【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~ 作:不知火新夜
42話_バレット、死す!
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目の前で繰り広げられた信じられない出来事の数々と、僕の身を案じてくれている様子の少女が口にした不可解な言葉に、正直理解が及ばなかった。
ただ1つ分かったのは、これは色んな意味でヤバい状況だって事位…!
「き、貴様、まさか…!」
「ちっ随分としぶといわね。貴方、此処は危ないわ、さっさと離れましょう。色々と聞きたい様子だけど、アイツらを撒いたら話すわ」
「あ、はい…」
「き、貴様!逃げるのか!?」
「そう思ってくれて構わないわ。だけど私達を追うよりその男の身を案じた方が良いんじゃない?まだ息しているみたいだし。さ、行くわよ」
「あ、待て!」
「セレナさん!それよりもバレットさんを!」
「くっ分かった…!」
僕にデュエルを仕掛けて来たセレナという少女が、逃げる僕達を追いすがろうとしたけど、先程銃撃っぽい攻撃を受けた男がまだ息をしていたのが幸い(?)したのか、何とか撒く事が出来た。
「
あの『炎髪灼眼の討ち手』から、セレナ様を(ガクッ)…!」
「え、炎髪灼眼!?ま、まさかあの…!?
バレットさん!?バレットさん!?い、嫌ァァァァァァ!」
「バレット!?バレット!?しっかりしろ!」
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「ふぅ、何とか撒く事が出来たわね。大丈夫?怪我は無い?」
「は、はい、助けてくれて、ありがとうございます…」
何とかあのヤバい現場を離れる事が出来て、安堵した。
「ぼ、僕、志島北斗と言います」
「知っているわ。今年の舞網チャンピオンシップ、そのジュニアユースに出場していたでしょう?」
「知っているんですか!?」
そのお礼を兼ねて自己紹介したけど、まさか僕の名前を知っているとはびっくりした。
その舞網チャンピオンシップ本戦では惨敗だった事もあるし…
「舞網チャンピオンシップは、私も出場しているしね。戦うかもしれないデュエリストの情報は、少しでも欲しかったから」
え、彼女も出場しているだって?
いや、まるで炎の様な髪に、ルビーの様な眼と、此処まで特徴的な姿、出場者にいなかった筈だけど…
「あぁ、この姿だと分からないわね。これなら分かるかしら?」
と彼女が言った瞬間、またしても僕の目の前に信じがたい光景が繰り広げられた。
彼女の赤い髪と眼が、まるで炎が消えるかの如くその色を失い、燃え尽きた灰の様な白髪と、焼け焦げて炭になったかの様な黒眼となったって、この姿確か…!
「初めましてと言うべきかしらね。平井遊香よ」
「あ、思い出しました!確か陽炎獣ってデッキの使い手で、LDS所属でも無いのにエクシーズ召喚を使っていた!」
そうだった、確か陽炎獣モンスターを並べてエクシーズ召喚し、其処からワンキルしていたんだっけ。
LDSどころか、何処のデュエルスクールにも属していないにも関わらずエクシーズ召喚をしていた事で話題になっていたなぁ。
でもその彼女は、今僕の目の前にいる彼女と同じく、中学生位の年代にも関わらず総白髪というかなり珍しい髪型と、こっちは日本人にありがちな黒眼だった、ならさっきまでの赤い髪と眼をした彼女は一体…
「色々と聞きたい事はあるでしょう、さっき落ち着いたら話すって約束したし。順を追って話すわ」
そんな疑問点ばっかりな僕の様子を察してくれたのか、彼女は話を始めてくれた。
僕達のいる世界と同じくデュエルモンスターズが発展した、それでいて色んな部分が違う『次元世界』の事、その1つである『融合次元』のデュエリスト達によって引き起こされた3年前の『エクシーズ次元』への侵略の事、そのデュエリストとの戦いの中で彼女が目覚めた『超能力』の事、そして『融合次元』が『スタンダート次元』と呼ばれている僕達の世界に侵略を始めようとしている事…
何から何まで非現実的過ぎて何処から突っ込んだらいいんだと普通なら思っただろうけど、たった今目の当たりにした光景の数々が、それが現実の物だと思い知らせた。
同時に許せなかった、デュエルによって面白半分に、建物を破壊し、人々を甚振り、殺害した末に、エクシーズ次元を荒らし尽くした融合次元のデュエリスト達が…!
「遊香さん…!
僕、戦います!僕も融合次元のデュエリストと戦います!」
「止めておきなさい、気持ちは分かるけど」
その怒りゆえに遊香さんに協力を申し出たけど、返って来た言葉はまさかの拒否だった。
な、何で…?
「融合次元のデュエリストとの戦いは文字通りの『戦争』、デュエリストとしての誇りやプライドなんてモノは全く存在しない、何でもアリの戦いよ。其処に乱入するとなれば、『融合次元という巨悪を、どんな手を使ってでも打ち砕いて見せる』と言う揺るぎない覚悟をしなければならないわ。貴方にそれが出来るの?」
「それは「出来そうも無い、と断言して置くわ。舞網チャンピオンシップ本戦でのあのデュエルを、相手の口八丁にまんまと揺さぶられて自滅した様を見た限りではね」っ…!」
出来ると言おうとしたけど、あのデュエルでの醜態を挙げられては、押し黙るしか無かった。
実際、彼女にずばりと言われた事で少し冷静になったら、融合次元との戦い、いや『戦争』に臨むという事がどういう事か、彼女の言っている事の真意が分かって来た。
それに、僕は何の躊躇いも無く行けるのか、戦い続ける事が出来るのか…?
正直自信が持てなかった、そんな僕が『協力する』と言っても、彼女にとっては迷惑極まりないだろう。
そう、頭では理解出来る、けど…!
「だったら教えて下さい…!
遊香さんは、遊香さんはその覚悟があるんですか…!
遊香さんは何で、そんな覚悟を持てるんですか…!」
思わずそう問い返したのは、彼女の容赦ない拒絶に、心が納得出来なかったからだと思う。
『超能力』を持っていると言っても、僕と大して変わらない年代の彼女が何故、融合次元を相手取るのに全く躊躇しない程の覚悟を持てたのか、それが知りたかった…
「そうね…
今からちょっと話が長くなるけど、時間の方は大丈夫?」
その問いに、少し暗くなった様な素振りを見せながらも、彼女は話始めた。
1人の少女の『悲劇』を…
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Side Yuya
「おかしいな、本戦には出場していた筈、会場内で捕まえられる筈なんだが…」
『一体どこをほっつき歩いているんだろうね…』
『手掛かり無し、か。平井遊香、一体彼女は何者なんだ…』
舞網チャンピオンシップの、ジュニアユースクラスの2回戦が行われている今日、俺達は自分自身の試合に臨んだ(結果は皆して勝利だ)一方で、同じく2回戦に進出し、そこでも勝利した平井遊香の行方を追っていたんだが、その足取りは全くつかめなかった。
デュエルフィールドに足を踏み入れるタイミングをも考慮し、手分けして張り込んでいたんだが、それすら空振りに終わっているとなると、彼女は俺達が思っている以上に底の知れない存在かも分からないな(ピリリリリ!)ん?零児から、か?
「もしもし、零児?一体どうしました?」
『遊矢、緊急事態だ!融合次元より、以前話したデュエリスト、セレナと、その護衛と思しき1人の少女がこちらに保護されているのだが、2人の話によって、
アカデミアのデュエリストが近々此方に侵入する予定である事、
そして、融合次元のデュエリストを狙ったテロリストが此処、舞網市に潜伏している事が判明した!至急ARC-Vメンバーと共に、指定の場所へ集合して欲しい!』
「な、何ですって!?」
『て、テロリスト!?こ、この街にだって!?』
『テロリストとは一体何だ、何時発動す『ボケかましている場合じゃないんだよアストラル!緊急事態なんだよ!具体的に言うと、バリアンの連中が引っ掻き回している真っ最中な位の!』何だって!それは大変だ!急ぐぞ!』
相変わらずなアストラルのデュエル脳振りをユベルが窘めつつ、俺達は零児が待っているだろう場所へと向かった。
テロリストが、この街にいるだと…!