織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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更新遅れてすみません……

い、いそがしかったんだ……!













原作三巻~馬鹿と猿と中二病と爆弾正とetc. ~
岐阜・山城~京へ~


「……長秀殿。あれはどう考えればよろしいのでしょうか……?」

 

「……ま、まぁ、結果だけを見れば満点……でいいのではないでしょうか?」

 

「クククク……! は、腹痛ぇ……!」

 

困惑した表情を見せる朱乃と万千代。そして腹を抱えながら笑いを噛み殺している慶次。その三人の視線の先にいるのはあの浅井長政である。

無駄に洗練された好青年のフリをして女を惑わす女の敵。朱乃や万千代にとってはそんな認識であった長政は今……

 

「浅井長政、只今参上つかまつりました。小谷勢の力、しかとその目にお見せ致しましょう。わが軍勢、義姉上の好きにお使いくだされ」

 

「で、デアルカ……」

 

……見ている方が気持ち悪くなるくらい従順で素直になっていた。具体的には信奈がドン引きするくらいに。

確かに織田と浅井は先日婚姻による姻戚関係の同盟を結んだ。だがその姻戚が問題だったのだ。

織田から浅井へ嫁ぐこととなったのは史実同様『お市の方』である。しかし、信奈に信澄以外のきょうだいはいない。ではお市とは誰なのか? その正体は女装した信澄なのだ。信澄、つまり……『男』である。

勘で長政の正体を見抜き、それを疑うことなく信じている慶次や、恐らく全てを見抜いている朱乃や半兵衛以外は長政が『そういう』趣味なのではないかと勘繰っていたのだった。ちなみに、上の朱乃の台詞は確信犯である。

 

「ま、まぁ、長政殿がこちらについたおかげで味方の数は五万まで膨れ上がりました。京への道を塞ぐは六角承禎ただ一人。88点です。後は姫の采配次第ですが」

 

そう。慶次の体調と兵の士気の回復、岐阜の町の復興を済ませ、今日全軍を動かした理由は只一つ。京へと上洛するためだ。

美濃を手中に収めた織田軍三万。援軍の松平一万、浅井一万。計五万の軍勢が遮二無二京を目指す。その間にある抗戦の意を示した六角を叩き潰して。この戦に、六角との因縁の深い浅井勢は特に色めき立っている。先頭に立って大きな槍をぶんぶん振り回している青年など特に。

 

「いやいや、オチビの策なんか決まりきってんだろ」

 

「はい?」

 

「オチビもなんだかんだ単純だからな。聞く方が簡単にわかる簡単なことしか言わねぇよ。……ま、人によっちゃ深読みしすぎるかもだが」

 

「それはーー」

『全軍かかれぇっ!!』

 

慶次に何か言おうとした万千代の言葉を遮るように、信奈の号令が響く。それに慶次と朱乃は軽く笑い、万千代はこめかみを押さえる。

 

「ほらな?」

 

「……全く、あれほど軍略や兵法の本を読み聞かせましたのに……」

 

「まぁいいじゃねぇか。わかりやすいくらいが丁度いい。ーーオラ、俺らも行くぞ!」

 

そう言って、慶次は側に控えていた愛紗を連れて馬を駆る。取り残された万千代と朱乃はそれぞれ違った反応を見せていた。

 

「慶次、待ちなさい! ……全く、あのバカは……」

 

「あらあら、殿方の支えとなるのもいい女の条件ですよ?」

 

「……私も貴女も、未婚ですが」

 

「うっ」

 

ゆったりと微笑みながら言う朱乃に、万千代のジト目の一言が突き刺さると、朱乃は馬に乗ったまま崩れ落ちる。言った側の万千代も無事ではなかったようで、燃え尽きたように項垂れていた。

 

このあとの丹羽隊の軍勢の攻めが数割増で苛烈だったのは気のせいではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とある六角軍武将の証言

 

「あ、あれは鬼か閻魔のどっちかだ……。その女達は軍師なんだろうか、直接は手を出してないんだが、出してる闘気というか殺気というか、とにかくヤバい感じが溢れだしてたんだ……。初めてだったよ。直観で死ぬ、殺されると思ったのは……」

 

とあるバカの証言

 

「ストレス、溜まってたんだろうな……」

 

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「はー、ここが京か……。寂れてるなぁ」

 

「ま、応仁の乱以降ここはかなりの小競り合いに巻き込まれてきたからな。金はない、民の協力もない、朝廷の覚えも悪くなるでそれどころじゃなかったんだろうよ」

 

「戦続きという面が大きいでしょうけどね」

 

超速で京に入った後、慶次と良晴、朱乃は京の町をぶらぶらと散策していた。理由は簡単、足利将軍の後釜としての今川義元の将軍宣下を受けるためには朝廷との交渉が不可欠だからだ。

その交渉に出自不詳の良晴や何をしでかすかわからない慶次を連れていく訳にはいかなかったからだ。

簡単に言えば、『お前ら事が済むまで大人しくそこら辺ぶらぶらしてろ。頼むから朝廷で問題起こすなよマジで』という厄介払いであった。ちなみに朱乃はお目付け役である。

 

ただ、ある意味ではそれもよかったのかもしれない。

 

「お? 慶次はんやないか。織田に仕官しとったんかいな! あ、そや、これ持ってきやー」

 

「おお! おっちゃん久しぶりだな! 景気はどうだ?」

 

「全然やなー。何分みんな余裕ないんや」

 

「そっか……あ、その団子といつもの茶くれ。三人分な! これは帰ってから食わせてもらうよ」

 

「毎度!」

 

「あらぁ、慶次はんに昌幸はん、おひさしぶりどすなぁ」

 

「あ! 慶次兄ちゃんお帰りー!」

 

「昌幸はん、慶次はんおとせはったんどすかー?」

 

その理由は、慶次の京での人気である。町に出てから良晴が気付いた事だが、慶次に挨拶して近寄ってくる人の多いこと多いこと。時折朱乃にも声はかかるが、それでも慶次の人気が圧倒的なのだ。

 

「なんだ、慶次の兄貴はまだ手を出してなかったんですかい? こんな別嬪さん放っておくなんて勿体ない。もしかして、コレですかい?」

 

「誰がカマだコノヤロー」

 

「あいてっ!」

 

「あらあら」

 

「いや、でもほんまに別嬪さんになったなぁ。どやろ昌幸ちゃん、わいに乗りかえん?」

 

「あんた……?」

 

「いや、冗談やって冗談。わいは母ちゃん一筋や」

 

「その割には俺が京を出る前に遊郭の娘口説こうと頑張ってたよなー」

 

「慶次はぁぁぁぁぁぁぁん!?」

 

その一連のやり取りに、周りはドッと笑いだす。その輪の中で京の民衆を見ていた良晴は不思議な気持ちになっていた。

良晴が京に入った時、民衆に抱いた第一印象は、『人間不信』。長い間戦火に巻き込まれ、大名同士の醜い権力争いを見てきた京の民衆の目は鋭く、簡単には信用しないということを体全身で表しているようだった。

中には織田を歓迎する者もいたが、それは一握り。兵が近付くと戸を閉めて警戒する者も少なくなかったのだ。それは良晴が町に出た時も同じだった。

それが、慶次と朱乃が合流した途端に180度変わったのだ。慶次の存在が京の民衆の対応を一変させた。戸を閉めて警戒していたはずの民衆は慶次の声が聞こえると顔を出し、周りは次々と笑顔に変わっていく。

皆が分け隔てなく笑顔になる。そこに、良晴は一つの理想の形を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「慶次さん、一体どこに向かってんすか?」

 

民衆に別れを告げた後、慶次と朱乃は迷うことなく一つの道を歩いている。余りにも普通にすらすらと歩いて来ていたために聞きそびれてしまっていたのだ。

 

「え? 普通に友達の家だぞ。なぁ?」

 

「うふふ、そうですわね。友人の家です」

 

「なんか最近慶次さんの『普通』に信用がなぁ……」

 

「お前最近失礼だな……っと、ついたぞ」

 

何でもないように良晴に告げ、戸を叩く。良晴は「前田慶次の京の友人って誰だっけ?」と首を傾げながら門にある邸の主の名が書かれた木札を見て……そして、吹き出してしまった。

 

そこに書かれていた名前。良晴の知識の源である『織田信長公の野望』にも登場する、有名な人物。

 

『藤原北家四条分家 山科内蔵頭言継卿邸』


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