――ウェンディ・チェスロック
爆弾は芸術的な
それはまだ俺がこの部隊に慣れていない頃の話。
その日はたまたま仲のいい知り合いと夕食の時間が合わなくて一緒にご飯が取れず、お盆をもってうろうろしていた時のことだった。
(んー。どっか空いてないかな…。お、あそこが空いてた)
2人席で片方空いている席があったのでそこに座ろうと近づいた。
「すいません、相席いいですか?」
「…どうぞ」
「ありがとうございます。いやー、混んでますね」
「くひ…。そうだね」
ん?なんかこの笑い方聞いたことが…。と思って顔をよく見ると第7小隊の人だった。
(あーと確かこの目の下の…隈?ペインティング?は…)
「チェスロックさん…でしたっけ?」
「ん…?」
「ああ、最近第7小隊に配属されたヘータ・サクラです」
「そう…」
挨拶をしたものの興味ないらしくそのままご飯の手を進めていた。それどころか進める速度早くなってない?
「…」
「…」
…気まずい。これはなんか話のネタを振らないと。
「ええと、チェスロックさんはなんで義勇軍に?」
知ってはいるけどとりあえず話題として振ることに。
「…爆弾の威力を試すため」
「へぇ、そうなんですか。爆弾が好きなんですか?」
さらっと返答するとチェスロックさんが面食らった顔をしてこっちを見てた。
「どうかしました?」
「くひ…。こんなこと言っても引かなかったのが珍しくて」
「ああ。義勇軍に入る理由なんてなんていろいろありますしね。…銃が好きで士官学校に入るお嬢様もいたりしますし」
「?」
「へくちっ!…また誰かが噂しているのかしら?」
「で、爆弾が好きなんですか?」
「くふふ…。わたしが好きなのは…」
それからというもの、爆弾がどれだけ素晴らしいか、どの爆弾がどの場面で役に立つのか、今ある爆弾は自分ならどう改良するとか…、チェスロックさんは語りだしたら止まらなくなった。いやー、さすがに爆弾マニアだわ。しかもちょいちょい役立ちそうな情報もあったりするから面白いし。そのまま話しているといつの間にか食堂の閉まる時間になっていた。
「すいません、しめないといけないので…」
「ああ、わかりました。それじゃあチェスロックさん…」
「…続きは部屋で」
「そうですね、また今度…って部屋ぁ!?」
「くひひ、それじゃあ行こう」
今日はこれでお開きだと思っていたらそんなことは全然なく、そのままチェスロックさんの部屋まで引きずられていくことに。さすが突撃兵、引きこもりでも力あるね。話を聞いていると、なんでも、今まで爆弾のことを語りだすとみんな急に忙しくなったりとかいつの間にかいなくなったりしたんだとか。ああ、マニアなことをしばらく語れず、話しても大丈夫な人がいると満足するまで話す人ってどの世界にもいるんだなぁ…と思いながら、その日は夜も爆弾について(一方的に)語られてた。さすがに寝不足はヤバい上に女性部屋で話していたので話を別の機会に、と区切ってもらい(本人はたいそう不満そうだった)、部屋で寝ようとしたころには日をまたいだ時間帯だった。ちなみにチェスロックさんの同室の人からは男が入ってきていることを不快に感じているどころか、話相手になっている自分に好意的な感じだった。お茶と菓子もらったし。
次の日、昨日と同じく時間が合わなかったので朝食も1人でとっていると向かい側に座る人が。
「空いているのでど…」
「くひひ…、おはよう。昨日の話の続きなんだけど…」
「…OK、とことん付き合いましょう」
結局、話は次の日の夕食まで続きましたとさ。実に恐ろしきやマニアの話。
3の内容が思い出せないのでちょくちょくやり直ししていたので本編が書けず悩んでいたところ、断章書けばいいんじゃね?と思ったので書いてみました。
ちなみに2の某お嬢様がちょいちょい出てきているのは、戦場のヴァルキュリアでマニアって単語が出るとどうしても作者の脳内に出てくるので。
あと宿舎の描写がメニューの宿舎の後ろの一枚絵しか思い浮かばなかったので、何人かと一緒の部屋という描写にしました。…2ではアバンの部屋は個人部屋だったので少し迷いましたが。