恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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 投稿遅れましたね申し訳ない………リアル多忙とかetc………って感じです。
いやー雨月クンには暫らく1人でアイアンボトムの敵艦隊と対峙してもらいますw


鉄底海峡と暴風注意報

 

 

ガダルカナル島救援艦隊の出撃準備が整うと同時に補給船団と共にトラック泊地へ降り立った那羽呂は1人、泊地最高指揮系統の笹川大佐の執務室がある本館へと向かうが、港に停泊する2隻の戦艦を見て大和型戦艦だとすぐに理解出来た。しかし、その影に隠れるように停泊していたもう2隻の巨大戦艦の姿を見るや、自然とその傍へと歩み寄った。大和型よりも大柄な船体に途轍もないほど巨大な艦砲を4基も備え、小さい多数の砲と機銃を針鼠の如く纏った姿。

(これが、倭型か………)

「本館に用があるんじゃ無いのかい?蛇城那羽呂陸軍少将様?」

何とも言えぬ威容に呑み込まれていた那羽呂に声が掛けられ、はっと左を振り向くと蒼い瞳を持った海軍将官が立っていた事に気付く。

「(何時の間に……)いや、確かに本館に用があるのだが、珍しい戦艦が泊まっていたものだからつい、な。ところで貴官は海軍の方のようだが名を聞いても宜しいか?」

「これは失礼。別に名を聞かれるほど偉くなったつもりも無いのだが………そうだな、この艦の主、と言えばお分かりか?」

「すると、貴官が倭か?」

その問いに倭は頷き、執務室へと蛇城を案内した。だが、執務室には笹川以外に時雨と夕立が怒りを湛えた眼光で待ち構えていた。

「私は蛇城那羽呂だ。階級は陸軍少将を拝命させてもらっている。笹川大佐、この度、我が陸軍兵撤退の為に力添えしてくれる事に感謝したい。」

「いえ、当然の事をしているだけですから………餓島までは旗艦雨月に移乗してもらいますが宜しいですか?」

「そうしてもらえるとありがたい。高速艦隊と話は聞かされていたのだが、編成はどうなっているか見せてもらっても良いかね?」

「ええ。こちらが今回の高速艦隊編成になります。」

 

 

旗艦

・倭

 

随伴艦

・雨月

・扶桑(改二)、山城(改二)

・睦月、如月、弥生、卯月

・海風、江風、涼風

・朝潮、大潮、満潮、荒潮、霞

・秋月、照月

 

遊撃艦

・倭

 

 

何故このような編成なのか。それは単に倭と組んだ事の無さそうな艦娘を選抜していった果ての編成であった。尤も、この時点で倭から言われた事も鑑みて意図的に時雨と夕立を編成から抜いているが。

「扶桑型は低速艦と聞いてはいたが……一体何故か?」

「機関改装を済ませた、としか言えません。」

「そうか……いや、もし船足が遅くて到着が遅れたら残してきた部下達に合わせる顔が無いのでね。」

何とも言えぬ表情をする那羽呂少将を見て笹川提督も少しだけ気を緩めた。ここで少将が気になったのは遊撃艦についてであった。

「しかし、倭が遊撃艦とはどういう事かね?旗艦任務は如何する気だ?もし単独行動中に撃沈でもされたら大変ではないのか?」

常識人の目から見ても自由行動が出来るのは良いが、その分単独戦闘で撃沈された場合救助が間に合わなくなる可能性が高い。だが笹川は『遊撃』という言葉が倭にとってどれだけありがたい言葉であったか良く分かっていた。というより倭の脚を活かす為に出来る最大限の配慮でもあった。

「倭さんはそう簡単に沈まないっぽい。沈めて良いのは夕立だけだもん。」

「うん?」

唐突な夕立の発言に戸惑うしかなくなった少将を他所に時雨が更なる追加攻撃を仕掛けた。

「倭を沈めて良いのは夕立じゃなくてこの僕さ。」

「?!」

予想以上の言葉を発した時雨に那羽呂はどういう事だと言わんばかりの表情で倭と時雨達の顔を交互に見た。

「はぁ……倭、アンタ何とかしときなさいよ。」

「…………1つ聞く。」

『何(かな)?』

「君等は何がしたいんだ?」

その一言で2人とも黙り込んでしまう。

「………………」

「………………」

だが、追い撃ちの様に倭は残酷だろうと思いながら言葉を続けた。

「恋や愛など下らん感情で動くのは止めておけ。そんな感情は戦場で命取りになるだけだ。」

「下らない、だって?僕達の気持ちも知らないクセに勝手な事言わないで!!」

「君等の考えている事など俺にはどうでも良い事だ。何を期待しているのか知らないが無駄な事だ。同情や慰めは一切する気は無い。」

「っ!!」

時雨達の気持ちなど歯牙に掛けないと言い張った倭。あまつさえ倭を想う気持ちを『どうでも良い』と切り捨てられた瞬間、時雨のナニカがひび割れる音がした。

「………夕立、部屋に戻るよ。」

「……ぽい………」

時雨も夕立も俯きながら執務室を後にしようとしたが、倭の横を通り過ぎる時に、

「君には失望したよ………君は、僕の気持ちを一番理解してくれていると思ってたのに………」

「……………」

声を震わせてそう言うと夕立の手を引いて執務室を出て行ってしまった。夕立は涙で潤んだ目で倭を何度も見てきたが、それに倭が振り向く事も無ければ何も言う事も無かった。

「あーやっちゃったわねぇ。」

「婦女子を泣かせるとはあまり関心できんぞ………」

「そんな事は後で良い。早くしないと本当に取り返しの付かない事になる。」

先程と変わらぬ表情と口調で出港させろと催促する艦息に人間2人はおもわず顔を見合わせて苦笑した。

 

 

(倭のバカ…僕の気持ちに気付きもしないクセに……)

雨月を旗艦とした餓島方面に向かう戦艦部隊よりも一足早く倭が泊地を離れていく姿を見ながら時雨はそう思った。危険な事は全部自分1人でやろうとして僕達がどれだけ心配しても『無用』と突き離してくる。

(僕が頼りないってハッキリ言ってくれたらいっその事スッキリするのにな………)

 今までに改二改装計画は出されていたが、提督の寒い御財布事情に加えて節約する気が無い倭、雨月の就役もあってトラック泊地の資源備蓄量の燃料以外が増えるどころか減少の一途を辿り、計画は度々お流れになっていた。

 改装資材不足とはいえ、日々の演習のお陰で練度だけは高く維持して来られた。倭と離れている時は極力演習に志願して己を高めて来ていたつもりだったけど、それでも倭との差は埋まるどころか開いたままで変わらない気がしていた。

 そこへようやく必要量の資材を確保出来た上での改二改装計画は倭に少しでも近付く千載一遇のチャンスだと思った。ふと手に持っていた資料を何となく見ると、一番下の文に『可能であれば機関改装も実行されたし』と書かれていた。

 この時思い浮かんだのは駆逐ボイラーεと駆逐タービンεへ換装して試験を行っていた天津風の喜びと恥ずかしさが綯い交ぜになった表情。もう試験の結果は出ており、正式に量産化が始まろうとしていた筈で倭が開発した方は倉庫に納められていた事を思い出して急いで執務室に向かう。

「提督っ!!」バンッ

「ノックぐらいしなさい時雨。」

「ごめんよ提督。ちょっと改装の事で話があるんだけど。」

「はいこれ。倉庫に色々あるから夕立と好きに使いなさいな。」

「!ありがとう提督。「でもね」?何だい?」

「後で倭に怒られても私は責任取れないからね。」

提督から新しく手渡された改装許可書には、機関改装を行う旨が書き記されていた。それも2枚分。

「大丈夫さ。何とかなりそうだし。」

 早く行けと言わんばかりに手をヒラヒラさせる笹川を見ないまま時雨は元自室兼白露型の部屋へ向かい、ベッドでグッタリしていた夕立を回収して走り出す。向かう先は工廠に居る明石の下だ。

 

 

『宜しかったのですか兄上。』

「何がだ?」

『時雨さん達の事ですよ。随分辛辣な言葉で彼女達を突き放したと聞きましたが。』

太陽が中天に昇った頃に出港しもうすぐ日暮れとなる時刻に差し掛かった時、雨月から秘匿通信が来た。それに対して倭は少し考えて答えを出した。

「………あれも彼女達の成長の為になると思ってやっただけだ。」

『それでも泣くほど言ってはならんでしょう。それこそ逆効果になってしまいますぞ。』

「だがそれでも奴等との戦いに彼女達を巻き込みたく無かった。どの道手遅れだろうが、な。」

『……………』

彼自身超兵器戦に艦娘達を巻き込む事を避けたかった。だが、既にドレッドノートを撃沈する際に夕立が魚雷を撃ち込んで被害を与える形で関わってしまっている。その上超兵器の存在も諸外国と大本営にも知られている以上、間違いなく艦娘達は超兵器戦に投入される事など容易に想像できた。

 だからこそ尤も親しくしてくれた2人を突き離す様な言葉で傷付けた。自分から興味を無くしてくれる様に、最悪退役してくれる様に、と願いながら。倭の胸中に残ったのは自己嫌悪の感情のみ。そうしてでも離れて欲しかった。

『それが、兄上の意思ですか?』

「そうだ。」

『貴方は御優しい方ですね。何時でも他人の気持ちを考えて自分の事は二の次三の次にしておられる。』

「………俺はそんな奴に見えないがな……………」

『自分で自分を見た所で何が解る訳ではありません。他の方が見てようやく解るものですよ。』

「……………」

『きっと兄上の事ですから、あの子等を特別扱いしているのでしょう?あの時も兄上から1時間遅れながらも海域に突入してきた2隻の駆逐艦が居ましたからね。』

「……間も無く随伴艦の燃料補給時刻だ。補給が済み次第出発する。」

『おっと残念です。もうそんな時間ですか……ではまた後程……』

通信を終えた丁度の所に那羽呂少将が戻ってきた。手には恐らく食堂で作ってきたのであろう半合ずつの握り飯が2つ皿に乗っていた。そのまま天井を指差したので“防空艦橋で話がしたい”と言っている事を理解した。

「扶桑、朝潮型、秋月型は本艦で燃料給油を受けよ。山城及び睦月型、改白露型は雨月で燃料を給油されたし。副長、俺は防空艦橋に行く。見張り員は交代させてやってくれ。」

「はっ!」

防空艦橋に続くラッタルを上がりきると倭に気付いた見張り員は急いで敬礼をするが気にするなと一声掛けてから交代の時間だと伝えて一緒に上がって来た少将と共に燃料給油を受ける艦娘達を眺めていた。

「この度の作戦、何としても部下を本土へ連れて帰りたい。勿論私の命を投げ打ってでもだ。」

「その為に悪魔に魂を売る、何て事は考えないで欲しいが、万が一そうなったならば『超薄切りにして売れ。』と昔誰かが言っていた。悪魔ってのは溝鼠に劣る。だが、命を捨てる事は簡単でも拾う事は出来ないって肝に銘じておいてほしい。」

「………解った。部下にもそう伝えよう。取り敢えず、私なりのお礼になるが飯を握って来たのだが食べるかね?」

「頂きましょう。」モグモグ

「中に梅干を入れてみたが口に合ったかね?私は中に梅干以外入れた事が無いのだよ。」モグモグ

「いや、久し振りに食べたから割と美味い。」ムグムグ

倭が“割と美味い”と言ったのは、対潜掃討任務に就く直前に時雨から渡された握り飯の方が美味かったと無意識に思い返していたからである。

「そうか。それは良かった。」

「目的地までもう暫らくだが特に警戒すべきは鉄底海峡だったな。」

「うむ。海軍の知り合いからその海域の話は聞かされていてな。確か我が帝国海軍と米軍の艦艇が多数眠る海域だそうだ。それ故深海棲艦の数も質も桁違いだが、そんな海域にこれだけの数で大丈夫なのか?」

少将の疑問も尤もである。戦艦4隻、駆逐艦14隻の艦隊で収容出来る人数はたかが知れているのだ。但し、倭だけは最大収容可能数6000人だが雨月の最大収容可能数5000人と比べれば大分当てになる理想値であった。ところがこの収容可能数というのはあくまで妖精を乗せなかった場合の数値である。これが倭と雨月が警戒艦としての任務を任される事になった理由の1つであった。そしてもう1つの理由とは、

「………俺と雨月で警戒任務を受け持つ。その間に収容を急いでくれ。」

「急いでくれと言われてもな。こちらの残存戦力は6000人近いのだぞ?」

「動けない者は本艦で預かる。もし超兵器がこちらに来た場合真っ先に狙われるのは身動きの取れない陸軍連中だ。」

こちらへ真っ直ぐ向かってきている超兵器ノイズが起因していた。これまでシブヤン海で留まっていると思われたノイズの主は倭が雨月に対して自分の位置を知らせる為にある装置から発せられたノイズを解析し終えたかのように倭達目指して迫りつつあり、このまま行けば交戦海域は鉄底海峡になってしまう。

 その前に何とか救助を済ませたいが、超兵器も迫っている。更に言えば、餓島は飛行場姫が基地を構えている為に昼間の空を我が物顔で航空機が飛び回り、夜になると重巡リ級やネ級が鼠狩りの為に餓島北端部で待ち構えていた。そんな監視網を突破する為には火力と防御と足回りを改装した扶桑型の支援の下駆逐艦を投入するしか考えられなかった。

 勿論倭は警戒役があり突入はしないが、突入・撹乱役の雨月と共に囮を担っている。当初、この方法を知らされた扶桑達の猛反対に遭ったが、超兵器に対して有効な手段を持つ自分達であれば深海棲艦達を抑えられると言い切って無理矢理納得してもらったのだ。

それしか浮かばぬほど、倭の脳内は別の事で占められていた。勿論超兵器に関する事なのだが、これは後で語るとする。

 

 

 給油の為に接舷しても相変わらず城郭を思わせるような厳かな雰囲気を持つ倭に対して自然と呟きが漏れた。

「相変わらず大きいわねぇ………」

後部甲板から下ろされたホースを自分の燃料タンクに繋いで給油願うと電文を送るとすぐに規定分の燃料が送られて来る。その間、特にする事は無い。何故かと言うと、給油主の倭が電探と音探をフル稼働させて全方位警戒を行ってくれているからであった。

 正直言ってこの時だけは気を緩めても怒られはしないというか倭は駆逐艦相手で怒る事など滅多に無い。余程の悪態付きか悪さをしなければ、の話しだけれど。

『荒潮、間も無く燃料給油が終わる。給油完了後は急ぎ対潜警戒を厳にせよ。』

「はぁ~い。分かったわ~。」

『次は満潮と霞を呼んでおいてくれ。朝潮、大潮も間も無く給油完了する。3人で扶桑の護衛を任せる。』

「倭さんの護衛は良いのかしら?」

『心配するな。自分の身は自分で守る。お前さん等の手を煩わせるまでも無い。』

「分かったわ~。」

やっぱり色々と隠してるわねこの人……でも、戦いの中で生まれて戦いの中に消えたこの人は人として生きていく上で最低限の事しか知らない。このままだと人として生きていく楽しみも意味もちゃんと理解しないまま終焉を迎えてしまいそうに思えた。加賀さんみたいに表情が硬い人だけど、時折見せる微笑に自分は惹かれた。宴会の時に『平和な時を過ごす資格が無い』と言っていたけれど、それでも彼には笑って過ごして欲しいと思う。

 それでも彼は誰かが干渉しない限り自分から私達に干渉しようとはしない。まるで自分と私達の間に見えない壁があると言わんばかりに。実際彼と接点が多い時雨すら本格的に心を開いた所を見た事が無いそうだ。というか何を考えているか、次にどんな行動を起こすか、くらいは1週間で大体分かるようになっただけでも十分凄いと思うんだけどね………

 給油を終えて離れると、満潮と霞が補給の為にこちらへ向かってきている姿が見えた。2人共彼が好きだという気持ちを持っていても表立って出す事は無い。特に霞は逆に説教をする事もある。当然ながら悉く聞き流されているのだけど本人が気付かないのだから仕方ない。

 倭を狙う者は沢山居る。その中で最大の難敵とされているのは時雨で、次点は夕立と弥生を差し置いて圧倒的に優位を保っていた。その理由は彼が唯一心を開いた相手であり、特別な呼び方をしているから。

勿論荒潮がそのような難敵が相手であろうと倭を想う気持ちは変わらない。勝っても負けても恨みっこ無しの女の勝負で手抜きをするつもりも毛頭無いのだが。

「倭さん…好きよ……♪」

彼に向けられた言葉は小さかった。だが確実に射止める気で出て来た言葉だった。

 

 

 一方雨月は集まった艦娘達の燃料補給を全て終えたものの、倭の事を聞いてきた海風と江風の対応をしていた。どの道倭側の補給が遅れていたので、それが終わるまで、という事で了承していたのだった。

『じゃあ倭さんと同じ工法で造られたわけではないのですね。』

「ああ。兄上はブロック工法で造られたが私は通常工法だ。」

『でも何で別々にしたんだ?同じ工法で造りゃ良いだろうに。』

自分にとって少し痛い所を突かれたので答えるのに躊躇いを覚えたが、どうせ向こうの世界での出来事だ。と開き直って教える事にした。

「兄上がブロック工法で造られた理由は解放軍司令部が催促してきていた事が一番大きいな。お陰で兄上の建造中に起工した私は人員と資材不足に悩まされる事になったがね……」

『うわぁ………』

何を隠そう雨月は倭型の中で中途半端な戦艦である。人員不足と資材不足で予定していた竣工日に間に合わず、ステルス性も中途半端なものとなった挙句、タービンの増産が間に合わず3基しか搭載できず、スクリュー3軸で航行する事になった。反面、電探や通信、司令部等の設備は倭よりも良い物が揃えられていた。

「結果的に1年半ほど遅れて竣工してしまったが、ざっくり言うと私は武蔵殿と似たようなものという事だ。」

『そうだったんですか………』

「それでも兄に勝る弟などいないのだろうね。解放軍は殆どの作戦に兄上を積極的に投入して得られた戦闘データを基に兄上を(魔)改造して対超兵器用戦艦として仕上げてしまった。対する私は第1次改装を済ませただけでジャワ島沖航空戦に参加するまで細々とした演習しか出来なかったから尚の事兄上と練度の差が出来てしまった………」

『沈んだ事はどう思ってンだ?敵とはいえ兄貴に沈められて怨んだりしてねーのか?』

『江風!何て事を聞くの!!』

あまり聞かれたく無い事を聞かれてしまったと言うべきだろう。沈められた事は戦艦として悔しいと思う反面誇らしく思ってもいる。

雨月がかつて居た世界で並の艦砲とは桁外れの性能を持つ61cm砲を装備した超兵器級戦艦同士の撃ち合いを想像しなかった日は無かった。例えそれが兄との死別になろうとも御互いに全力で撃ち合い、納得の行く戦いさえ出来ればそれで良いと思っていた。

「……怨んだりはしない。私自身戦艦同士で撃ち合いがしたいと思っていた事は紛れも無い事実だし61cm砲という倭型の特徴を考えれば嫌でも兄上と戦わねばならない事は容易に想像できたよ。そしてあの日私は兄上の奇襲攻撃を受けて主砲を撃つ間も無く戦闘不能にされて戦闘終了まで生き延びた。」

『って事はやっぱり航空機でトドメかぁ……』

嫌そうな声で呟く江風。しかし、雨月から発された言葉で凍り付いた。

「いや、私へトドメを刺したのは兄上だ。火災を起こして海面を漂流するだけとなった私に兄上は砲撃を加えて私が沈むのを黙って見ていた。」

『え?』

『そんな……』

海風と江風は上映のあった日、遠征に出ていた為、何があったのか知らなかったのだ。

「確かに苦しかった。だが兄上は誰よりも優しいから私より苦しい思いで私達と戦ったに違いない。そう思うと敵でなく、味方として戦いたかった………さて、向こうもそろそろ終わっただろう。全艦、旗艦の指示に従うように。」

『は、はいっ!』

無理矢理話を切り上げて気を引き締め直した雨月達。空には満点の星空が広がり、彼等の航路を美しく照らしてくれていた。

 

 

 燃料補給を終えてから2日後、倭達は問題の鉄底海峡へ差し迫っていた。ここで護衛旗艦任務を那羽呂少将と共に雨月へ移乗し、倭が警戒任務を行いつつ超兵器の鉄底海峡侵入を防ぐ門番役となった。

「さて、どう来るでしょうなぁ深海棲艦の連中。」

「来たとしても雨月の超怪力線照射装置があれば射程に入った瞬間消滅するだろうがな。」

「あー電磁防壁なんて持ってませんしね……」

「超兵器ノイズ、無電方位観測にて特定。尚もこちらに接近中。敵超兵器の攻撃目標は本艦と推測します。」

1人だけ真面目な電探士官の報告を聞いて倭も行動に出た。既に艦隊は鉄底海峡方面へと姿を消した。これで倭の制約は解かれ、本来の戦闘能力を問題無く発揮出来るようになる。

「敵艦が射程に入り次第電探連動射撃を行う。砲術長、主砲にAPFSDSを装填。」

「了解。副砲と両用砲は如何します?三式弾でも装填しておきますか?」

「ああ。それで良い。全速前進、目標敵超兵器。」

「全速前進ようそろー!」

4基のεタービンが一斉に唸りを上げて8万tの船体を押し進めて行く。艦首が波をかき分け、波飛沫を伴いながら巨大な白波を作り出し、122ktという驚異的な速度に達するまで数秒も掛からなかった。

 瞬く間に艦隊との距離を離していくが、艦隊が水平線の向こうに消えた直後、各種通信設備が使用不可能に陥った。すぐさまノイズ中和の措置を取るが僅かに改善されただけで然程状況は変わらない。

 止むを得ず発光信号を雨月宛に送り、超兵器との戦いに意識を集中すると、ある通達を下す。

「各員に通達する。只今より本艦は戦闘終了まで俺が攻撃、迎撃、操艦を引き受ける。その際の急制動に注意しつつ、ダメージコントロールを行うように。」

ここを抜けられたら6000人もの陸軍将兵の命と17隻の貴重な戦力が失われる事を意味する。それ故何としてでも超兵器の侵攻を食い止めねばならない。

‐我が使命は例え自らの命と引き換えになろうとも仲間を守り超兵器群を葬り去る事。それ以外は全て不要なり。‐

「これより本艦は対超兵器戦へ突入する!各員の冷静かつ迅速なる行動に期待する。」

『了解!!』

「雨月より返信!『我、コレヨリ海峡ヘ突入ス。無事ニ合流スル事ヲ祈ル。』以上です!」

雨月からの返信を聞いて尚の事守らねばならないと気を引き締め直して視線を真正面へ向ける。その視線の先にはこちらに迫り来る巨大な艦影があった。

 

 

 

 

==超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント、接近==

 

 

 

 

 

 

『倭ヨリ発光信号アリ。現在敵超兵器ト交戦中ノ模様。』

倭とヴィルベルヴィントが交戦状態に入った旨を知らせる発光信号が雨月から届いた時、扶桑達は言い知れぬ恐ろしさに包まれた。特に弥生は潜行型とはいえ超兵器の恐怖をその身で体験していた為、単身超兵器に戦いを挑んだ倭やそれを援護した事のある夕立の気持ちが何となく分かった。

(夕立ちゃんだって最初は怖かったと思うけど……弥生も負けられない……差を広げられたまま終わりたくない!)

艦隊の最前方を進む雨月は海峡内部の入り口付近を微速で周回しつつ警戒態勢に入る。扶桑と山城は迂闊に進むと座礁する恐れがあったので少し海岸寄りに停船して内火艇とカッターを全て海岸に向かわせ、駆逐艦達も搭載しているカッターを放出していた。既に日も落ち、夜間飛行には適さないが、念には念を入れる形で雨月の対空電探と対水上電探が目を光らせていた。

少将も海岸へ移動してまで部下を迎えにいっている様子が見られ、ふらつきながら、身体中に包帯を巻きながら、仲間に身体を支えられながら皆出迎えのカッターを目指して移動してくる。時折聴こえてくる砲声は海峡近くで戦い続けている倭とヴィルベルヴィントが発生源であろう。その砲声を聞いた陸軍将兵は急ぎ足になり、カッターへ辿り着くが誰一人として我先にと乗り込む者は居らず、『先にコイツを乗せてくれ!』と言う声が聞こえ、『自分の怪我より隊長の怪我の方が酷い。先に乗るのは隊長です。隊長が乗るというまで自分は乗りません!』などと聞こえて来る。

 部下を先に乗せようとしている隊長は右腕と左足半分を失って即席の松葉杖を使っていたが、乗せられようとしていた部下の兵士は左腕を包帯で巻いている程度の怪我。自分の怪我の方が酷い筈なのに部下を最優先していたものの、結局数名の兵士に説得を受けたが“部下を先に乗せろ、俺はコイツ等の命を預かった隊長としての責任があるんだ!だから俺は最後に乗らねばならんのだ!”と喚き散らしていた。が、面倒になった兵士の1人が殴って気絶させた後、担がれてカッターに乗せられた。

「皆…急いで……」

弥生が急かしてはならないと知りつつ急かしてしまったのは自分の大事な人が単身戦闘を続けている砲声が聞こえてくるから。遠く離れて光の中に消えてしまいそうなあの人の傍に居たいから。

 その想いとは裏腹に、雨月の姿を捕捉した深海棲艦の巡洋艦隊が敵艦隊撃滅すべしと群れを成して迫りつつあった。

 




 まぁ、前半は訳アリでしてw偶には倭から時雨と夕立を離してみました。勿論倭とて言いたくて言ってるわけじゃないんですが。
 次回は皆様御存知の超高速輸送船との勝負になりますが同時進行でアイアンボトム方面の事も書いていこうと思います(笑)その為に雨月には苦労してもらいますが(腹黒)
 次回作も宜しくお願いします。

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