ヘータ・サクラの華麗なる戦歴   作:あきゅおす

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「ヘータくんかい?なんと言えばいいかな…。僕がいうのもなんだけど、マイペースな性格だね」―ウェルキン・ギュンター


本編
英雄と英雄とマス(仮)


 征歴1935年3月 ガリア公国 国境の街ブルール郊外。この街は帝国と国境を隔てており、人々は戦火を恐れ、街を脱出しはじめていた。

 

「この道を通るのも3年ぶりかぁ、なつかしいなぁ」

 

 その脱出する流れに逆らい、川沿いに歩いて行く青年の姿が見えた。元々はここの住人だったらしく、懐かしみながら周りを見渡しながら歩いて行く。

 

「おっ!あれは…もしかして!」

 

 ふと青年が視線を落とした先には、綺麗に日光に反射した薄緑色の魚がいた。青年は慌てて川に駆け寄り、その姿を確認する。

 

「やっぱりヒカリマスじゃないか!もうヒカリマスが川をさかのぼる季節なんだなぁ」

 

 独り言、としては少し大きすぎる声を出す青年の横を避難する人々は訝しげに見ながらも、早く避難したいという気持ちが強いからか、何も言わずに通り過ぎていく。

 そんな人々の視線を知ってか知らずか、青年はたすき掛けしていた鞄を下ろし川岸に腰を下ろすと、どこからともなく取り出した手帳に丁寧にスケッチをはじめた。

 そんな青年の背後にゆっくりと忍び寄る影があった。その影は青年に悟られないように背後に付き、青年に聞こえるようにわざとカチャと音を立てる。青年はその音に気付き、身を固くした。

 

「動かないで。ゆっくり両手をあげなさい」

 

 背後から聞こえた女性の声に従い、青年はゆっくりと手をあげる。そして中腰の姿勢のままで後ろを向くと、ライフルを持った赤いスカーフを頭に巻いた若い女性と部下らしき男が2人いた。

 

「見かけない顔ね、名前は?」

「僕の名前は、ウェルキン。きみたちは?」

 

 青年――ウェルキンは女性の問いかけに素直に答えると、3人に質問を返す。

 

「我々は、ブルールの自警団の者です。あたしは分隊長のアリシア。後ろの2人はビックスとウェッジ」

 

 ウェルキンが視線を向けると、

 

「俺がビックスでこっちがウェッジな」

 

とアリシアの右後ろにいた兵が答えた。それを確かめ視線をアリシアに戻すと、彼女は話を続ける。

 

「最近、帝国のスパイがうろついているという情報があって見回りをしてたんだけど…」

 

といって、ウェルキンが持っていた手帳に目を移した。

 

「信じてもらえるとうれしいんだけど…、魚のスケッチをしていただけで…。ほら、今ヒカリマスが川に…」

 

 ウェルキンが弁明するために川を指し示すと、なぜか固まってしまった。その様子を見てとったアリシアはウェルキンの肩越しに川を覗く。

 

「…ヒカリマス?」

「新種、じゃない限りはちがうかな」

 

そこには、川岸に引っかかってる1人の少年がいた。


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