【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~   作:不知火新夜

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今回もデュエル無しです。


81話_調律の魔術師

『デュエルパレスへ御集りの皆さん、お待たせしました!本日、このシティにおける最大規模のデュエルの祭典、フレンドシップカップを開催します!前夜祭に引き続き、司会は私、メリッサ・クレールがお送りします!シティは1つ、みんな友達!』

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

会場全体へと告げられたフレンドシップカップの開催、それに応じるかの様に響く歓声。

此処デュエルパレスには、数十万もの観客が詰め掛け、デュエルの始まりを今か今かと待ちわびていた。

というか、結構大きなデュエルイベントで司会進行をしていない姿を見かけないって位やっているな、あのMC。

 

『それでは、開催の言葉をこの方より頂きましょう!

 

今再びシティの、この世界の危機に舞い降りた伝説の英雄!創世主、不動遊星!』

『おぉぉぉぉぉぉぉ!』

『遊星!遊星!遊星!』

『創世主様ぁぁぁぁ!』

 

そんなメリッサの呼び出しに応じる様に、俺は会場の中央に設けられたステージへと上がる。

…それにしてもだ、こういう場だから仕方ないとは言え、どうも燕尾服は何処か慣れないな。

まあいい、このスピーチと、その後の振る舞いが、このシンクロ次元での活動の集大成だと、我々ランサーズの理想を実現させる為の『始まりの終わり』だと言っても過言じゃ無いんだ、気を引き締めないと。

 

「皆様、今このシティ、いや世界全体に、未曽有の危機が迫っております。デュエリストの誇りも、デュエルの楽しさも何も無い『融合次元』に本拠を構えるテロ組織、デュエルアカデミアが今、4つの次元を1つにせんと各地で侵略を繰り広げています。既にその1つ、エクシーズ次元は3年前からの侵略により数多の命が散り、或いはアカデミアへと捕まり、そして独自の文化は、『結束(エクシーズ)』のミームは見るも無残な物と化してしまいました。その魔の手は今、我々ランサーズがいた次元にも伸ばされ、このシンクロ次元にまで及ぼうとしております。

 

嘗ての私がZ-ONEを打ち破り、基礎を築き上げたこのシティは、その死後数百年が経ち、この様な姿へと変化を遂げました。その姿に思う所がある方もいるでしょう、その社会構造に不満を覚える方もいるでしょう。そのひな形を作り上げた私に反感を持つ方もいるでしょう。

ですが今こそ、このフレンドシップカップの理念、「シティは1つ、みんな友達」の理念の下に、財あるトップスと、バイタリティあるコモンズが手を取り合い、アカデミアの侵略から立ち向かう時!互いが手を取り合わずして、アカデミアの侵略を打ち破るは困難を極めるでしょう!それ程までにアカデミアの力は強大なのです!

 

守りましょう、この次元を!

守りましょう、シンクロ召喚を!

守りましょう、皆さんのミームを!

 

我々ランサーズもデュエリストの誇りを、デュエルの底力を胸に、全力で戦います!

力ある方はその腕前を!

財ある方はその資金を!

我こそはと思う方は、是非とも自らの力を、我々の下にお与え下さいませ!

 

ともあれ、今は目の前のデュエルを通じ、皆が白熱し、皆が笑い合い、シティが1つとなるべき時!

皆様、大変長らくお待たせしました!フレンドシップカップ、開催いたします!」

『おぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

スピーチを終えると共に響き渡る歓声、それを背に俺は会場を後にした。

 

------------

 

『盛り上がって来た所で、今回出場する16人のデュエリスト達を紹介します!

まずは1人目、あの不動遊星の一番弟子!前夜祭ではクロウ・ホーガンに成すすべなく敗れましたが、そのデュエルタクティクスは師匠譲り!ランサーズ精鋭部隊『ARC-V』メンバー、エレン・アヴェニール!

次に2人目、ランサーズ第1部隊所属!前夜祭では惜しくも敗れましたが、粘りのデュエルでジャック・アトラスに食らいつきました!その諦めない精神が、本戦でも発揮される事を期待しています!ユーゴ!

続いて3人目、ランサーズ第3部隊副隊長!前夜祭では鬼柳京介のハンドレスコンボに圧倒されながらも、真っ向から立ち向かいました!その反骨精神が、再び発揮される!ユート!』

「悪いな柚子、ちょっと遅くなった」

「大丈夫よ遊矢、お疲れ様。今のスピーチ、凄く格好良かったわ」

『ふふふ、もう既に夫婦って感じだね。遊矢が柚子に告白して付き合い出したの、つい最近の事だと言うのにね』

『ああ。とは言え2人共長年の付き合いだ、遊矢の過去も柚子が受け入れた以上、この間柄に至る方程式は揃っていたのだろう』

『おや、デュエル脳の塊なアストラルにしては中々上手い事言うじゃないか』

 

スピーチを終え、デュエルパレスの最上段にあるテラスルームに戻った俺は、柚子の出迎えを受け(その際にユベルとアストラルから色々言われたが、状況が状況なのでスルーした)て、会場を見下ろす位置にあるチェアに腰を下ろした。

さて、出場者の顔ぶれはどんな感じか…

 

『4人目、ランサーズ特殊部隊『V-CRAN』所属!可愛い顔に似合わずそのデュエルはパワー溢れる凄まじい物!セレナ!』

「セレナ、結局出る事になったのね…

あの娘、自分の立場が分かっているのかしら…」

「本当、それだよな。V-CRAN自体がセレナのガードマン的な位置づけでもあったと言うのに、それが余り意味を成さない状況の今にか…」

 

セレナの出場には、今言った様な事情もあってランサーズ全体から難色を示す声が上がっていたのだが、本人の熱意(と、零児の推薦)で出る事になったんだ。

まあいざとなれば控えているメンバーをガードに回す準備は出来ているが…

 

『5人目、ランサーズ第2部隊所属!そのデュエルは緻密にして豪快!今こそデッキに眠る、強大なるロボが目覚める!志島北斗!

6人目、ランサーズ第4部隊隊長!妖艶な姿からは想像も付きませんが、デュエルは殺伐としています!元いた世界ではプロとして活躍していた強豪、その実力で勝ち上れるか!藤原雪乃!』

 

これでランサーズが送り込んだ6人の紹介は以上か。

 

『7人目、あの伝説のエンジョイデュエリストが、新たなるエースを引っ提げて帰って来ました!果たしてその力や如何に!徳松長次郎!』

 

お、来た来た。

第2部隊と第4部隊が収容所にぶち込まれた際に出会った彼、嘗てはシティでも名の知られたデュエリストで、コモンズ出身ながらトップスにも熱狂的なファンがいたとか何とか(実際、ホワイト議長がそうらしい)。

つい最近まで収容所のボスとして君臨していたとの事だが、今回、沢渡達の推薦を受けて出場を要請した所快諾してくれ、今こうして選手紹介でその名が読み上げられている。

ところで、沢渡達の話から聞いた、彼の信条である『エンジョイデュエル』、その俺達の信条であるエンタメデュエルにも通ずるものを掲げていた彼に共感した俺は、彼のデッキに合いそうなカードを何枚か提供すると共に、ランサーズに関するとある依頼をしたのだが、彼は「デュエルを虐殺の、大量破壊の道具にするとは許せねぇ!お前さんに影響を受けた奴に、エンジョイデュエルを思い出させてくれたばかりか、俺を再び陽の当たる道に戻してくれた恩だ、俺に出来る事なら何でも協力する!」と、これも快諾してくれた。

実に頼もしい限りだ、沢渡が熱心に推していたのも頷けるな。

まあ何が言いたいのかと言うと、彼は事実上、ランサーズが選出した6人と同じ立場という事だ。

 

「それにしても、『調律の魔術師』か。シンクロ次元にも魔術師モンスターカードがあったとはな」

「遊矢?どうしたの、そのカード?」

「ああ。これ、此処に戻る時に案内をしてくれたドアボーイから預かったんだ。なんでも、嘗てジャックから『お前に一番相応しいカードだ』と、貰ったらしいんだ」

「へぇ。でもチューナーみたいだけど、攻守0はともかく、強制発動されるデメリット効果…

『お前に一番相応しいカードだ』という言葉、ジャックは一体どんな意図で…」

 

其処から先の出場者は、事前情報が少ない事から実力は未知数と判断、メンバー達の報告を待とうと一旦会場から目を離し、先程、サムと名乗ったドアボーイから預かったカードを眺めていた。

サム曰く、ふとしたきっかけで出会ったジャックから渡された物らしいのだが、その真意を未だに考え続けているとの事。

『全てのカードには生まれた意味がある。この世に不必要な、役立たずなカードなど存在しない』という『不動遊星』のモットーが人々に根付いているシティ、彼もまたジャックが自分自身に何かしらの(良い)意味を見出してこのカードを渡したのだろうが、未だにそれが何なのかが分からないらしい。

そんな折、俺付きのドアボーイに抜擢された事を良い機会だと捉えたそうで、俺にこのカードを使って、その意味を見出して欲しいと、託されたんだ。

 

さて、その能力を見ると、まずレベルは1、これ自体は『ワン・フォー・ワン』や『ワンチャン!?』等のサポートカードの存在、レベル調整のしやすさ、チューナーと言う立場等からシンクロ召喚する上ではむしろメリットだ。

属性も闇なのでボチヤミサンタイの呪文で知られる『ダーク・アームド・ドラゴン』や『闇の誘惑』、『ダーク・グレファー』のコストに出来る。

魔法使い族だから『見習い魔術師』によるリクルートも可能、ではあるんだが、上に挙げた特徴はぶっちゃけ他のモンスターで良くね?と突っ込まれるのが関の山だ。

その他、攻守0という毒にも薬にもなるステータスも気になるが、何より問題なのが召喚・特殊召喚成功時に強制発動される効果だ。

400のLPを、相手には回復、自分にはダメージ、と、デメリットしか書かれていない。

後デメリットとは言い難いが、ペンデュラムモンスターでは無いので『魔術師』カテゴリには厳密に言うと入らない(苦笑)

確かにこれは、ジャックが何の意図で渡したのか、普通のデュエリストなら分かりかねるだろう。

 

だが、俺はこれを初めて見た時、「中々面白いカードだ」と感じたんだ。

 

確かにこのカード単体ならデメリットでしか無いだろう、だがそれはあくまで『単体』なら。

着目すべきは強制効果による相手へのライフゲインと、自分へのセルフバーン。

そう、あの悪名高き呪文『クラウンブレード』を例に挙げるまでも無く、自分へのバーンダメージをトリガーに効果を発動するカードは意外と存在する。

俺が遊馬だった頃に使っていた『ダメージ・メイジ』や、璃緒が使っていた『ガード・ペンギン』、零児が使っている『DDD反骨王レオニダス』や、今言った呪文の片割れである『H・Cサウザンド・ブレード』がそうだな。

そういったカードにとってコレは、召喚か特殊召喚を行うだけで発動条件を満たし、尚且つ最終的な効果処理は『自分がダメージを受けた』、よってチェーン2以降で発動さえしなければ『時の任意効果』であってもOKと、かなり使い勝手の良い『相方』となり得る、増してやコイツ自身がチューナー、という事は場に出すだけでシンクロ素材を揃えられるという訳。

 

そう考えて見ると、ジャックがサムに見出した意味が分かった気がするな、後はコイツの特徴を活かしたデッキで、彼にその意味を、ジャックの真意を見せよう!

と、意気込んだその時だった。

 

『そして16人目、突如としてシティに舞い降りた女D―ホイーラー!果たしてその実力や如何に!マージョリー・アトラス!』

「あ、アイツは!」

「ど、どうしたの遊矢?」

 

ふと会場に、最後の出場者紹介が行われていた会場に目を向けると、其処にはあの赤いD―ホイールと、あの『メタルフォーゼ』デッキを使っていた女D―ホイーラーと思しき存在のソリッドビジョンが映し出されていた。

まさか、フレンドシップカップに出場していたとはな…!


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