ようこそ『ぐちり屋』へ   作:麻婆春雨

3 / 4


お久しぶりです。麻婆春雨です。

更新スピードと内容がまったく釣り合っておりません。
過度な期待はもちろん並々の期待さえも寄せてはいけません( ̄д ̄;)
他の作品の箸休め感覚で楽しんでいただければと思います。


とある日のぐちり屋 〜M.Iさんの場合〜

 

 

今日も私は屋台を運びいつもの場所に陣取っている。

 

極寒の冬は過ぎ去り、雪が降らなくなったのを少し寂しく感じてくる今日この頃。

しかし、未だに肌寒くあったかい食べ物飲み物が手放せない。

 

そんな訳でおでんの仕込みの予備の準備をしておく。

備えあれば憂いなし。

用心深いことに越したことはないと思うわけなのです。

 

「お、誰か来たかな?」

 

ザッザッ、と地面を踏みしめる音が聞こえた。心なしか足取りが重い感じがする。

 

「はぁ、こんばんは…」

 

「あ、千里(せんり)さん、いらっしゃい。お疲れみたいだね」

 

暖簾を頭にかけながらため息混じりに入ってきたのは一匹の妖怪。

白い装束を身につけており全体的に黒いスカート(?)は裾の方が赤くなっている。背中に一振りの太刀を背負い片手には紅葉が描かれた盾。

何より目を引くのは頭頂部の山伏風の防止の横にいらっしゃる犬耳と臀部にある尻尾。

めっちゃもふもふしてそう。

触ってみたいとか思ったり思わなかったり。

嘘つきました、思ったりしてます。

 

「今日も仕事が大変でしたから…」

 

「あはは…ま、まあ座りなよ」

 

魂が抜けそうになっているお客さんに引きつった笑いしか浮かべられないが取り敢えず着席を促す。

 

「何にする?」

 

「…じゃあ、熱燗とがんもどきお願いします。…もう今日は飲みます!

飲まないとやってられません!!」

 

「あいよー。でも明日の仕事に差し支えないようにね?」

 

「ふふふ、明日は珍しく休暇をいただいたのです!

だから心配ご無用です」

 

「なるほどー。じゃあ、思う存分ゆっくりしていきなー」

 

興奮気味に言う千里さん。

興奮したからか耳はぴーんと立っており、尻尾はブンブン揺れている。

…もふりたい。

 

「はい、じゃあがんもどきね。熱燗はもう少し待っててね」

 

「ありがとうございます」

 

「で、今日はどうしたんだい?」

 

お酒を温めながら聞く。

すると、千里さんはがんもどきを噛み切ると口を開いた。

 

「今日は特に仕事が大変だったんですよ。主にクソ上司のせいで」

 

「おやおや手厳しいね」

 

「私の仕事が妖怪の山の哨戒だってことは店主さんも知ってますよね?」

 

「もちろん。常連さんだもの」

 

言い忘れてたけど、千里さんはここの常連と言えるほど通ってもらっている。それだけ気苦労が多いのだ。

 

「私たち白狼天狗の仕事は主にそれなんですけど、ただ見回るだけじゃ済まないんです」

 

「というと?」

 

熱燗ができるのを待ちながら相槌をうつ。

 

「今日の朝早くなのですけど、木っ端妖怪たちが天狗の縄張りで小競り合いを始めたみたいで」

 

「ふむふむ」

 

「能力故にそれをいち早く発見した私が沈静しに行かなければならなくなってしまって…」

 

「それは運がなかったねぇ。はい熱燗、熱いから気をつけてね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

とっくりとお猪口を受け取った千里さんは自分で酌しながら話を再開した。

 

「まあ、その妖怪たちはそこまで強くなかったので、すぐに無力化できたんですが、その後いつものように哨戒に戻ると、クソ上司に絡まれましてね」

 

「一難去って、って奴だね」

 

「全く、その通りですよ!」

 

千里さん曰く、そのクソ上司さんは新聞作りが趣味なのだが、記事のネタがなく、やれじゃあ千里眼使ってネタ見つけろ」、やれ「ネタが無いなら、記事にできるような面白いことしろ」なんて絡んできたらしい。

それも双方共にお仕事中に。

 

「そいつは…面倒だったね」

 

「全くです!

しかもその後、クソ上司のサボりを叱りに来たお偉いさんがついでとばかりに私にまで文句を言ってきたのですから!」

 

「なにそれ、理不尽すぎる」

 

「極め付けは夕方頃のことです。

すごい剣幕した白黒の魔法使いが突然天狗の縄張りに飛び込んできたので、止めようとしたら極太のレーザーぶっ放されたんです!!!」

 

「うっわぁ、それは…」

 

なんたる災難だ。考えるだけで寒気がするね。

 

「しかも、その理由が!

クソ上司にパンチラを撮られたからって!

もう、我慢なりません!

ガルルルルル!!!」

 

「お、落ち着いて!?

深呼吸深呼吸!」

 

髪の毛を逆立てて狼のように(事実狼の妖怪だが)唸りだした千里さん。

柄にもなく焦ってしまった。

屋台を壊されたらたまらない。

 

「はっ!す、すいません!」

 

「お、落ち着いてくれたならだいじょぶ」

 

ど、どうやら正気に戻ってくれたらしい。本人もご乱心だったことに気付いたようで何度も頭を下げてきた。

そこで、気にしていないことを伝えるべく親指を立てて突き出す。

なお一応平静を装ってはいるが内心冷や汗たらたらである。

 

「お酒きれちゃってますけど、お代わりどうします?」

 

「あ、…もらいます」

 

「熱燗?」

 

「は、はい。」

 

「あいよー。ちょいと待っててね」

 

そう言って2本目の徳利を取り出してその中へ酒を注ぐ。そして熱燗めいかーにざぶんっと。

 

「あ、お皿も空だね。何かいるかい?」

 

「じゃあ、牛スジと大根を」

 

「りょーかーい」

 

ダシが染み込んでいそうな牛スジと大根を選び落とさないよう皿に乗せる。仕上げにだしを少しかけて完成。

 

「へいおまちー」

 

「どうもです…はぁ」

 

千里さんはため息まじりに皿を受け取った。もう色々と溜まっていらっしゃるのだろう(別に破廉恥な意味は無いよ)。

もしくはキレかけてしまったことを反省し、落ち込んでいるのかもしれない。

おでんに対してため息をつかれたのでは無い…と信じたい。

 

うーん。そんな表情されながらだとこちらも気分が憂鬱としてくる。

どうにかできないものか…

 

………

 

「でも、天狗さんってすごいよね」

 

突然呟いてみる。

 

「へ?…何がですか?」

 

案の定、戸惑う千里さん。

 

「そりゃもちろん、妖怪の山を支配するだけの力があるって所が」

 

「うーん、それはまあ。でも天狗は生まれながらに速さがダントツですからそんなにすごいことでもないですよ」

 

特に私なんか全然凄くないし、とお猪口を弄りながら千里さんは続けた。やっぱりさっきから落ち込み気味だ。

あまりよろしくないね。

 

「いや、私が褒めてるのは強固な組織を作ったってところだよ」

 

「そう…ですか?」

 

「うん。

元来、妖怪ってのは勝手な生き物だ。集団で動くことはほとんど無い、というか我が強すぎて集団行動なんてできないんだよ、普通はね」

 

実際妖怪なんて原動力が何かしらの欲望なのだから仕方のない話なのだが。

 

「ところで、そういった組織の要ってなんだと思う?」

 

(おさ)じゃないですか?」

 

千里さんは当たり前というように即答。ついでにからしを乗せた大根を細かく切って口に運ぶ。

確かに長は大事だ、というより必須だ。だが、要だとは思わない。

 

「そう言えば、千里さんって将棋好きだったよね?」

 

「えっ?…好きですけど、何か?」

 

「一番よく触る駒って何?」

 

「それは…歩ですかね。けどそれが何か?」

 

私が急に話を逸らすものだから、不審がられてしまったかも。

安心してください、本題入りますので。

 

「私は天狗の組織も一緒だと思う。真に組織を支えているのは千里さんのような下っ端だと思うんだ。言い方は悪いけどね」

 

「!」

 

千里さんはうつむきながらだが僅かに肩を跳ねさせた。

 

「確かに、歩は行動範囲は狭いしはっきり言って弱い。でも他の駒を身を挺して守ったり、敵の逃げ道を潰したりして勝利に必ず貢献してる。」

 

実際、駒落ちでも歩が落ちることはない。それは歩全てが無くなってしまえば、はっきり言って勝負にならないからだと思う。

 

「千里さんも一緒。烏天狗に比べれば弱い、けど小回りの効く性質と圧倒的な物量で確実に天狗社会を支えてる。いなくなってしまえば天狗の組織は回らない。まさに縁の下の力持ちと言える。

だからね、千里さんは私から見たら結構凄い妖怪なんだよ?

だから、もっと自信持って?」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

あ、あれ、おかしいな?

うつむいたまま反応なし?

おだてて機嫌直そうぜ作戦、うまく決まったと思ったんだけど…

あ、あれか、下っ端って言ったから怒ってるのか?

 

「いや、別に下っ端って言ったのは悪気があったわけじゃなくて!

あぁ、あの、謝りますごめん!

調子乗ってました!ごめんなさい!

あぁ、あわわわわ…」

 

「…くすっ」

 

「うぇ?」

 

小さく吹き出すような音が聞こえた。

おそるおそる顔を覗き込んでみると…

 

「怒ってませんよ、店主さん。」

 

微笑んでいらっしゃった。

よかった、機嫌を損ねてなくて。

 

「むしろありがとうございます」

 

「…どういたしまして」

 

どうやら作戦は成功していたみたいだ。

 

「そんじゃ、気も軽くなったところで、今日は存分に愚痴っていってよ。夜はまだこれからだからね」

 

 

 

これだけ鬱憤が溜まるなんてこと私には無い。千里さんがどれだけしんどい思いをしているかなんて本当にはわからない。

けど、せっかく愚痴りに来てもらったんだ。今日はゆっくりじっくり愚痴ってさっぱりしていってほしいな。

 

そんなくさいことを考えながら、私はお酒のお代わりの用意を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ ( ^ω^ )

 

 

その後、上機嫌で飲み過ぎた千里さんは酔いつぶれてしまって、屋台で夜を過ごすことになった。

そのせいで私は寝床に戻れず朝まで起きっぱなしだった。

 

翌朝、目が覚めた千里さんは何度も何度も謝ってきたが、その時尻尾と耳がへにょんと垂れ下がっていた。

 

 

和んだ。

 

お詫びさせて欲しい、と強く言われたので尻尾をもふもふさせてもらうことになった。

 

……

………

 

あぁ^~心がもふもふするんじゃぁ^~

 





稚拙な文章ですが読んでくださりありがとうございます。あと、お疲れ様でした(-_-)\

更新スピードはこのくらいだと思ってください。学生も社会人ほどではないですが、時間がとりにくいのです。特に私はのろまなので…


さて、第2回ですが、犬走椛さんに登場してもらいました。
理由は苦労人そうだからです。えぇ、実に単純です。
あだ名は能力名からとっています。えぇ、実に単純です。

ここからは私の個人的なイメージです。
白狼天狗である椛さんは、烏天狗(上役)の射命丸文さんには基本的に逆らえず、ちょっかいを出してくる文さんにフラストレーションが溜まることがしばしばあります。
なので、ぐちり屋に常連と呼べるほどよく通っているというわけです。
そのような背景で、文さんのことはそれなりに尊敬していますが、特に友好的には思っておりません。むしろうざったい先輩という認識の方が近いです。
椛さんは暇なときは、河童の妖怪と将棋を打ったりしてます。なので河童との親交は深いです。

ついでに言っておくと、椛さんの尻尾は凶器です。いや、どちらかというと麻薬です。使いようによっては異変さえ起こると言われています(大嘘)。
私も死ぬまでに一回はもふってみたいものです。


次回もきっと遅くなりますが、期待することなくお待ちいただけたらと思います。

感想、アドバイス、誤字脱字などありましたらお気軽にお願いします(^^)



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。