ようこそ『ぐちり屋』へ   作:麻婆春雨

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お久しぶりです。麻婆春雨です。

更新スピードと内容がまったく釣り合っておりません。
ハードルを限界値まで下げてからご覧ください。


とある日のぐちり屋 〜Y.Yさんの場合〜

 

 

肌寒い季節は過ぎ、桃色の花びらが舞い散る季節すら通り越し、心地よい暖かさからうだるような暑さに鞍替えしようとする頃。一言で言うなら初夏かな。

 

「よっこいしょーっと」

 

いつもの場所へ屋台をひいてきた私は早速暖簾をかける。

以前は新調することも考えていたが結局することなく今に至る。

これだけ使っているとどうしても愛着というものが湧いてきてしまうのだ。

結局、ギリギリまで使ってあげようという結論に落ち着いた。

 

「んー。それにしても空が赤いなぁ。…誰の仕業かな」

 

誰にともなく呟いてみる。

そう、なぜか今日は朝から空が赤いのだ。まるでいちご味のしろっぷをぶちまけたようなのだ。

なにそれ美味しそう。

 

昼頃に人里に向かってみれば、人通りがほとんどなかった。たまたま見つけた寺子屋の先生に聞いてみたところ、どうやら赤い空は赤い霧の発生が原因であるらしい。そしてそれは人体には悪影響(気分が悪くなる程度だが)を及ぼし、低級妖怪などでは妖気にあてられて暴れやすくなってしまうとのこと。

まあ、人外の私には悪影響はない。

特に興奮することもないので私は低級妖怪ではないみたいだ。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで今に至る。

ほとんどの店が閉まっていて、食材を買うことはできず在庫が少し心許ないが、こんな天気じゃお客様も来ないかもしれない。

多分大丈夫だろう。

 

「それにしても空がこんなのだと時刻がわからないなぁ」

 

朝からずーっと赤い空。

唯一変わったことと言えば真っ赤な月が上がったということだけ。

それまで霧のせいで太陽が現れることはなかったのにね。

不思議だね。

 

「奇妙な天気だねぇ」

 

「本当ね」

 

「その通りだね…ん?」

 

空を眺めながらつぶやいたところで客席の方から突然の相槌。思わず会話を続けてしまった。

 

「いらっしゃい。でもびっくりするからさ、暖簾から普通に(・・・)入ってきてよ」

 

「神出鬼没が私の売りなの」

 

「突然現れる人って幻想郷(ここ)ならそんなに珍しくもないけどね」

 

「それでもあなたは驚いたでしょう?」

 

「…まぁね」

 

私程度では口で勝つことはまず不可能なお客さんがそこにいた。

真っ白な肌に長く艶やかな金髪、ナイトキャップのような帽子に紫色のドレスを纏う掛け値無しの美女。しかし扇子で隠す口元から溢れる笑みは何となく妖しげな雰囲気を醸し出している。

幻想郷で、特にそれなりの力を持つ者なら人妖問わず知らない者はいないだろう。まさに妖怪の賢者の名にふさわしい少女。

先程は口では勝てないと言ったが、もちろん単純な力でも私など足元に及ぶべくもないだろう。

 

「まぁ、そんなに褒められたら照れちゃうわ。しかも少女なんて…!」

 

「ナチュラルに思考読まないでよ」

 

やはり規格外だ。色々と。

 

「そんじゃ、何にする?

今のオススメは糠漬(ぬかづけ)だけど」

 

「なら、それを頂くわ。それと熱燗もね」

 

「あいよー」

 

例のごとく、とっくりを熱燗めいかーにつけた後、下の方の戸棚から漬物の(かめ)を取り出し、甕の中からきゅうりとなすを取り出す。その両者ともに糠がこべりついているので、流水で洗う。

それにしてもこのたんくと言う入れ物は本当に便利だ。蛇口をひねるだけで好きな量だけ水を出すことができる。流石は河童の技術である。

閑話休題。

糠を洗い落としたきゅうりとなすを

やや斜め向きに輪切りにする。後は皿に盛り付けて完成である。

 

「はい、漬物と熱燗おまちー」

 

「ありがとう」

 

優雅にお礼を言ったお客さんはポリっと小気味のいい音を立てきゅうりの糠漬を咀嚼し、嚥下した。

 

「うん、なかなかいい塩梅ね。うちの式のとタメを張れるんじゃないかしら?」

 

「お褒め頂き光栄だね。けどスキマさんのところの式さんと比べられるのは流石に荷が重いよ」

 

「ふーん、謙虚なのね」

 

「いや事実だよ。それに大きい口叩いて恥かくのも嫌だし」

 

「あら、そう」

 

一つの話題が終わったところでスキマさんはお猪口に口をつける。

こういう何気ない仕草さえ気品を感じさせるのだから流石だと思う。

 

「そう言えばこの間はありがとう、素敵な巫女さんのこと」

 

「この間…」

 

思い出したようにスキマさんは切りだした。

この前、というと真冬の巫女さんの喧嘩のことだろうか。

 

「…さて何のことかな」

 

「仲直りするように仕向けてくれたのでしょう?」

 

「…私はただお土産あげただけだよ」

 

「素直じゃないわね」

 

「事実だよー」

 

「なら、そういうことにしておいてあげるわ」

 

どこか苦笑交じりに、ついでに恩着せがましくそう言うスキマさん。なんだか微笑ましいものを見るような生暖かい目を向けられた気がする。

 

私は別に嘘などついていない。

別に、そんな風にお礼を言われるのが照れ臭いとかそんなことではない。断じてない。…うん。

 

「それで今日はどうしたの?少し疲れてるみたいだけど」

 

取り敢えず尋ねてみる。ここに来たってことは何かしら腹に一物抱えているはずだから。

話題を変えたかったわけではない。断じて…うん。

 

「そう見えるかしら?」

 

「まぁね」

 

疲れてるように見えるのは本当のことだ。目の下には隈があるようだし、いつもに比べて覇気がない。

 

「…そうね、確かにここのところ緊張を解く機会がなかったから」

 

机上に両肘を乗せ、組んだ手の甲で顎を支えるとスキマさんは話し始めた。

 

「何か大きな仕事でもあったのかい?」

 

「ええ、それはもう」

 

「もしかしてだけど、この空、いや、霧のことに関係がある?」

 

「…ご名答。今日()鋭いのね」

 

「私はそんなに(にぶ)ちんじゃないよ」

 

なんだか馬鹿にされた気がする。取り敢えず抗議だけは申し立てておこう。

 

「確か以前話したわよね?

スペルカードルールのこと」

 

「ん?」

 

少し前に聞いた覚えがある。

確か勝ち負けを殺し合いでなく、弾幕での戦いで決めるみたいな感じだったかな。

でも妖怪たち、特に天狗たちには受けが悪く広めることがまだできていなかったはず。

 

「えーっと…幻想郷中に広めたいって言ってたやつ?」

 

「そうそれ」

 

私が覚えていたことで気分を良くしたのか、スキマさんはお猪口のお酒を一気に呷り満足気な表情を浮かべた。

 

「そのことと霧、何の関係があるんだい?」

 

まさかこの霧に弾幕ごっこをしたくなるような成分があるとか?

…いや、ないか。これ一応人には有毒だったし。

 

そんな風に考えているとスキマさんが真面目な表情をし口を開いた。

 

「関係はあるわ。実はね………」

 

……

………

 

「なるほどねぇ」

 

スキマさん曰く、今回の異変では首謀者に対して暴力による駆除(解決)ではなく比較的安全な決闘、すぺるかーどるーるに則った退治(解決)を求めたということで。

確かにそれなら死者は激減する上に解決にあたる巫女も安全だ。

また幻想郷での絶対の規則、「妖怪は人を襲い、人間は妖怪を退治する」という仕組みは失われない。

そして見事異変を解決した暁にはすぺるかーどるーる(この制度)を軽視していた者たちも認めざるを得なくなる。

 

「否定的だった天狗たちも従わざるを得ないということだね」

 

「えぇ。特に天魔の奴は鼻で笑って突っぱねてきたのだから…あいつの悔し顏が眼に浮かぶようだわ」

 

してやったりと言う顔をするスキマさん。ちなみに天魔というのは天狗の頂点だ。

 

しかし疑問点はある。

 

「でもそうすると、異変を起こす妖怪が増えるんじゃない?」

 

死の可能性が減れば考え無しに異変を起こす奴が増えるということだ。

 

「それは好都合よ。その分あの子は働かざるを得ないし、そうすればより強くなってくれるわ」

 

「ひゃー、すぱるたってやつだね」

 

「獅子は子を千尋の谷に落とすのよ」

 

どうやらそこんところも想定済み、むしろ利用しようとさえしている。やはり賢者様には考えが及ばない。

 

「それで今回の首謀者は?」

 

「吸血鬼よ」

 

「…そんなのいたっけ?」

 

もちろん知識としては知っている。だが幻想入りしたなんて話は聞いてない。

 

「いえ、外から幻想郷に移りたいとのことだったから、利用させてもらったわ」

 

「相手はよく話を呑んでくれたね。退治される事が前提の八百長なのに」

 

「そこはほら、話し合いで穏便に…ね?」

 

何故だろう。「話し合い」の後に(物理)が付いてた気がする。

 

「へぇ、それはまた大胆な。

吸血鬼って言わずと知れた大妖怪じゃない」

 

吸血鬼。

多くの弱点はあれど鬼の如き力に天狗に並ぶ速さを誇る西洋の大妖怪。

そんなのを相手取るとか私には考えられないね。

 

「えぇ、そうね。とっても骨が折れたわ」

 

「そっか、それはお疲れ様。じゃあ、今は立場を忘れてのんびり愚痴っていってよ」

 

「ふふふ。じゃ、お言葉に甘えようかしら」

 

そこからはのんびりと愚痴が始まった。友人に茶菓子を奪われたこと、吸血鬼にぐんぐにるという槍を投げつけられ傘がオシャカになったこと、バ○アげほんげほん…やや大人びたご婦人呼ばわりした白黒の魔法使いをスキマに閉じ込めたこと、中には巫女さんが可愛すぎてつらいといった愚痴(のろけ)もあったりした。

 

 

 

この幻想郷をこの妖怪(ひと)ほど愛し、尽くしているものはいない。それは幻想郷の母としてか、それとも恋人としてか。私には推し量ることはできない。

それだけ大きな存在が私の前で愚痴をこぼしている。

特別に頼られているわけではないのだが、それでも少し誇らしく感じてしまう。

そんな微かな高揚を感じながら私は目の前の話に相槌を打つのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ( ^ω^ )

 

 

後日、魔女さんが愚痴りに来た。

いろいろ話すうちに例のスキマさんのお仕置きの話になった。

最初は文句を言いまくる魔女さんだったが途中から泣き出してしまい少しびっくり。

どれだけ怖い目にあったのか、少し興味が湧いてしまったが同時に知るべきではないと思った。

知ってしまえばもう逃げ場は無くなるのだ。

知らぬが花という言葉に従っておこう。

 

 

 

そのとき頭に響いた「それでいいのよ」という誰かの声は聞こえなかったことにした。

くわばらくわばら。





稚拙な文章ですが読んでくださりありがとうございます。あと、お疲れ様でした(-_-)\

相変わらずの更新スピード。
これが平常運転です。
さらにこれから大学入試などの関係で更新ペースが半端なく遅くなります。
入試さえ終われば(オワるではない)もう少し早く更新できるようにしようと思います。
ご了承くださいm(_ _)m

さて、記念すべき3回目は幻想郷の賢者こと八雲紫さんのご来店でした。
言っておりませんでしたが時期的には紅霧異変前です。
そんな訳で、物語を進めるべく紫さんには陰で色々と暗躍してもらい、その様子をテーマにしました。

私の勝手なイメージですが、(はかりごと)において紫さんの右に出るものはいないと思っています。
さらに実力もトップクラス、ガチで戦って勝てるのは、月の姉妹と一部の神くらいかなと。(霊夢さんもわんちゃんあるかな)

そんなチート級の紫さんですが、霊夢さんを溺愛するという一面もあったり。本人には厳しいながらもそれも愛故のこと、親しい人間には惚気話を炸裂させる事もしばしば、というお茶目な一面も。

彼女は妖怪故に人間よりもはるかに長い時を生きています。つまり、年齢は人間の少女と比べるべくもありません。

だからと言ってBB○というわけではありません。もう一度言います。B○Aではありません。大切な事なのでもう一度!○BAではありまs………




「あー、作者が消えたので私から。次回はいつになるかわからないけど、相当な物好きの人は是非待っててね。あと感想、誤字脱字、アドバイスなどあったらお願いね」

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