Fate/guardian of zero   作:kozuzu

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第四話 誘惑と驚愕 その八

「……ん」

 

 

意識が、覚醒していく。夢の世界から、現実の世界へ。

夢の世界での感覚がゆっくりと剥離し、五感が現実の世界を認識してゆく。触覚、聴覚、嗅覚から始まり、身体に感覚が染み渡り、世界の形をアーチャーに伝えた。

最後に視覚が覚醒し、アーチャーは眠りから目覚めた。

 

 

「朝…とは未だ言い難い時間帯か……」

 

 

眠りから覚めたばかりのぼやけた視界で窓の方を見やるが、そこに大地を煌々と照らす太陽の姿はなく、未だ夜の帳が下がったままである。

一旦目を閉じ、眼球を瞼の中で八の字を描くように運動させ、瞼の裏にへばりつくかのような眠気を搔き出す。

寝るのにも体力が必要であり、老人になると体力が低下することから、老人は長く睡眠がとれない。そんな事を昔小耳に挟んだアーチャーは、毎朝誰に言われるでもなく早起きしてしまう今の自分は、まるで老人の様じゃないか、と自嘲したが、

 

 

(そもそも、霊体になってからの年数を年齢の数えに加えれば、老人どころの話ではないか)

 

 

くだらない、とその思考を打ち切り、小さく息を吐いた。

それが合図であったかのように五感全てが完全に覚醒し、アーチャーは背を預けていた部屋の壁から身体を離すと、軽く首や肩を回し、固くなった筋肉を軽く解きほぐしていく。

 

 

(さて……早く起きてしまったものは仕方がない。身体の整備をさっさと済ませてしまおうか。……ああ、どうせなら食堂に手伝いにでも行ってみるか)

 

 

アーチャーの長い一日が、今日も始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイズ、朝だ。眠気との逢瀬が甘美な感覚であることは痛いほど理解している。だが、このままでは朝食の時間に間に合わなくなり、今度は空腹との逢瀬を交わすことになるぞ?」

 

「……んん」

 

 

ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりが耳を撫で、ルイズは目を覚ました。

身体にのしかかるかのような眠気を抑え、ルイズは目を開けた。目を開けると、窓から太陽の光が寝坊助を咎めるように煌々と差し込んでいた。

ふああ、と小さく欠伸を漏らし、寝ぼけ眼で時計を確認すると、時計は朝食の時間かなり間近を示していた。

普段なら学院の授業があるので、飛び起きて準備をするところなのだが、幸い今日は虚無の曜日。所謂、休日というやつであった。

そこに、昨夜観た夢の影響からか、お腹が空くどころか胃がギュウウと締め付けられるかのような感覚に襲われ、食欲など皆無であった。

 

 

「いい、今日は朝食はいらないわ……食欲がないの」

 

 

そう吐き捨て、ルイズは再び布団にもぐろうとしたが、

 

 

「そうは言うがね、食欲がなくとも朝食はとるべきだ。……とある学者の話では、朝食をとった人間と、そうでない人間では集中力に大きな差が付く」

 

「……」

 

 

だから何だ、と無視してルイズは夢の世界へ逃げ込もうとしたが、

 

 

「そして、朝食の有無は身体の発育に多大な影響をもたらすとも―――」

 

「……起きる」

 

 

身体の発育、というワードにルイズは過敏に反応し、憮然とした表情で布団を跳ね除けた。

 

 

「おはよう、ルイズ」

 

「……おはよう、アーチャー」

 

 

跳ね除けた先には何やらいけ好かない笑みを浮かべたアーチャーが着替えを片手に佇んでいた。

何やら乗せられた感じがして、ルイズは釈然としなかったが、部屋であーだこーだと言い合っていると、本気で朝食に遅刻するので、さっさと着替えと髪のセットを終え(勿論、両方ともアーチャーが行った)、少しばかり重い足取りで食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしいわ。何故か、朝食の記憶がないの……お祈りが終わって、食事に手を付けたと思ったら、皿が空っぽになっていたの。……ねえ、アーチャー。私、本当に朝食を摂ってた?」

 

「ああ、勿論食べていたとも。それは見事な食べっぷりだったぞ?」

 

「……そう、ならいいんだけど…」

 

 

おかしい、何故だろう、と微妙な表情で首を傾げながら、廊下を歩くルイズ。

一体、誰が何のために何をしたというのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぺらり、と本のページがめくられる。

この部屋には現在、それ以外の音源が存在していなかった。

そして、その音源を生み出しているのは、この部屋の主たる少女であった。

特徴的な青の頭髪を揺らし、ふとタバサは本から顔を上げた。

 

 

「……魔法は、手段。目的じゃ、ない」

 

 

ぽつりと、独り言がこぼれた。

思い出すのは、あの奇妙な雰囲気の使い魔の言。

 

 

『……魔法は、目的じゃない。手段だ。目的に至るまでの手段は、まさに星の数ほどある。……だが、大きな光にかき消された星もある。なに、それだけさ』

 

 

どことなく哀愁を漂わせながら発された言葉は、タバサの胸の奥にスッと収まり、今日この日、今現在も大きく幅を取っていた。

発した本人は「気にするな」と言うが、タバサは何かそれが大事なことのような気がして、忘れることも意識の隅に追いやることも出来ずにいた。

このままではだめだ、と自身に言い聞かせて本の世界に戻ろうとするも、文字の羅列の上を視線が滑っていくばかりで、内容が全く頭に入ってこない。

どうしたものかと、途方に暮れていたその時だった。

 

 

ドンドンドン!

 

 

「タバサ! 出かけるわよ、支度をして‼」

 

 

乱暴にドアがノックされ、タバサが「どうぞ」と言う間もなく(まあ、ノックされていても無視するのが常なのだが)ドアが開け放たれた。

こんな事をするのは、タバサの唯一の友人であるキュルケしかいない。キュルケは入室すると同時にタバサへ用件を一方的に伝えた。

 

 

「……虚無の曜日」

 

「あなたにとって虚無の曜日がどれだけ大切かは解っているわ」

 

 

でもね、とキュルケは自身の豊満な胸に片手を当て、やけに芝居がかった所作で続ける。

 

 

「あたしね恋をしたの! でもあのにっっっくいヴァリエールと出かけたのよ!! あたしはあの二人がどこに行くか突き止めなきゃならないの。わかるでしょ!?」

 

「あの人と……?」

 

 

あの二人、ワードに反応したタバサは、視線を落としていた本から顔を上げ、眼鏡の奥からアイスブルーの瞳でキュルケを見つめる。

 

 

「そうよ! タバサがやけにご執心だったあの人!……タバサには悪いけど、今度の私は本気なの。だから、私たちの事応援してくれるわよね?」

 

「……そういうのじゃ、ない。けど、分かった」

 

 

珍しく、本当に珍しくタバサはキュルケの言葉の意味を理解し、クローゼットから学院生の証である黒いマントを羽織ると、窓を開け放ち口笛を吹いた。

すると、幾分も経たぬうちに小さな点が現れ、徐々に大きくなっていく。点は次第に大きくなり、窓の前でホバリングする。

 

 

「行く」

 

「ありがとう、タバサ! 恩に着るわ!」

 

 

二人とも慣れた様子でそれに飛び乗る。

飛び乗ったのは、青い見事な鱗に覆われた風竜の幼生。タバサの使い魔、シルフィードである。

二人が飛び乗り、背中の背びれに捕まったのを確認した風竜は、翼をはためかせ、大きく上昇した。

そして、上昇気流を器用に捕まえ、大きく上昇した風竜は雲と同じ高度までくると、微速で前進した。

 

 

「どっち?」

 

「えっと、慌ててたから……」

 

「……馬二頭。片方が赤い外套。…食べちゃダメ」

 

 

タバサはシルフィードにそう伝えると、合点承知とばかりにシルフィードは翼で風をかいて加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、乗馬も出来たのね」

 

「いやなに、少しばかり馬に跨っていた時期があったのでね。昔取ったなんとやらというやつさ」

 

「あんた、記憶が混乱しているんじゃなかったの?」

 

「そのはずだったのだがね。……どうやら、身体を動かしている内に、技術とそれを学んだ記憶を思い出せたようだ」

 

「そういうものなの?」

 

「ああ、どうやらそういうものらしい」

 

 

朝食を無事(?)取り終えた二人は、馬を走らせて隣町まで来ていた。

ルイズは最初、記憶が混乱し社会的常識が幼児レベルまで退行しているアーチャーであったから、自分の乗る馬に二人乗りで行こうと提案したのだが、

 

 

「まあ、どうとでもなるものだよ、こういうものは」

 

 

などと意味不明な事をのたまい、アーチャーは馬に飛び乗った。

学院の馬をダメにしてしまはないかと、びくびくとしていたルイズだったが、意外にも馬の手綱を器用に操り、小一時間ほど自分と並走してくるアーチャーに、その考えは杞憂だったと理解したのだった

 

 

(市場か……どんなものが売られているのか、調査したいところだな)

 

 

街に着くと、全体的に石造りの建物が立ち並び、大通りに沿うように屋台が出ていた。人々は活気に溢れ、そこかしこから威勢のいいセールストークが飛んでいた。

たまに「これはかの有名な~~」などという詐欺の常套句も飛んでいたが、そこは人が集まる市場という場所の宿命というやつである。

どの町でも、どこの国でも市場という場所は物資と情報に溢れている。

売り物を見ればこの国の名産や文化が分かり、相場を見れば国の財政が見えてくる。

なので、アーチャーはまるで田舎から出てきたばかりのお上りさんのような挙動で周囲を観察する。

 

 

「ルイズ、あれは何だ?」

 

「何って、ただの串焼きでしょ? キメラの」

 

「では、あれは?」

 

「あれは……何かしら? 多分…アクセサリー、だと思う」

 

 

などと、歩きがてらルイズに疑問に思った事を尋ねて歩いた。

 

 

「確か、ピエモンの秘薬屋の隣だから……」

 

 

そうして歩いている内に、大通りから少し外れた場所に二人は入り込んでいった。

壁は所々(ひび)が入り、建物が密集しているためか日中にも関わらず濃い影が出来ていた。

スラム、と言うにはそこまで薄暗い雰囲気ではないが、貴族が歩き回る場所ではないことは確かな場所。

どうやら目的地はこの周辺であるらしい。

 

 

(……この町ではあまり、武器屋というものは良いイメージは持たれていないようだな。……さしずめ、武器など魔法に比べれば、と考える人々が多いのが原因なのだろうな)

 

 

「あった」

 

 

ふとルイズが剣の刀身をモチーフにした看板の前で立ち止まった。

どうやら、こちらが今日の目的地らしい。

 

 

「ここかね?」

 

「ええ、ここが今日の目的地。武器屋よ」

 

 

その目的地、武器屋の店の外装ははげ、ところどころ内部の石壁が見え隠れしている。

お世辞にも良い見た目だとは言えない。

正直、学生の身とはいえ貴族が武器を買ってくれるというので、少しは期待していたアーチャー。

その失望を感じ取ったのか、ルイズはバツが悪そうにそっぽを向き、言い訳するかのようにアーチャーに語り掛けた。

 

 

「ここのところ、ちょっと物入りだったの。……きょ、今日は間に合わせってことで、また後日立派なのを買ってあげるわ!」

 

 

言い訳だったはずなのだが、いつの間にか威勢のいい啖呵になっているのは、うちの主人の特性だろう。

いいからいくわよ!と、ルイズはおもむろに扉を開けた。

ギイィといく油を差していない扉特有の摩擦音をドアベル代わりに、二人は店に入った。

すると、店の奥でカウンターに身体を預けていた店の主人が顔を上げた。

赤みが差した鼻に、使い込まれたパイプをくわえた五十がらみの男だ。

 

 

「いらっしゃ……その外套、貴族様ですかい? う、うちはまっとうな商売していますぜ!?」

 

「落ち着いて、私は役人じゃないわ。今日はお客として来たの」

 

「お客、ですかい? こりゃ驚いた! 貴族様がこんなしがない武器屋にご用とは…」

 

「用があるのは私じゃなくて、コイツよ」

 

「ほほう、そちらの御仁で?……ああ、最近宮廷でも下僕に剣を持たせるのが流行っていると小耳に挟んだんですが、なるほどそういうことでしたか」

 

 

店主そっちのけで店の武器を眺めていたアーチャーに二人の視線は集まる。

そのアーチャーはと言えば、

 

 

(……鑑定(みた)ところ、店構え相応品々といったところか。……錬金術が発達しているというから、どれほどの技術かと期待していたんだがな。元いた世界、中世の技術基準よりやや低め、といったところか)

 

 

店に入った段階で視界に入れた武器は固有結界の中に貯蔵されるので、わざわざ武器を買う必要はないのだが、

 

 

(己の魔術は元の世界でも異質であり、異分子だった。であれば、魔術そのものが異分子とされるこの世界での魔術の露見は避けるべきだ。その為に、適当な武器を腰に()いて隠れ蓑にしなければな)

 

 

正直、武器は結界内に文字通り佩いて捨てるほどあるのだが、それではこの世界でも異分子扱いは避けられないだろう。

であるから、この世界の武器が手に入るというのは、アーチャーにとって中々に魅力的な提案であった。

それに、どうやらこの世界に魔術を探知する結界やセンサーなどはほぼないことが確定していたので、適当な武器を買って強化を施せば、それで当面は何とかなるのである。

そんな思考を巡らせていると、ルイズが店内を物色していたアーチャーをカウンターに呼んだ。

 

 

「何かね?」

 

「じゃあミスタ。こいつに似合いそうなやつをお願い」

 

「へい。少々お待ちを」

 

 

アーチャーをちらりと一瞥した店主は、カウンターの裏にある樽からおもむろに一本のシンプルなデザインのエストックを抜き、こちらに手渡した。

 

 

「こちらのエストックなどはいかがでしょう? かの御仁の体格を活かした戦いが出来るかと」

 

 

アーチャー的には、どんな武器でも経験憑依があるので体格や戦術などは度外視なのだが、ルイズは受け取ったエストックをためつすがめつ眺めると、そのまま店主に返してしまった。

 

 

「アーチャー、あんたあの時、もっと太くて長いのを握ってたわよね?」

 

「あの時、というとあのワルキューレとかいう木偶の時かね? まあ、確かにこのエストックよりは幾分か大きいサイズの剣だったが」

 

「ということだから、もっと太くて長いのを持ってきて」

 

「で、ですが……」

 

「いいから、もっと太くて長いのを!」

 

「へ、へい」

 

 

どうでもいいが、淑女が太くて長いを大きな声で連呼するのはどうかと思うアーチャーである。

そして店主が裏で「ち、素人が……こりゃカモだな」と呟いていたが、アーチャーにはしっかりと聞こえた。

暫くして、店主は明らかに装飾過多な刀剣を手に戻って来た。

 

 

「こいつなんてどうでしょう? 店一番の業物でさ」

 

 

アーチャーはそれを受け取ると、鞘から抜く。

柄には所々に宝石がちりばめられ、刀身は黄金。

 

 

「そいつぁかの有名なゲルマニアの錬金術魔術師シュペー卿の作品でさ! そいつに掛かれば鉄だって一刀両断!」

 

 

と、店主は芝居がかった声色でルイズに売り込む。

 

 

「おいくら?」

 

「新金貨なら三千でさぁ」

 

「立派な家と庭付きの森が買えるじゃない!?」

 

「名剣は城に匹敵しますぜ?」

 

 

ルイズはそんな馬鹿な…という表情で愕然とした。

勿論、ぼったくりである。

 

 

(どちらかと言えば迷剣(、、)だな、これは。……まあ、玄関に飾っておく分には適当なのか?)

 

 

面倒なので流れに任せようかと思っていたアーチャーだが、流石にこれは酷い。

そろそろ助言をしようかと思っていたその時だった。

 

 

「おうおう! そんなボンクラ、買ってもすぐに折れちまうぜ、あんちゃん!!」

 

 

ふと、後ろから声が上がった。低い男の声である。

事情(、、)を知っている店主とアーチャー以外、つまりはルイズだけはどこから声が聞こえてきたのかと、周囲を見渡していた。

 

 

「うるっせぇ!てめぇは黙ってろ‼」

 

「ああ!? てめえがなんも知らねえ貴族相手にあこぎな商売してるからだろうが‼」

 

 

店主は店の入り口付近にある樽をねめつけ、怒号を飛ばした。

 

 

「ど、どこよ! 一体誰なの!?」

 

「こっちだな」

 

 

アーチャーは音源である樽に歩み寄ると、その中から一振りの剣が鞘からひとりでに飛び出し、かちかちと音を立てた。

 

 

「てめえデル公! また人の商売の邪魔しやがって‼ もう我慢ならねえ! 今度貴族に頼んで溶かしてやっから覚悟しろや!!」

 

「上等だ、もうこの世にも飽き飽きしていたところだ! 溶かすんだったらやってもらおうじゃねえか、ええ!?」

 

「やってやらぁ!」

 

 

がるるる、と擬音がつきそうなほど憎々しげにその錆びだらけの大剣を睨む店主。

するとルイズは合点がいったようで、目を丸くする。

 

 

「へえ。それってインテリジェンスソード?」

 

「そうでさ、そいつは意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。一体、どこの誰が始めたんでしょうねぇ。剣に喋らせるなんて……。そういえば、旦那はなんで驚かねえんですかい?」

 

「何、最近は未知に耐性が付きつつあるものでね。今更剣がしゃべったところで、驚きはしないさ」

 

「へぇ……? そういうもんですかい?」

 

 

店主が何やら納得のいかなさそうな顔をしていたが、それを遮るように剣が言葉を発した。

 

 

「何言ってんだ、あんちゃん。さっきから店の武器を根こそぎ物色してやがったのに体中をまさぐられるみてぇで、くすぐったかったぜ?」

 

「気づいていたか」

 

「あったりめぇよ!」

 

 

ふむ、とアーチャーは何やら考え込むように顎に手を当てた。

 

 

(……なるほど、一応こちらの魔術を知覚できる物体もあるということか)

 

「お前、名はデル公で良かったか?」

 

「デルフリンガー様だ! 覚えときやがれ!」

 

 

ババン、とこの魔剣に体があれば、ふんぞり返っていたことだろう。

インテリジェンスソード、とその名にたがわぬのであれば、今後情報を引き出すことも可能だろう。

そして、刀身自体も錆び付いてはいるものの、中々しっかりとした造りをしている。ここにある剣の中では、まあまあいい方ではある。

 

 

「店主、こちらをいただこう」

 

「ええ~~~? もっと綺麗で喋らないのを選びなさいよ」

 

「いいじゃないか。喋る剣。大いに興味をそそられる」

 

 

ぶつくさと文句を言うルイズだったが、アーチャーが折れないと感じると、ルイズは渋々といった表情で店主に値段を伺う。

 

 

「これ、おいくら?」

 

「あれなら、百で結構でさ」

 

「随分と安いじゃない」

 

「こちらにしたら、厄介払いみたいなもんでさ」

 

 

ひらひらと手を振る店主。

アーチャーはルイズに預けられていた財布(貴族の財布は使い魔が持つ者らしい)を取り出すと、代金を店主に手渡した。

すると店主は、鞘にそれを入れ、こちらに手渡す。

 

 

 

瞬間、デルフリンガーがその身にわかるほど振動する。

 

 

「どうかしたかね?」

 

 

アーチャーは鞘から少しだけ剣をずらして問う。

 

 

「……お、おめえさん…おれっちを、優しく使ってくれよ……?」

 

「……まあ、善処しよう」

 

 

「ちょ――」

 

ニヤリとアーチャーはほくそ笑むと、刀身を鞘に戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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