【完結】遊戯王ARC-V~遊の力を矢に束ね~   作:不知火新夜

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注:今話では遊矢がかなりゲスいです(今に始まった事ではありませんが)。


89話_アンドバリの指輪

「申し上げます!各交戦地点でデュエル戦士が次々と謀反を引き起こしております!」

「各地で反旗を翻したデュエル戦士達が、近くにいるデュエル戦士達を次々と襲撃している模様!」

「ユーリ様、謀反人共の勢いは留まる事を知りません!各地で大混乱が発生しております!」

 

シティ郊外に設けられた、アカデミアの侵攻作戦本部。

ランサーズに加入する形でシンクロ次元に潜入している柚子とセレナを確保すべく派遣された部隊の本拠たるこの場所で、前線でのピンチを知らせる連絡が次々と、指揮官である『融合次元の遊矢』ユーリに報告された。

ペンデュラム召喚の発見等で最近その脅威を増してきているスタンダード次元でアカデミアの侵略に対抗すべく結成された私兵部隊『ランサーズ』と、弱肉強食の文化が良くも悪くも根付いているシンクロ次元の精鋭部隊『デュエルチェイサー』の存在はあれど、百戦錬磨のデュエル戦士を数百、数千と抱えたアカデミア、その組織的な進撃を以てすれば楽勝だと、当初は誰もがそう思っていた。

『古代の機械』カテゴリデッキに統一する事で、味方同士で融合素材を融通し合う事で融合モンスターを並べつつ、攻撃時に特定のカードの発動・効果を封じる事で抵抗を許さない、そんなチームワークを重視した数の暴力で各個撃破をしていけば勝てない相手はいないと、誰もが信じて疑わなかった。

だが蓋を開ければどうだ、開戦早々に前線でそのチームワークを揺るがしかねない事態が、数の暴力が逆の意味で成されそうな事態が、立て続けに報告されている。

そんな状況にユーリは、不機嫌だと言わんばかりの表情を隠さない。

 

「榊遊矢、そうだ、アイツだ…!」

 

その脳裏には、今回と同じ様な任務でスタンダード次元に降り立った際に同行していたデニスが突如殺害され、その場で遭遇して問答無用でデュエルを挑まれ、アカデミアにて封印されていた筈の『三幻魔』を駆使した先攻1キル、しかもアクショントラップなるカードを駆使したルール破りによるそれを行った、『スタンダード次元の自分』遊矢の存在が過っていた。

ペンデュラム召喚を最初に実行したとか、『ランサーズ最高指揮官』としてその設立に関与したとか、とにかく色々とアカデミア内で噂になっている遊矢、だが何よりユーリにとっては、アカデミアでもトップクラスの実力を誇る自分が文字通り何もさせて貰えず、尻尾撒いて逃げるしか無かった屈辱を受けた存在として、任務だとか仕事だとかの前に誰よりも潰すべき存在と化していた。

そんな遊矢がまたしても自分の、アカデミアの脅威として立ちはだかっているという事実に、その機嫌は急降下して行った。

 

「榊遊矢、君は何処まで僕を邪魔する気なのかな…!

其処までやると言うなら、僕にも、いや僕達にも考えがあるよ…!」

 

そんな中、そう呟くユーリの側に、1人のデュエリストが転送されて来た。

 

「待っていたよ。じゃあ行こうか、素良(・・)

「かしこまりました、ユーリ様…」

 

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さて、その報告で挙げられたデュエル戦士の謀反は、どの様に繰り広げられるか。

 

「う、うぅ、が、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「さあ仕事の時間だ。俺の期待を裏切ったんだ、その落とし前は身体で払って貰うぞ…!」

 

先程のデュエルで勝利を手にした、アモルファージ使いの大男、セルゲイ・ヴォルコフが指先から伸ばした『何か』をデュエル戦士の首筋に突き当てたその瞬間、デュエル戦士は苦悶の声を上げるもセルゲイはそれを意に介す事無く、作業を進めて行く。

そして、

 

「あ、あぁぁ…」

「さあ行って来い。敵はアカデミアだ」

「はっ!さあ行くぞ!」

『了解!』

 

従う筈も無い命令を下して来たセルゲイに、先程まで敵対していた筈のセルゲイに対して何の疑問も抱く事無く従い、全隊が1つの方向、アカデミアの本拠地点がある方向へと向かって行く。

まさかの事態を引き起こしたであろうセルゲイ、その指先、正確には指と爪の間からは触手の様な物が伸びていた。

 

「便利で、尚且つ美しい物だ。この『合成生体仕様素体』だったか、俺の新しい身体は。こんな物を思い付き、瞬く間に作り上げた榊遊矢…

エンタメデュエリストを称するだけはある『魅せる』デュエルスタイル、『世界はありのままで良い』を掲げる優しさに満ちた精神、だが一方でこの身体を作り上げる無茶苦茶な発想、障害を潰す為にあらゆる手段を尽くすその凶悪な戦略眼、実に歪で、それでも尚、格別に美しい…!

榊遊矢、お前の側に居れば、俺は最高の『美しさ』を味わえるだろう!」

 

その触手を引っ込めつつ、セルゲイは狂った様な笑みを浮かべながら、新たなる標的が待っている前線へと向かって行く。

 

------------

 

セルゲイが遊矢と出会ったのはほんの数日前の事、自らを管理下に置いていたロジェに連れられた遊矢との顔合わせの場だった。

その場でロジェが、遊矢がシティの創世主である不動遊星の生まれ変わりである事、デュエルアカデミアなる組織が企てている別次元への侵攻を阻止する為にスタンダード次元にて結成された私兵部隊『ランサーズ』の最高指揮官である事、そして今、ロジェに代わって自らを管理する存在となった事を説明していたが、当のセルゲイは全く聞く耳を持っていなかった。

その時のセルゲイは、髪色こそ奇抜極まりないが『美少年』という概念を徹底的に具現化したと言って良い端正な顔立ちに秘められた、遊矢の美しき精神を一目で見抜き、心を奪われていたのだ。

 

「彼を抑え込んでいる制御装置を全て外しておくように。これでは宝の持ち腐れだ」

「遊星様、宜しいのですか?コイツはあの『デュエリストキラー』、数十ものデュエリストを再起不能に追い込んだ凶暴な犯罪者ですよ?」

「仮にそうなっても私が鎮圧する。それよりも彼の実力を殆ど発揮出来ない事態が問題だ。

 

無理矢理抑え込み、強引に動作させるのではない、彼が実力を発揮しやすい様、此方の思いの通りに動いてくれる様、お膳立てする事こそ最優の制御だ。その為の、素体の設計案を出しておく。彼の身体を、これに換えて置くように。厳しそうなら、私も開発に加わる」

「は、ははっ!」

 

そんな遊矢と研究員のやり取りも、セルゲイの耳には入っていなかった。

 

------------

 

こうした経緯で開発された、全身サイボーグであるセルゲイの新しい身体『合成生体仕様素体』、所謂一般的なサイボーグのイメージとは違い、その見た目は人間とほぼ変わらないが、その全身には細胞型生体ナノマシンが組み込まれており、常人を逸した身体能力と感覚等々を、セルゲイ本人の意志で適時発揮する事が出来る(分かりやすい例で言えば、メタルギアライジングのラスボスであるスティーブン・アームストロング)。

更にそのナノマシンを増殖、爪の間から触手の様な物として射出し、生物に突きたてる事でナノマシンを感染させ、血液を循環する中で骨格や内蔵、脳神経にまで侵食し、セルゲイの、引いてはその管理者である遊矢の思いのままに動かす事まで出来る様になる。

現在各地で発生しているデュエル戦士の謀反、それはセルゲイが前線のデュエル戦士にナノマシンを感染させた他、スタンダード次元において捕えたデュエル戦士達をもナノマシンを感染させ、前線に送り込んだ結果、遊矢が立案した『アンドバリの指輪』作戦の結果なのだ。

 

「ついさっきまで味方であった隣のデュエル戦士が、ふとした瞬間に容赦なく自分に刃を振るう。これがアカデミアにとって、チームワークを重視するデュエル戦士達にとって余りにも強烈な打撃となるだろう。その士気や戦力は大幅に弱体化するに違いない。そんな中でアカデミアの方針に疑問を呈し、自らの意志で離反するデュエル戦士も少なからず出る筈だ。これまではエクシーズ次元とかで好き勝手してくれた様だが、これからはずっと俺の、俺達『ランサーズ』のターンだ…!」

 

そんな、自分の思い通りの展開となっている状況に、遊矢は邪悪な笑みを隠す事無く声を上げる。

その様子からは、エンタメデュエリストとして知られる彼の姿は何処にも、

 

「カード手裏剣か、この世界にも使い手がいたとはな…」

 

と、そんな彼を狙って何処からともなく飛んで来た、1枚のカード。

それを事前に察知し、飛来する様を見る事無くキャッチした遊矢は、何気なくそれを見た。

カードフレームは白、イラストも効果テキストも、というかアイコンもカード名すらも無い、所謂『ブランク』カード、だがその効果テキスト欄に、何やらメッセージらしき物が書かれていた。

 

「お、メッセージが書かれているな。何々…

『東広場にて待つ。勇気があるなら来るが良い。K』か、これはまたベタな挑発だな…」

 

------------

 

「榊遊矢、でありますか?まさか本当に来るとは思わなかったであります」

「ああ。そう言うって事はアンタか、この果たし状をぶん投げて来たのは」

「ええ、そうであります」

 

遊矢の下へ、メッセージが書かれたカード手裏剣が飛来してから僅か数分の事、遊矢はそのメッセージに従って東広場に到着、其処にはアカデミアのデュエリスト、キサラが待ち受けていた。

 

「罠の可能性や、最高指揮官として本部を空ける事のリスクは考えなかったのでありますか?」

「考えたが、ああもあからさま過ぎて、却ってそれは無いと判断した、仮に仕掛けられていても俺にはそれに対処し切る術があるし。それに戦局は既に俺達の手中だ、俺があれこれ言わずとも俺達の勝利は揺るがない物となっている」

「随分な自信でありますな、ですがそう言い切れる状況なのも事実、何とも歯がゆい気分であります。プロフェッサーが貴方を、貴方達ランサーズを脅威と見ていたのもこれで思い知ったであります」

 

自らの挑発にあっさり乗った遊矢の行動に疑念を覚えたのか、色々と問いかけるキサラに対し、全て考慮した上での事だと答える遊矢、事実、アンドバリの指輪作戦によってアカデミア勢は壊滅状態に陥っている、撤退も秒読み段階となっていた。

 

「さて、前置きは此処までにするであります。私もデュエリストの端くれ、ならば此処から先はデュエルで語るであります!」

「OK、そうこなくっちゃな!」

 

その応答を早めに切り上げたキサラ、次の瞬間には自らのデッキを装填したデュエルディスクを構え、それを見た遊矢もまた同じく構えを取った…!

 

「そう言えば名乗っていなかったでありますな。私はデュエルアカデミア近衛部隊『ホルアクティ・フォース』リーダー、キサラ・カルメル!榊遊矢、貴方を討つであります!」

「なら俺も名乗るか!俺はランサーズ最高指揮官、榊遊矢!次元世界を混乱に陥れるアカデミアの兵よ、此処で倒す!行くぞ!」

 

そして、ランサーズとアカデミア、両陣営で最強クラスの決闘者同士によるデュエルが今、始まった…!


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