織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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時間は一気に四年後に飛びます


色んな理由はあるのですが……そこはどうか容認して下さい















諸国放浪~川中島

朱乃と愛紗が旅の連れに加わった後、俺達は自由気ままに諸国を放浪していた。

 

 

まず、最初に向かったのは奥州米沢。梵天丸というバラガキと、片倉小十郎という男装女子に会う。

 

 

……何故か梵天丸にはなつかれ、小十郎には女扱いしたら泣いて感謝されたが。

 

 

米沢には数ヶ月滞在し、米沢を出る時には伊達当主の伊達輝宗さんから妻の義姫さんの料理をお土産にもらった。ありがた迷惑だった。

 

 

次に向かったのは紀州。米沢からは船ですぐだったんだが……もう俺は二度と船には乗らないと誓った。

 

 

そこからは陸路で大和、堺へ。軽く京に寄ってから播磨、備州、安芸、山口、出雲と中国地方をぐるりと回った。

 

 

ここでは小早川隆景という奴と、山中鹿之助という奴と特に仲良くなった。……どっちもちょいとアクが強いが。

 

 

次に向かったのはまた京。そこから近江に進み、若狭、越前、越後に。

 

 

そして越後でとうとう路銀が尽きたので領主の長尾景虎の所に厄介になっていた。

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

~川中島~

 

 

尾張を出奔してから約四年の歳月が過ぎ……路銀が尽きて長尾軍で客将まがいの事をしていた最中、偶々……本当に偶々この川中島の戦いが起きてしまった。

 

 

朱乃や愛紗には戦いたくなければ春日山にいろ、何なら上田に帰ってもいいと言ったのだが、二人共『戦場で主君の側に居ずして何が臣か』と、頑として退かず、結局俺達は景虎の率いる長尾軍26000と共に武田軍23000と川中島で対峙した。

 

 

初めは両軍共に正面から互角に戦っていたのだが、夜になって両軍が自陣に引き上げた後、突然景虎がおかしな事を言い出した。

 

 

「妻女山を下りる」

 

 

「は?」

 

 

妻女山は、今俺達が陣を張っている場所だ。ここは一応武田領だし、陣を敷くにはとてもじゃないが不向きな場所だが、景虎が『どうしてもここでなければいけない』と言ったために長尾軍の本陣となっていた。

 

 

その本陣をあっさりと捨てると言い出したのだ。俺でも流石に戸惑う。

 

 

「おいおい景虎。ここに陣を敷くって言ったのはお前だろうが」

 

 

「……確かにそう。だけど、この山は今下りなければいけない。……それと、私は今はもう上杉謙信。長尾景虎じゃない」

 

 

「ああ、そういやそうだったな……」

 

 

景虎……じゃなくて謙信は川中島に来る直前まで小田原の北条を攻めていたのだ。そこで山内上杉家の家督と関東管令職を譲り受けて改名したらしい。

 

 

「それに、私の事は虎千代でいいと言った」

 

 

「そんな事言ってたらまたかねたんがキレるぞ? 『男に幼名を許すなど~』とか何とか言ってな」

 

 

「問題無い。別に私の生涯不犯の誓いを破った訳じゃない。……私が友を作ってはいけない?」

 

 

「別にそうは言ってないだろうが……」

 

 

世間では軍神だとか越後の龍だとか言われている虎千代だが、その実はただの口下手の引きこもりだ。毘沙門堂に籠っているのは人が多い所が苦手なのと、自分の姿をあまり見せたくないからだそうだ。

 

 

虎千代はアルビノ体質に生まれたらしく、髪は白く、目が紅い。その容姿から越後の将兵は虎千代を『毘沙門天の化身』と崇めているらしいが……まぁ、今はそんな事はいいだろ。

 

 

「……で?わざわざかねたんを退かせて俺を呼んだのはそれを伝えるためだけか?」

 

 

そう、この虎千代の幕の中にいるのは今は俺と虎千代の二人だけなのだ。腹心のかねたん……直江兼続すら今ここにはいない。上杉以外の軍なら大将と客将が二人になるなどまず有り得ない状況なんだがな。

 

 

「勿論、違う。……慶次には私に着いてこない将兵達を守ってほしい」

 

 

「……武田がここに夜襲してくる、と?」

 

 

俺がそう聞くと、虎千代は相変わらずの無表情で首を横に振る。

 

 

「それはわからない。……けど、嫌な予感がする」

 

 

真面目に言う虎千代。その目には一片の迷いも無い。

 

 

……正直、虎千代の勘は異常だ。それこそ越後将が崇めるのもわかるほどに。

 

 

勘で金山、銀山を掘り当て、更には温泉まで掘り、虎千代がここには~を植えるべきだと言えば豊作になり、嫌な予感がすると言って軍の進む道を変えれば、行軍予定だった場所に伏兵が隠れていたりした。……何だよこのチート。

 

 

その虎千代がこう言ってるのだ。丸々無視は出来ないが……。

 

 

「全員を連れて下りればいいだろ?」

 

 

「無理。越後将の大半は私に着いてきてくれると思うけど、北条や高梨、水谷は多分私には素直に従わない」

 

 

「なるほど……」

 

 

虎千代の言う意味がやっとわかった。

 

 

越後の現状は一枚岩とは言えない。これは武田の信濃方面の勢力にも言えることだが、虎千代は西越後においては豪族連合の盟主でしか無いのだ。

 

 

後もう数ヶ月後なら越後は完全に虎千代が掌握出来ていたのだろうが……たらればの話をしても仕方ない。

 

 

「……まぁ、事情はわかった。でもそれは俺には無理だ」

 

 

「……? どうして?」

 

 

虎千代は首を傾げる。どうやら本当にわかっていないようだ。

 

 

「あのなぁ……俺はお前の家臣じゃねぇし、しかも新参だ。更に部下は真田ときた。そんな奴をいきなり信用できる訳がないだろうが。かねたんとかじゃ無理なのか?」

 

 

「……無理。兼続は確かに才能の塊だけど、いささか経験不足。景家や繁長は局地戦は巧いけど殿には向いてない。だから、この軍で今殿が出来るのは私と、あちこちで戦を経験した慶次だけ」

 

 

虎千代が真っ直ぐな目で俺を見る。

 

 

「慶次は出雲で退却戦を何度も経験して、成功させたと聞く。だから、慶次に任せたい」

 

 

「……ハァ。わかったよ。やってやる。けど俺達の指示は聞くように徹底して言っといてくれよ?」

 

 

結局、俺が折れた。俺を頼った奴を無下にするほど俺は人間辞めてないつもりだ。

 

 

「ありがとう。必ず言っておく……私の言葉にどれくらい力があるかはわからないけど」

 

 

そう言うと、虎千代は静かに立ち上がる。

 

 

「お前が言う事に意味があるんだよ。……景勝が春日山に詰めてるって言ってもやっぱり越中の動きが気になる。なるべく早く春日山に戻らないとな」

 

 

「うん」

 

 

虎千代に倣って、俺も立ち上がる。虎千代は立ち上がったまま、空を……星を眺めていた。

 

 

「……虎千代」

 

 

「何?」

 

 

「死ぬなよ」

 

 

俺がそう言うと、虎千代は一瞬ポカンとした表情になった後、薄く、けれど確かに微笑んだ。

 

 

 

「慶次も、無事で。毘沙門天の加護のあらんことを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、川中島が地獄と化すなんて、誰一人として想像する者はいなかった。


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