って形で置き換えろって事か……」

「そそ。誰にでもあるもんよ~そういうのって。」

「やはり私と同じくその考えに辿り着いていたか。北上。」

「ありゃ、長門さんじゃん。何となくで考えてたらそうなっただけですって~」

「まあ私は彼を一目見て分かったがな。あれ程濃い人生を送ったのにどうも持っている力の割に精神的に甘い所が幾つか見られた。恐らく根が優し過ぎるのかも知れん。」

長門の指摘に成程流石はビッグ7と言った感じの軽巡2名。だが、そんな長門にも分からない事はある。まして他人の考えている事など到底分かるものではないが、目は口ほどにものを言うと諺どおり、長門は倭の目を見て話す事が多かった。

そして宴会の席で扶桑が見たモノが倭の瞳の奥にあるのを長門も見た。それはただ破壊と殺戮を欲するだけの狂気。これをどうにかしなければ彼はきっと内側から崩壊し、人間らしさなど欠片も無い大量殺戮兵器になってしまうと長門の心は警鐘を鳴らしていた。

「まあこの事は明日にでも考えるとして、北上。お前は早く巡回に行け。木曾、お前も部屋に戻るんだ。」

それだけ言うと長門は戦艦寮へ行ってしまい、北上も巡回に行ってしまうが木曾は歩きながらアイツに稽古でもつけて貰わないとダメだと考えていた。

「戻ってきたら、ダメ元で頼んでみるか………」

この日、倭が新たに超兵器と交戦し撃沈した事はショートランド泊地所属の偵察艦隊の艦娘数名が目撃していた事もあり、早々に大本営へと齎されたのであった。

 




 どうでしたかね?一応あれで頑張った方なんですよヴィルベルヴィントとの戦闘描写。まぁこんな下手くそに書きおって!と仰られても文句言えませんがww
 雨月もアイアンボトムでレーザー+実弾乱射三昧で完封させましたwwだってほら、深海棲艦達に電磁防壁なんて持たせたくないし………何より倭型が深海棲艦如きに手間取ってられるか!という下らん理由があるからです。
 あと、作中で雨月が"超怪力線照射!"じゃなくて"レーザー照射!"って言ってますがあくまで帝国所属時代の言い方しか雨月が知らないと脳内保管願います。

倭に対するプチ評価

解放軍の場合「念願の対超兵器用超戦艦キター!!」

帝国軍の場合「折角造った超兵器と新造艦達全部沈めやがって!!悪魔かアイツ!!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。