恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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どうもです。前半我ながら大分gdgdしてる気がしなくもないwww 後半付近は山城、満潮視点で描いたつもり、です。


魔の海峡を抜けろ

 倭がトラック泊地に、日本海軍に編入されて既に1ヶ月が過ぎようとしていた。丁度良い頃合いでもあり、笹川による第2遊撃艦隊の構成メンバーも大体出来上がっていた。が、倭との如何ともし難い性能差が壁となり、選抜に多大な支障をきたしていた。

「う~ん、やっぱり駆逐艦と重巡のヒット&アウェイ重視の編成か高速戦艦を2隻入れた高速・火力増強編成にすべきか、はたまた空母艦隊の護衛任務に就かせるか、それとも西村艦隊と組ませるか………迷うわねぇ………てか122ノットにどうやって追い付けって言うのよ!」バンッ

「司令、机を強く叩かないで下さい。煩いです。」メガネクイッ

「Zzz……うへへぇ……金剛お姉様ぁ………」

「だって1人寝てるじゃん?」

「言い訳無用です。早く編成を決めないとまた大本営からせっつかれますよ?」

「う~」

うんうん唸りながらレイテ攻略艦隊編成を考えていくと、ある海域に目が行った。南からレイテに殴り込める最短コースだが、因縁の海域でもあった。そこはスリガオ海峡と呼ばれ、第二次大戦時に西村艦隊が突入し、米海軍少将オンデンドルフによる丁字戦法で壊滅させられた海域。

 艦娘となった現在も何度か突入してはいるものの、火力、装甲、戦力共に深海棲艦の方に分があり過ぎて突入する度に旗艦山城や扶桑が敵の速攻で即大破、酷い時には時雨を除いた西村艦隊構成メンバーが大破帰投など散々な結果に終わっていた。倭がトラックに来る直前も何度目かになるスリガオ海峡突入を図っていたのだが結果は惨敗の連続。

「ここなら、倭1人でやれる可能性も………」

「え?!ま、待ってください司令!幾ら大和型戦艦を拡大発展させた倭さんでもあの敵戦力を抜けられるかどうか分からないんですよ?!」

「抜けるんじゃないわ。」

「え?」

「抜けるんじゃなくて突入の前に倭の長距離砲撃で露払いしてもらうのよ。」

有紀子の言うように倭の61cm砲は圧倒的長射程を持つ強力な砲であり、先の戦闘で95%という異常な命中精度を示した。それを海峡より離れた位置で敵艦隊に対して行えば敵艦隊は総崩れになるだろう。この世で61cm砲弾を受け止める事の出来る艦船など“まだ”存在しないのだから。尤も、これは倭の意思次第であり、露払いを嫌がるようなら海峡突入に同行してもらうつもりで居たし罵倒される覚悟だって出来ていた。

「それで?突入させる部隊はまた西村艦隊ですか?」

「というか大本営はあくまで西村艦隊しか突入させたくないみたい。トカゲの尻尾切りじゃないっての。」

有紀子がへそを曲げているのは先の作戦に倭が参加し、燃料(衣笠達の分だけだが)、弾薬共に大量に消費してしまったためであり、その前から続いていた西村艦隊の資材消耗がここに来て大きく響いてきたのだ。

「すまないが提督は在室中か?」コンコン

「秘書艦霧島です。司令は在室中ですのでどうぞ。」

「失礼する。少し用事を思い出したのでここに来させてもらった。時間はあるか?」

有紀子と霧島は丁度良いタイミングでやって来た倭の話を聞く代わりにこちらの話を聞いてもらう事にした。

「良いわよ。どの道スリガオ海峡を抜けるのに倭が必要になるだろうし。」

「スリガオ……あぁそういえばレイテ島近くで海峡防衛任務をやった事があったな。そこに行けと?」

「早い話その海峡に艦隊が着く前に遠距離から海峡内の敵艦隊に打撃を与えて欲しいのよ。無理なら海峡に突入して叩いてもらっても構わないわ。」

「何を言い出すのかと思えばそんな事か。別にやっても良いが敵の艦隊編成と小型艇の有無を纏めた詳細資料が必要だぞ。」

「霧島。」

「はい。」

それだけ言うと秘書艦霧島は何処かへ出て行った。残った2人と居眠り1人になった執務室に重苦しい雰囲気が漂い、沈黙が支配する。有紀子は堅苦しい雰囲気があまり好きでない方なので、落ち着きが段々となくなっていた。

「俺も用事を済ませたいのだが、大丈夫か?」

「え?ええ。」

咄嗟の反応で簡単に反応してしまった有紀子だが、倭が放っていく言葉に思考回路を止められた。

「貴女は“超兵器”というものを御存知か?」

「はい?」

いきなり“超兵器”と言われても理解しきれないが、首を横に振る事で知らないと伝える。そこで倭が懐から取り出したのは数枚のディスク。そこに超兵器の事が入っているのは間違い無かった。

「このディスクに超兵器と俺の建造に関するデータが入っている。参考までに持っていてくれ。」

「………分かったわ。それで、スリガオの件だけど…受けてもらえるかしら?」

「大丈夫だ。提督の頼みとあれば断る理由など無いよ。後は敵艦隊の配置によって突入するか露払いを先にするか、だな。」

「まぁ、ね。ところで、さっき言ってた“超兵器”って何?」

「説明すると長くなりそうだから出来る範囲で話そう。」

 倭は超兵器に関する情報を重要な部分だけ話し出した。超兵器とは『超常兵器』の略称で、倭と敵対した『帝国』がオーバーテクノロジーを用いて建造した兵器群の一種であり通常では考えられないような性能を持つ兵器ゆえに『超兵器』と呼称された事。そして超兵器達は基本的に既存の兵器より巨大でありそれに見合った火力も有している事。それを考慮しても既存の艦娘達ではまず一方的に血祭りに上げられるという事は想定しておかねばならなかった。

「じゃあその超兵器に対抗するには……こちらも貴方達と同じ力を持たなくてはならないと?」

「それでも勝てるかは運が付き纏う。それにこの世界と向こうの世界では船体強度も大分違う。」

「やっぱり足が速くないと駄目って事よね?」

「向こうじゃ戦艦すら40ノット越えが普通だったから仕方ないだろう。俺も建造初期は武装等の関係で精々127ノットしか出なくてね。その後の改装で122ノットまで下がったのは上層部からも問題視されたよ。」

127ノットから122ノットと5ノット下がっただけで問題視するなんて解放軍ってどれだけ贅沢言ってるんだと言いそうになった有紀子だが、危うく出かけたその言葉を何とか飲み込んであくまで冷静を装う。

「俺自身あまり知らない事だが今の姿から色々と改装予定も組まれていたらしいがそれらは水泡に帰したようだ。」

「と言うと?」

そこまで言って苦笑を浮かべる倭に気付いたが、もう遅かった。

「ぶっちゃけた話、俺は北極海で暴発に巻き込まれてここに来たからな。死んだのか死んでないのかすら俺にも分からない。予定はあくまで予定だし予定は未定とも言うように計画でしかない。設計図も俺が持っているわけじゃない。」

自分が死んだのか、死んでいないのかも分からぬままこの世を生き続けている。それはどんなに恐ろしいか私には分からない。

「でも、受肉したこの身に流れる血は暖かかった。死んだのに生きている、中々不思議な気持ちだったよ。」

「そう……でも超兵器の力ってそんなに強いの?」

「ああ。超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント、そいつは85ノットの神速をもって解放軍3個艦隊を瞬く間に壊滅させたと聞いた。それも戦艦、空母、重巡が主力の艦隊を一瞬で、な。」

それを聞いた瞬間、有紀子は寒気がした。戦艦、空母、重巡主力の3個艦隊を瞬時に壊滅させるだけの火力、そして85ノットもの神速といった性能を持つ相手に倭抜きでどうやって勝てば良いのか答えが見つからなかった。

「提督、霧島戻りました。」コンコン

「良いわよ。」

丁度霧島が戻ってきたので部屋の空気を入れ替えるかのように入室を促す。

「失礼します。西村艦隊の皆を御連れ致しました。」

執務室に3隻の戦艦と1隻の重巡、4隻の駆逐艦が入ると、戦艦勢の巨大さが際立ち、倭の存在感が殊更戦艦としての偉容を引き立てていた。

「私は扶桑型戦艦1番艦扶桑と申します。妹の山城共々宜しくお願いします。」ペコッ

「扶桑型2番艦山城よ。……艦隊に居る方が珍しいとか言わないでくれる?」プイッ

「僕は最上型航空巡洋艦1番艦最上。いや~霧島さんが会わせたい人が居るって言うから来てみたら予想的中だよ。」ワクワク

「フン、アンタには前に名前教えたから別に教えなくても良いでしょ。」

「朝潮型駆逐艦5番艦朝雲よ。ガキっぽいとか思わないでくれる?」

「朝潮型駆逐艦6番艦山雲です。宜しくお願いしますね。」

「僕ももう知ってるから紹介しなくても良いよね。」

扶桑、山城、最上、満潮、朝雲、山雲、時雨の7隻で構成される『西村艦隊』が倭の前に集まった。尤も、有紀子が霧島に指示したのは代表者の扶桑と山城と最上だけで良かったのだが、極一部の艦の事しか知らないままの倭が連携を上手く取れるのか危惧した霧島の独断で西村艦隊メンバーを全員呼んだのだった。

「倭型重装護衛艦1番艦倭だ。“それなりに”君等の護衛任務に就かせてもらう事になった。宜しく頼む。」

「それで提督。私達を及びになったという事は……」

「ええ。倭と一緒にスリガオ海峡に向かってもらうわ。彼には貴女達の護衛任務に就いてもらいます。」

「そう、ですか……倭さん、宜しくお願いしますね。」

「こちらこそスリガオを抜けるまで護衛任務を全うさせてもらう。」

渡された資料にはスリガオ海峡を抜けてからの事も書かれていた。要するに海峡を抜けたらレイテは目前なので駐留している深海棲艦達の補給船団に艦砲射撃を見舞って全滅させてやれというわけだ。

「他に突入する部隊は?」

「シブヤン海を抜けてサマール島沖からレイテに突入を仕掛ける本国から集められた第1連合艦隊。スリガオは私達第4艦隊所属第2戦隊(西村艦隊)が担当するのだけど後続の第3艦隊は私達の後に続く形になるわ。」

「違うな。提督、この作戦を遂行するに当たって本国筋の連中は南方戦線側から囮を出せと言ってきてるんじゃないか?」

「………その通りよ。よりによって空母再編が終わったばかりの私の所に命令されているのよ。」

自分が共に過ごしてきた戦友達に“死んでくれ”と言わねばならない悔しさは倭にも分かる。かつての作戦で空母達を守る為に囮になって死線へ行ってくれと土下座しながら頼み込んできた解放軍参謀長の姿が思い出された。

‐あのオッサン、向こうでも元気でやってるかな……いや、きっと元気に決まってる。ヴィルベルヴィントに壊滅させられた艦隊の数少ない生き残りなんだ。強運持ちの人間がそう簡単にくたばるとは思えん………‐

「もし、空母部隊に敵航空部隊が襲い掛かる前に敵機動艦隊を撃破出来れば多少は違うか?」

「多少生き延びられる生存確率が上がる程度よ。敵機動艦隊の戦力は空母ヲ級改フラグシップ1隻、ヲ級エリート9隻、ヲ級通常型12隻、軽空母ヌ級15隻。護衛に至っては戦艦レ級改フラグシップ1隻、ル級エリート3隻、ル級通常型4隻、タ級エリート4隻、タ級通常型4隻、重巡ネ級6隻、雷巡チ級6隻、軽巡ホ級16隻、駆逐ハ級後期型20隻、駆逐ニ級後期型30隻の大規模艦隊。勝てる見込みも生きて帰れる確率も皆無。そういう事よ。」

 どう考えても航空戦力は400機以上1000機以内。それでも倭にとって、それらを相手にする事など大した事ではなかった。レシプロよりも速く、堅いヴンディッヒやハウニブーといった変態航空機群を相手にしている経験がある為、艦娘や深海棲艦の飛ばしてくる艦載機は止まっているも同然に見え、ハエ叩き宜しく片っ端から撃墜できたのだ。

「では少し聞き方を変えよう。敵の補給船は居るのか?」

「……居るわね補給船ワ級が40隻。でもこれは艦隊の後方に配置されてるのよ?どうやって叩くつもり?」

「それはスリガオを突破した後に叩きに向かう。俺には俺のやり方があるのでね。」

スリガオ海峡を簡単に“突破する”と言い放ち冷笑を湛えていた倭だが、その紅くなった目は見た者全ての背筋が怖気立つ程の狂気を内包していた。

 

 

『まず今回の比島奪回作戦だけど、南方戦線から抽出された艦隊と本土から来る精鋭艦隊で構成されているわ。私達トラック泊地艦隊が担当するのはスリガオ海峡、エンガノ岬沖海域、サマール島近海の3ヶ所よ。サマール島の海域なら私達の艦隊で十分なんだけど、大本営は“スリガオ海峡は西村艦隊のみで攻略せよ。”と言い切られたわ。このトラック泊地に居る西村艦隊じゃまだ攻略は厳しいわ。そこで倭にはスリガオ海峡で支援任務に就いてもらいます。それから………』

出撃に際し、笹川が作戦について放送をしている間、倭を加えた西村艦隊は急ぎ出港準備を進め、何時でも出られる様に準備を整えていた倭は山城の所で糧食、真水等の積み込み作業を手伝っていた。

「山城、この糧食も積み込むのか?」

「ええ。後はそっちに置いてあるタンクから真水を補給するだけよ。………何でいきなり手伝うなんて言ってきたのよ。」

「俺は何時でも出られる状態で待機していたからな。その分簡易点検で済ませられたのが大きい点だ。それに、」

「?」

「この艦隊で一番準備が遅いようだから手伝わないと出港期日に遅れると思って。」

「悪かったわね。どうせ私は準備も何もかもが遅い欠陥戦艦よ……」

不貞腐れる山城を尻目にタンクへ注水を始める倭だが、会話を弾ませる気も無かったが止める気も無かった。そして山城にある言葉を言った。

「別に俺は欠陥戦艦だとは思ってない。そんなの他人の勝手な評価に過ぎん。そもそも機関換装に手間取っただけじゃないか。第一お前の脚は機関換装で45.7ノット、装甲強化で対41cm防御に跳ね上がってるんだ。この世界で遅い遅いと言われるのは金剛型の30ノットが目立つからに他ならんが、その金剛型に勝るものを持っているじゃないか。」

「え、金剛型に勝るもの?」

「火力。足以外では一番自慢なんじゃないのか?」

「っ!!」

「41cm3連装2基6門、同連装砲2基4門、計10門。対する金剛型、長門型は8門。尤も、防御力等を抜いた場合、だがな。それでも俺はお前さん(の火力)は魅力的だと思うぞ。」

それだけ言うと注水を終えた倭は全員の準備を見回りに行ってしまった。取り残された山城の顔が周囲から見ても十分分かるほど赤くなっている事に誰しもが気付いたが敢えて気にしない素振りをしたのは言うまでもなかった。

出港して数日後、スリガオ海峡の入り口に達しようとしている時、倭に乗艦していた筈の笹川は山城に移乗させられた。安全面を考えても山城に乗るより倭に乗っていれば良いのだろうが、笹川を強制的に倭が「俺に乗っているより山城の方が無茶な回避機動が出来ない分安全。」と言い切って移乗させたのだ。

 ミンダナオ海側に面する方のスリガオ海峡入り口に迫った時、倭の電探は敵艦の配置を的確に捉え、主砲が旋回を始める。

『主砲、徹甲炸裂焼夷弾装填。』

『装填良し!』

『第1、第2主砲、斉射始めッ!』

次の瞬間、轟音が空気を震わせ、爆風が海面を叩き割り空を引き裂いた。衣笠の日報に書かれていた通りに腹に深く響く強烈な発砲音。艦隊前衛に配置されて居ながら、艦隊中央に居る自分の防弾ガラスを大きく振動させるのだ。共に前衛に居る最上達は更に強い衝撃に襲われている事だろう。

「日報通りに強烈ね……流石61cm砲、と言った所かしら?」

「………」

「山城、艦隊全艦に加命。『各艦、倭ノ艦砲射撃終了マデ現在位置ニテ待機セヨ。』以上よ。」

「……了解しました。」

通信士に加命指示を出して先程笹川が言った言葉を復唱するかのように伝えさせ、全艦から了解の発光信号が返ってくる。その間も倭は微速前進で動きながら5斉射目を放とうとしていた。

 そんな最中、山城に装備された電探に、不穏な影が映った。どう考えても高速かつ小型である事を示す小さな反応。敵機の来襲であった。

「艦隊全艦敵機来襲に付き対空戦闘用意!」

急いで対空戦闘の用意を急がせたのだが、ここで倭が待ったを掛けた。

『山城、対空攻撃は俺がやろう。何、まだ敵機に見つからない位置に居るんだ。対空ミサイルで全滅させる。』

「いや、あの……」

『貴艦等は戦力温存に努めよ。弾薬はまだ沢山残っているから心配する必要は無い。』

「その弾薬消費で泣きを見るのは私なのに……」

笹川の泣き言も空しく倭は主砲脇に配置されたハッチを敵機の数に合わせて展開。高性能電探による目標同時追尾によって一斉に撃ち出される対空ミサイル群。それは神の矢と称するに相応しい速度で目標へと飛翔し、確実に敵機を双方の目視圏外で撃墜を果たした。

「何、あれ……」

「あれが、ミサイル?」

『さて、そろそろ敵艦隊も良い具合に焼きあがっただろう。笹川提督、突入しても敵戦艦からは攻撃はほぼ来ないと思うが先に俺だけ行こうか?』

敵艦隊、特に戦艦は撃って来れないと言い切り、自分だけ先に行こうとした倭だが、流石に単艦突入させるくらいなら皆で行った方が良いと思い直し、

「1人はダメ。艦隊全艦、海峡に突入しましょう。残っている軽快艦艇からの攻撃に十分注意して頂戴。」

今は夕方から夜になろうとしていた時間帯であり、予定ではこの時刻に第1艦隊から報告が行われるはずだったが、予定時刻を過ぎても繋がらないし来もしない。仕方なく、突入を指示せざるを得なかった。

 倭を前衛にしつつ護衛に時雨と満潮が就き、最上以下朝雲、山雲は扶桑、山城の護衛任務へと移った。突入して僅か5分で周囲の様子は一変した。倭の副砲と両用砲が連続して砲火を開き、周囲の闇に紛れていた駆逐艦ロ級数隻を穴だらけにした。

『残念だったね!』

『ウザイのよっ!!』

それに呼応するように時雨、満潮も主砲を唸らせてロ級に命中弾を与え、海の藻屑にし続ける。その光景に笹川は戦場にも関わらず手帳に書き記した。

 

『倭、満潮も撃沈。』

 

と。これを書く理由は出港前からの満潮の動きで即座に解明出来た。何せ四六時中視線が倭に固定されているからで、時雨の場合は完全に横に張り付いている様子を何となく羨ましそうに眺めていたりするのだ。

 そこまでの行動を笹川が把握していないわけも無く、色んな場所から倭の近辺状況の報告を逐一受けるのだ。本人が幾ら分からないようにしてもその隠し度合いが非常に低かった事もあってあっさり周囲に看破されてしまっていた。

 話を戻すが海峡内は倭ほどの巨艦が通るには浅い部分も幾つかあったが、高性能音探を持つ倭が先導役を担い、浅い部分も難無く避けられた。そして、前方に幾つもの灯りが見えたがそれは倭によって行動不可に追い詰められた戦艦タ級3隻と戦艦ル級3隻。大破炎上しながら何とか消火作業を進めているが、徹甲炸裂焼夷弾が齎した被害は深海妖精達の手で消し止められないほどの火災を引き起こしていた。

 この時、周囲には魚雷艇が多数潜伏していたが、倭の攻撃で悉くが波に飲まれてしまい、残った少数で後続の山城達に襲撃を仕掛けたが、倭の電探には最初から魚雷艇達は捉えられており、その情報を受けた扶桑、山城の副砲が目を凝らして魚雷艇を探していたので、見つかり次第副砲からの猛射を浴びて少なくなっていた魚雷艇達は更にその数を減らし、最後の1隻は最上の主砲で消し飛ばされていた。

 次々に上がる火の手を消し止められないまま1隻のタ級が爆沈。残りは少しだけ火の勢いが弱まって来ているのを見て再び消火作業が始まったが、直後に水柱が妖精達を飲み込み、海へと引きずり込む。敵に慈悲無しとばかりに前衛に居た時雨、満潮から放たれた61cm4連装酸素魚雷8発中7発が大破炎上を続ける2隻のタ級に命中し更なる弾薬庫誘爆を発生させ、確実に息の根を断ち切った。

 順調に進んでいたはずの消火作業中に僚艦2隻が葬られた事で、一瞬手が止まった隙を突く様に倭が割り出した敵艦座標の情報を元に扶桑、山城から計10発の41cm砲弾が飛来。極めて精確にル級達の弾薬庫等を射抜き、瞬時に爆沈させた。

 

 

 未だに信じられない。何度やっても返り討ちに遭って撤退ばかりしていた私達が、戦艦1隻を加えただけで殆ど無抵抗に等しくなったスリガオ海峡を通れている事が信じられない。何度も頬を抓ってみたが痛みで現実に起きた事なのだと実感させられた。私達は遂に魔のスリガオ海峡を突破した。いや、正確には楽に突破させてもらったと言うべきだ。海峡突入前に倭の長距離砲撃で敵に損害を与え、脅威をある程度排除してから突入して残敵を掃討して行くと、目の前には倭によって瀕死に追い込まれた敵戦艦が6隻。1隻はすぐに爆沈したものの、残った5隻のうち2隻に向かって魚雷を発射。時雨も同じ様に魚雷を撃ち込んで2人でタ級2隻を撃沈した。その後に扶桑と山城からの砲撃で止めを刺されたル級3隻は波間に消えて行った。

 結果的に倭に助けられたとはいえ、私達は運命の海峡を抜けられた。と、ここで倭が艦隊から離れてサマール島方面へと移動していくのが見えた。

「ちょっと、何処行くのよ。」

『エンガノ岬だ。今ならまだ間に合う。目前のレイテにある補給拠点を叩き潰してからトラックに戻ると良い。』

『今から行くの?』

『ああ。今行かねば無用な犠牲が生まれる。何も出来なかったあの頃の俺に、もう戻りたく無い。だからどれだけ反対されようと全力で助けに行くまでだ。以上で通信を終了する。』

「ちょ、ちょっと…」

ブツリと音を立てて繋がらなくなった無線。何も言えず、力にもなれなかった自分が無性に悔しくて仕方なかった。いや、なる事を躊躇った自分を殴りたかった。

 既に倭は全速力で海域から離脱しエンガノ岬方面に攻撃隊を展開させている敵機動艦隊を殲滅すべく先へ行った。私達艦娘が危険視しているエリートクラスが犇く地獄の海域へ自ら足を踏み入れた。

「ねぇ、司令官。頼みがあるんだけど。」

『行きたい?倭の後について行きたい?』

「……ええ。私も……私もアイツの傍で戦いたい!アイツの傍に居たいのよ!」

『………山城は、というか皆はどうしたい?』

満潮の言葉である決意を決めた笹川。そしてひとつの提案を持ち出す。

『僕は提督に止められても行く気だったんだけど、満潮に全部言われちゃった。』

『私も彼の為になるなら少しでも力を添えたいと思います。ね、山城もそう思うでしょう?』

『え?いや私は……そのぅ…扶桑姉様が行くと言うのでしたら私も……』

『アンタの場合扶桑じゃなくて倭目当てだったり?』

『あら。山城ったらそうだったの?』

『違います!違いますって!誰があんな奴なんか………』

『山城?倭を貶すような事言うと僕は手加減しないよ?』

『な、何でそうなるのぉ~?!』

『僕も行ってみようかな。あの人の戦い方とか見ておきたいし。』

『朝雲も行っても良いわ。』

『朝雲が行くなら私も行きます~』

皆の意思を確認して、後続の第3艦隊に連絡を入れて近海の制圧を任せる旨の通達を入れてすぐさま倭が進んでいったエンガノ岬方面へ舵を取った。

 




 やっぱり倭が時雨と絡む以上西村艦隊と組ませる以外の方法が無いなと思いましてww
倭は実力をほぼ出してません。そのくせ命中率95%ってどういう事だオイって思われるでしょうが、これは電探射撃によるもので、通常測距でやるともっと(70~85%くらいまで)下がります。

 作者最愛の艦娘はやっぱり時雨ですが、戦艦勢の中では扶桑姉妹が一番です。理由?そんなの(艤装が)デカイからに決まってるだろう? 誰が艦橋がデカイk(61cm酸素魚雷直撃
 ツンツンしてる満潮ちゃんはイイと思うのだが、若干病んだ時雨もイイかも?

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