【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~   作:不知火新夜

106 / 168
今回はデュエル無し&短めです。


92話_作戦の意義

「素良と離れ離れになってからもう数週間か。意外と長かったな…」

 

キサラとのデュエルに乱入して来たユーリとのデュエルが終わり、そのユーリに、洗脳を施された形で付き従っていた素良を連れ出した俺は、その折に俺が放った威圧感にあてられて気絶した素良をおんぶした状態で、本部への道を進んでいた。

アカデミアに反旗を翻したデニスの末路を見ていただけに、あの時アカデミアへの敵意を明確にした素良もまた、という考えがあり、ずっと素良は既にいなくなってしまったものとして動いていたから、こうしてまた会えたのは本当に嬉しい。

まあアカデミアによって洗脳された状態という物ではあったが、それに関してどうこう言う資格は、俺には、この防衛戦で『アンドバリの指輪』作戦を実行させた俺には無い。

このシンクロ次元に来てから、まずはセキュリティの長官であるロジェに対して俺自ら洗脳を施し、その紹介で知り合ったセルゲイを、洗脳を施せる素体に組み換え、今回の防衛戦においてデュエル戦士を次々と洗脳させたのだ、向こうもまた誰かしら洗脳を施すだろうという考えは持っていたし、それが俺にとっての弟子である素良だからって、その行為を非難するのは虫が良すぎる。

これは俺達ランサーズとアカデミア、互いの理念とか野望とかを賭けた文字通りやるかやられるかの『戦争』、俺達がどう思っていようと向こうはそのつもりで臨んで来るんだ、だったら俺達もそれに断固たる姿勢で臨むのが当然だ。

 

無論デュエリストとして、デュエルを戦争の、破壊と殺戮の道具としてしか思っていない奴を、そしてそれを面白半分に繰り出す奴等を許容出来る訳が無い。

あの時俺がブチ切れてゼアルチェンジしたのは、そんな想いを頑なに否定する、自らの野望の為に否定し続けるアカデミアの、引いてはそのトップである赤馬零王の振る舞いを目の当たりにした事で湧き上がった怒りからだ。

3年くらい前に赤馬零王が俺達の次元から融合次元へと渡り、アカデミアのトップとなってから引き起こされた各次元への侵略、その中でデニスや素良の様な赤馬零王の野望に疑問を覚えるデュエル戦士、キサラの様な野望に賛同しつつもデュエリストとしての誇りを忘れぬデュエル戦士も少なからずいた筈だ。

中にはアカデミアの、赤馬零王の方針に疑問を呈した存在だっていたかも知れない、が、それが聞き入れられなかったのは、今尚侵略に突き進む現状から明らかだ。

そしてそんな考えの持ち主、いわばアカデミアにおける『危険分子』は、例えばデニスの様に問答無用で射殺され、例えば素良の様に洗脳を施され、従順なデュエル戦士に作り替えられていったのだろう。

 

赤馬零王、貴様は何故、下らない野望の為に、アカデミアで其処までの事をするのだ…!

何故、己のやっている事が理に反している事に、余りにも馬鹿げているという事に気付かないのだ…!

そして大多数のデュエル戦士は何故、その野望が間違った物だと気付かない…!

何故デュエルの楽しさに、神聖さに気付かない…!

この、『真の愛国者』の意志をはき違えた『小僧(トム)』とその腰巾着め…!

 

------------

 

「ゆ、遊矢!?そのおぶっているのは、まさか、素良…!?」

「どうしたのだ、柚子?む、遊矢、まさかそ奴は、素良か…!?」

「何だってェ!?素良が、生きていたって…!?」

「本当なのか、遊矢!?素良は、生きていたのか…!?」

 

素良をおぶった状態で本部へと帰還した俺を出迎えたのは、柚子達ARC-Vメンバー、そう、素良との遊勝塾での日々を共にした面々の、驚きと喜びに満ちた声だった。

 

「ああ。この侵攻に、アカデミア側で参加していた様だ。洗脳を施されて、な」

「っ!そォか、俺達が言えた話じゃねェが、ひでェ事しやがる…!」

「素良が、何をしたと言うのだ…!

素良は身を呈して、アカデミアの方針に異を唱えただけではないか、それを…!」

「素良に、素良に何の落ち度があったと言うの!?ただ異議を唱えただけでこんな事をするなんて、独裁政治じゃない!」

「ふざけんな、アカデミア…!

お前らがしたい事は、こんな事を平気で出来る位大事な事なのか…!」

 

そんな皆に返した俺の返事、それに対する皆の反応は、やはりアカデミアへの憤りに満ちていた。

ただまあ俺の予想通りと言って良いか、洗脳行為自体に対する非難は抑え目だった。

 

俺が発案した『アンドバリの指輪』作戦、この実態を知っているのは俺と零児、そしてARC-Vメンバーだけだ。

当初この作戦を皆に、事前に相談した時、皆からの反応は賛否両論、いや否の意見が優勢だった、まあ当然だろう。

曰く「敵を強引に操って同士討ちを引き起こさせる等、言語道断!」「これじゃァアカデミアがやっている事と本質的に変わらねェじゃねェか!」「幾らアカデミアが外道極まりない敵だからって、何をしても許されると言うのか!」等々…

発案した俺ですら身震いした位に凶悪極まりないこの作戦、こういった意見が出るのは明らかだった。

 

「俺だって、この作戦が余りにも凶悪極まりない事、正しくない事位は分かっている。この作戦が明るみに出た時、俺の、俺達ランサーズの信頼は地に落ちると言っても過言じゃ無い。

 

じゃあ正しい作戦って何だ?一体どんな作戦が最善なんだ?

デュエルによる真っ向勝負で無力化する事か?アカデミアの野望が間違っている事を、俺達の理念が素晴らしい事を語り、説得する事か?

 

それでこの次元の人々に多大な犠牲が出ようとも、この次元の建物が破壊されつくそうとも、

この次元がエクシーズ次元の二の舞になってしまおうと、それが正しい作戦、最善の手と言えるのか!?」

 

それに対する俺の反論、それには流石に皆黙りこくってしまったが。

戦争と言うのはその時その時で一番良い手がコロコロと変化する物、時として非道な、外道な手段こそが最高の手と化す事もある。

今回はアンドバリの指輪作戦こそが、最高な手だったんだ。

 

実際それは戦況からも見て取れる。

開戦当初の俺達の陣営は、ランサーズメンバーが25人とデュエルチェイサーが数百人、一方でアカデミアは一個旅団(少なくとも2000位)程の戦力だったという報告が上がっている。

普通に考えれば桁違いにも程がある戦力差、幾ら精鋭揃いのランサーズを擁していようと此方の被害も甚大になるのは避けられなかった筈だった。

だが蓋を開ければ各地でデュエル戦士による同士討ちが多発、此方は難なく敵の無力化を進める事が出来、此方の被害は0、一方のアカデミア側は大半がカード化(洗脳されたデュエル戦士及びソイツとデュエルする羽目になったデュエル戦士の物らしい)されるか捕虜として此方に捕まるかという結果になった。

それにこの勝利は単にアカデミアの戦力を大きく削いだだけでは無い。

カードカテゴリを統一したデッキによって融合素材を分け合い、連携して各個撃破を遂げる、そんな集団戦法を主に用いて来たアカデミア、その強みであった筈の連携体制がまさかの同士討ちによって瓦解したのだ、戦略の立て直しに四苦八苦するのは想像に難くない。

そしてその立て直している真っ最中な時こそ、隙が大いに生まれる物、其処を突けば更なる戦果も期待できよう。

 

アンドバリの指輪作戦は確かに正しいとは言えない、というか間違っていると断言できるだろう、だがそれによって守れた存在は、果たした意義は途轍もなく大きいんだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。