【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~   作:不知火新夜

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Ex22話_並行世界での3回戦!4の人格を持ちし者VS5の人生を歩みし者その3、そして…

さて今の状況だが、俺のフィールドには攻撃を1回無効にするアブソリュート・ドラゴンと、バトルフェイズ中に発動されるモンスター効果を封じるメテオバースト・ドラゴン、そしてフリーチェーンでヴェーラーを打てるペルソナ・ドラゴンの3体、一方のファントムのフィールドには、起動効果で月の書を打てるマエストロークに、サンダー・ブレイクを放てるブレイクソード、そしてダーク・レクイエムに、打点要員であるサテライト・キャノン・ファルコンの4体。

ちょっと厳しくはなっているが、それでも守り切れない事は無い布陣ではある、けど…

 

「ユーリ?

…成る程、君のドラゴンならば行けるか」

 

また何かユベル達みたいな存在と話をしているみたいだな。

というかユーリ?まさか…

 

「分かった。ならば、変わるぞ!」

 

そう言うや否や、先程と同じくファントムの身が風に包まれ、その姿が一瞬にして変わる。

流石に2度目とあってそれ程驚きは無い、と思っていたが、

 

デデ(って)ゴラゲバジョ(お前かよ)!?」

 

その現れた姿に思わずグロンギ語になってしまった。

ユートから変身したその姿、それはアカデミアの幹部にして『融合次元の俺』ことユーリだったからだ。

 

「…何を言っているのか分かりませんね。デュエリストならしっかり喋ってくれませんか?」

 

…何か、コイツの顔で突っ込まれるとすげー腹立つな。

まあでも確かにそうだ、デュエルモンスターズ、というかカードゲームは互いにちゃんとコミュニケーションをとってこそ成り立つゲームだ、会話が成り立たなくては成立しない。

 

「あー、あー、よし、元に戻った。失礼しました、此方の世界の『貴方』と言うべきでしょうか、その彼が余りにもデュエリストとして屑な存在だったので、つい」

 

思わず暴言が出ちゃっている俺の脳裏に浮かぶ、こっちの世界のユーリが仕出かして来た蛮行の数々。

アカデミアを裏切ったデニスを問答無用で射殺し、キサラとのデュエル中に無理矢理な乱入を行い、洗脳した素良を使い捨ての駒の如く扱ったアイツの姿を思い浮かべるだけで、心の内から怒りが湧き上がって来る。

目前にいる存在はそれとは違うだろう(さっきもユートの姿をしたファントムが普通に接していたみたいだし)が、それでも、な。

 

「そんな奴僕とは関係ねぇよ!そっちの僕と一緒に地獄に逝け!」

 

そんな俺の言葉には流石に我慢がならなかったのか、如何にもキレてますといった様子で怒声を浴びせて来るファントム(で、良いんだよな?)。

だが残念、俺は死んだ所でまた新たなる人生を歩むのだ!ってそれこそ今は関係ないか。

 

「これが落ち着いていられますか!殺る気で行かせてもらいますよ!」

 

どうも見た感じとさっきの話からして、表に出ている人格以外はアストラル的な存在としてサポートするらしいな。

 

「僕のターン、ドロー!僕はトラップカード『エクシーズ・リボーン+』を発動!」

 

エクシーズ・リボーン+(漫画版オリジナルカード)

通常罠

自分の墓地のモンスターエクシーズ1体を選択して発動する。選択したモンスターを特殊召喚し、このカードを下に重ねてエクシーズ素材とする。エクシーズ素材となったこのカードを墓地へ送る事で、デッキからカードを2枚ドローできる。

 

またか、制限の掛かっていないモンキーボードといい、こっちの世界のカードパワーは凄まじいな。

 

「このカードをオーバーレイ・ユニットとし、墓地から『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン

エクシーズ・効果モンスター

水属性

ドラゴン族

ランク 7

攻撃力 2800

ORU 1

 

「僕はエクシーズ・リボーン+の更なる効果により、オーバーレイ・ユニットとなっているこのカードを墓地に送ることで2枚ドロー!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ORU 1→0

 

回る回る。

これでファントムの手札は4枚、さあ此処からどう動く?

 

「そして、マジックカード『融合』を発動!」

 

融合

通常魔法

1:自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

「『交響魔人マエストローク』と『ブレイクソード』を融合します!悪魔の指揮者よ。砕けし剣よ。今一つとなりてその花弁の奥の地獄から新たな脅威を生み出せ!融合召喚!現れろ、飢えた牙持つ毒龍!レベル8、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

融合・効果モンスター

闇属性

ドラゴン族

レベル 8

攻撃力 2800

 

やはりと言うべきか、この世界、というよりファントムの一人格としてのユーリもエースはコイツか。

となると次の行動は、

 

「スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの効果!このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体の攻撃力分、このカードの攻撃力をアップさせる!この効果により、アブソリュート・ドラゴンの攻撃力を喰らいます!」

 

だよなぁ、どうせダーク・レクイエムの効果で無効化されるだろうが、此処は使うしかない!

 

「それにチェーンしてペルソナ・ドラゴンの効果発動!スターヴ・ヴェノムの効果を無効にします!ダーク・レクイエムの効果は使いますか?」

「くくっ、使いませんよ」

 

ん?何か如何にも『計画通り』だと言わんばかりの表情を浮かべながらスルーしたぞ?

どういう事だ、ダーク・レクイエムの効果を使えばまずスターヴ・ヴェノムの効果でアブソリュート・ドラゴンの攻撃力を吸収、その後スターヴ・ヴェノムの更なる効果でメテオバースト・ドラゴンの効果をコピーしてしまえばアブソリュート・ドラゴンの攻撃無効効果は使えない、そのまま俺の敗北濃厚となる訳だが…

まさかプレミ?いや、ファントム程のデュエリストがそんな事をうっかりする筈が無い、あの悪どい顔にも何か理由がある筈…

 

「一見正しいように見える今の効果、けどそれは大いなる間違いですよ。マジックカード『ペンデュラム・フュージョン』!このカードはペンデュラムゾーンのカードで融合召喚を行います!」

 

ペンデュラム・フュージョン(漫画オリジナルカード)

通常魔法

1:自分のペンデュラムゾーンから、融合モンスターカードによって決められた融合素材カードを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

「…ウェ?」

 

ペンデュラムゾーンのカードで、融合?

 

「僕が融合するのは『オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン』と『モンキーボード』!猛威を振るいし猿よ、幻影の二色の眼と1つと成りて新たな力を生み出さん!融合召喚!現れろ、疾風纏いし迅雷の龍!レベル7!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン

融合・効果モンスター

風属性

ドラゴン族

レベル 7

攻撃力 2500

 

うはぁ、マジか。

これでアブソリュート・ドラゴンをバウンスすれば、打点で言えば勝てる領域。

俺がアクションマジックを使おうとボルテックス・ドラゴンの効果で無効にしてしまえば良いって事か。

というか、デッキからとか、墓地からとか、除外ゾーンからとか、魔法・罠ゾーンからとかなら見た事もあるけど、まさかのペンデュラムゾーンからか。

これもまたペンデュラムのその先『ペンデュラム融合』の1つという訳か、いやはや勉強になったよ。

 

「オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンの効果!アブソリュート・ドラゴンをバウンスします!サイクロン・フォース!」

「通しましょう!」

 

どの道、俺は詰んでいたって訳か。

 

「君は確かに強いデュエリストです。ですが、この世界で戦い抜くにはカードパワーが余りにも足りない。ダークシンクロ、カオスエクシーズ…それだけではありません。この世界のカードパワーは果てが見えない程に高い。もし君のデッキの基準がこの世界の基準であるならば、勝負は分からなかったかもしれませんね」

 

カードパワーが足りない、か。

確かにこの世界のカードパワーは無茶苦茶にも程がある。

大輔も使っていた『エクシーズ・トレジャー』、ホープとの相性が抜群過ぎる『セブンストア』、永続魔法版ハイパー・ライブラリアンこと『天輪鐘楼』、そして戦闘破壊耐性が健在のNo.を始めとした効果の変わったカード達…

俺の世界では考えられない位のパワーカードが、この世界には溢れている、ぶっちゃけ今の俺の、この世界での立場は、シンクロ次元においてトップスに真っ向勝負を挑もうとしているコモンズ辺りだろうか。

まあそう言うとコモンズの面々をディスっている様に聞こえるが、それでも現状を表現するにはこれしかないだろう。

が、

 

「いえ、カードパワーの差、引いては戦略(デッキ)の力はデュエルの一要素に過ぎません。例えカードが、デッキが強くとも、それを手足の様に使いこなす戦術(プレイング)と、それを思い通りに実現させる時の運(ドロー)、それらを兼ね備えなくては勝利の女神は微笑まない。逆に言えば、ある程度の戦略の差も、戦術や時の運でひっくり返せるという事です。貴方のデュエルタクティクスは、そのカードパワーの差を抜きにしても素晴らしい!改めて俺は、人を見かけで判断してはいけないと思い知らされました。先程は失礼な真似をして、申し訳ありませんでした」

 

カードパワーの大小だけで勝負が決まるなら、トップスの面々は永遠にトップスであり続け、コモンズの面々は一生コモンズで燻ったままだろう、だがそうはなっていない。

『遊戯王5D’sの世界』から転生して来たジャックとクロウ、鬼柳は例外として、シュドナイさんにシンジ、ソラトにティリエル、月行に夜行、ユーゴに徳松さん…

コモンズから這い上がり、今やシティにおいて一定の地位を築いた人達を俺は知っている。

第一、そんなデュエルモンスターズはつまらないだろう?カードパワー的に大きく劣る方が勝る方を破る、いわば『ジャイアントキリング』もありえるからこそこのカードゲームは面白く、此処まで発展して来たんだ。

 

「ふっ、分かってくれたなら結構です。僕は外道畜生と同じ扱いをされるのが最も嫌いなんですよ。

…さて、バトルフェイズに入りますよ!」

「どうぞ。此処で発動するカードはありません」

「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴンでオッドアイズ・メテオバースト・ドラゴンに攻撃!凍結のエターナル・コフィン!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力 2800 VS オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 守備力 2000

 

この、メテオバースト・ドラゴンが健在の中でアクションマジックを使いたいのは山々なんだが(今ならボルテックス・ドラゴンによって無効化されないという意味で)、俺が持っているアクションマジックは、さっきブレイクソードの効果による自壊を妨害したのと同じ『ミラー・バリア』。

戦闘破壊やバウンスまでは防ぐ事が出来ず、新たにアクションカードをゲットする事も出来ないので、眼の前でメテオバースト・ドラゴンが氷漬けになるのを見ているしか無かった。

 

「続け、オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン!オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンを攻撃!迅雷のボルテックス・スパイラル!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力 2500 VS オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン 守備力 2400

 

これで俺のフィールドは丸裸になった。

 

「3体のモンスターでダイレクトアタック!世界を越えた戦いへと終止符を打て、次元のジェネシス・クライシス!」

「ウボァー!」

 

Yushi LP 800→-2000→-5000→-8000 LOSE

 

WINNER Phantom

 

いやぁ、負けた負けた。

LPの差は1000とは言え、正直その結果は『完敗』この一言に尽きる、この完敗は元の世界での零児とのデュエル以来じゃないか?

だけど同時に、最っ高に楽しかった!今回はさっきの零児とのデュエルとは違い、No.の所有権を賭けて等の枷が無かった故に、その楽しさもひとしおといった感じだ。

此処までのデュエルを繰り広げられる相手がまだまだいるとはな、世界は広いぜ。

 

「ファントム!今回、負けはしましたが、ガッチャ!実に楽しいデュエルでした!」

「ええ、僕も「俺達もだよ」」

 

そんなデュエルの相手をしてくれたファントムに、十代の頃から使っていた『ガッチャ』のポーズで礼を言うと、その返礼を言おうとして、その今の時点で表に出ているユーリの姿から、遊矢の姿へと変わった。

あれ、ところでファントムは色々と可笑しな部分はあるけど、一応は四重人格で、今の様に表に出ている人格の姿とデッキになるんだよな。

今回のデュエルで出て来たのは遊矢とユート、そしてユーリ。

俺の世界における4つの次元、そこに其々1人存在する『俺』と同じ法則ならば、残りの1人はユーゴかな?

となるとユーゴの力を『シンクロ次元の力』を使わせる事無く負けたって事か、やっぱファントムは強いな、ほんと「遊士!?だ、大丈夫!?左腕ケガしていない!?」うぉっと。

 

「柚子、心配になるのは分かるけどさ、大したことないよ。骨に響いた訳じゃ無いし」

「ダメよ遊士、そんな甘い考えをしちゃ!さっきだって吹っ飛ばされた時に強打したんだし、骨まで行かなくても打撲になったりしたら大変なのよ!」

 

そんなデュエルの余韻に浸っていた俺に、如何にも慌てているといった感じで寄って来たのは、半泣き状態の柚子だった。

 

「柚子。少し落ち着いてくれ」

「ひゃっ!?ゆ、遊士…?」

「心配な気持ちはしっかり伝わった。けどさ、本当に大丈夫だから泣かないでくれ。俺の方が心配になる」

「遊士…うん、分かった…でも、念の為に医務室にはちゃんと行ってね?」

「ああ。という事で零児、もう一回、医務室の方に連絡お願いします」

「ああ、直ぐに連絡しよう」

 

そんな慌てふためく柚子を宥めるべく、俺は柚子を抱き寄せる。

本当に心配性だな、まあ其処も可愛いし好きなんだけど。

たく、こんな可愛い女の子をストロングだとか言いやがって、遊矢マジで許さん。

 

「さて、直ぐに医療チームも来るだろう。それまで、この映像を見て欲しい」

 

とりあえず柚子を宥める為に、零児に医務室への連絡をお願いした。

その後、零児のデュエルディスクから1つの映像を見せられたんだが、

 

「No.に詳しい君にこのデュエルを見ての意見が聞きたい」

「こ、これは…!」

 

其処に映されていたのは、とある広場にて行われていた、遊矢とファントムのタッグと、ユートとユーゴのタッグによるタッグデュエルだったが、それは壮絶以外の何物でも無かった。

ダークシンクロモンスターとなった『氷結のフィッツジェラルド』が君臨したかと思えば、ダーク・レクイエムがバリアンズ・フォースによってカオスエクシーズ・チェンジしたカオス・キマイラ・ドラゴンが君臨する、そして互いが繰り出すカードの攻撃によるダメージが、リアルソリッドビジョンによるそれの比じゃ無い位に強大で、1回1回の攻撃が遊矢達を傷つけて行く。

そう、それはまるで…

 

「闇の、デュエル…!

予想はしていましたけど、本当にこの世界にもあったなんて…!」

「やはり知っていたか。

…これはつい先日の映像だ。

何かに取り憑かれたかのように暴走したユートとユーゴ、彼等はこのデュエルのことを互いの命を賭けた闇のデュエルだと言っていた」

 

闇のデュエル。

何らかのダメージが現実の物としてデュエリストに襲い掛かり、敗北者の命を奪う、或いは精神的に廃人になる等の厳しい罰が下る、デュエルモンスターズのあるべき姿とはかけ離れたデュエル。

厳密なそれという意味では十代だった頃以来だが、遊星の頃に遊戯さんと前世の自分と共にイリアステルの幹部であるパラドックスと戦ったデュエルや、No.所有者とのデュエルも一応はそれに当たるだろう。

だが厳密な意味でのそれを実行するには千年アイテム、或いはそれに準じた力を持つアイテムが必要な筈、No.やダークシンクロモンスター化したフィッツジェラルドがその力を持ち、ユートとユーゴにその力をもたらしたとなると…!

 

「アレは遊矢のことを『我らの一人』とか『欠片』、俺のことを影と呼んでたよ。それが何かのヒントにならないかな?」

 

ユートとユーゴに取り憑いた存在が遊矢を『我らの一人』と呼んでいた、か…

ん?待てよ?

 

「そう言えば俺も、元いた世界のユートやユーゴとデュエルした時、何かしら共鳴の様な現象を体験したんです。俺が持っていたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、ユートが持っていたダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、そしてユーゴが持っていたクリアウィング・シンクロ・ドラゴン…

それらが互いのドラゴンに反応するかの様な力を感じたんです。まあデュエルではエクストラデッキから直接墓地に投げ捨てて出させない様にしたり、召喚を無効破壊したりして捻じ伏せはしましたが、もしかしたらこの世界のそれらも、ひょっとしたらこの世界のスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンも、得体の知れぬ力を秘めているのやも知れません、召喚方法の名を冠しているんですし。闇のデュエルを行う力を所有者に与えたり、所有者の意識を乗っ取って自分の意思で闇のデュエルを執り行えたり…

『欠片』と称している遊矢達が、そして彼らが持っているそれらドラゴンのカードが集まった事でそれらが力を取り戻した様子も考慮すると、元は強烈な力を持ちし1体のドラゴン、及びその使役者だったとか…?

ファントムを影と称したのは、その構成になりそうでなりえない『ダミー』という意味かも知れません」

「…成る程、参考になった。召喚法の竜が元は強烈な力を持った1体のドラゴンか」

 

もしかしたら、俺の『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』も、その『欠片』が集まった事で出来たのやも知れないな。

その俺の推測に何処か納得した様子の零児、一方のファントムはぽつりと、

 

「…G(ジェネシス)O(オメガ)D(ドラゴン)、あのカードなら、もしかしたら…」

 

と、呟いていた。

G・O・D?遊矢達の件と何か関係があるのだろうか?

 

「社長!」

「…どうやら来た様だな」

 

と、ファントムの様子が気になっていると、どうやら医療チームが来た様だ。

まあこの件を深堀した所で、平行世界の存在である俺が出来る事は殆ど無いな。

 

------------

 

「ほら、大丈夫だっただろ?検査の結果、何かしらの異常は無いってさ。アイシングもして貰ったし、直ぐに治るさ」

「で、でも、本当に心配だったんだからね?何時も言っているけど、無理はしないで、ね?」

「善処はするよ。さて、座標のサーチも出来たし、そろそろ潮時かな。皆さん、今日は色々とお世話になりました」

 

LDSの医療チームによる検査を受けつつ、デュエルディスクによるサーチが完了した俺、そろそろこの世界ともお別れの時間となり、見送りに来てくれた面々にお礼の言葉を送った。

 

「ああ。君とのデュエルは有意義だった」

「また来てね。

…そう簡単に来れるとは思ってないけどさ」

「まあ、俺も向こうの世界で結構忙しくてさ。そうそう遊矢、最後に1つ、平行世界の俺に向けてアドバイスを送る。ちょっと来てくれ」

「…ん?なんだ?」

 

その折、さっきのデュエルでローカスト・キングのカードとしての強さに複雑な想いを抱いていた遊矢に、お節介ながらアドバイスを送る事にした。

 

「さっきのデュエルで柚子が俺を「完全決闘者として知られていた」と言っていただろ?このデッキは、その異名の由来となった『完全決闘(パーフェクト・デュエル)』デッキなんだが…

これを見てくれ、コイツをどう思う?」

 

そう言いながら、ジャケットに忍ばせていた完全決闘デッキを広げる。

自らは特殊召喚効果を持ちながら自分がいる間は一切の特殊召喚を禁じる『大天使クリスティア』、手札の天使族モンスター1体をコストに『神罰』をぶち込む儀式モンスター『神光の宣告者(パーフェクト・デクレアラー)』、そして除外を許さない『王宮の鉄壁』、この3種の神器で相手の行動を一切封じ込める完全決闘デッキ。

他のカードも、各種『宣告者』モンスターをフルに積み込んだ他、儀式サポートの決定版である『センジュ・ゴッド』『マンジュ・ゴッド』も完備、戦闘破壊して来る奴用の『オネスト』も継ぎ込み、念の為のカウンター罠も何枚か入れている。

エクストラデッキにも、墓地送りを条件に『サンダー・ブレイク』を放つ『旧神ヌトス』、同じ条件でマンジュ・ゴッド同等の効果が使える『虹光の宣告者(アーク・デクレアラー)』の他、各種天使族モンスターをフルに積み、それらを墓地へ送る為の『轟雷帝ザボルグ』と、そのリリースを確保する『フォトン・サンクチュアリ』もピンで挿している。

このデッキを構築して以来、これを使った俺に勝利したのは柚子とエレンしかいない、そのどちらも幾度の敗北を経て『天空の聖域』を張った状態での『神罰』連打、という突破法を編み出した結果だ。

他にもメインフェイズ限定ながら神光の宣告者を封じ込められる『コアキメイル・デビル』を召喚しつつ除去手段を打ち込む等の突破法も無くは無いが、かなり限られてくるし、そのどれも専用の構築で無ければならない。

まあこの世界のカードプールなら他にも突破する術がありそうだが…

 

「うわっ、エグいなぁ。俺じゃ『セメタリー・チェンジ』くらいしか突破手段が思い付かない」

 

セメタリー・チェンジ(アニメオリジナルカード)

通常魔法

1000ポイントのライフを払い、フィールド上のモンスターを全て破壊して発動する。自分と相手の墓地のカードを全て入れ替える。

 

本当にあったんかい、と、本題は其処じゃ無いな。

 

「ああ、余りにもエグくて、余りにも強すぎる。エンタメデュエルという概念に向かって思いっきり塩をぶん投げる様なデッキだ。

 

 

 

だがな、このデッキも、これを使ったデュエルも、突き詰めればエンタメデュエルになりえるんだ」

「ファッ!?

…それってまさか処刑ショー的な意味じゃないよな?」

 

ま、まあそう捉えられてもおかしくはないな。

相手を完膚なきまでに叩き潰す、そんなデュエルに心踊らせる人だっていなくは無いのは確かだ。

が、

 

「んな訳あるか。今お前が言った様に、この『完全決闘』と名付けちゃう程の完璧に見える布陣を作れるこのデッキにも、突破する手段はある。

 

そして、想像してみろ。この完璧に見える布陣が構築され、手も足も出なくなってしまう自分。そんな一方的なデュエルに恐れおののき、或いはそのつまらなさに白け、或いは怒りのままにブーイングを浴びせる観客。

 

だがそんな停滞した状況をひっくり返せる逆転の一手を引き当て、相手の妨害を潜り抜けてそれを実行し、完璧に見えた布陣は崩壊…

 

その時、それを成し遂げた奴は、その瞬間を見届けた観客は、その余りにも鮮やかな逆転劇に魅了され、心は楽しさに満ち溢れ、笑顔満開になるに違いない!そうだろ!?」

 

実際、これを成し遂げた柚子とのデュエルの盛り上がりといったら凄かった、もう途中から映画『アルマゲドン』の主題歌である『ミス・ア・シング』が幻聴で聞こえて来る位に。

その逆転劇が余りにも鮮やかだった為、遊勝塾で一時期『天空の聖域』と『神罰』のセットが流行しかけたのは以前話したな。

と、余りにも熱中して口調が強くなったが、どうも遊矢の表情は複雑そうだな。

 

「それは、逆転出来る相手がいてこそ成り立つエンタメだ。確かに逆転する手段は有るかもしれない。

…けど、その手段が無いデッキの方が圧倒的に多い。俺は相手の墓地を使って展開を決める、そんな『未知』の戦術で盛り上げる為にこの『セメタリー・チェンジ』を入れている。このカードはコストとしてフィールドのモンスターを全滅させるからその布陣を破ることが出来る。

…けど、そんな戦術をデッキに組み込んでいるデュエリストはそうそういない」

 

まあな、無茶苦茶強すぎるコストと引き換えに、自分のデッキとはかけ離れた墓地ソースを提供されるかもしれない効果。

今日のデュエルモンスターズでは『墓地は第2の手札』と言われている中、それを相手に明け渡すこの効果は、はっきり言って自分のデッキに対する裏切り行為。

効果とコストが逆転してんじゃね?と突っ込みたくなる程お得なコストの為にこのカードを積むとなれば、自分のデッキを信用していないと言っているのと同じだ。

だが遊矢はそれでも、むしろ相手の墓地ソースという『未知』をエンタメデュエルの要素とする為にこれを積んでいる、コストの為では無く(まあペンデュラムモンスターが中心というデッキ構成もあるだろうが)。

 

「まあ、今言ったのは極端な例だし、大抵つまらないまま終わるのはお前の言った通りだ。分かっている様だから釈迦に説法って奴だが、俺が言いたいのは『エンタメデュエルに型など無い』。どう相手を、観客を魅了させ、楽しませ、笑顔にさせるか、それを突き詰めれば自然とどんなデッキで臨むべきか、どう動くべきかが見えて来る。それが言いたかっただけだ」

 

ローカスト・キングも、例えば『完全決闘』程では無いにしても自らをヒールに見立てたアプローチとして有りだ。

モンスター効果をフィールドにいる間無効にする、つまり除去をモンスター効果に頼った構築ならばほぼ完全に詰みはするが、逆に言えば魔法・罠カードが除去の中心であれば容易に突破出来るという事だ。

無論使い手はそれを読んで魔法・罠カードを無効にするカードを積むだろう、その差し合いもまた観客を魅了する要素になると思う。

 

「…言いたいことは、よく分かったよ」

「そうか。ああ、それから、」

「それから?」

 

そう言いつつ、瞬時に遊矢のこめかみに俺の両拳を当ててホールドする。

そして、

 

「お前さっき柚子の事なんつった!?俺の彼女がストロングだとォ!?」

「ぎゃ、ぎゃぁぁぁ!?」

 

怒りに満ちた声を上げつつ、両拳を押し回すッ!

所謂『ぐりぐり』である。

 

「す、ストロ…ぎぃぃ…ングカップ…ぐぅぅぅっ!?」

「何ちゃっかりセクハラ発言してんだお前は!後ストロングじゃなくてスーパーキュートだろォが!」

 

まだ言うかこいつァ!

 

「ル…ぐふっ…」

「落ちてる、遊矢落ちてるから…」

「ゑ?」

 

そんな最中に掛かって来たファントムの声に我に返り、目前の遊矢を見ていると其処には、目を回して気絶している遊矢の姿があった。

 

「え、えーと…

はっはっは、やっちゃったZE☆(スパァン!)あふん」

「ごまかさないの!幾ら私の事だと言っても、やり過ぎ!」

 

その惨状にどっかの惚気の余り誤植を連発しちゃった編集者っぽくごまかそうとしたが、勿論柚子からハリセンツッコミを貰っちゃったZE。

 

「ま、まあともかく、この辺で帰りますね。後で遊矢には「やり過ぎちゃってごめん」と伝えておいて下さい」

「いや、伝えないよ」

「ウェ?」

「またこの世界に来た時、君自身の口から伝えなよ」

 

それもそうか、こういう謝罪は面と向かって言うべきだし、何よりまたこの世界に来る理由にもなる。

 

「分かりました。では、また会いましょう!」

「また来ます!その時までさようなら!」

「また、会おう」

「またね。楽しい時間だったよ」

 

そう言い残し、俺達は転送装置を起動させた…

 

------------

 

Side 柚子

 

何とか無事、元の世界のシンクロ次元へと帰って来た私と遊士、じゃなかった、遊矢。

私達が平行世界へと飛ばされる様を見ていた一行達にはかなり心配を掛けちゃったみたいで、帰還した私達の姿を見て安堵という意味での喜びや泣き等の多様な表情を見せた皆に、一先ずは謝って置いた。

まあ事故とは言え、一時的に行方を晦ませちゃったからね。

そんな一騒動も落ち着いた中、私は遊矢に1つ、気になった事を聞いてみた。

 

「遊矢、ちょっと良い?」

「ん?どうしたんだ、柚子?」

「帰る間際、向こうの世界の遊矢にアドバイスを送っていたでしょ?何でまた急に?」

 

向こうの世界の遊矢は、遊矢と比べてデュエリストとしての腕前はまだまだ未熟ではあったけど、それでもエンタメデュエルの極意はちゃんと理解していた。

途中で遊矢が気付いた様に、あのアドバイスは釈迦に説法だったと思う。

 

「どうも、色々と模索しながらも前を進もうとしている遊矢の姿を見ていると、昔の自分を思い出すようでさ、放って置けなかった、とでも言えば良いかな…?」

 

そんな私の問い掛けに答える遊矢は、何か遠い目をしているというか、何処か寂しそうだった…




これにて、GMSさんの『遊戯王ARC-V 二人の榊遊矢』とのコラボは終了となります!
GMSさん、コラボして頂きありがとうございました!

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