第六話:新人武官四人
:陳留城市街地
「ふむ・・・老酒を瓶で一つ、貰おうか」
真昼間だと言うのに酒問屋で酒を買い求める青年が一人。
「はいはい、何時もお買い上げありがとうございます曹純様」
「いやいや、店主、ここの酒は良い物が多い・・・また寄らせてもらうぞ」
「はい、お待ちしております」
青年は名を曹純子和、真名を蒼季。
「隊長、また昼から酒ですか」
いつの間にか背後にいる部下に注意される。
そう、この男、一応陳留の警備隊長などやっているのだ。
「榊ぃ、良いじゃねぇか」
クルリと振り向けば、全身に傷を作っている男、名を鄧艾士載、真名を榊、警備隊の副長でこう見えて・・・蒼季よりも歳下なのだ。
「いえ、隊長たるもの皆の規範とならなければなりません、我々部隊長もそうであり・・・・」
「榊」
「?」
ちょいちょい、と榊の真後ろの茶店を指差す。
「わー、ここのお茶すっごく美味しいの~♪」
「でしょ?ここは飲茶も美味しくって・・・」
「んー、良い香りです」
「全く、このようなところ榊副長に見られたら・・・」
「そう言いながら真っ先に席に座ってましたよね?」
「まー堅いこと言いっこ無し無し」
ピキピキ、と青筋の立つ音が聞こえた気がする。
「貴様らぁああああああああ!!!!!」
憤怒の形相で駆け出す榊。
「何で副長が此処にいるの!?」
「わわ!?おっちゃんが来た!」
「榊、少し落ち着くのです」
「貴女は落ち着きすぎです」
「す、すみません!すみません!」
「後生や!その振り上げた拳をギャー!!」
茶店で堂々とサボっていたのが警備隊所属の、いわゆる部下たちだ。
于禁文則、真名を紗和、部隊長。
許褚仲康、真名を季衣、部隊長。
徐庶元直、真名を愛理、経理担当。
曹休文烈、真名を唯夏、副長。
典韋、真名を瑠琉、部隊長。
李典曼成、真名を真桜、部隊長。
この六人と自分と榊で警備隊の根幹を担う人材たちである、副長一人を覗いてサボり癖があるのが玉に瑕である。
:警備隊屯所
七人は、正座させられて榊に説教されていた。
「全く!大体お前らはこの陳留の治安を担う人材としての自覚が・・・!!」
「いつ来ても賑やかだねぇ・・・・」
屯所内に響く暢気な声に、皆が振り向く。
「荀攸様!?お見苦しいところをお見せしてしまい・・・・」
「いやいや、気にしないで欲しいな」
髪や髭が灰色な男性、名を荀攸公達、真名を伯、頼りなさげな印象を与えるが、この陳留の筆頭軍師である。
「で、伯さん今日はどういったご用件で?」
正座させられていた蒼季が、いつの間にかあぐらをかき、伯へと問いかけていた。
「ああ、そうでしたそうでした」
榊が茶を出し、それをずず、と啜る伯。
「華琳様が、武官数名を推薦するように、と」
「人数はこっちに任せる、と?」
「ええ」
ふむ、と考える仕草をして一同を見回す。
「季衣、瑠琉、紗和、唯夏・・・・・お前ら行ってこい」
『へっ!?』
素っ頓狂な声を上げる四人。
「ふむ、彼女らですか」
「はい、武力で季衣と瑠琉、指揮能力の高さで紗和と唯夏です」
「ちょっと待ってよ兄ちゃん!?」
「イキナリ過ぎです、にい様!」
「隊長ー」
「むぅー」
ふくれっ面な四人。
「そもそもお前ら四人は元々並の武官以上の力量はあったんだ、それを自発的に推薦しなかったのは俺の怠慢、華琳が伯さんまで寄越したって事は『いい加減にしろ』ってぇ忠告だろうしな」
「他の三人はどうして残すのですか?」
「真桜は城壁修理とかやってもらいたいからな、で部隊指揮担当に榊、そして愛理がいなくなったら隊の経理が成り立たなくなる」
「なんとも否定し難い理由なのー」
「そういうこった、否定し難いと判明したから覚悟ぉ決めろい」
それ以上に突然の昇格に不安を感じる四人。
「必要以上に構える事はありませんよ」
どこか、聞く者を安心させる伯の優しい声音。
「私も時々、街中に降りて皆さんの仕事を見ていたのですけどね、彼の見立ては正しい、貴女方なら十分にやれますよ」
:翌日:陳留城謁見の間
曹仁、夏侯惇、夏侯淵、伯、徐邈、荀彧ら陳留の主要人物がこの場に集合していた、そして中央に座す金髪カールの少女こそが、陳留の太守、曹操孟徳、真名を華琳。
「面をあげなさい」
片膝を付く蒼季から一歩引いて同じ体勢をとっていた季衣、瑠琉、紗和、唯夏の四人、声をかけられれば5人が同時に顔を上げる。
「それで蒼季、後の四人が推薦する人材?」
「ああ、一押しだ」
「蒼季、半端な人材だったら・・・・お前の首を刎ねるからな!」
「勘弁、俺はまだ死にたくない」
「まぁ姉者、先ずは実力を見てからだろう」
「助かるね、毎度」
「ふむ、苦労するな蒼季」
「そう思うなら止めてくれると助かるんだがね、兄貴」
先ずはこちらの武官三人。
黒のロング、デコを出している女性が夏侯惇元譲、真名を春蘭、猪。
青髪で片目を隠しているのが夏侯淵妙才、真名を秋蘭、春蘭の妹であり制御役。
濃青の髪で糸目な男が曹仁子孝、真名を氷影、兄。
「まぁ問題ないとは思うのだがね」
「ありがとうございます、伯さん」
「まぁ、蒼季君の推薦ならば信頼するよ」
「そういって貰えると助かる」
「春蘭、始末する時は一声かけなさい、手伝ってあげるから」
「お前ね、そういうのは人目が無いときにしなさいな」
こちらは文官組。
痩身の女性が徐邈景山、真名を慧南、顔色が悪いが病気持ちとかそういうわけでは無い、一応、幼馴染である。
もう一人の猫耳少女、荀彧文若、真名を桂花、敢えて言うなら蒼季が嫌われているわけでは無い、異性自体が嫌いらしい、まぁ、一人を除き、だが。
『・・・・・・』
あまりに軽い雰囲気なこの場に、あっけにとられる三人。唯夏に至っては、ほとんどが知り合いであるために呆れ顔程度である。
「意外だったかしら?許褚、典韋、于禁」
『へ?』
「ふむ、確かに・・・・他所では有り得ぬ程弛緩した空気だろうな」
「ですがまぁそれがここらしさ、と言いますか」
「おいおい慣れて行けばいい」
「っつーわけよ」
そろそろ、と手が挙げられる、それは紗和のもの。
「隊長って何者なの?」
その問に答えたのは周囲の人物だ。
「次席武官だな」
「脳筋」
「酒好き」
「警備隊長ですね」
「優秀な武官だよ」
「認めたくは無いけれど能力は確かよ」
「従兄、ね・・・・まぁ能力も優秀だから次席武官に置いているのに警備任務しかしないから・・・・」
『・・・・・・・』
無言になる四人。
『次席武官~!?』
どうやらこれに関しては唯夏も知らなかったようだ。
「隊長ってそんなに偉かったの!?」
「初耳だよ兄ちゃん!」
「それとは露知らずご無礼を!」
「全くそうは見えないですから」
「お前ら結構遠慮ねーのな・・・まぁ良い、ともかくだ・・・次席なんて肩書きはついてるが今日からお前らと同じ武官だ、まぁ接し方はいつも通りで構わねーぜ、仕事で分からん事があればここにいる面子に聞け、大抵答えてくれるだろ」
と、蒼季がこの場を締める。
:夜:陳留城中庭
四人の武官昇格祝いの大宴会が行われていた、華琳に氷影、蒼季、春蘭、秋蘭、伯、慧南、桂花らはもとより榊や愛理、真桜らも参加、城中の文武官が集められての大騒ぎになった。
飲み比べの始まる春蘭と伯、榊。出された料理に関して議論を交わす華琳、瑠琉、愛理。既に飲みすぎでダウンしている慧南、紗和、真桜。ひたすら食べる季衣。要所要所を抑えていく秋蘭、唯夏そして・・・
「ふにゅー」
「相変わらず、兄貴には懐いてるのな、桂花」
「ん、蒼季か」
酒の入った盃を氷影に手渡し、そのとなりに座る蒼季、氷影の膝の上では桂花が気持ちよさそうに寝ている。
「新しい風が吹き込み始めている」
「だな、五年前は5人しかいなかった」
華琳の父曹嵩が亡くなり華琳が家督を継いだ、その時の華琳の宣言は、今でも覚えている。
《私は中華を統一するわ、氷影、蒼季、春蘭、秋蘭・・・私に、力を貸して頂戴》
「今にも後にも華琳が土下座なんてしたのはあれだけですからねぇ」
「全くだ、まぁ・・・それだけ本気だっつー事なんだろうし」
しばしの沈黙、そして。
「生き抜こうぜ、兄貴」
「ああ、それで華琳の目的も果たせれば万々歳だ」
ニヤリ、と笑い盃をぶつける二人、満月が煌々と夜空を照らす、そんな日の事だった。
桂花と言えば原作でも1、2を争うツンツンですが・・・・デレます!デレるんです!(大事な事なので二回言いました)実は偉かった曹純:蒼季、史実でも荊州南部を任されたぐらいだからそれなりに能力はあったんだろう、と。まあ、周瑜に直ぐ奪われたんですけどね。