織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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甲斐

~??side~

 

 

 

 

「全く……書物にのめり込むのも程々にして下さいと黒歌姉上共々あれだけ注意しましたのに……」

 

 

「あらあら、ごめんなさいね幸ちゃん……コホッ」

 

 

私は今、風邪をひいた姉上と共に甲斐の秘湯に湯治に向かっている。

 

 

姉上は16という年で孫子や呉子、はたまた孟徳新書や呂子春秋、列女伝に庭乗書などの古今東西の兵法書や政書を暗記、応用するまでに至っている天才だが……いかんせん書物に熱中してしまうと周りが見えなくなったり、源氏物語などの場合は妄想にはしるという悪癖も持ち合わせてしまっていた。

 

 

今回も最近お気に入りらしい南蛮の恋物語に夢中になり、読み終わるまで根を詰めた結果、風邪をひいてしまったという訳だ。

 

 

「大体姉上は外に出なさすぎです!部屋に籠って本ばかり読んでるから風邪をひくんですよ!?」

 

 

「ゆ、幸ちゃん?流石に私病気だからお説教は……」

 

 

「いいえ!今回ばかりは許しません!第一姉上は……」

 

 

「うう……」

 

 

姉上が何か泣きそうになっているが、今回こそ言わせてもらう!私や黒歌姉上が武の鍛練している時に『埃っぽいのはやーですわ』とか言って部屋に籠る姉上が悪いんだ!

 

 

……とは言っても姉上は武が弱いという訳ではないのだが。それがまた何か悔しい。

 

 

そして私が姉上に説教をしながら歩いていた時だった。

 

 

ガサッ

 

 

「「!?」」

 

 

突然隣の茂みから音がして、背の低い小狡そうな男が飛び出してきた。

 

 

私はすぐに姉上の前に立ち、警戒体勢をとる。

 

 

「……何者だ。斬られたくなければ早くそこを退け」

 

 

私は強い口調でそう言ったが、小男はいやらしい笑みを浮かべるだけだった。

 

 

そして小男はおもむろに息を深く吸い込むと……

 

 

「ーー頭ぁ!!上玉二匹見つけましたぁ!!」

 

 

そう叫んだ。

 

 

「ーーでかしたぞ太助!」

 

 

小男が叫んだ後、すぐに小男が飛び出してきたのと同じ場所から武器を持った男達……賊が数十人出てきた。

 

 

どういう事だ……この地域一帯は先日晴信様が山狩りを行って賊は駆逐された筈……

 

 

「へぇ、そりゃ残念だったな!俺達ゃ昨日に駿河から逃げてきたばかりでね!」

 

 

声に出してしまっていたのか、頭領らしき男が答える。

 

 

くっ、今川氏親め……賊を敢えて放って甲斐の治安を乱そうとは卑怯な真似を……!

 

 

 

*違います。某麿呂が某無茶苦茶野郎を捕まえるために勝手に兵を動かした結果、駿河の警備がザルになっただけです。

 

 

 

 

姉上を庇うようにして立っているが、賊の数が多すぎる…

 

 

父上は戸石城で長尾と長野に備えて動けないし、何より父上の私兵が少ないから援軍は無い。私達のために兵を割く訳にはいかなかったからわざわざ遠回りしてこの道を通って来たというのに……!やはり無理を言ってでも護衛を付けてもらうべきだった!

 

 

……今更後悔しても仕方ないか。私一人ならこのような輩はすぐに打ち払ってみせるが……こちらには病の姉上がいる。今も少し顔が赤いので恐らく熱があるのだろう。普段通りには動けないかもしれない……その可能性がある限り、私は姉上の側を離れる訳にはいかない。

 

 

「幸ちゃん……」

 

 

私は、どうすれば……!

 

 

「頭、どうします?」

 

 

「そりゃあ、こんな上玉なんだ。勿論どこぞの大名なり娼館なりに売っぱらうが……その前に俺達で商品の質を確かめないとなぁ?」

 

 

「そうですよねぇ!流石頭!そうこなくっちゃ!」

 

 

下卑た笑みを浮かべて近付いてくる賊達に、少しずつ後退する私と姉上。

 

 

かくなる上は私が囮に……!と、そう思った時だった。

 

 

ズドォォォン

 

 

「ほーすぶれーくっ!?」

 

 

「「「頭ぁぁぁぁ!!?」」」

 

 

「「………………え?」」

 

 

馬が跳んできた。あ、いや、馬に乗った人が突撃してきた。

 

 

「……え?何この空気。俺何かやった?」

 

 

しかも、何故かきょとんとして周りを見渡している。……賊の頭領を馬が踏みつけたまま。

 

 

……あ、気付いた。

 

 

「おいおいオッサン。こんな所で寝てたら死ぬぞ?」

 

 

「いや、やったのお前!!むしろ殺ったのお前だから!!」

 

 

「お、上手いね~。座布団一枚!」

 

 

「言ってる場合か!?お前コレ見えてねーのか!?見ろ!頭を!眼球開きっぱなしで気絶してんだぞ!?死んだ魚の目みたいになってんだぞ!?」

 

 

「気にすんな。いざという時はキラメくさ。……多分……きっと……ひょっとしたら……そうなんじゃねーかなぁ」

 

 

「どこまで曖昧なんだよ!?それにキラメいてたんだよ!お前が出てくるまではな!」

 

 

「そんな事より宿はどこだ?」

 

 

「何という唯我独尊!?後ここ山道だから!宿なんかねーから!」

 

 

「は?」

 

 

馬に乗っていた男は、馬から下りると賊達を見て、それから私達に目を向け、そして「またかよ……」とため息を吐いた。

 

 

「清洲にいた時は見なかったんだがな……呪われてんのかな~俺。神さんよぉ~!!俺もお前が大っ嫌いだバカヤロー!!」

 

 

「何をゴチャゴチャ言ってるんだ!」

 

 

「頭の敵だ!」

 

 

何人かの賊が男に向かっていく。思わず私は「逃げろ!」と男に叫んだのだが……

 

 

「うるせーよ」

 

 

槍を一閃。男がしたただそれだけの事で向かっていった三人の賊の命が散った。

 

 

それを見て賊達は今更ながら慌てて各々の武器を構える。

 

 

「こっちはよぉ……ようやく休めると思ってたんだよ……見ろ!松風なんてやる気完全に無くしてんだぞ!どうしてくれるんだコノヤロー!?」

 

 

「「「知らねーよ!!八つ当たりじゃねーか!!」」」

 

 

正直、賊達の方が正しいと思った。

 

 

しかし、次の瞬間、男の纏う雰囲気がひどく変わった。

 

 

「それによぉ……テメェら、何人がかりで女を襲おうとしてやがる」

 

 

「「「!?」」」

 

 

男から放たれる刺すような鋭い殺気が場を支配する。

 

 

……非常に情けないが、私も動けない。後ろの姉上も同じようだ。

 

 

「テメェらが賊になったのかならざるを得なかったのかは知らねー。けどな……お前らみたいに楽な方楽な方へ堕ちていく奴らを見逃すと、賊にならざるを得なくなる奴らが生まれるんだ」

 

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 

男の殺気をモロに受けて冷静さを失った賊の一人が男に立ち向かっていき、そして一閃の下に沈んでいく。

 

 

「だから……逃がさねぇ。恨むなら恨め。俺が死んでから地獄で償ってやらぁ」

 

 

「お、お前らぁ!あの化け物を殺せぇ!!」

 

 

誰が言ったのだろうか、その声に従って賊達が一斉に男に襲いかかる。

 

 

しかし、男が槍を振るう度に一人、また一人と倒れていく。

 

 

凄い……私は純粋にそう思った。

 

 

私の愛槍の十文字槍のような例外はあるものの、槍の基本は『突き』であり、『払い』や『薙ぎ』はあくまで距離を保つためのものだ。

 

 

しかし、その槍で、しかも何の変哲もない普通の槍で賊の首をはねているのだ。つまり、ほんの少ししかない刃の部分を的確に賊の首に当てているのだ。それを見るだけでもこの御方が尋常ならざる武をお持ちである事がわかる。

 

 

しかも、その武を振るっている理由が初対面の私達を、更には見たこともない民を守るためだと言うではないか!私はこの御方ほどの義の人を見たことがない。

 

 

この御方に、仕えたい。そんな思いが私の中に生まれる。

 

 

その時、ふと姉上はどう思われたのかを聞こうと思い、後ろを見ると……頬に手を当てて、先程よりも顔を赤くした、恍惚とした表情の明らかに妄想状態の姉上がいた。

 

 

…………………は?

 

 

「見つけた……私の『ないと』様……」

 

 

…………………………え゛?

 

 

 

~side out ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……大丈夫かお前ら?」

 

 

賊を駆逐した後、多分無事だろうが一応後ろの女二人に声を掛ける。アフターケアって大事だと思うんだ。

 

 

「ええ。助けていただき、何とお礼を申し上げればいいか……」

 

 

黒髪サイドポニーの方が礼儀正しく頭を下げる。その少し後ろにいる黒髪ポニーは何かボーっとしてる。しかし似てるな……姉妹か?

 

 

「いや、礼はいい」

 

 

半分くらい腹いせ入ってたし。……賊じゃなけりゃからかってから町の方向聞いて終わりだったんだがな。

 

 

「そっちの奴も無事……のわっ!?」

 

 

「ええ。お陰で怪我はございません……ケホッ」

 

 

一瞬で俺との距離を詰め、一度咳をした後にしなだれかかってくるポニー。………え?何が起きてんの?つーか今コイツの動き見えなかったぞ!?

 

 

「……?おい、お前本当に大丈夫なのか?顔赤いし体温高いぞ?」

 

 

「ああ……私達は温泉に湯治に行く途中でしたの……ケホッ、ゴホッ」

 

 

「おい!?」

 

 

下を向いて苦しそうに咳き込むポニーの背中をさする。……風邪か?この時代って風邪でも死ぬ可能性あるんだぞ!?というか風邪って湯治で治るのか!?

 

 

……慶次は知らない。下を向いている女の子が「計画通り」と言わんばかりに悪い笑みを浮かべている事を。後ろのサイドポニーの少女がそんな姉にドン引きしている事を。

 

 

「あの……お名前は……」

 

 

「え?前田利益……」

 

 

「利益様!!前田姓という事は尾張の方ですわね!出来れば私達を温泉まで護衛して頂けませんか?」

 

 

「はい!?」

 

 

一瞬で出自まで当てるとか何者だこの女!?めっちゃ怖いんだけど!?

 

 

「ああ、よろしいと!ありがとうございます!」

 

 

「は!?いやいやその『はい』じゃねーから!聞き返しの『はい?』だからな!?」

 

 

というかコイツ本当に病人か!?パワフルすぎるだろ!仮病か!?

 

 

「あ、姉上?温泉はもうすぐそうっ!?」

 

 

流石に見かねたのかポニーを止めようとしたサイドポニーが突然その場に崩れ落ちた……しかも何かピクピクしてる。

 

 

「あらあら、幸ちゃん?緊張の糸が斬れちゃったのかしら?」

 

 

「いや、今アンタが近づいてきたそいつの腹に一発入れたように見えたんだが……」

 

 

「気のせいですわ」

 

 

「いや、現に腹押さえてプルプルして……」

 

 

「き・の・せ・い・で・す・わ」

 

 

「………ハイ」

 

 

ニコニコしてるのに師匠を超える威圧感が出てるって何さ。

 

 

……許せサイドポニー。男って……無力なんだ……!!

 

 

そんな感じでうちひしがれていると……

 

 

「じゃあよろしくお願いしますね?」

 

 

「準備早すぎませんかねぇ!?」

 

 

いつの間にか、何故か少し震えている松風に気絶したサイドポニーを乗せ、その前に乗っていたポニーが急かしてくる。

 

 

………万千代。俺大人しく尾張で頑張って説得してた方が楽だったかもしんない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~甲斐山中・武田の秘湯~

 

 

 

 

「あ゛~……極楽や~……」

 

 

結局、温泉はあの場所から10分くらいで普通に着いた。そして今俺はポニー……真田昌幸の好意で温泉に浸かっていた。

 

 

いや~、いいね温泉!疲れが湯に染み出て消えてるような気がするな!

 

 

……え?混浴?アホ言え。でかい方の温泉の横の小さい方に浸かってるよ。親切に衝立付きだったしな。……俺は社会的に死にたくはない。

 

 

「失礼しますわね」

 

 

「お~……」

 

 

老後は俺絶対温泉の近くに住むんだ……オチビに絶対飛弾は押さえて貰おう。あそこには確か源泉があったはずだし………って

 

 

「何してんの昌幸ぃぃぃぃ!?」

 

 

「あらあら。そんな他人行儀な呼び方は嫌ですわ。どうか朱乃とお呼び下さい」

 

 

「あ、なら俺も慶次でいい……じゃねぇよ!お前あっちのでかい湯船に浸かってたんじゃないのか!?」

 

 

「そのつもりでしたが、慶次様がいらっしゃらなかったので……」

 

 

顔を赤らめながらもじもじする朱乃。うわぁ眼福……じゃなく!目の保養……でもなく!

 

 

「いやいや戻れ!」

 

 

「駄目……でした……?」

 

 

くっ……!そんな捨てられた子犬みたいな目で見るんじゃない!

 

 

「駄目だろ!普通に考えて!」

 

 

「私の普通の尺度だと大丈夫ですわ」

 

 

「俺の尺度で駄目なんだよ!」

 

 

「うふふ、お構い無く」

 

 

「無理だ!」

 

 

自分のスタイルを自覚してないのかコイツは!?出る所は出て引っ込む所は引っ込んでる物凄く抜群のプロポーションなんだぞ!?俺の理性が保たんわ!

 

 

……ここだけの話、万千代ならまだ何とかなる。無い訳じゃねぇがアイツは胸が………!?

 

 

「どうしました?」

 

 

「いや、今何か尋常でない寒気が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふふ……」

 

 

「ま、万千代?何をそんなに怒ってるの……?」

 

 

「………怖い」

 

 

「あら、今日の私の機嫌は満点ですよ?姫様、犬千代、そろそろ夕飯にしましょうか」

 

 

「う、うん」

 

 

「………ご飯」

 

 

「うふふ……今日は私が土佐の鰹と鹿肉のタタキを作りますね?」

 

 

「「(絶対何か怒ってる……!!)」」

 

 

その翌日の信奈はまるで借りてきた猫のように大人しかったという。

 

 

……その場に勝家がいなかったのは不幸中の幸いであろうか。

 

 

丹羽長秀。16歳。この頃は少しばかり貧にゅ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……やめよう。まだ死にたくないし。清洲の温泉でたまたま出くわしてボコボコにされた後に放置されて、風邪をひいた時の恐怖を俺は忘れない。……あの時はマジで死ぬかと思った。

 

 

そして俺がもう一度朱乃に抗議しようとした時、衝立の横から紙が差し出された。

 

 

……なになに?

 

 

『姉上がすみません。本当にすみません。姉上は戦や内政、謀略以外だと少々妄想癖……もといかなり思い込みが激しいんです。

よろしければ姉上の思う通りにさせてあげてはくれませんか?

 

 

真田幸村

 

 

追伸、私の事は真田名……愛称の愛紗とお呼び下さい。私も慶次様とお呼びさせて頂きます』

 

 

……つーか何故に手紙?湯気で湿気てすげぇ読みにくいんだが

 

 

「……愛紗、いんのか?」

 

 

「……はい」

 

 

衝立の裏から申し訳なさそうなサイドポニー……もとい愛紗の声が聞こえる。愛紗も温泉に入っているようだ。……本当によく手紙なんか書けたな。

 

 

「……朱乃の思い通りにしろと?」

 

 

「慶次様がよろしければ」

 

 

「お前の姉ちゃんの目、虎みたいにギラついてんだが?」

 

 

「………………頑張って下さい」

 

 

「喰われろってか!?」

 

 

勘弁して下さい。マジで。朱乃は確かに美人だけどさ……この時代は16で結婚とかざらにあるけどさ……何か嫌な予感しかしねぇし、寒気が止まらないんだよ。

 

 

そして俺が不屈の精神で再度朱乃を説得しようとした時だった

 

 

「朱乃~!愛紗~!」

 

 

「もう……二人なら無事だって……」

 

 

急にオッサンと女の声が聞こえてきた。

 

 

「父上、黒歌姉上」

 

 

「おお!愛紗!無事だったか!長野と長尾が兵を退いたから心配になって追いかけて来たが……途中で野盗の死体を見たときは肝が冷えたぞ」

 

 

「もう……だから何度も大丈夫だって言ったにゃ」

 

 

どうやら朱乃と愛紗の家族らしい。………あれ?この状態色々不味くね?

 

 

「父上、私も姉上も怪我一つありません。ある方に助けて頂いたので……」

 

 

「そうか……まぁ、無事で何よりだ。朱乃は?」

 

 

「その衝立の裏ですが……」

 

 

何言ってくれてんの愛紗!?

 

 

「む?何故そのような場所に……何をしているのだ貴様……!!」

 

 

「にゃ?……はは~ん。とうとう引きこもりの姉様にも春が来たかにゃ~♪」

 

 

朱乃の父親らしきオッサンに殺気を向けられ、愛紗の姉で朱乃の妹らしき女にはニヤニヤされた。

 

 

「何をしているのかは俺が聞きてーよ。つーか丁度いいからそっちに引きずって行ってくれ」

 

 

「ふん、言われんでもそうする」

 

 

「そのままヤっちゃえば良かったのににゃ~。ヘタレなの?」

 

 

何でそうなる。ただ悪寒と寒気と冷や汗が理性を保たせてるだけだ。

 

 

「……ここに案内されている所を見ると、どうやら貴様が朱乃と愛紗を助けてくれたようだな。……その事には父親として礼を言わせてほしい。本当に、娘を助けてくれてありがとう」

 

 

そう言って深々と頭を下げるオッサン。……このオッサン、めっちゃいい人じゃ……

 

 

「だがしかし朱乃はやらん!やらんぞぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「父上……」

 

 

「父様……」

 

 

「……はぁ」

 

 

訂正。ただの親バカだった。というかその娘達からジト目で見られている事にまず気付こうぜ。

 

 

「さぁ朱乃、来なさい!嫁入り前の娘が男に軽々しく肌を見せてはいけません!」

 

 

「やーですわー」

 

 

「朱乃!?」

 

 

向こうでなんか漫才やっている間に、朱乃の妹が俺の側に寄ってきた

 

 

「また姉様の妄想が爆発したの?」

 

 

「どうもそうらしいな。……近いから離れろ。何故か寒気がするから」

 

 

「女嫌いかにゃ?」

 

 

「違う。美人は大好きだ」

 

 

「あらやだ正直。……私は真田信幸。真田名……まぁ、愛称って言えばいいのかな?それの黒歌でいいわよ」

 

 

「なら俺も慶次でいい。何かアンタとは気が合いそうだしな」

 

 

何か信幸……黒歌とは俺と同じ悪戯(スピリッツ)を感じる。

 

 

「嫁入り前に男に肌を見せてはいけないのなら、私はこの方に嫁ぎます。それなら問題無いでしょう?」

 

 

「「大アリだ!!」

 

 

聞き捨てなら無い言葉に思わずツッコんでしまった。

 

 

「何時にも増して姉様は絶好調ね~」

 

 

「風邪ひいてますから、思考が変な方向にいってるんじゃないですか?」

 

 

お前ら……妹なら止めてくれ……!!

 

 

 

 

結局、その後黒歌と愛紗がのぼせた朱乃を連れていって事なきを得た。

 

 

……本当に病人なんだよな?アイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何してんの?お前ら」

 

 

次の日の早朝、また面倒なことになる前に出て行こうとして、礼の手紙を残してから厩に向かうと、何故か旅の準備をして馬に乗った朱乃と愛紗がいた

 

 

「何って、私達も着いて行くに決まっているじゃないですか」

 

 

「却下」

 

 

「うふふ。それを却下ですわ♪」

 

 

ああ、駄目だ。口でコイツに勝てる気がしない。

 

 

こうなれば……黒歌は駄目だ。むしろノる。なら……

 

 

「オッサンは?」

 

 

「それは……姉上が昨日の夜に反対した父上を布団で簀巻きにしてしまいまして」

 

 

「今頃は部屋で暴れてると思いますわ」

 

 

「………は?」

 

 

いや、父親なんだよな?………父親なんだよな!?

 

 

「……ハァ、朱乃は拒否しても後をつけてきそうだから放っておくとして……」

 

 

「あらあら♪」

 

 

もう何も言うまい。というか言っても無駄っぽい。

 

 

「愛紗、何でお前まで?」

 

 

「純粋に慶次様のような御仁に仕えたいと思ったからです」

 

 

……何でだろうか。愛紗の尊敬の眼差しがすごく心に突き刺さってくるんだが……←半分勢いで野盗を殲滅しちゃった人

 

 

「義人に仕えたいなら越後の長尾は?」

 

 

「主君を神と崇めるのはちょっと……」

 

 

「米沢の伊達は?今の当主は相当の徳人らしいぞ?」

 

 

「奥州は馴れ合いの国々です。無為な戦で民の命を無くしているような国には仕えたくありません」

 

 

あ、駄目だ。コイツ頑固だ。

 

 

「……俺、無給の風来坊だぞ?」

 

 

「最終的にどこかに仕えるつもりなのでしょう?なら構いません」

 

 

「いざとなれば父上に武田への便宜をはかってもらいますわ」

 

 

無給作戦、失敗。

 

 

「貧乏旅だぞ?」

 

 

「母上に少しばかり路銀を頂きました」

 

 

「うふふ、父上の屋敷中のへそくりを根こそぎ頂いて来たので大丈夫です。2ヶ月くらいなら豪遊しながら旅をしても保ちます」

 

 

貧乏アピール、失敗。オッサン、強く生きろよ……!!

 

 

「お前らの親父さんや黒歌と敵対するかも知れねぇぞ?」

 

 

「「覚悟の上です」」

 

 

「………ハァ」

 

 

何がコイツらをここまで動かしてんのやら……。

 

 

……仕方ねぇか。断ってんのも俺が一人旅を気楽にしたいだけだし

 

 

「もう勝手にしろ~……」

 

 

「!はい!」

 

 

「うふふ、そうさせてもらいます」

 

 

こうして、俺に旅の連れができた


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