【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~ 作:不知火新夜
24話_ARC-V結成と、『俺だった者』の物語その1
「今日は集まって貰ってありがとうな。皆に此処に集まって貰ったのは他でも無い、大事な話があるんだ。零児を交えてのだ」
「今から君達に向けて、私と遊矢が話す内容、突拍子も無い物と思うだろうが、最後まで聞いてくれ」
LDSのとある応接室、此処には柚子、一行、当麻、エレン、そして権現坂の5人が其々の席に座り、俺や零児からの説明を今か今かと待っていた。
この次元を含めた4つの次元の事、その1つである融合次元の組織『デュエルアカデミア』による侵略の事、それに対処する為の『ランサーズ』構想の事を零児から聞き、そしてランサーズ最高指揮官への就任を打診されて了承した昨日から1日経ち、俺と零児は5人に同様の話をしていた。
俺の義弟であるエレン、幼馴染である柚子と権現坂、そして長年遊勝塾に籍を置いている一行と当麻、この5人に、とある打診を行う為に。
まあその内容を話始めた頃は5人揃って半信半疑と言った様子だったが、実際にエクシーズ次元が侵略によって崩壊した様を撮った監視映像、必ず1人存在している各次元の『俺』と『柚子』、ユートとセレナ、そして黒咲瑠璃の写真を提示された時には驚きながらも納得してくれた。
その際、沢渡を襲撃するユートを見ていた柚子の驚きは顕著だった、まあ自分そっくり、それどころか各次元における『自分自身』や『俺』がいるなんて、余りに現実離れした話だからな。
その驚きを落ち着かせつつ、俺達は本題に入る。
「ランサーズは融合次元からの侵略からこの次元を防衛し、そして反攻する為の組織だ、それには実力と覚悟を兼ね備えたデュエリストが大いに求められる。だがその中でも、『伝家の宝刀』『大逆転の切り札』と呼べる、圧倒的な実力を持った精鋭が控えているとあれば、例えば敵の猛攻をがっちりと止めて反撃ののろしをあげたり、手薄になっている敵陣を確実に仕留めたりする事による士気向上、例えばそういった大黒柱が存在する現場の安心感等、ランサーズにとって様々な恩恵をもたらしてくれるだろう。そしてそれが、複雑な指揮系統から独立した『特殊部隊』の体制を取っていれば尚良い。
君達にはランサーズにおけるこの『特殊部隊』に当たる、最高指揮官である遊矢直属の部隊『
ARC-Vという名は、「天に掛かる虹を駆け上り、勝利を掴み取る5人衆」という意味合いを込めて付けた物だ、決して遊星だった頃に結成した5D’sみたくアニメタイトルからとった訳じゃ無いからな!
「遊矢兄ちゃん、零児さん、俺やるよ!あんな人の命を、デュエルの神聖さを屁とも思っていない連中を駆逐してやる!俺が、この手で!」
その打診に、集まった中で最も年少のエレンが怒りの声を上げながら真っ先に乗り、
「同感だ、エレン!この男権現坂、デュエルアカデミアによるこんなけしからん行いを見過ごすわけにはいかん!遊矢、零児殿、非才ながら全力を尽くそう!」
「俺もだ!俺達の次元は弱くない!俺達が住んでいる次元には、アイツらを倒す力があるって事をアイツらに教えてやる!」
「やってやろォぜ、遊矢、社長さン!世界征服なンて馬鹿げた考えしたデュエルアカデミアなンざ、ぶっ潰してやらァ!」
一行や当麻、権現坂といった男子陣も同調し、
「今こうしている間にも、アカデミアが戦いの準備を進めていたり、エクシーズ次元に残っている人達が苦しんでいたりしている…
正直怖い思いもあるけど、私も守りたい!皆を、皆の笑顔を!」
柚子もまた怖さから若干迷う素振りはあれど、決意を固めてくれた。
良かった、皆同じ想いの様だ。
「そうか、我々の構想に加入して貰えるか!そしたら「零児、他に話があるのですが、宜しいですか?零児にも聞いてもらいたいのですが」遊矢、私も含めてか?分かった」
ランサーズ、その精鋭部隊であるARC-Vへの皆の加入が決まり、デュエルアカデミアとの戦いに向けて決意を1つにした今こそ、俺の過去を明かすべき時、そう思い立ち、零児が話すのを一旦遮って、話を始めた。
「さて、皆に紹介したい人物(?)がいます。ユベル!」
「やあ皆、初めましてと言うべきかな?ボクは皆の事を知っているけどね」
『!?』
俺が呼ぶと同時に、某未来からやって来たアンドロイドがヒロインを守るドラマにおいてアンドロイド達の移動手段として用いられた『ウージングアウト』の如く、ユベルが実体化した事に、応接室内の6人全員が驚きの表情を浮かべるが、これは今まで何度も見て来た光景だ、予想は付いている。
「彼女は俺の切り札の一角、『ユベル』のカードに宿った精霊です。彼女について色々と聞きたい事はあるでしょうが、まずは聞いて下さい、『俺だった者』の物語を、たった今零児が話した『4つの次元』とはまた違った、けれどデュエルモンスターズが発展した『異世界』で生まれ育って来た4人の『俺だった者』の物語を…」
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最初の『俺だった者』、今俺達がいる世界や、俺が嘗て生まれ育った世界のうち3つとそっくりな世界観・人物がアニメとなっていて、それらに登場するデュエルモンスターズをモチーフにした『
ただその愛し方はちょっと独特で、強いデッキを組んで大規模な大会に出場し優勝を目指す『ガチデッカー』では無く、例えばアニメに登場していたキャラクターの、このカードを使ってみたい!というコンセプトを基にデッキを組み、それで友人たちと和気藹々と言った雰囲気でデュエルする『ファンデッカー』といった感じ、しかも結構前に登場したキャラクターのそれへの想いを追及するタイプだった。
俺のデッキの1つ『ユベル』は当時の俺がガキの頃からずっと使っているデッキで、時には小規模な物ではあったけど大会に出場して、意外と良い実績を残していったな。
友達からは「ガチデッキとかに興味無いの?」とか「そんな扱いにくいデッキでよくそんな実績残せるなぁ」とか言われているが、それに対して「好きなんだから良いじゃねぇか!」とか「愛が成せる業だ!」とか返答していて、その一途振りから周りからは「ユベッシー」なんてあだ名をつけられたな。
そんな平凡だけど楽しい毎日、けれどそんな生活はある日突然、交通事故という形で終わってしまった。
信号が青になったのを確認して横断歩道を渡った所に信号無視したトラックにはねられる、という転生モノのテンプレパターンで、勅使河原遊士という『俺』は死んだ。
でも現実でそんな神様転生だとか起こる訳も無く、そのまま天国へと行く、事にはならなかった。
次に目覚めた時には、俺は赤ん坊になっていたんだ。
普通だったら赤ん坊の時など覚えている筈が無い、というか赤ん坊の状態で『自分』を認識できる筈が無いのに赤ん坊である自分を『俺』は認識できた、その時、俺は転生した事に気付いたんだ。
そしてその要因となった存在も、直ぐに分かった。
遊士だった『俺』が切り札としていたユベルのカード、それに宿っていた精霊が、俺の死を目の当たりにして悲しみに暮れ、それを哀れに思った神に俺の転生を懇願、俺の死が世界においても予想外だった事もあって神はそれを快諾し、遊士だった頃の『俺』がいた世界で『遊戯王デュエルモンスターズGX』という題名のアニメとして放送されていたのとそっくりな世界に、その主人公として扱われたデュエリスト『
けれど此処で俺は、十代としての『俺』という存在に、何点か疑問に思ったんだ。
アニメにおける十代は、『破滅の光』から宇宙を守る救世主『覇王』としての力『正しき闇』を持った某国の王子という前世を持ち、それが現代における十代にも受け継がれていて、その力がアニメにおける重要な要素となっているのだが、その前世を押しのけて十代となった『俺』、アニメそっくりという関係上『破滅の光』という存在もあっておかしくない中でそこら辺大丈夫なのかと。
あと、十代の前世における親友というか恋人だったユベル、前世の十代を守る為に自らを怪物に改造させ、後に十代の持っていた同名カードの精霊となって彼を守り続けた彼女だったが、その想いが暴走してしまった末に壮絶な運命に叩き落とされ、それが原因で想いが歪んでいってしまい、それも(色んな意味で)アニメにおける重要な要素となったのだが、俺が持っていた同名カードの精霊であるユベルはアニメの彼女とは全くの別人、そこら辺もどうなっているのかと、俺は彼女に聞いてみたんだ。
それに対してユベルは、十代の前世である少年が持っていた『正しき闇』を宿した『肉体』に、俺という『魂』が宿った結果、十代という『俺』が誕生し、それと同時にユベルがこの世界の彼女に『憑依』して取り込んだ、と答えたんだ。
そんな馬鹿なと思ったがまあ神様転生自体がそんな馬鹿なと言える物だったし、そこら辺は神様の力である程度は何とかできたんだろうと納得した。
そんなこんなで十代として転生した『俺』、やっぱりデュエルモンスターズが元の世界以上に普及している世界となれば、デュエルをやらない訳にはいかないだろうって事で、ガキの頃からデュエルに明け暮れていたな。
転生した際の特典かどうかわからなかったけど、元の世界で使っていた『ユベル』デッキはそのまま持っていて、しかも前世の記憶から来るプレイング能力もあって近所の友達とは連戦連勝、小規模な大会でも優勝続きだった。
そんな現状に満足せず、もっと強いデュエリストと戦ってみたい、そう思った俺は、小学校卒業と共に、その世界のカード製造最大手である会社『海馬コーポレーション』社長である
デュエルアカデミアはカード製造最大手の会社が出資している事もあって入学するデュエリスト達のレベルも中々の物、その中であっても俺は『ユベル』デッキ、更に十代となってから組んだデッキ『
この『E・HERO』デッキなんだけど、大会とかで好成績を出した際に景品で『E・HERO』融合モンスターカードをプレゼントされた事が良くあったんだ、其処で折角だからデッキを作って見ようと思い立って構築した物だったって、これは蛇足だったな。
そんな俺だったけど、やはりレベルの高いデュエリストが集うデュエルアカデミア、そう簡単に勝てない相手も、1人だけだけどいたんだ。
俺にとっては2年先輩にあたる人で、『アカデミアの
カイザーのデッキは『サイバー流』、その戦術は主に『ハイステータスモンスターによる真っ向勝負』という、至ってシンプルな物。
一見すると相手のステータスを逆手に取るユベルとの相性は抜群な筈だけど、其処をカイザーは『禁じられた聖杯』や『スキルドレイン』等を駆使して効果を無効にさせたり、『次元の裂け目』で墓地からの展開を妨害されたりしたし、『E・HERO』においても『安全地帯』を出されて全体破壊効果を回避されたり、『サイバー・ネットワーク』で除外を逆手に取られたりで、勝つのは容易じゃ無かった。
そんな事もあって、俺は何時しか『アカデミアの
他にも、カイザーからの紹介で、彼の親友だった
けれど中学2年になった或る日の事、吹雪さんが行方不明になったんだ。
表向きにはアメリカに留学、として発表されてはいたけど、実際には当時吹雪さんが住んでいた、絶海の孤島に建てられているアカデミア高等部、其処の『特待生寮』の寮生が次々と行方不明になる事件の被害者の1人となってしまったんだ。
その原因は2年経って俺達が高等部1年となった時に判明し、アニメで見ていたそれと同じだったんだが、十代としての『俺』の立ち位置が既に逸脱している以上、アニメの流れは無い物と思っていた俺は、明日香やカイザーと共にその原因を自分達なりに探していた。
けれど有力な手掛かりは見つからないまま2年が経過し、俺と明日香は高等部に進学した。
蛇足だけど俺も明日香もクラスは中等部で好成績を叩き出した生徒が所属するオベリスク・ブルーだった、といっても女子生徒は人数が少なかった事もあって全員がオベリスク・ブルーだけどな。
其処で俺達は行方不明事件の手掛かりを探し続けたんだが、その折に絶海の孤島に建てられているアカデミアの地下に封印された『三幻魔』と呼ばれている無茶苦茶な力を持ったカードの存在を知り、それを狙う集団『セブンスターズ』との戦いに、俺と明日香、カイザーに加えて、カイザーの弟で俺にとっても弟分として、高等部進学の折に知り合ったのが切っ掛けで可愛がっていた丸藤
その後もセブンスターズと闇のデュエルを繰り広げ、最後にはアカデミア理事長にして、セブンスターズの黒幕だった影丸とのデュエルとなり、それに俺は勝利して、三幻魔を巡る戦い、そして2年越しの行方不明事件にもケリを付けたんだ。
その後も2年の時にアカデミアにて開催された、プロも参戦する世界規模のデュエル大会『ジェネックス』の中で繰り広げられた『光の結社』という組織との戦いと、そのトップである
え、十二次元での戦い?ユベルがヤンデレを拗らせなかった影響でそんな物は無かった。
後また蛇足だが、パラドックスとの戦いの時に同じく未来から来たデュエリスト『
一体何のつもりだ?とその時は思ったんだが、理由は後になって分かった、けどそれは後で説明するぜ。
で、中等部から交際していた明日香とは高校卒業と同時に結婚、時にプロリーグに1シーズン限定で参戦したり、時に世界の色んな場所を旅したりした末に、十代としての『俺』は天寿を全うした。