【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~ 作:不知火新夜
Side 一行
「よォ、海音。ちょっと話があるンだが、いィか?」
「お前は一行だったか。話ってなんだ?」
「…此処じゃァちょっとな、付いて来てくれ」
エレンと海音のデュエルが終わり、デュエルフィールドから出て来た海音を、俺は呼び止めた、コイツには1つ、話してェ事があったから。
今から話す事は俺達ARC-Vや社長さンといった極一部しか知らねェ重要機密、それを平行世界の存在な海音に話すのがどういう事か、まだ14年しか生きていねェ俺でも分かる。
この前アカデミアがこのシティに大規模侵略を仕掛けて来た際に遊矢が考案・実行した『アンドバリの指輪』作戦、シティの治安維持局長官であるロジェが、自らの懐刀としてサイボーグ化して抱えていたセルゲイを、遊矢設計の素体に組み換え、その能力で大規模な仲間割れをアカデミアに引き起こすという外道極まりねェ作戦、それが外部にリークされたとなれば重大な罪、例え漏らした相手が海音であろォとそれは変わらン、だがそれでも俺は話さなきゃならねェ、遊矢に道を踏み外させねェ為にも。
実行前、俺達ARC-Vと社長さンに遊矢からこの作戦の概要が聞かされた時、俺と当麻、そして権現坂はこぞって反対した。
相手が幾らアカデミアだからって、外道極まりない『
まァそン時は、遊矢の反論に何も返せなかったンだが。
確かに、遊矢がいィてェ事は分かる、アカデミアの方はこれを戦争、いや野蛮極まりねェ『ハンティングゲーム』のつもりで来る、こっちが生半可な対応で臨んじゃァこのシティの連中の命を、笑顔を守る事は出来ねェって事くらいは分かる。
そンな決断をしなきゃァならねェ程嘗ての遊矢が、色ンな連中の命が、笑顔が失われる様を見て来たってェのも知っている。
だが、俺にはそンな作戦を簡単に思いつき、躊躇なく実行しよォとした遊矢が、すげェ怖かった。
なンつーか、ドンドン俺達の知っている遊矢からかけ離れて行くよォな、そンな感じがして、さ…
その遊矢を引き戻せるタイミングは、ひょっとしたら海音達が来ている今しかねェかも知れねぇ。
俺や当麻、権現坂はその経緯を知っている、知っちまっているから上手く説得出来ねェし、柚子や社長さンは何故か最初から賛成しちまっている、今遊矢を引き戻せるのは、海音しかいねェかも知れねェ…!
「此処は俺が滞在している部屋だ、まァ入ってくれ」
とりあえず俺が滞在している部屋でいィか、と思い、海音を中に招き入れる。
「それで話ってなんだ?」
「…」
…しかし、いざ話そうってェタイミングになると、イマイチ言ィ出しにくいな。
だが此処で躊躇しちゃァ、遊矢を引き戻す事なンざ叶わねェ、腹を括るしかねェ!
そう決意した俺は、アンドバリの指輪作戦の概要を海音に打ち明けた。
「…確認しておくが、お前達はこの作戦を最初から知っていたのか…」
話を聞いた海音は、その可愛らしィ見た目の何処から出て来るンだって位の威圧感を放ちながら、怒りを抑えた様子で俺に聞いて来た。
その威圧感に驚き、冷や汗を垂らしながらも、俺は答える。
「遊矢からそれを知らされたのは、迎撃準備に入る前のブリーフィングの時、つまり最初から知っていた。無論、俺も当麻も、権現坂もそンな作戦には反対だった」
「…だがお前達はそれを止める事が出来なかった…違うか…」
それに対する海音の更なる問い、それに俺は答えられなかった。
幾ら反対していたからって、結局実行されてしまったのには変わりねェから、な…
「ふざけるな!」
俺の返答に怒りが収まらかったンだろう、海音は怒声を上げながら壁をぶン殴っていた。
「お前達がどれだけの罪深い事をやったのか分かっているか!確かにアカデミアの連中がやってる事は許される事じゃない。だがな、だからと言ってお前達が何をしてもいいわけにはならないんだよ!アカデミアの連中だってお前達と同じ人間で、心があるのだぞ!それをお前らは…
やり方は違うがお前達も目的の為なら手段を選ばないアカデミアと同じだ!」
ンなこたァ分かっている、俺だって、俺達だってそォ言って遊矢を説得したンだ…!
だが結局止められなかった、なら…!
「ハァ…ハァ…それで、何故俺にこんな話をしたんだ?」
「お前に頼みがある、遊矢を説得して欲しィ、遊矢をちゃンとした道に引き戻して欲しィンだ!お前の言う通り俺も当麻も同罪だ、説教たれる資格なンざねェ、権現坂はなンか納得しちまったみてェだし、柚子や社長さンに至っては最初から賛成しちまっている、今お前達が来てくれたこのタイミングしかねェ、お前にしか頼めねェンだ!」
アイツの経緯を知っちまった俺には、ぶっちゃけ無理だ、だがそのしがらみがねェ海音なら…
「自分が説得出来ないから俺に説得してくれだぁ…
同罪だから説得する資格が無いだと?ざけんじゃねぇ!本当に説得させたいなら例え何を言われようが何度でも言って止めるべきだろ!たとえそれでお前が孤独になろうがな!お前はただ遊矢や仲間との関係が壊れるのが怖かっただけだろ!だがお前は説得を諦めた!それは心のどこかで納得してしまったんだろ!そもそも俺はこの件に関しては全くの無関係なんだぞ!俺が来てくれたこのタイミングしかないだぁ…
都合が良すぎなんだよ!ちっ時間の無駄だったな、邪魔するぞ!」
…分かってらァ、俺が遊矢との仲が壊れるのが怖い事、心のどっかで納得している事、こんな頼み事が都合よすぎる事、全て…!
やっぱ、遊矢を全うな道に引き戻すのは…!
「…だが、俺自身、あいつのやり方は間違っているのも事実。とりあえず一発ぶん殴らないと気が済みそうにないな」
「っ!?す、すまねェ、海音…!」
「勘違いするな。これはお前に頼まれたから説得するんじゃない。ただ個人的にムカついただけだ。それで今後どうなろうがお前次第だ。覚悟だけはしておくんだな」
そォ言い残して、海音は出て行った。
どォするか、か…
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Side ????
一行から『アンドバリの指輪』作戦に関する話を聞いた海音はその足で遊矢がいるであろう観客席に向かうと案の定、其処には遊矢が1人で、今しがた始まったばかりのソラトとサトシ、ティリエルと八幡のデュエルを観戦していた。
「ん?海音か」
「遊矢、お前に聞きたい事があるのだが」
「聞きたい事、か…何だ?」
「『アンドバリの指輪』についてだ」
「…それを何処で知った?」
「そんなことはどうでもいい。何故こん『少し黙って貰おうか、火野海音』ング!?ンー!ンー!」
『アストラル、良い判断だよ。全く困るなぁ、海音。そんな話を大っぴらにしちゃあさ』
その遊矢に近づいた海音は早速、アンドバリの指輪作戦に関して遊矢を問いただそうとしたが、突如その口が閉じたまま動かなくなってしまう。
突如として口が動かない、いや頭全体と、口と顎が何か見えない物によって抑え込まれたような力を感じた海音、そう、遊矢の相棒であるアストラルが咄嗟に左手で海音の頭、右手で口と顎を包み込み、抑え込んだのだ。
遊矢にしか見えないと言っても良いアストラルだからこそ出来た、達人顔負けのCQCである。
「此処じゃあれだから、場所を変えよう。付いて来い、其処で話そう」
そう言いながら遊矢は席を立ち、海音を連れてとある部屋へと向かって行った。
「よし、此処が良い。此処なら誰かが入って来る事は無いだろうし、防音もばっちりだ」
歩いて数分、遊矢達は施設の片隅にある非常用物品の保管庫へと来た。
そこの鍵を開けて遊矢達は入室、戸締りを確認してから海音を口封じしていたアストラルにアイコンタクトを送り、その拘束を解かせた。
「っ!はぁ…はぁ…いったい何のつもりだ…」
「誰から聞いたかは検討が付いているから敢えて聞かないが、アンドバリの指輪作戦関連の情報が重要機密だと言うのは分かっているだろ?それを公の場でペラペラと喋られる訳には行かないんでね、少し手荒な真似をさせて貰った。さてさっきの、アンドバリの指輪作戦を実行した理由だったな。このシティ、シンクロ次元、其処に住まう人達、そしてランサーズメンバー、皆の命を、皆の『笑顔』を守る為だ」
「笑顔…だと…」
身の回りの状況を確認した遊矢は、先程の海音からの質問に答えるが、その言葉は、
「ふざけるな!何が笑顔だ!お前がやった事なんてただの洗脳を使った一方的な戦争じゃないか!」
「そうだ、これは戦争だ。少なくとも向こうは、アカデミアはその積りでこのシティに大軍を送り込んで来んだ、俺はそれによる被害を未然に防ぐためにこの作戦を実行した」
海音の怒りに火を付けた。
その怒りを遊矢にぶつける海音、だが遊矢はそれに対し涼し気な様子でさっきと同じ様な事を話すだけだった。
「だからと言って、こんなやり方は間違っている!お前は自分が何をやっているのか分かっているのか!」
「ああ、こんなの正しいわけが無い。この作戦を正しいと真顔で言える奴は正真正銘のクズだな。あ、俺も似た様な物か」
尚も怒りをぶつける海音、それでも遊矢は飄々とした様子で応じるだけ。
「狂ってやがる…」
「今更か?こんな作戦を発案し、実行に移す奴がまともな訳ない事位、猿でもわかるだろ?」
その様子にそう吐き捨てるしか無かった海音、其処に遊矢はその神経を逆なでするかの様な発言を真顔で言い放った。
「…少なくても人間として最低限の自覚はあると思っていたが…
どうやら手遅れのようだな」
「手遅れ、か…
確かに、とっくの昔に人間辞めた様な物だしな」
だが、それに対する海音の言葉に、遊矢は何処か遠い目をしていた。
それは遊矢として生まれる以前の事を、思い出していたのだろうか…
「お前はいったい…」
「それに答えるのは後で良いか?どうせ知った所で、お前のこれからと関わりない事だろうからな。
さて、色々と好き放題言ってくれた様だが、逆に聞こう。
正しいやり方ってなんだ?あの状況でどの様な手段を取るのが最善及び最良だったんだ?お前のそのまともな頭で考え、そしてキチガイな俺に分かる様に説明してくれ」
それに疑問を持った海音の問い掛けを一旦遮り、遊矢は海音に質問する。
「悪いが俺はそんなに頭は良い方じゃないから正しいやり方なんて分からん。だがこれだけは言える。お前のやり方は間違ってる。少なくとも俺ならお前のやり方をするくらいなら普通にデュエルで倒していく方がまだましだ!そもそもお前はアカデミアをどうしたいと思っているんだ」
それに対する海音の答え、それに対して何か引っ掛かる物があったのか、遊矢の目が若干細くなったが、そのまま海音の問いに答える。
「これはあくまで理想だが、デュエル戦士とのデュエルを通じて、デュエルの、デュエルモンスターズの真理を思い出し、己の行いの愚かさに気付き、そしてその刃を収めてくれたらとは思っている。そして融合次元、アカデミアの皆が過ちに気付き、そしてデュエルの真理を思い出し、デュエルを通じて純粋な笑顔に満ち溢れたら、そう願っている」
「笑顔だぁ?お前はそのアカデミアから笑顔を奪っていて何を言う!」
「あくまで理想だ、そう言っただろ。だが現実問題として、アカデミアはこれを戦争として、各次元に大規模な戦力を送り込んできている。俺はランサーズの最高指揮官として、このシティに、シンクロ次元に住まう大多数の人達の命を、その笑顔を守る義務があるし、俺自身も守りたいと思っている。確かに理想は理想で目指すべきだ。だがその理想は、現実から目を背ける為の免罪符じゃないんだ。お前はさっき、俺のやり方をするくらいなら普通にデュエルで倒していく方がまだましだ、そう言ったな?
バカヤロー!甘ったれてんじゃねぇよクソガキ!テメェがチマチマと1人1人デュエルで倒している間、他の連中が好き放題に暴れるという危険が、ソイツが罪も抵抗する力も無い数多の一般市民を面白半分に殺戮し、カード化する危険がまるで入っていねぇじゃねぇか!それとも何か、これは戦争だと臨んで襲って来た1人のデュエル戦士の命は、そんな覚悟が出来る訳無い数多の一般人より重いっていうのか!?デュエル戦士1人を笑顔にする為に、数多の一般人が、沢山の笑顔が犠牲になっても良いっていうのか!?テメェの方がよっぽどクズだ!オエッ何か吐き気して来やがった、同族嫌悪って奴かな…?」
そして、その答えを独りよがりだと受け止めていた遊矢もまた怒りを爆発させ、海音にそれをぶつける。
だが、海音も言われ放題では無い。
「…確かにお前の言う通りだ。1人1人倒していたら被害が広まる一方だろうな。
だがな…それでもお前のやり方は間違っている。例えこの世界の人間が納得しても俺はお前を否定する!そもそもこうやって隠れないとまともに話もできない時点でお前はこの作戦を公表していないことになる。つまりお前の仲間の中には何も知らない奴もいるって事だよな。もしこの事を知ったらいったいどう思うだろうな」
「どう思う、か。まあ予想は付くが、聞こうか」
「信じていた人がまさかこんな手を使っていたなんてと思い、お前の元を離れるかもな。そのせいでランサーズの結束力にも大きなひびも入るだろうな。最も今のお前には仲間なんて必要じゃ無いだろうがな」
「仲間が必要ない?何を言って…」
「だってお前のやり方を使えば相手が勝手に同士討ちしてくれるからな。むしろ作戦が知られる恐れがある仲間なんていらないんじゃないのか?」
作戦の概要が重要機密である事の真意を読み取り、その点を問いただしていく。
だがそれに対して遊矢は、トンデモ無い事を言い放つ!
「確かに、ランサーズメンバーの大半は実力面で選んだ連中、俺も信頼し切れない部分はある、シティの一般市民は尚の事だ、故にアンドバリの指輪作戦に関して知っているのはごく一部だ、それが明るみに出た時、お前の言う通りの事が起こるだろう。
だが仲間は必要だ!どんなに強烈な能力を持っていたって、どんなに狡猾な頭を持っていたって、1人で出来る事は極限られている!第1デュエルは相手がいなきゃ成立しない!
それに何か今、俺がこの作戦の情報が明るみになるのを、それでたった1人になるのを恐れている的な事を言っていたみたいだが、別に俺は1人じゃ無い。柚子も零児も、権現坂もフォースハウンドの皆も、俺のクズ過ぎる面を知って尚、慕ってくれている。いざとなればこの重要機密を公表し、踏み絵にするのもアリだな。雨降って地固まるということわざの様に、俺のクズな一面に触れて尚慕ってくれる、そうしてランサーズの結束を揺るぎない物とする手段として、な。
お前にそんな、力的な意味でも情的な意味でも、心の底から寄り添える存在はいるのか?あぁ、いたらあんな独りよがりな、クズの自覚が無い偽善者ぶった回答が出る訳無いな、櫂もレナも、情的な意味では兎も角、アカデミアにあっさり負ける辺り、力的には信用ならなくなっちゃったしなぁ」
仲間の大切さを声高に叫んだ、かと思えば海音の問いを軽くあしらい、挙げ句に櫂やレナをも嘲笑する。
そんな遊矢の姿に、海音は一瞬、言葉に詰まったが、
「…お前の言う通りかもな…
俺は特別な力もずば抜けた能力も無いただの人間だ。更に言ってしまえば俺のいた世界では俺は1人だったし、お前の様にどれだけ残酷なことをしてもついて行ってくれる様な関係でも無い…
どうでもいいことだがデッキが2つあれば1人でデュエルはできるし…
だがな…
そんな事は関係ない!お前に言う事はただ1つ…
お前のやり方は間違ってる!例えお前に何を言われようがその事だけは変わらない!」
そう、言い放った。
その言葉に対して遊矢は笑みを浮かべ、
「へぇ、あれだけ言いたい放題言われようと、その独りよがりを、甘さを、偽善を貫く積りか。面白い!なら構えろ、デュエルだ!お前のその覚悟の程、デュエルで俺に見せろ!」
デュエルを挑むべく、デュエルディスクを構えた、が、
「だが断る!」
海音はそれを断った。
「ほぉ?何故だ?」
「何故なら例え俺が勝ったとしてもお前は自分の考えを曲げる気は無いのだろ。つまりやる意味が無い。それにこの問題はデュエル以前に人としての問題だ。何でもかんでもデュエルで解決できると思ったら大m「お前に拒否権など無い」なっ!?こいつは…どういうつもりだ!」
その理由を海音が答えたその時、遊矢のデュエルディスクからデュエルアンカーが射出され、避ける暇も無く(避けようとしたところで、背後のユベルが拘束する構えだが)右腕に絡みついてしまった。
「お前が勝ったとしても俺は自分の考えを曲げる気は無い?当然だ、そしてそれはお前も同じ、そうだろう?だが、やる意味が無い?勘違いするな、意味は大いにある。このデュエルはどっちが正しいかを決める
「はぁ…結局こうなる定めか…」
その状況にデュエルせざるを得ないと判断した海音もまたデュエルディスクを構え、
「「デュエル!」」
デュエルはスタートした。