―マーサ・リッポネン
「ヘータ?ああ、川から流れてきたあの子?ぱっと見、普通の子だと思うんだけどな」
「普通だが、情報の量、質が共に異常だな。まぁ、それで我々は助かったんだが」
「ちげえねぇ」
―ビックス&ウェッジ
※この話も2話だったものを1話に統合したものです。
「マーサさん、只今戻りました」
「お帰りなさいませ、お嬢様。それと、ウェルキン坊ちゃん!お久しぶりです!」
「マーサさん、さすがにもう坊ちゃんは止めてくれない?」
「いいえ、私にとって坊ちゃんはいつまで経っても坊ちゃんです」
ギュンター家に着くと家政婦さんのマーサさんが出迎えてくれた。ゲームをしていて分かってはいたけど、実際に見てみるとにこやかさが2,3割増している。何だろう、萌えるメイドさんもいいけど、こういう家政婦さんが家にいるだけで安心できていい。
「あら、そちらの方は?」
「ああ、この人はヘータくん。行く場所がないらしいから、少し休ませてほしいんだけど…」
「かしこまりました。お茶の準備をしてきますわ」
「マーサさん、お腹も大きいんだから無理をしたら…」
「大丈夫ですよ。もう慣れっこですから」
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ、構いませんよ。それではどうぞ中へ」
マーサさんに連れられて家の中に入る。廊下を歩いてみると、華美な装飾は全然見当たらず、質素な生活をしている感じが取れる。将軍の家ってもう少し煌びやかな生活をしていると思ったけど、違ったのか。
「兄さんの到着を待ってから疎開しようと考えていたんですよ」
廊下をじろじろ見ながら歩く俺を見て、微笑みながらイサラはそう説明してくれた。
「そうだったんですか。そんなときにお邪魔してすいません」
「いえ、気にしないでください。準備自体は済んでいますし、兄さんも帰ってきて疲れてるでしょうから、夕方前まで休んでから出ようと思っています」
疎開前の慌ただしい時期にお邪魔してしまったのに、イサラは穏やかな笑顔でそういってくれる。後光が差して見える。なんだ、やっぱり天使か。
「…あ、このお茶おいしいです」
居間に通してもらって、マーサさんの作ったお茶とお菓子を貰いつつ、感想をポツリ。いや、小学生並みの感想だけど、ほかに表しようがないからしょうがない。
「ありがとうございます。それでは私は細々とした準備をしておくので、ごゆっくりどうぞ」
「マーサさん、私も手伝います」
「大丈夫ですよ。それに、お嬢様は坊ちゃんと久々の再開。ごゆっくり会話を楽しんでください」
では、と言って部屋から出て行くマーサさん。うーん、まさに家政婦の鏡。
「改めて、忙しい時期にお邪魔して…」
「気にしなくていいよ、ヘータくん。今はゆっくり休んで、それから考えていけばいいよ」
おお…、こっちからも後光が。…むっ、視線を感じる!
「…」
何故かイサラから飛ばされていた。主に頭の方に。
「ええと、イサラさん。何か俺の頭に付いてます?」
鏡見てないから頭がどんな状態か分からない。はげてないよな?
「いえ!ヘータさんの髪の色、ガリアではあまり見たことないなと思って」
「ああ、ヘータくんは日本人なんだって」
「日本の方なんですか!…あの、もしよければなんですけど、日本のこと話してくださいませんか?」
「ええ、いいですよ。それじゃあ…」
「ごめんくださーい!」
ちょうど話を始めようとしたとき、玄関からアリシアの声が聞こえてきた。あれ、ゲームだと玄関あたりで来たような…。まぁ、誤差だし気にしなくていいか。
「へぇ、日本ってそんな食生活なんだ」
マーサさんに案内されてきたアリシアの作ったパン(保存食用)をかじりつつ、日本の、主に食べ物の話で盛り上がる。話の途中で荷造りの住んだマーサさんも混ざりつつ話をしたけれど、日本の話をするって戻したときに、「じゃあ日本のパンってどんなの?」ってアリシアがすぐに聞いてきたからこんな流れになったけど、何でパン限定だったんだろう。
「私、パンが好きでね。いろいろなパンの作り方を知りたいの」
そういう彼女の目は爛々と輝いていました。パン作るのは知ってるけど、そこまで強い意気込みはなかったようなあったような…。
「そしていずれアリシアパンを…」
いや、なかったな。だって一瞬だったけどすごいヘブン状態!って感じのとろけた顔してた。ま、まぁ、重火器にヘブン状態になるお嬢様がいる世界だし、ほかにいるのもうなずけるよね!
「へくち!」
「お嬢様、風邪ですか?」
「いえ、もしかしたら誰かに噂されたかもしれませんね」
「ご、ごめんなさい!つい自分の世界に入っちゃって…」
アリシアのヘブン状態は途中でお茶を入れに行ったマーサさんが戻ってくるまで解けることがなく、マーサさんがおかわりを促すまで続いた。
「それにしても、可愛くて研究熱心なお嬢様だこと。坊ちゃんもスミにおけませんね?」
「え…?ああ、そんなんじゃないよ。アリシアには危ないところを助けてもらったんだ」
こっからは原作の流れか。ガールフレンド否定からのこれから仲良く慣れたら宣言。そして、未来の旦那の母親同然の人からのよろしくお願いします。よくよく考えたらこの時期から地盤を固めているのか。さすがヒロインは格が違った。
そこから、アリシアが壁にかかっていた写真を見てからの、ウェルキンの父親であるギュンター将軍の話、その将軍の専属技師だったイサラの父親であるテイマーの話、イサラの義妹となるまでの流れが続いた。うーん、完全に空気になっているな。
「…立ち入ったこと聞いちゃったかな」
「いいえ、気にしないでください。二人とも、私の大切な父ですから」
そう言って微笑むイサラはまさに天使だった。いやマジ可愛い。イサラちゃんマジ天使!…うん、決めた。俺、イサラ、助ける。イサラを死なせずにこの戦争を乗り切る!可愛いは正義、異論は認めない!
2人の父親の話が続いてるなかで精神的な年甲斐もなく熱くなっていると、時計を見たアリシアがあっと声を上げる。
「もうこんな時間…。あたし、そろそろ失礼しますね」
やっぱり何度見ても手の当て方が背後にドギャーン!を連想させるな。
「兄さん。アリシアさんを送ってあげてください。私たちは残っている荷物をまとめておきますから」
「ありがとう。ヘータくんはどうするんだい?」
「女性2人じゃ大変かもしれないので手伝いしときます。ゆっくり話をしながら送っても大丈夫ですよ?」
「だからそういう関係じゃないって。じゃあ、アリシアを送ってくるよ」
「ご馳走様でした!それじゃあ、失礼します」
2人が出て行くのを見送り、腕まくりをしているとイサラが声をかけてきた。
「すいません、お客さんに手伝いをさせてしまって」
「こちらもお世話になってますし、そのお礼ですよ」
「ありがとうございます」
面と向かってその微笑みはいけない!直視したらとろける!と思って顔をそらしたけど、
「あらあらうふふ。青春してますね」
そらした先にマーサさんがいたため、結局顔が赤くなったのを見られてしまった。
「?」
やめて、首を傾げないで!それ可愛すぎてとどめになっちゃう!い、今の俺にできることは1つ!
「さ、さぁ!手伝うことは何ですか!?」
手伝いに逃げることだけだ!
そそくさと手伝いに逃げ、10分後。俺はあることを考えていた。
…そういえばこの後の流れってどうなってるんだっけ?確か、ウェルキンとアリシアが歩きながら話して、親子風車のところで…って!
と思い出した直後、重低音が響き渡った。