Fate/guardian of zero   作:kozuzu

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いつの間にかUA数が10000に届きそうなほどになっていた件について。


私のもう一つの作品のUA数とこちらを比べて、一体何が違うんだろうと、日々首をかしげていたり……。


第四話 誘惑と驚愕 その六

 戦場とは、どこにあるものなのか。

 剣と槍が交わり、火花が多数散れば、そこは戦場なのだろうか?

 それとも、思惑や策略が飛び交う場所が、戦場なのだろうか?

 それとも――――

 

 

 

「四列から六列までの材料のカットが終わった。すぐに持って行ってくれ」

 

「わ、わかりました!」

 

「それから、三列目五から八番の席の料理に少々の遅延だ。急がせてくれ」

 

「了解です!」

 

 

 そこは、まさしく戦場であった。

 鍋と調理器具がぶつかり合い、ガツンガツンと音を立てる。

 経過報告と料理完成の怒号が飛び交い、どれ一つ無駄になることなく周囲へ広がってゆく。

 厨房(ここ)は、まさしく戦場であった。

 その中でも、ひときわ回転の速いスペースがあった。

 

 

「鍋の下準備が終わった。煮込みを開始する」

 

「了解です! 煮込み完了まで二十ミール(ミールは地球での分に値する)!」

 

 

 そこには、赤い外套を脱ぎ、身体に張り付くような黒い革タイツの上から、白いコックコートに身を包んだ弓兵の姿があった。

 彼の周りだけ、三人分ほどのスペースが空いていた。何故かと言えば、新人三人が睡眠不足と過労で倒れてしまったからである。

 少数精鋭であった厨房が、阿鼻叫喚の渦に呑み込まれるのは、道理であった。そこで、その渦中に偶然居合わせたアーチャーは、一宿はしていないが、一飯の恩義ということで、助太刀に入った。

 当初は、一人分でも過酷な作業を、三人分こなそうなど無茶無謀だ、と諌める声が上がったが、現状はどうだ。

 三人分空いたスペース。そこを縦横無尽に、かつ計算された動きで、求められた水準以上の作業をこなしているアーチャーがいるではないか。

 

 

「てめぇら! 我らが包丁(けん)に置いてけぼりにされてるぞ! もっと気合入れろッ!! 勢いは上げろ! だがクオリティは落とすんじゃねぇぞ、わかってんな!!」

 

 

「「「「「はいっ!」」」」

 

 

 料理長マルトーが、野太い声で難題を押し付ければ、見習いたちはそれに負けないほどの熱気で応えた。……何かおかしな表現があったようだが、きっと気のせいだろう。

 その興奮で、たまに見知らぬ調理器具がひとりでに材料を刻んでいるという怪奇現象は、誰の目にも留まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~」

 

 

 午前の授業が全て無事に終わり、ルイズはピンクブロンドの髪を小さく揺らし、溜息を吐いた。

 一人悶々としながら、廊下を歩くルイズ。

 授業を全て欠席せずに出席し、板書などを完璧に取りはしたものの、全ての授業において、ルイズは集中することが出来なかった。今日は先生との軽い顔合わせで、幸い重要な内容を取りこぼすことはなかったが、これは中々に由々しき事態であると、ルイズは認識していた。

 原因は、言わずもながら、アーチャーのあの発言である。

 

 

 

 

『だから、力を、過信するな。凝り固まるな。力に手段を囚われ、自分の目的とその原動力を、見失うな。それは、自分を狭め、後に自分の首を絞める』

 

 

 

 

 現代魔法に対する、アンチテーゼ。

 魔法は絶対ではない、というあの発言。

 まあ、アーチャーが本当に言いたかったのは、目的と手段を取り違えるな。というものだったのだが、ルイズがそれを理解するには、些か成熟が足りていなかった。

 

 

「何なのよ、もう……」

 

 

 心中に渦巻く、よくわからない(もや)を吐くように、言葉をこぼした。

 何が何なのか、分かっていないが、それが何か重要なもののであることは解ったルイズは、また、

 

 

「本当に、何なのよ……!」

 

  

 言葉をこぼす。

 そんな時だ。

 

 

「料理長マルトーが覚醒したぞー‼」

 

 

 誰かが、そんな事を叫んでいた。

 あまりに場違いで唐突な叫びに、ルイズは思考の世界から引き戻される。

 

 

「何かしら……?」

 

 

 その叫びの発生源へ目を向ければ、そこはアルヴィーズ食堂への入口であった。

 悶々としていたせいか、朝から何も食べていないことに気が付いたルイズ。

 そして、現金なものでそれに意識が向いた瞬間、

 

 

―――キュル、キュルルル……。

 

 

 

「……‼」

 

 

 ルイズの小さなお腹から、まるで鳥の雛が親鳥に餌をねだるかのような音がなった。

 なったお腹を瞬時に両手で押さえ、

 

 

(だ、誰かに聞かれてないわよね!?)

 

 

 周りを確認するが、ルイズの方を向いている貴族など、誰もいない。

 その代り、皆食堂の方へ向いたまま、目をつむり、すんすんと鼻を鳴らしていた。

 はしたない、と切り捨てるのは簡単だったが、普段かぎ慣れている匂いに、なぜそこまで反応しているのかと、ルイズは疑問に思い、恥じらいながらも、自身も小さく鼻を鳴らす。

すると、

 

 

 

ブワアアァァアア!

 

 

 

 そんな擬音がつきそうな強烈で、鮮烈な食の香りが身を刺した。

 そして、その匂いにつられ、食堂へ入る。

 慣れた足取りで自分の席に向かい、たどり着いたところで着席する。

 そこには、見慣れた昼食の姿。だが、それは見慣れていながらも、どこか異彩を放っており、いそいそとナプキンを広げ、席に着く。

 見れば、周りも同じように席に着き、始祖ブリミルと女王陛下へのお祈りを待っていた。

 

 

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今昼もささやかな糧を与えたもうたことを感謝します」

 

 

 皆が手をあわせ、祈りを捧げ、料理を口にする。

すると、

 

 

「うあああ! 何だこれは!」

 

「こんな料理、実家でも食べたことがないわ!」

 

「うまい、うまい!」

 

 

 貴族ということを忘れ、料理に夢中になった。

 ルイズは、その反応をみて少々怖くなったが、次第に空腹と興味心に負け、料理を口にする。

 そこから先を、ルイズは覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を終え、皆が呆然と、恍惚とした表情で食堂を後にする中、ルイズはアーチャーも食事をとっていないことを思い出した。

 

 

「あいつ、どこ行ったのかしら…?」

 

「あいつ、というのは君の使い魔の事かね? それならば、今君の真後ろにいるがね?」

 

「……へ?」

 

 

 思わぬところからの返答に、ルイズは間抜けな声を漏らした。

 頭から降って来た声をたどり、恐る恐る視線を上げる。

 すると、椅子の上から、覗き込むように、褐色と白髪が覗いていた。

 

 

「うひゃあ!」

 

「っと」

 

 

 突然のアーチャーの登場に驚き、椅子ごとひっくり返りそうになり、わたわたともがくルイズだが、すかさずアーチャーが倒れないように椅子を元の位置へと押し返した。

 

 

「大丈夫かね?」

 

「え、ええ……じゃなくてっ!」

 

 

 驚きで心臓がばくばくと脈打っている音を聞きながら、ルイズは椅子から立ち上がり、アーチャーに詰め寄った。

 

 

「あんた、今までどこにいたのよ?」

 

「授業に出るな、と主人に仰せつかったのでね。洗濯物を干して、成り行きで厨房の手伝いをしていた」

 

「待って、洗濯物はまだ理解できるけど、どうしたら成り行きで厨房の手伝いになるの?明らかに過程がすっとんでるわよね?」

 

「そうだな、話せば長くなるが……」

 

「具体的には?」

 

「そう、あれは料理見習い三人が、村を発つところから……」

 

「あんたの話が厨房の昔話にすり替わってるんだけど!?」

 

「ふむ、それは不思議な話だな……」

 

「不思議なのはあんたの頭の中よ!」

 

 

 ぜえ、はあ、と息を切らすルイズ。涼しい顔のアーチャー。

 この図からは考え付かないだろうが、アーチャーは彼女の使い魔である。

 と、息を整えたルイズはそこでとあることを思い至る。

 

 

「もしかして、だけど……今日のお昼って、あんたが作ったの……?」

 

「それは正確ではないな。これだけの量を単独で作るのは困難であり、事実、これらの殆どは厨房のコック達が調理したものだ。……まあ、多少私も手を加えたりもしたがね?」

 

 

 つまり、今回のこの騒動は、アーチャー(こいつ)のせいであるらしい。

 今まで授業中に悶々としていたことを、ルイズは一時脳の隅に追いやり、

 

 

「あんた、いったい何者なのよ……」

 

 

 心の底からそう思い、それを口に出した。

 

 

「言っていなかったかね? 私はしがない、弓兵だよ」

 

 

 因みに世間一般の弓兵は、素手でゴーレムを砕いたり、貴族の舌を唸らせるどころか、意識を飛ばさせるようなことはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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