恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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 さてと、取り敢えず演習という名目で倭無双が始まります。例によって航空機を相手取るならやっぱりアレを使わないと!
 倭は素肌にも動じない鉄壁の心を持っていますのですwww後半では倭がリア充に……どうしてこうなった……感想等お待ちしてます!


本土で待つ策略 後編

 

 

日の出と共に水平線の彼方より姿を現した1隻の巨艦。それはトラックから無補給で一直線に横須賀へとやってきた倭だった。

「おお……何と勇ましい………あれがトラックの漂着艦か………」

「そうですな。それと久遠総長、福本中将から演習艦隊の構成についての書類が到着しております。一応正午からの演習予定でもありますので目を通して置いてください。」

「どうせ君が先に目を通しておいたのだろう?何時もながら世話を掛けるのう。」

「総長の負担を少しでも減らすのが私の勤めと心得ておりますゆえ………今頃本部はエライ事になっておりますでしょう。」

「そんなにかね?」

「はい。先に目を通した私も怒りのあまり破り捨てそうになったほどであります。本部の重鎮方は艦娘達を大層可愛がって居られますので私よりも頭にきている事でしょう。ただ1隻の戦艦相手に過剰戦力をぶつけるなど大人気ないにもほどがあります。」

これでは無礼極まりないと怒りを隠そうともしない錦少将はとんでもない勘違いをしていた事に演習中に気付く事になる。

 

 

‐本部‐

「何だこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「無礼極まりないというか型破りというか……」

「野郎ぶっ殺してやらぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「落ち着け東山!!」

「は、離せぇ!今直ぐ福本の野郎の脳天に鉛弾をぶち込まねば気が済まんのだぁ!!」

怒りのあまり本当にやりそうになっている東山中将を何とか押さえ込んでいる同僚達。

「気持ちは分かるが総長に迷惑が掛かる事を考えんか!!」

「ぬぅぅぅ!!」

総長というキーワードで一時的に怒りを静めていくが、どうにも納得がいかなかった。

「しかし福本め、こんな編成で出撃しようとはな。」

「それ程自信があるという事だ。好きにやらせて痛い目を見させる事も必要だろう。」

「俺は納得せんからな!!1対36など多勢に無勢過ぎる!」

机に叩きつけられた書類。それは今回行われる演習の艦隊編成であった。

‐演習における今回の艦隊編成‐

笹川トラック艦隊

・第1艦隊:漂着艦

総数:1隻

 

福本横須賀艦隊

・第1艦隊:戦艦『大和』『武蔵』『長門』『陸奥』

空母『赤城』『加賀』

・第2艦隊:戦艦『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』

空母『蒼龍』『飛龍』

・第3艦隊:航戦『伊勢』『日向』

空母『翔鶴』『瑞鶴』

雷巡『北上』『大井』

・第4艦隊:空母『大鳳』『雲龍』

重巡『高雄』『愛宕』『摩耶』『鳥海』

・第5艦隊:空母『天城』『葛城』

      軽巡『大淀』

      駆逐『陽炎』『不知火』『黒潮』

・第6艦隊:軽空『龍鳳』

軽巡『神通』

駆逐『雪風』『朝潮』『島風』『天津風』

総数:36隻

 

正に多勢に無勢。1対36など戦力的に“普通に考えれば”絶望といえる陣容だった。

 

 

 

 

(ここは……ハワイ沖、か?)

周囲に漂い、吐き気を催さんばかりに立ち込める硝煙と血と重油と肉が焦げる臭い。そして海に浮かぶ鉄の破片とその断片に付着した肉塊と化した人間であったモノ。更には此方に向けて必死に泳いでくる人影。それがすぐに夢であるとは分かったが、止める事が出来なかった。

(ああ、俺はこのハワイ沖で『杜若』と『常盤』を“ーーー”んだったな。)

その目の前に浮かぶ2隻分の残骸がそれを物語っている。何よりすぐ傍で戦艦が、金色に輝く菊御紋付きの艦首を高々と上げて沈んでいこうとしてーーーそこで目が覚めた。

「最悪の寝覚めだ……」

横須賀へ到着した時に宛がってもらった鎮守府傍のホテルの一室で一人呟く倭。そして昨日手渡されていた演習の艦隊編成表を手にとって眺める。どう見ても数の暴力で押される事など目に見えていると普通は思うのだが倭は、

(こんなに偏った編成で良いのか?戦艦と…空母が主体過ぎて護衛がかなりおざなりになっている、か。護衛の軽空母もたった1隻に雷撃戦の決め手になるべき雷巡も2隻。軽巡も同様。駆逐艦は、7隻。今回は護衛を如何に素早く突破して装甲空母を如何に早く仕留められるかが鍵になる。第1艦隊と第5艦隊は最後部に据えられた艦隊と見て良い。次に第2艦隊と第3艦隊が中央という事は後ろの楯変わりかな?最前方が第4艦隊と第6艦隊か。どの道後ろに行けば行くほど輪形陣を選ばなくてはならない編成だが……『護衛』が少な過ぎる。大方火力にモノを言わせる馬鹿が編成したんだろう。無駄に体力を浪費させられる側の身になって考えられない奴には………“消えて”もらうか。)

などと冷静かつ冷酷に分析していた。その分析通り福本は火力と数にモノを言わせて攻略を行ってきている為に平気で捨て艦戦法を多用出来るのであった。

 そしてベッドから出ようとしてある事に気付いた。俺の寝ていたベッドは何故3つの膨らみが出来上がっているのかと誰かに問い質したくなるが、諦めてそっと掛け布団を捲ると3人の眠れる姫君達が居た。ドアも窓も鍵は閉めておいた筈だが、と思い、床に少量の砂と埃が落ちているのを見つけて見上げれば視線の先に侵入口がポッカリ口を開けていた。

「何故にダクトを通って此処に来たし……艦娘は忍者じゃ無いと聞いたが、この子等は別という事か。」

だが、問題はそれだけではなかった。床一面に散らばる衣類の数々。そして掛け布団をもう一度そっと捲ると、

「何故服を着ないで寝るんだ……」

3人の姫君は暑かったのだろうかそれともただ寝ぼけていただけなのかは分からないが素っ裸で布団に潜り込むのはどうなのかと少し思案し、すぐに止めた。考えるだけ無駄だろうと。

 申し訳無い事に連れてきた3人の姫君は演習に不参加故、本格的に俺だけが戦う事になる。この世界に来て演習とは言えど、初戦闘になる。そしてその相手が同郷の者とは何とも皮肉なものか。

 手っ取り早く着替えて書置きを机に置いてから朝食を食べ、態々車を用意して待っていてくれた憲兵達に礼を言って乗り込む。本体が係留されている横須賀鎮守府の沖合いまで内火艇で移動し、演習海域でもある九十九里浜100km沖合いへ針路を向ける。50km圏内で行われる為、航空機に発見される可能性はほぼ100%であった

「しかし、1対36とは豪勢ですなぁ。」

「さてな。俺が組んだ編成じゃない。結果がどうなろうと俺の所為にされても困るだけだがな。さて、砲術長。」

「はいな!」

「今回は派手にやって宜しい。」

「了解でさぁ!!先に装甲空母からですか?」

砲術長に派手にやれと指示を出して搭載されてきた演習用ペイント弾を装填させる。

「ああ。中破してても発艦させられるらしいからな。俺としては先に潰しておきたい存在だ。」

「じゃあ他の空母はどうします?空襲される事態は避けるべきですから先に航空戦力を奪った方が宜しいのでは?」

空母狙いなら徹底的に空母を狙うべきと進言してきたがそれでは彼女達の上司に如何に己が無能なのか教える為にもそんな事はしない。

「空母よりも面倒なのが戦艦だ。幾ら俺でもアレだけの戦艦の砲撃に耐えられる自信はない。どの道空母は接近されるか航空機を全喪失すればただのデカイ的に過ぎん。それよりも戦艦の砲が脅威的である事に変わりはない。」

『あー聞こえるかね倭君。ワシが信号弾を撃ったら始めてくれて構わんよ。色は赤だからの。』

『ククク、貴様の負ける姿が俺には見えるがそれでもやる気か?』

「…………ゴミの戯言や御託はどうでも良い。俺は無能な奴をさっさと片付けて帰るだけだ。」

相手でもある福本中将の戯言を上手く貶し、それから程無くして赤い信号弾が撃ち上げられた。

「倭型重装護衛艦『倭』、出撃する!!」

指示が飛ぶや否や素早く、的確に仕事をこなしていく妖精達。既に全敵艦隊は此方の61cm砲の射程圏内である為、電探射撃に切り替えて前衛と後衛に均等に2斉射を仕掛ける。

「主砲発射用意。第1主砲は後衛艦隊、第2主砲は前衛艦隊を照準せよ。第3主砲と第4主砲は

演習弾装填のまま指示あるまで待機。晴嵐改全機発艦!」

『主砲射撃指揮所了解。前部砲撃戦、目標諸元解析値入力完了。電探連動照準射撃への切り替え完了。』

『主砲即時射撃体勢完了。自動装填装置γ稼動開始。』

『晴嵐隊発艦します!』

長い砲身からは想像も付かぬ程速い速度で最大仰角の姿勢を取る主砲。既に電探との連動射撃によって得られた長距離精密狙撃と、目標周辺でも狭い散布界を保たせる為に動き続ける発砲遅延装置γが何時でも撃てると示していた。そして晴嵐改3機を着弾観測と魚雷攻撃の為に派遣する。

「第1、第2主砲発射準備良し!」

『電探指揮所より艦長へ。電探に敵航空機を探知。偵察機彩雲と思われます。』

「数は?」

『10機です。各空母から1機ずつ発艦していると思われます。』

彩雲が出てきたとなるとどう足掻いても此方が発見されるのは時間の問題だろう。流石に光学迷彩なんて積んでないからな。どの道見つかるのならばそれまでに撃ってしまえば後は護衛を素早く突破して装甲空母を撃破すれば攻撃が多少楽になる。

 装甲空母とは存在だけでも十分障害となるが、倭にとっては少々撃たれ強い程度の認識しかなかった。そして時雨達の世界と倭が居た世界では防御意識が違った。時雨達の世界が航空攻撃を意識したものであるが、倭の居た世界では砲撃防御も意識して装甲を施されていた為、51cm砲でも中々沈まなかった事を記憶している。

「2斉射後、機関両舷一杯。敵陣を引っ掻き回しに行く。第1、第2主砲、撃ぇ!」

演習弾を装填しているとはいえ、この世界で間違いなく世界最強の艦砲の1つになるであろう61cm60口径3連装砲が初めて射撃を行った。凄まじい振動が艦を揺さぶり、倭の前方が巨大な炎と煙で彩られる。そして後衛艦隊に向けて発射された直後、自動装填装置γによる超高速装填で演習弾を砲身に押し込められ、射角調整後再度斉射。今度は前衛艦隊に向かって砲弾がカッ飛んでいく。

「両舷半速。全推進装置稼働。操舵系補助装置起動。」

「新型操舵装置、バウスラスター、急加減速制御装置稼動開始!」

61.4ノットの速力を発揮して白波を蹴立てて艦首が海を引き裂いて驀進する。その頃、電探の画面には目標の前衛艦隊と後衛艦隊に向けて飛翔する12発の演習弾のマーカーが写っていた。そして接近してくる3桁ほどの敵航空機群が真っ直ぐ倭に迫っていた。

(彩雲を泳がせて正解だったな。これで遠慮なく空母を叩ける。上の連中には少々気の毒だがな。)

「弾着まで後5秒…4…3…2…弾ちゃーく、今!」

本当は見えない筈ではあるが、俺の測距儀は俺自身が放った61cm砲弾が吹き上げた水柱の先端をしっかりと捉えていた。

『此方1号機!着弾確認!近、近、至近、至近、遠、近。初弾狭叉!』

「外しましたな……」

「わざとだ。」

「ふぁっ?!」

わざと外した事に気付いた連中は向こうには居ないだろう。だがそれだけで十分だった。50kmもの長射程で全てを狭叉させたのだから十分な警告にはなっただろうと。

『此方2号機!着弾を確認!近、遠、至近、残りは装甲空母に直撃!大破判定が出ました!』

「やりましたね艦長!!」

2斉射目で装甲空母を狙い通りに大破させた倭だが、2号機から新たな情報が入る。

『か、艦長!此方2号機!此方2号機!』

「どうした2号機。敵機に食い付かれたか?」

『違います!敵装甲空母から敵機が発艦中です!!』

「「何ぃ?!」」

倭と副長は同時に驚愕した。それもその筈で、演習では大破した艦は離脱して後方で見守らなくてはならないのが鉄則である。それが大破判定を受けて居る筈の装甲空母大鳳が航空機を発艦させてきたと言う事は本来あってはならない事であった。ただ、これが“本来の演習”であれば、の話だが。

「敵機来襲までに此方に戻れるか?」

『何とか間に合わせますのでトンボ釣りの用意願います!』

「言われなくてもお前等を必ず拾い上げてやる。」

さて、もしこれが演習でないとしたら?此方が演習だと思い込んでいるとすればそこに付け入る隙が生まれる。

(もし、相手が実弾を使用すると言うなら俺も“最悪”の事を想定して動かないとな………例え彼女等がどうなろうと…………)

 

 

 装甲空母大鳳は焦りに焦っていた。自分がいきなり大破させられるとは思っても見なかったのである。だが、演習弾で汚れた程度で自身の装甲が破られた訳ではなかった。提督に離脱指示を仰いだ瞬間罵声を浴びせられ、爆装させた攻撃隊を出せ。と返事が帰って来た。

(こんなの……演習じゃない………たった1隻の戦艦相手にやる事じゃない……でも、やらなきゃ私も………)

やらねば自分もあの子達の後を追う事になる。彼女は福本に刃向かった艦娘達の末路を知っている。まだ解体されるか捨て艦として使われるならば良い方だった。“まだ死に場所があるだけ幾らかマシだった。”

 あまりにも反抗的態度が目立ったり、戦績が低迷した艦娘はある施設に送り込まれた。そこでは反抗的態度が目立つ艦娘を更生させるという建前を利用して送り込まれた艦娘達の身体で様々な実験が行われていた。

 それでも反抗するようであれば実験を止めてある仕事の処理を任される。それは施設で働く男共の玩具、所謂“性処理道具”としての仕事であった。これによって何人もの艦娘が身体・精神的に大きな傷を負い、舌を噛み切ったり、首吊り等で死ぬ者が続出していた。

 勿論これらの事は福本と施設員、政府高官などがグルで情報流出を防いでおり、表向きには作戦中に轟沈したと報告している。これらの報告書を見た青葉が上手く立ち回ってくれる事を一時期は期待していた。が、その青葉も衣笠を人質に広報活動を制限され、福本に都合の良い記事しか書けない状態に陥っていた。

(ごめんなさい……私も、やらなければならないんです。例え貴女がどうなったとしても!)

大鳳はかなり追い詰められていた。だが、その心を更に追い詰める事になったのがこの演習であった。ただ1隻の戦艦を過剰戦力で磨り潰そうと画策した作戦で、既に第1段階の航空攻撃は始まっていた。未だ発艦させていない自分以外は皆実弾を装備して戦闘に臨んでいた。

勿論空母だけではなく、戦艦、重巡、軽巡、駆逐共に全員が実弾装備だ。対する相手は演習と思い込んでいるであろう戦艦1隻。皆がどう思っているかなど知った事ではなかった。大鳳の胸に渦巻くのは相手に対する謝罪と後悔の気持ち。しかし、彼女達も大きな勘違いをしていた。倭を“ただの戦艦”と誤認して居た事である。それが彼女達に悲劇を齎す事になるとはこの時点では実行しようとしていた本人以外は知る由など与えられなかった。

 

 

 倭に雲霞の如く押し迫る大量の航空機群。それらを別の位置から見守る影が3つあった。久遠総長の力を借りて用意してもらった小型ボートに乗り込んだ6人の衛兵と時雨、夕立、弥生の9人であった。

「こんなの演習なんて言わないよ。こんなのただの虐めっぽい。」

「大丈夫夕立。倭はあんな奴等に負けやしないさ。」

「……弥生はちょっと心配です(時雨さん、手が震えてる事に気付いてない……)」

 倭の直上から急降下姿勢で降りてきた彗星と九九艦爆の群れに対して倭の対空砲火は演習用のモノを疎らに撃つだけであった。流石に一航線、二航戦、五航戦の精鋭が揃っているだけの事はあり、倭は水柱に包まれる。直後、あちこちから黒煙を引いた姿の倭が現れる。そこに雷撃隊が襲い掛かって次々に魚雷を投下して離脱していく。

 どちらに舵を切っても魚雷が面白い様に命中し、再び水柱に包まれる倭。さしもの倭であっても魚雷は効いた為、左舷に傾斜しつつ回避行動を続けていた。だが、倭は反撃を行わない。精々演習弾を適当にばら撒くだけに留めたあまりにも御粗末な対空射撃。

 そして福本とその配下の艦隊以外は気付く。倭は実弾で攻撃されていると。勿論これは立派な違法行為であり、極刑に処されても何の文句も言えなくされると世の提督達から常々恐れられ、禁止されていた危険行為である。

何も出来ない自分達を悔しく思う時雨達に対して倭はある決断を下した。それは偶々傍受できた内容であったが、倭以外に理解できる者は居なかった。

『対超兵器用超重力弾装填。一切喝采消し飛ばす。』

 

 

 

 

 傾斜した船体とあちこち吹き飛ばされて無くなった機銃群。それでも攻撃しようと迫る敵機に対して倭は普段は禁止しているある装備の使用許可を出す。

「対超兵器用超重力弾装填。一切喝采消し飛ばす。」

「宜しいので?」

「構うな。此処でこんな雑魚共にやられるくらいなら全力を持ってやり返すまでだ。」

『了解!主砲に超重力弾装填!』

「主砲超重力弾、目標上空の敵機。撃ぇ!」

撃ち出された砲弾。それは前方に飛んで行き、セットされた時限信管が作動する。同時に信管作動点から非常に強い引力を持つマイクロブラックホールが発生し、空を飛んでいた航空機は全てが引力に負けて跡形も無い程バラバラに砕かれ、吸い込まれていく。

「良し今だ!応急修理開始!」

号令と共に倭の船体を淡く白い光が包み、船体の傾斜が回復し、吹き出ていた煙も炎も全て消えていく。その後に失われた機銃の部品が再構築されて戦闘準備を整えていく。これこそ倭の化物戦艦の名の由縁であった。

どれだけ傷付いても、どんなに瀕死に追い込んでもあっという間に応急修理で復活してくるゾンビの如く蘇る戦艦。帝国軍はこの機能を持つ倭を非常に恐れ、警戒し、解放軍を潰す為にはまず倭を先に沈めるしかないと計画、実行に移したがその結果は倭が生存している事が何よりの証明であろう。

 それ相応に弱点はあるのだが、それを補うのが倭の保有する絶大な火力と超重力弾だ。主砲の乱射に混ぜ込んで超重力弾を何発か撃ち込んで時間を稼ぎ、その間に手早く応急修理を済ませて全快状態に戻る、といった実に単純な戦法を取っていた。

 敵航空機を一掃した後、更に追い撃ちを掛けるべく行動を開始する倭。

「そっちが実弾を使うなら此方も実力行使をさせてもらおう。そちらの艦娘が全部沈んでも、悪く思うなよ?」ニタァ

久し振りに見た倭の悪鬼スマイルと紅い眼。これに睨まれた相手に絶望と死が訪れる事を意味していると知っているのは倭乗組員だけであるが、何時見ても背筋が凍り付き、喉元に回転するチェーンソーが迫っているような悪寒に捕らわれる妖精達であった。

 

 

‐side加賀‐

「攻撃隊が全滅したですって?ありえないわ。」

加賀の元に届いた報告は生き残った加賀隊所属の彩雲からの聞き入れ難いものであった。此方が繰り出した攻撃隊の総数は雷爆連合290機にも登った。それを一瞬で殲滅したと言われれば誰でも信じられなくて当然であろう。そして大鳳以外の空母達は自分達の航空機が搭載しているのは演習弾でない事を知らなかった。これは福本が整備兵に指示して演習弾の塗装を実弾にも施させ、演習弾は全て撤去。その空いたスペースに同様の塗装を施した実弾を積載させていたのだ。

「艦長!もう1機帰ってきました!護衛の烈風です!」

「そう。(一体何があったというの?赤城さんの方は誰も戻っていないし二航戦と五航戦も誰も戻ってきていないと報告を受けている……)」

この時、福本側は知らないが、倭が超重力弾を放った事で殲滅された事に気付くわけがなかった。尤も、今更気付いたとしても手遅れではあったが。

 戻ってきた烈風は右主翼を失っていたものの、辛うじて飛べる機体を必死に制御して此処まで帰って来たと言うわけである。パイロット妖精の必死の奮闘によって何が起きていたのかを聞く事にしたが、それでも妖精の言った事は信じられなかった。

「あの戦艦が発砲して黒くて、大きな渦が空に出来たと思ったら、皆吸い込まれて行きました……ヤバイと思った自分も引き返した瞬間に右翼が引き千切られてました……」

「黒い渦?」

「皆、バラバラに引き千切られて、渦に吸い込まれて………本当です!信じてください艦長!あれはただの戦艦じゃないんです!アレは悪魔です!」

「そう………信じきれる話では無いけれど心に留めておくわ。それと、敵に与えた被害は?」

「殆ど全機が命中させたはずですから大破若しくは中破判定が出ているかと。」

烈風妖精が戦果報告をしている時、整備妖精が慌てて転がり込んできた。

「か、かかか艦長大変です!」

「どうしたのかしら?」

そこで加賀は衝撃の事実と自分達の犯したルール違反の事実を叩き付けられる。

「演習弾が全て入れ替わっていたですって?!」

「はい!さっき演習用魚雷の調整をしようと残ってた九七艦攻の魚雷を自分と部下で搭載されている全ての魚雷弾頭を確認したんですが全て実戦用の物でした。弾薬庫に入っていた物も全て同様の状態です。」

「なんて事なの……これではルール違反で私達も極刑に掛けられるわ……この演習に参加して被害を受けた側以外は全て………」

加賀の発言に艦橋に居た者全てが青褪める。演習でルール違反を犯した者は、状況と度合いによって刑罰が与えられる。最悪は極刑になる事もあり、これまでに何度か艦娘が演習中に事故と称して相手側艦娘を殺傷した事で該当艦娘の意見聞き入れも無く極刑に処された事があった。その大半は提督同士の権力争いだったりするのだから巻き添えを食う形になった艦娘達としては迷惑極まりない。

 福本も何度か刑罰に掛けられそうになったが政府高官などとつるんでいた為、刑罰は非常に軽いものになったりと相手側が納得のいかない処置で終わる事が殆どであった。

(本当に……私達を出世の為の使い捨ての駒としか見ていないのね………何の為に、誰の為に私達は戦っているのか分からなくなる……)

だが、現実は非情であった。その悲劇は前衛艦隊に鉄の雨となって降り注いでいた。

 

 

 

突如水平線の向こう側から現れた相手戦艦の異様な姿に呆気にとられる前衛艦隊。それは、先程の航空攻撃を受けて中破していた筈の倭が何時の間にか無傷で此方に突っ込んで来た。そしてその船体に淡く、紅いオーラを纏ってきたのだから尚更驚いた。

 ガリガリと音を発して聴こえて来た相手戦艦の声は、此処を観戦していた者全てを凍りつかせるのに十分だった。

『ハハハハハハッ!!悪いがこれからお前達全員を徹底的に叩かせてもらうぞ!!違反の対価はお前達自身で支払う事だ!』

 

 

‐倭、特殊技能『Bloody Rising Sun』発動。殲滅モードへ移行します。‐

 

 

 その後は地獄絵図だった。特殊技能を発動して暴れ始めた倭によって福本中将指揮の艦娘達は悉く船体を破壊し尽くされ、艤装のみで戦う事を余儀無くされて行ったが、最早誰にも戦える余力は殆ど残っていなかった。

ありえない程の急旋回と急加速で砲弾や魚雷を悉くかわし、その避けた先に居た味方に当たるように陣取って暴れ続ける倭。その倭に対して大和を根幹とする戦艦部隊からの一斉砲撃も実行されたが、急加速と急減速と急旋回を利用した動きに翻弄されて遂に1発も被弾する事無かった。そして護衛も兼ねていた前衛艦隊が全滅した今、1隻、また1隻と喰われて行った。

演習終了時には、艦船であったはずの残骸が原型を留めぬほど破壊されていたが幸い艦娘の船体が失われただけで済んだ。が、福本自身はこの惨状を認められるほど賢くは無かった。

「こうなれば……貴様の連れてきた艦娘を見せしめに殺してやるわー!!」

『!!!』

時雨達は咄嗟の出来事で反応が遅れた。その隙に福本は自分専用のフリゲート艦に搭載された20.3cm50口径単装砲で砲撃しようとしたが、彼の運もそこまでであった。

 ヒュルヒュルと音を立てて飛来した61cm60口径3連装砲弾3発は各1発ずつが福本の乗るフリゲート艦の艦首を搭載砲ごと消し飛ばし、艦橋に突入した1発が福本を物言わぬ消し炭へと変貌させた直後に炸裂して哀れな男の残骸をこの世から消し去り、中央部に直撃した砲弾はそのまま艦底に突き刺さって起爆。竜骨を完膚なきまでに破壊し尽しても尚余った余波が穿たれた穴を逆に戻りながら船体中央部を隅々まで破壊し、船体が二つに分断される。

『腹いせに他所様の艦娘傷付けようとするなんて人間のする事じゃない。地獄で後悔しろ。』

 これらの動作が瞬きをする間に起きた一瞬の出来事でもあった。司令塔を失い、戦う力も誇りも何もかもを破壊し尽した“元”福本中将の艦隊。彼女達の処遇についてどうなるのかはまだ明確では無いが、倭としては指示に無理やり従わされた側に責任は無いだろうと思っていたがそれはこの後の事だと考える事を止めて特殊技能の発動を停止に戻し、時雨達が乗る小型ボートの傍へ向かった。

 

 

「予想外の連続でしたな総長。」

「うむ。だが彼でなくては出来ん作戦が幾つか考え付いてしまったが後にせんとな。」

「先に片付けるべきは前々から情報を押さえておいた例の艦娘更生施設の徹底調査と制圧作業だけです。証拠は私の艦隊旗艦がCGFNW(コンバットガールズフリートネットワークの略)をフル活用して写真に収めてくれましたので十分です。」

「さぁて、面倒事が増えそうだが、あの戦艦が上手く帳尻合わせに応じてくれると嬉しいんじゃがのう。」

私から詳しく説明を通しておくので心配無用ですよ。と自信満々に言い切った錦少将に相変わらず強かだのう。と返してこの演習という名の戦場をたった1隻で沈黙させた戦艦をもう一度見る。その姿は西日を浴びて美しく輝き、久遠の記憶に焼き付けられた。

‐『倭』よ、異世界から来た力をどうかワシ等に貸しておくれ。決して貴官を悪しき事に利用させはせん。‐

 

 

「倭?!大丈夫なのかい?!怪我とかないよね?!」

「無いさ。どの道応急修理で全快可能だからな。」

ボートから倭に乗り移った時雨達(ボートは衛兵達が乗って陸地へ戻って行った)。そしてラッタルを登りきったや否や時雨は出迎えに来た倭に気遣いの声を掛けながら走り寄った。

「だからって頼り過ぎは……僕の艤装を直した時みたいな事はもうしないでよ?」

「頼り過ぎないように回避運動は心掛けてるさ。」

だが、そんな2人の間に入れなかった夕立と弥生はそれぞれ違う事を考えつつも、最終的には似たような結論に達していた。

(む~。何か心配して損したっぽい……でも時雨ってあんなに積極的だったっけ?)

(応急修理で艦娘の艤装って直せたんだ……でも良いなあ時雨さん。あんなに大胆に抱き付きに行けるなんて……弥生も、やってみようかな?)

だが、肝心の倭はというと、

(あ、何か2人が凄い羨ましそうな顔でこっち見てるが何が羨ましいんだ?)

と平常心が保たれたままであった。

 




 軍上層部は意外とはっちゃけてたりしますwwwそしてノリで陸軍さんと協力プレイしてそうな感じがしてきた。
 時雨達だって女の子なんです!!過激なアタックだってやってみたいのです!!
 応急修理で時雨の失った艤装を再構築出来たのは一部の部品が残っていたからです。例えば肩掛けベルトとかでもそこから得られる情報と時雨の記憶の中にあった艤装の形状やら何やらを元にすれば一晩掛けて強引に再構築可能と言う無茶仕様ww

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