恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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 最早今回の中盤からはタイトルを無視したwww書いてて独り阿呆みたいに爆笑してましたwwwそしてヒロインは時雨だけとは言っていないッ!!(メインは時雨です)荒ぶる女子陣と安定の夕立にぶっ飛んだ常識持ちの主人公に乾杯www

 顔合わせですらぶっ飛んだ状態でありながらやっぱり大和型がベースである事が分かるように表現できてるといいなぁ……(涙) そいで持ってちょろっと過去のトラウマに触れます。


本土で待つ策略 前編

「それじゃあこの61cm砲は砲身内筒部が磨耗しないんですか?」

「主砲だけじゃなく副砲とかはそうだ。何でも超兵器技術の恩恵らしい。向こうじゃ何千発も撃ってきたが一度も交換し無かった。」

「羨ましいその技術……」

「そりゃ結構な事だが俺は提供する気は無い。どの道この世界で超兵器技術が分かる奴が居るとは思えん。」

「じゃあ諦めろと……」

「まあそういう事だ。強過ぎる力は己をも破壊してしまう。それならばいっその事沈んで居れば良かったのかもしれんな。」

「……………」

「で、明石さんよ。」

「はいっ!何でしょうか!?」キラキラ

「触診するつもりなら今直ぐ帰れ。」バキィ

この日、何故か右頬が青くなった明石が倭に襟首をつかまれて工廠に放り込まれた姿が目撃されている。

 

 

「顔合わせ?」

「ええ。昨日は出来なかったから食堂でね。」

「やらんでも良いだろうに……」

「DA・ME・YO」

「………余計な事を言わなきゃ良いのか?」

倭の言うとおり、彼はこの世界にとって規格外も良い所の存在であり、その殆どがオーパーツとでも言うべきなのだ。要らぬ事を言って後始末に困る事の無い様にしたい。

「そうね……多分武装と速度関連は聞かれると思うから出来る限りで答えて欲しいのよ。」

「スピード狂でも居るのか?」

「約1名だけ、ね。」

「……(ヴィルベルヴィントやシュトゥルムヴィントみたいなのが居るのか?まさか、85ノットや180ノットで走り回る奴があの子等以外に居て堪るか。)」

そもそも彼にとって85ノット出るだけでも対した速力だと思い込んでいる節があった。尤も、彼自身推進装置使用時には全速:122.8ノット、巡速:61.4ノットと言う少々ぶっ飛んだ性能を持っているのだがその事は倭にとっては“普通”だと思ってもいた。

 そんな彼の思いも他所に食堂に案内される。“ちょっと待ってて”と入り口付近に置き去りにされた倭とは別に笹川は食堂に入っていってしまった。

(もしこの泊地に留まる事が出来ないならその時は………マリアナ海溝の上で自沈した方が世界の為、かも知れないな。あそこならそうそう手出しは出来ないから………)

満載排水量が大和型戦艦を遥かに上回る倭を回収する事など不可能であると結論付け、いやそれはもしもの場合だと否定する。だが、彼は内心である確信を持っていた。

(まあ、この世界でも俺の“居場所は無い”のだろうな。)

就役してからの帝国との戦いで超兵器ヴィルベルヴィントを仕留めたその時から自分が周りから奇異や畏怖の混じった目で見られる事が日常茶飯事だった。

そして同型艦は自分を含んで5隻居たが自分以外は皆敵として立ち塞がってきた。解放軍空母部隊追撃艦隊の旗艦として、スエズ運河防衛艦隊旗艦として、ジャワ島での航空戦の空母護衛艦隊所属艦として。4隻は俺の前に立ち塞がり、戦いを挑んできた。

互いに望まぬ戦いでしかなかった。その時の艦長の煤と涙に濡れた顔が今でも瞼の裏に焼き付いて消えない。敵同士になってしまった運命とはいえ、同型艦同士、兄弟同士何故命を奪い合わねばならなかったのかーーー

そこまで感傷に浸っていると、お呼びが掛かった。

「皆知ってると思うけど昨日此処に入港した新型艦を紹介するわ。倭君入って頂戴。」

行きたくない。だが行かねば自らの道は切り開いていけない。何時だって己を奮い立たせてきたのは超戦艦としての意思とかつての艦長と乗員達が示してくれた何事も恐れぬ覚悟と立ち向かう勇気だ。それが戦いに臨む前の何時もの俺だ。そうでなければ空と海上、海中から襲い来る帝国軍を単艦で相手に出来なかっただろう。

‐さあ行くんだ倭よ。自分の足で人生を歩んで行くんだ。‐

そう、艦長の声が聞こえ、自然と俺の足は食堂の中へと歩を進めていた。そして皆の前で言うべき事を言った。

「先日から此処に世話になっている倭型重装護衛艦倭だ。俺に出来る事は少ないだろうが、それでも微力は尽くさせてもらう。」

‐そう、それで良いんだ。それが私達解放軍が誇る超戦艦としての倭(キミ)だ。倭の事は私達の心に刻んでおこう。我等の永年の戦友として………‐

また、艦長の声が聞こえた。だが、今度は離れる事を惜しみ、別れを告げるような声音にも似ていた。

 

 

 食事中に提督が何時もより遅れて食堂へ来た。何時も初雪と変わらないくらいなのに今日は初雪が先に来ていた。やっぱり倭の事で忙しいんだね。若干目の下に隈が出来ているのが見て取れるもの。

「皆知ってると思うけど昨日此処に入港した新型艦を紹介するわ。倭君入って頂戴。」

(遠くから見ててもやっぱり背が高い。180cmくらいかな?服装は初めて会った時と同じ第1種軍装を着て……って階級章が大将なんだ………似合ってる、ね//////)

「先日から此処に世話になっている倭型重装護衛艦倭だ。俺に出来る事は少ないだろうが、それでも微力は尽くさせてもらう。」

(うぅ///なんでそんなに様になるような台詞言っちゃうのさ///また惚れ直しちゃうじゃないか///)

この時時雨の頭から湯気が出ていた事にコッソリ突っ込みを入れてくる者が居た。

「し・ぐ・れ~どったのかな~?」ニヤニヤ

「な~んか良い感じみたいだけど~?」ニヤニヤ

「時雨顔真っ赤っぽいよ?」

「し、時雨姉さん一体何があったんですか?」

「あ、あの人が何か関係あるのでしょうか…」

「時雨姉さん……」オロオロ

「姉貴が此処まで赤くなるなんてな。」ニヤニヤ

「あたいは脈アリとみた!」ニヤニヤ

同じ白露型姉妹から妙な心配をされている事に気が付いていない時雨。それもそのはず、彼女の視線は倭に固定されていたのだから。

 その間に、倭は質問攻めにされていた。特に青葉は事前に衣笠によって御縄を頂戴し、完全に行動不可制限を掛けられていた。これも笹川が指示した事である。彼女が一度動けばろくでもない事を記事にするのは目に見えているからであり、格好の獲物たる倭の後をつけていた事は既にバレていた為に事前行動が可能となったのである。

「酷いですよぅ衣笠ぁ!!司令官とグルだったなんてぇ!!」バタバタモゾモゾ

「ふっふっふっ……衣笠さんを甘く見たのが運の尽きよ青葉……さぁて提督自慢の御仕置き部屋に一名様ごあんな~い♪」

「いやぁぁぁぁぁ?!あの部屋だけは勘弁してください衣笠ぁぁぁ!!」ジタバタ

「これは、提督命令です。(キリッ」

「だ~れ~か~たぁ~すぅ~けぇ~てぇ~!!」

衣笠に担がれて何処かへ消えてしまった青葉。これで当分、いや少しの間だけ倭の安全は確保されたと思って良い。どうせまた青葉は懲りずに復活するのだから……

「あの……」

「ん?川内型の…誰だ?」

「(一目でそこまで?!)申し遅れました。私は川内型軽巡洋艦2番艦神通と申します。少し御伺いしたいのですが。」

「で、何か?」

「その、如何して此処へ来られたのですか?」

「……あの子が此処に来たら良いと言ったから来た。」

そういって指差し示しの先に居たのは、時雨であった。彼女の先導で此処まで来た。それ以上でもそれ以下でもない答えである。だが、神通の言わんとしているもう1つの意味を汲み取ってまた別に答えた。

「まあそれもあるが、別の世界から来た以上確認したい事があったからな。」

「それは?」

「この世界の深海棲艦という存在を確認したくてね。先日資料室で閲覧可能なデータを見てきた。俺も今まで数多くの敵艦と戦って来たから言えるんだがレ級やらそんなのの強さが“無駄に誇張されている”気がしなくも無い。精々改アイオワ級かシュバルツゾンダーク程度だろうな。」

ハッキリと彼は深海棲艦がそこまで強くないと言い切った。それを聞いていた笹川は此方と向こうじゃ技術進歩が違い過ぎて彼もその辺の感覚が麻痺してるのかもと思っていた。

「では貴方が居た世界は一体……」

「主力艦が大量に生まれてぶつかり合ってボコボコ沈んでいく艦隊決戦、空母決戦、そして超兵器が暴れまわる戦争があった世界と言っておこうか。」

 その中で兄弟達をこの手で海に沈めた事だけは話さなかった。話しても同情されるだけならば話さない。下手に同情されても嬉しくは無いのだから。

『………』

皆一様に食事を中断して最早何でもアリの馬鹿げた戦争を理解しようとしているのかは分からない。嘘を言っているかもしれないと疑われても彼は事実を語り続けるしかないのだろう。

「艦隊決戦や空母決戦は分かるけれど主力艦が大量に生まれて大量に沈む?超兵器?それを私達に信じろと?」

言外に大言壮語も程ほどにしておけと語る空母加賀。勿論他の皆も全て信じられるわけではないが。

「信じる信じないは貴官等の勝手だ。だが俺は事実しか言わない。」

「吹雪です!え~っとその、“重装護衛艦”って……」

「重武装型装甲護衛艦の略称だ。そしてその名の通り重武装とそれに見合った重装甲を施された戦艦と言うことになる。VPの分厚い部分だけ上げるなら610mmの装甲が施されている。」

一番分厚いのは司令塔の1200mmの防御装甲。次いで主砲の前面防楯の850mmとなっている。舷側装甲だけでも十分分厚いと言われればその通りだが。

「610mm……堅そうですね……」

俺はそう思わないが気にしたら負けなので突っ込むのは止めておいた。

「私は長門だ。聞くが、主砲は51cm砲か何かか?」

「今は61cm60口径3連装砲を4基12門搭載している。その他にも20.3cm65口径3連装砲2基6門、15.5cm65口径連装砲12基24門にその他対空兵装を満載している。個艦防空とは別で艦隊防空もある程度なら可能だ。」

『61cm60口径……』

「見た所高角砲はありませんがどうかしたのですか?」

「そのための15.5cm65口径連装砲だ。対空対艦両用砲として申し分ない。」

搭載している兵装を聞いただけで唖然となる艦娘達。それもその筈。彼女達が知る41cm砲、46cm砲、51cm砲すら45口径なのに61cm60口径砲なんて途方も無い長砲身の砲を載せた戦艦がやってきたのだ。見た目通りにその砲が破格の火力を有する事は想像に難くなかった。

「私は伊勢型航空戦艦2番艦日向だ。旋回性はどうなっているんだ?それにカタパルトがあるのだから何か艦載機を積んでいるのだろう?」

「そんなに良い訳じゃないが、確かそこらの巡洋艦並の舵の効きだったかな。まあ近いうち演習か何かあれば操舵性が分かると思う。積んでいるのは晴嵐改3機。武装は13mm機銃2門、九一式航空魚雷1本。改良されてからは夜間飛行もお手の物だ。」

若干疑問系になっているのは本人が意図せず急速転舵を頻繁に繰り返していた為に舵の効き具合が分からなくなっているからだと艦娘達が気付くのは大分後になってからである。

「晴嵐改だと?では我々が積んでいる試製晴嵐よりも性能が良いのか。しかも爆弾ではなく魚雷と来たか。是非私にも搭載出来ないか検討してくれ!」キラキラ

「お、おう。善処しよう。」

「私は島風だよ!ねえ貴方って速いの?」

「ん~推進装置を使わなけりゃ50~60ノットくらいかな。」

「島風より速いなんて……」

愕然とする島風を他所にこれが俺の普通だと思っている倭にはそこまで落ち込む必要があるのかと思っていた。

「推進装置を使えばもっと速くなるぞ。これも演習で俺がやる気になれば見せられるだろう。」

元々その速力を必要とされたのには幾つか理由もあるがそれは後々語られる事になる。彼の忌まわしき記憶と共に……

「読みは同じでも字が違うときたか。大和型2番艦武蔵だ。お前は我々大和型戦艦の系譜を引き継いでいる事は間違いないな?」

「間違いも何もその大和型戦艦の改良型でもある51cm砲搭載の超大和型戦艦。それを更に上回る51cm60口径砲搭載艦建造計画第1号に基づいて生まれたのが“倭型戦艦”だ。ほぼ俺が貴女方の後継艦である事は疑いようが無い。詰まる事弟みたいなものだ。」

確かに大和型の後継艦の予定だった改大和型、超大和型は設計図すら引かれていない幻の戦艦。それに後付されたかのように付け加えられた倭型、要するに超大和型の上位互換とも言うべき存在が出来たともなれば彼女達の内心が揺れ動くのも無理なかった。

「60口径、か…私も積んでみたいものだ……」

「そうね…私達が積んでいるのは45口径連装型だものね。」

「理論上は60口径も積めなくはないだろうが……重量過多で速力も舵の効きも鈍って良いなら話は別だ。」

「む、そうか。ならば問題は機関と言う事になるな。そう言えば倭よ。お前はどんな機関を積んでいるのか聞いて無かったな。」

少し残念そうにする大和と武蔵にちょっとした助言をする倭。そんな光景が自然と受け入れられるという事で、本当に大和型の系譜をそっくり引き継いだ戦艦なのだと実感させられる。そして倭ご自慢の61cm60口径砲は通常射程60kmと明らかに可笑しい数値を持っており、電探と連動した射撃の場合、最高100kmという化物的射程を得るとの事。

「電探連動と言っても100km先の物まで叩けるとは……やはり“大和型”の系譜を持つものは些かぶっ飛んでいるようだな。」

正に化物戦艦。だが、それは此方の勝手な考えだ。そんな先入観で彼を見るわけにはいかない。恐らくこれでも向こうの世界ではこれでも普通なのかもしれない。

「機関は原子炉εを13基、タービンに標準型タービンεを4基搭載している。機関配置はシフト配置で数百機単位の航空機にフルボッコにされてもそう簡単には死なないようにされている。」

「原子炉……か。」

「非常時には即時鉛と海水が注入されて永久に使用出来なくなる。尤も、そんな時は俺が沈む時くらいにして欲しいがな。」

なんでも無い様にサラリと重要な発言をした事に誰も気が付かずに食堂での時間は過ぎて行く。彼の戦艦が如何なる常識も通用せず、我々と次元が違う存在を相手にただ独り戦い続けたのかを、後々になって知る事になる。こうなる前に対策を練っておくべきだったと。

 

 

「演習?」

「ええ。本土近海でやるらしいわ。それも急ぎらしくてね。此処から貴方の脚で本土までどのくらいでいけるかしら?」

食堂で他の質疑に応答した後、食事もそこそこに大本営から演習依頼が来ていた。どうやら俺の力を見たいらしい。

「全速で1週間以内には付くんじゃないか?」

演習参加以外のお供は特に指定は無いらしいが、演習は倭のみとの事。

「な~んか嫌われてる感じがするんだが……で、演習相手って誰か分かるのか?」

「え、ああ。福本中将……いけ好かない下衆野郎よ。」

佐官に下衆と言われる将官は如何なものかと思い、倭は他に誰か連れて行こうかなと思っている矢先、

「司令官、弥生来たよ。これ、報告書。」

「ん。ありがとね弥生。!そうだ倭君。弥生を君に乗せて行ったら?」

「え?え?」

「何故に?それともう君付けは止めてくれ。大人気ない気がする。」

「だって弥生はうちの艦隊じゃ結構強いのよ?連れて行かなきゃ損よ(時雨はおろか三日月や初霜まで瞬殺したくせに)。」

別に損得勘定で動くわけじゃ無いんだが…と倭が思っていると、弥生は妙に頬を赤らめながら、

「弥生で良いんですか?」

などと聞いてくる上に、特に断る理由も見当たらなかったので連れて行く事にした。

「これで4人目っと……」カキカキ

何を書いてるんだろうと思っていても仕方ないので、再び弥生に視線を戻した時、固まるより他無かった。

「弥生で良いんですか?弥生で良いんですよね!?」キラキラ

赤い顔に期待と喜びが多量に混ぜたような表情に加えて謎の光るエフェクト(後に戦意高揚状態:俗に言うキラ付けだと知った)が全身を包んでいた。

「まあ、うん。(そこまで言われたら逆に断り辛いんだが……)」

「やった……!!」グッ

有紀子はこの時確信した。

 

‐この戦艦絶対ロリコン確定ね。‐

 

と。

 

それを知らないのは本人であろう。妙な確信を持たれて尚気付きもしないで弥生の応対に困っている様子であった。そこへ、

「その話、僕も乗って良いかな?」

「ぽいぽいぽい♪」

更に2名乱入確定。

「はぁ……もうどうにでもなってくれ………」

さしもの超戦艦も遂には駆逐艦達の笑顔と熱意(意味深)には勝てなかったのであった。

 

 

 その日の夜、倭は正式な部屋が無いので、憲兵隊の宿舎に仮住まいとなっていた。

「部屋が散らかっていて済まないな。」

「大丈夫だ。俺の乗組員の部屋に比べれば綺麗な方だし問題無い。」

「ああそれと水は配給制だ。無駄遣いは避けてくれ。」

「分かった。取り敢えず着替えとかは隅に置かせてもらう。」

「構わんよ。しかし今から何処に行くつもりだい?そろそろ夜間哨戒の者以外は就寝時間だが。」

憲兵隊隊長の部屋は他の隊員達の部屋より少し広かったので3人は余裕だった。その上、隊長自身の器の大きさもあって快く招き入れてくれた。そしてやって来た倭は荷物を隅に置くと扉へ向かおうとしていた。

「少し出港準備をね。本土からお呼びが掛かったものだから。」

「ほうそりゃ今から始めないといかんだろうな。何時出るんだ?」

「確か明日13:00に抜錨予定だ。」

「ふむ。今からやってどの程度掛かるか目処が付いたら連絡をくれ。何人か手伝いに回そう。」

「それはありがたい。手伝いが3人居たんだが手伝う前に俺の艦長室(ベッド)で仲良く眠りこけてしまってね。」

「寝る子は育つ、だ。大目に見てやりな。」

それもそうだと思いつつ倭は部屋を出てドックに向かう。排水作業が終了している為、弾薬の搭載やらで忙しいのである。既に時刻は日を跨いで02:55になろうとしていた。糧食を積み込み始めた頃、6人ほどの憲兵が手伝いに来てくれたので終わった後にお礼としてラムネや羊羹、ういろうなどの甘味を振舞った。勿論隊長殿にはラムネ2本と○屋のういろう2本を送っておいた。

 予定通り13:00に倭は時雨、夕立、弥生を乗せて本土へと出港した。他にも同乗したがった子は居たが、笹川提督が止めていたので乗る事は出来なかった。

「環礁を出るまで機関両舷微速前進。」

「了解、両舷微速前進。」

59万4880kwという莫大な出力をたたき出す機関とタービンが8万トンもの巨大な船体を動かして軍港を離れる。環礁を出るまでの間、タグボートと海防艦が入港時と同じ様に周囲に並んで警戒活動を行う。

「水道を抜けるまで後1分。」

「警備艇と海防艦、タグボート達に発光信号。『貴艦等ハ此処デ引キ返シ、泊地警護任務ヲ続行サレタシ。貴艦等ノ見送リニ感謝ス。』以上。」

「はっ!」

「水道を抜けたら一気に巡航速度まで加速せよ。推進装置稼動用意。」

「推進装置Ⅰ及び推進装置Ⅱ稼動用意良し!」

水道を抜けると同時に全ての推進装置を稼動させて巡航速度61.4ノットまで引き上げる。同時に掻き分けられた海水が今まで以上に吹き上がり、大量の泡飛沫を散らす。

「ぽい?!」

「……(っ!?速い!!)」

今まで経験した事の無い速度感に戸惑うしかない夕立と弥生。しかし時雨は、

「~~♪」

至って平気であった。

「君等は食堂へ行って昼食を取ると良い。あそこは安全だからな。時雨、案内してやってくれ。」

「分かったよ。さあ行こうか。」

案内されてようやく我に返った2人は時雨の後を追い掛けてエレベーターの方へ消えて行った。

「針路を日本本土へ。対空、対水上、対潜共に警戒を厳にせよ。」

「了解。っと何かあればこちらが伺いますので艦長も食堂に行ったらどうです?」

「……腹ごしらえはやっておいて損は無いか。良し、少しの間だが頼んだぞ。」

「我等にお任せあれ!!」ビシッ

 

 

 数分間の移動を終えて辿り着いた食堂へ入ってすぐに抱いた感想は、「意外にも綺麗」であった。割とこじんまりとしたカウンターが前後方向と中央部の3箇所にある以外は鎮守府や泊地にあるような食堂と同じであり、手隙の妖精達がご飯を食べている姿も見受けられた。

「ほへ~大きいっぽい~」

「綺麗、ですね。」

「やっぱりそう思うんだね。僕が最初に来た時より綺麗になった気もするけどね。」

「そりゃもう艦長が偉い美人を連れ込むもんだからこっちも気合が入るってもんでさぁ!!って今度はまた偉い美人さんを連れて来たんだねぇ!!へっへっへ…………あの堅物艦長が理想の女性像云々って副長に言ってたんですが……此処の食堂にある羊羹2切れでどうですかね?」

「へえ……是非聞いておかなきゃね……羊羹2切れくらい訳ないよ。ね、夕立に弥生?」ズゴゴゴゴゴゴ………

「「ご尤もです。」」ガクガクブルブル

「毎度あり~……(ホンッとこの子達はこういうネタ話好きだねぇ……ま、艦長にバレる前にずらかるべきだな……バレた時が一番怖いし……)確証は得られてねぇんですが、『妹にするなら睦月型かな。何嫁候補?………白露型は一応許容範囲内だが…何高雄型?…危険な匂いがするから却下だ却下。』とか何とか。」

何故か艦長たる倭と副艦長との会話を目敏く盗み聞きしていた(というか艦橋勤務の妖精には丸聞こえの内容)事で得られた情報を羊羹2切れで販売する砲術長妖精に若干呆れた弥生ではあったが『妹なら睦月型』と言う事はちゃっかり記憶していた。

(早めに手を打たないと何だか非常に不味い気がしてならないのは気のせいだと良いんだけどなぁ……まだ僕にもチャンスがあるって事は他の子達も同じって事だよね……夕立とかはストレートで倭に告白しちゃいそうだけど……やっぱり早く外堀からでも攻めるべきかな………うんその方が無難そうだ………でも僕は……)

(私も白露型だったら……意識してもらえたのかな……でも今更……うぅん諦めたら駄目。例え相手が誰でも私は……)

(倭さんは確かにまだまだ未知数っぽい。でも時雨と弥生は確実に倭さんにベタ惚れ……でも夕立だって倭さんに一目惚れしたのは事実だもんね。きっと白露や村雨に春雨とか海風ももしかしたら一目惚れしてる可能性は高いっぽい………だけど夕立は……)

(((誰にも負けない(っぽい)!!!)))

ヘックッショイ!!

カンチョウ、カゼデスカイ?

ワカラン!

倭が食堂にやってくる数分前、艦橋でクシャミをしたとは一部の者しか知らない。

 

 

「美味しいです……!!」モグモグ

「これなら何杯でも食べられるっぽい!!」モグモグ

「そうだね。これだけ美味しいなら納得がいくね。」モグモグ

「君等の口にあったのなら幸いだ。此方としても提供した甲斐がある。蜂蜜を少々入れるだけで随分まろやかになってくれるからな。」モグモグ

単艦での航海を始めた初日の食堂にて俺が振舞ったのは海軍カレー(激辛)であったが、一口目で俺を除いた3人が悶絶。時雨と弥生は口を押さえて辛うじて意識を保っていたものの、夕立は泡吹いて目を回してた。そんなに辛かったかと楽しみだった辛味成分を消す為に止む無く調味料として置いてあった蜂蜜を少量入れ、中辛に作り直してから再度提供したわけだ。その間彼女達がどうなっていたかって?んな事聞かないで読者諸氏のご想像と素敵な妄想で補ってくれないか?俺もあそこまで酷くなるとは予想してなかったからな………

 とまあ航海初日の昼食で3名が悶えたのはその日その場に居合わせた者同士の秘密にするほか無かった。

 しかし………タバスコ丸々2本使った海軍カレー(激辛)があっても良いと思うんだが妖精達が涙目で『駄目』と必死に懇願してくるので俺だけしか食べないがね。じゃあそろそろジャッジメントタイムと逝こうか。

「砲術長。」ユラリ

「は、はいぃぃぃ!!」ガタガタガタガタ

「貴官が何故捕縛されているのか心当たりはあるかね?」

「な、何の事でしょうかねぇ~」(目逸らし

何時の間にかコッソリ退散しようとしていた砲術長を見つけた機関長の報告(密告とも)によって御縄を頂戴した砲術長。彼は艦内一の自称情報通なのだが、妖精に頼らなくとも艦の全てを完璧に制御できる倭からしてみれば艦内で誰が何を話していたかなど全て筒抜けなのである。何せ現状の妖精達や時雨達は倭の体内で生活している事と何ら変わりない状況にあるのだから。当たり前だが砲術長がこの場で何をしていたかなど倭には全て御見通しと言う訳だった。

「流石に俺も他人の心の内まで読め無いが何を話していたか位全て俺に筒抜けだと前に言わなかったかね?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「勘弁してください!女の子の相談に乗るのも我々妖精の仕事であると……!!」アタフタ

「ほう。少しは言うようになったじゃないか。副長、手足と頭を1mmたりとも動かぬようにしておけ……」テクテク

「ラジャー!!」ビシッ

「ぬわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何で固定するんですかぁ!!もう勘弁してくださいってぇ!!」

砲術長の嘆願も空しく刑は執行される。そう、『艦長謹製!海軍カレー(激辛)流し込みの刑』である。

「ギャアァァァァァァァァァァ!!ほんっとうに!本当に申し訳ありませんでしたぁ!!だから!だからそれだけワァァァァァァァァ!!(ポフ)ほぇ?」チラッ

「ぐっどらっく砲術長。何はともあれ艦長を怒らせた貴官が責任を取るのだ。」グッ

「」ガーン

最早航海長(嗅覚破壊防止の為にガスマスク完備)にすら呆れ顔(笑)と共に処刑宣告を下された砲術長。その眼前に近付くある意味の『死』が迫っていた。そう、口に入るには十分とも言える消火用ホースを利用した処刑(笑)道具であった。

『問答無用じゃあ!!(艦内妖精一同)』

「ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!モガッ!!」

この後砲術長がどうなったかは言うまでもなかろう。まぁ地獄絵図だったとだけ報告しておこうかな。

 

 

 砲術長への御仕置きもといジャッジメントを終えた倭は大浴場へと時雨達を案内していた。

「カレー如きで騒がしくて済まない。この艦の連中も悪気があってやったわけじゃないとは分かっているんだ。」

(((分かってるならなんで処刑(笑)を執行したんだろう……)))

「根は皆優しいから相談すれば親身になってくれると思う。だから安心してくれて良い。まぁ砲術長の奴は懲りない性分だから後5分もすれば自動回復(オートリカバリー)で仕事に戻るだろうから心配は要らんよ。」

そう言ってカレーの匂いがこびり付いた上着をいきなり脱ぎ捨てる。

「って倭!!」

「うん?」

「ぼ、僕達と一緒に入るつもりなのかい?!」

「そんな分けないだろう。此処で服を洗って貰うだけだ。どの道一度風呂は洗わねばならんのだから君等が出てからに決まっているだろう。」

人が入った後の風呂を使い回さずにまた入れ直す。普通の軍艦であれば贅沢極まりないどころか貴重な水を大量に捨てる事になってしまうのだ。

 それをなんでも無いかのように言い切った倭。だが、ある一言で食堂以外でも目にした光景を思い出す。

「この艦じゃ然程水不足を気にしなくてもいい。と言ってもやはり真水を別途で保管しておくタンクはあるがな。君等も水に関しては然程気にせず使ってくれるといい。」

 彼女達の目の前から流れ出ている水は、海水を電気分解した際に発生させた酸素と水素を別途特殊装置に入れて混合、蒸留水として生成しているため、放射能汚染の影響は無いので飲み水としても安全に利用できた。勿論使った水はろ過循環装置に掛けられて消毒処理を施されてから水タンクに保管される。この為、豪快にお湯を張り替える事が出来るのだ。

「この水が海水から出来てるなんて想像出来なかったなぁ……その後はろ過されて塩素消毒処理を受けて水タンクへ……」

「ぽい~……」

「まるで1つの町みたいですね……」

「だね…………(でも…何時かはガタが来る事は分かってると倭が一番分かってると思うけどやっぱり心配だなぁ……)」

後で風呂へ来るであろう倭の抱える闇と多大な苦労事を自分達で少しは和らげられないかなと思う時雨達であった。

 こうして、長いようで短い初日が過ぎ去って行こうとしていた。

 




 艦長の声は伊達ではありません。倭と時雨艦長の絆は深いのです!! 時雨がちょっと可笑しいかもしれませんがご容赦くださいww

え?原子炉の事?細かいこたぁきにs(ry


 青葉と倭砲術長は犠牲になったのだ………

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