―アリシア・ギュンター
「ヘータくんですか?頼りになる時は頼りになるんですけど…」
―イサラ・ギュンター
※このお話はArcadia様のほうでは2話だったものが短かったため、統合して1話に直したものです。
目が覚めたらガッチリした男におんぶされていた。な、何を言ってるかわからねえと(ry
「えっ?はっ?」
「やっとで起きましたか。自分で歩けますか?」
「あ、はい。お手数かけました」
あれ?俺、昨日は確か家で飯食って、酒飲みながら戦場のヴァルキュリアやりながら寝落ちして…って、流暢な日本語で話してるから違和感無かったけど、おんぶしてくれてたの外人さんじゃん。やっぱりでかいな、俺177あるけど頭1つ分差があるぞ。
「怪我らしい怪我はないですね。驚きましたよ、ヒカリマスにまぎれて人が流れてくるとは」
なにやら昔の外国の兵隊さんみたいなコスプレをしてるけど、あれか?コミケも近いから、テンションの上がった外人さんが外でコスプレしてんのか?
「って流されてた?」
「ええ。幸い、流された時間が短かったせいか少し水を飲んでるだけで済んでました」
寝てたら川に流されるって夢遊病のレベルじゃねーよ。よく死ななかったな、俺。って、周り、俺んちの近所じゃない気が…。本当にどこだここ?
「あの…」
ああ、どっきりか。もしくは夢だろうな。そうでもなけりゃ、知らない土地の川を流れてるはずないしな。だけどこんなドッキリしかけそうなあては…あった。絶対あいつじゃねーか。たしか外国の友人もいるっていってたから、たぶんその人たちなんだろうよ。
「ちょっと?」
夢だったら、服がずぶぬれなのを実感するとか、なんかいやな予感がするな。よくて服のまま風呂に入って寝てる、悪くて…考えたくもないな。起きたら風呂入って即クリーニング屋に行きとか。
「ねぇったら!」
「うわっ!?」
ビックリした!誰だよ、人がかんが…あ?
「あなたの名前を聞かせてもらっていいかしら?」
ああ、こりゃ夢だ。うん、絶対。こんな完璧にアリシアのコスプレできる人が現実にいるわけないし。
「えー、ヘータ・サクラといいます」
夢の中でゲームの人物とはいえ、さすがに美人と話をすると緊張するな。しかもピッチリした服着てるせいか胸がね。うん、外人さんはこっちもでかいね!眼福!って、なんで俺若干アリシアを見上げる感じになってんだ?アリシアって180あったけ?
「私の名前はアリシア。あなたを背負っていたのがウェッジで、その隣がビックス。ビックスが連行している不審者が…ウェルキンだったわね」
「不審者じゃないんだけどね…」
って、ウェルキンが不審者扱いっていうことは物語の序章も序章か。とすると、まだ戦闘前か…。
「ねぇ、ヘータくん。川から流れてきたけど、どうしたの?親と一緒じゃないの?」
「親?いや、俺はもう成人して親とは別々に…」
「嘘ついちゃだめよ?どう見てもあなた成人してないじゃない」
「えっ?」
成人してない?いや、さすがにそこまで童顔じゃねーぞ…ってちょっと待て。アリシアが俺よりも背が高い?あー、なるほど。俺若返ってんのか。道理で手とかちっちゃくなってるのか。夢の中だからってなんでもありになってんな。
「あー、俺の国じゃ15歳が成人って認められてるんですよ。こっちじゃまだ成人見えないかもしれないですけど」
「あら、あなた外国の人なの?」
「ええ、日本人です。成人したんで家を飛び出して旅をしてるんです」
っていう設定にしておこう。夢の中ぐらい旅人でいたいし。
「そうなんだ。また大変な時期にガリアに来たわね。今、この国は…」
「帝国と戦争中、なんですよね?」
戦ヴァルのことでしたら結末まで知ってますとも。小国ガリア対東ヨーロッパ帝国連合。不利だったガリアの反撃がそこの不審者の人が起点ってことも。
「ええ、だから早く国外に行くことを勧めるわ」
優しいけど強く勧める口調で諭してくれてるけど、夢の中だし自分のしたいようにしたい、ということで。
「国外に行きたいんですけど、お金がないんですよね」
「…それは困ったわね。どうしたらいいかしら」
嘘は言ってない。いつの間にか自分の部屋とは違う服を着ていたけど、これっぽっちもお金っぽいものはなかった。
俺を国外に逃がそうとする案を考えているアリシアには悪いけど、ちょっと話を逸らすか。
「あの、ちょっと話変わるんですけど。ここってどこですか?」
「ブルールよ。それがどうかしたの?」
「ブルールっていうと確かギュンター将軍の…」
「ええ、そうだけど」
「ギュンター将軍の息子さんの名前が確かウェルキンだったような…」
「え」
ギギギギと錆びついたようにウェルキンの方に顔を動かすアリシア。だけれど首をぶんぶんと振って、「たまたま同じ名前よ」とか「偽物よ」とか否定しはじめた。ウェルキンは、「そのウェルキンなんだけど…」と言いたそうな感じの困った笑いしてるし。
「兄さん!」
おっ、この可憐で元気ながらも死亡フラグが立ってそうな声は、妹萌えじゃない俺の心を揺り動かした、P○の菜○子と双璧をなす妹キャラ…
「イサラ!元気だったかい?」
そこからあとは原作通りにウェルキンがギュンター将軍の息子ということがわかり、解放されるまでのやり取り。そのあとに戦闘が起こると思って身構えていたらイサラがこっちを見て、
「この方は…?」
と聞いてきたので自己紹介しようと思ったら、
「オべの名前は…」
と噛んでしまい、訂正しようとしたら戦闘開始、しかも戦闘中はイサラにずっと名前がオべと思われていて、
「オべさん、大丈夫ですか?」
と言われて踏んだり蹴ったり。コントかよ!
そんな戦闘の最中、年下に見えるせいか、イサラは俺をかばいながら隠れてくれた。実際、年上だけど戦争のない世代に生まれた俺はただただ固まるだけだった。なんとか動けるようになったと思ったらこけるし。隠れている最中はずっと放心していたし。まさかこの年で年下の子にかばわれるとは夢にも思わなかった。
…あとかばわれたときに慎ましいふくらみを味わえたのは内緒。放心していたけど、肘だけ意識を集中させていたとか死んでも言えない。
あ、戦闘の方は4人がサクッと終わらせました。
戦闘が終わったあと、放心していた俺の復活を見届けたビックスとウェッジとは別れて4人で街を歩くことになっんだけど…。
「はぁ…」
「どうしたんだい、ヘータくん」
「いえ、ちょっと思うことがありまして…」
…これ、夢じゃなくね?
物陰に隠れようとしてずっこけたとき、普通に痛かった。ゴキブリみたいな動きで物陰に隠れて安心したあと、先人たちに習って自分の頬をつねったけどやっぱり目が覚めなかった。
(もうなにがなんだか…)
あーと声が出そうになるのを抑えながら考えていると、目の前に大きな風車塔が見えた。おお、これがあの風車塔か。周りの田舎の風景とあいまって、すごく落ち着いた雰囲気が出ている。
「この風車塔を見ると故郷に帰ってきたって気がするなぁ」
「…ふふっ、そうだね。親子風車あってこそのブルールだもんね!」
流れるように風車に死亡フラグが立てられてて思わず合掌。3人はいい表情でしばらく風車を見ている。こう、一歩引いてみると、美男美女って映えるね。
とか考えていたら、アリシアが改まって俺を見てきた。
「そういえば、あなたはどうするの?」
もし夢だったらこのままほいほい付いて行ってたんだけど、これが現実だったら、何の訓練も受けていない俺が死ぬ可能性が高い。だけど…。
ちらっとイサラの方を見る。どうするんだろうと首をかしげながらこっちを見ている。
(このまま何もしなければ、イサラ、死ぬんだよな)
マルベリー海岸で撃たれて。それを知っているのは、俺だけ。これを他の人に伝えても、見ず知らずの子供が「海岸で撃たれて死ぬから気を付けて」と妄言吐いてるだけと思って取り合ってくれるとは思えない。
自分の命も大事、だけれど、今のところだけど、救えるのは俺だけ。分かっているんだけど。
アリシアからの質問に悩んでいると、ウェルキンから
「行くあてがないなら家に来ないかい?」
とのお誘いが。
「へ?いいんですか?」
「うん。話を聞くと、こっちでのあてもないようだしね。いずれにせよ、一度休んでしっかり考えた方がいいんじゃないかな?」
確かに少しでもいいからゆっくりどこかで考えたい。いろいろ一度に起こりすぎて頭もパンクしそうだ。
「それじゃ、お言葉に甘えてお邪魔します」
こうして俺はとりあえずギュンター家で一息つくことになった。