誰が一番慶松を待っていると思っている?
この俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(爆)
……すみません、暴走しました(笑)
というわけで慶松回です!
「よしまつー! 迎えに来たのですぞー!」
「む? おや、ねねじゃないか。慶松か?」
「あ、幸村殿! おはようですぞ!」
「ああ、おはようねね。早速だがギュッってさせてくれ!」
「わわっ!?」
「ふふふふ、よいではないかよいではないぐばっ!?」
「朝からナニやらかしてんだ阿呆」
いつも通りの朝。いや、ちょっとだけいつも通りじゃない感じはあったけど、それでもいつも通りの朝。
今日はねねちゃん達と遊ぶ約束をしていたんだけど……
「わ……! わ……!」
ついつい寝坊しちゃってたみたいです。
何はともあれ、急いで用意しないと……!
「あら、慶松。ねねが……って、寝坊したみたいですね。18点」
慌てて着替えて廊下に出ると、たくさんの紙を持ったかかさまがいました。
かかさまはお殿様が言うには『おしとやかで冷静な良妻賢母』らしいです。慶松もかかさまみたいになりなさいよ、と頭を撫でてくれました。その後同じように手を伸ばしていたサル様を蹴り飛ばしてましたけど。……ところで、『おしとやか』とか『りょうさいけんぼ』って何なんでしょう?
とにかく、かかさまは凄い人です。今も寝坊したのがすぐにばれてしまいました。
「朝御飯は?」
「……いらない」
「ふふ、ならこれを持って行きなさい」
そう言ってかかさまはたもとからおにぎりを取り出して渡してくれました。……え? たもと?
「歩きながら食べるといいですよ。行儀はよろしくありませんが」
「……ありがと」
「本当は慶次のお昼のつもりでしたが……まぁ、一食抜いたくらいで死にはしないでしょう。68点」
……ごめんなさい、ととさま。慶松は自分のお腹に勝てなかったみたいです。
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「……あ、ようやく来たわね」
「おっそーい!」
ねねちゃんと急いで集合場所に行くと、もうみんな集まってたみたいで、慶松達がビリでした。
「全く、後四半刻遅かったらアンタ達抜いて遊び始めてたわよ」
「そんなこと言ってぶーたれてた市松を叱ってたくせに~」
始めの、ちょっと言い方のキツい短い黒髪とつり上がり気味な目が特徴の女の子は佐吉ちゃん。何だかんだ言いながら、本当は優しい子です。いつも虎之助ちゃんに弄られてるけど。
それで、今佐吉ちゃんをからかってる長い髪を右側で纏めてる女の子が虎之助ちゃんです。女の子なのに自分の事を俺って言う珍しい子です。あと、佐吉ちゃん曰く、おバカさんらしいです。
最後に、佐吉ちゃんと虎之助ちゃんが話してる向こうで眠そうにしてる髪を結い上げてる女の子が市松ちゃんです。いつも寝てるのに、いつも眠そうにしてる不思議な子です。この前起こした次の瞬間にはまた寝ていたのにはびっくりしました。市松ちゃんは私達の中で一番力持ちです。
この三人に慶松とねねちゃんを入れたのがいつも遊ぶ五人組です。
「な、べ、別にそんなんじゃないわよ! ただ、ねねと慶松に拗ねられたら面倒だなって思っただけ! 変な勘違いするんじゃないわよ!」
「またんなこと言って~。照れなくてもいいんだぜ?」
「佐吉は兄さまの言う『つんでれ』ですな!」
「照れてない! 後何よ『つんでれ』って!?」
「…………むにゃ。あ、ねね、慶松おはよ」
『『今気付いたの!?』』
「ほへ?」
これが、慶松達のいつも通りです。
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「みぎからまわれ~!」
「わっ!? うしろからきたぞ!?」
いつも遊んでる川原に行くと、隣の村の子ども達が先にいたので、今日の遊びは合戦ごっこに決まりました。
合戦ごっこのやり方は簡単で、五人一組になって、その中でお殿様を決めてお互いにお殿様が隠れます。お殿様以外の人はお侍で、相手に組伏せられたらもう参加できません。相手のお殿様を組伏せたら勝ちです。
慶松達はいつもお殿様を佐吉ちゃんにします。理由は佐吉ちゃんが一番強いから……じゃなくてお侍になったらすぐに組伏せられるくらい弱いからです。虎之助ちゃんが組伏せようとしたら十秒かかりませんでしたし……。
その代わり、佐吉ちゃんはお寺で勉強していてとても頭がいいので、作戦を考えてもらいます。そしてねねちゃんが忍者、慶松が部将さま、虎之助ちゃんと市松ちゃんが突撃係です。
今回はねねちゃんが相手を見つけて、罠を作る。慶松が罠のところに連れて行って、かかったところを虎之助ちゃん達と一緒に取り押さえる作戦です。
「くっそー……」
「へへ、戦は『ぱわー』だぜ!」
「市松大勝利。ぶい」
作戦はうまくいきました! 敵将三人、討ち取った! です!
虎之助ちゃんはねねちゃんがサル様に教えてもらった勝鬨が気に入ったのか、いつも使ってます。ねねちゃんが言うには勝鬨とはちょっと使い方が違うらしいですけど。
市松ちゃんは見た目の割にはお茶目さんなので、いつも自分なりの勝鬨の格好を作ってきます。見ていておもしろいです。
「……ふたりとも。あとふたり、いる」
「わーってるよ。残りも俺が組伏せてやるぜ!」
「いっちーにお任せ」
「ねねも忘れられたら困るのですぞ!」
さて、後二人。頑張りましょう!
「……あれ? 何か私忘れられてる? …………べ、別に寂しくなんてないんだからね!? ……くすん」
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「やー! 今日も大勝利だったぜ!」
「今のところ負けなし。ぶいぶい」
あの後も特に予想外の事は無く、無事に勝ちました。17戦17勝です。えっへん。
「はいはい、調子に乗らないの。私と慶松とねねが罠を作ってはめたから楽に勝てたのよ?」
「わかってるって。にしても慶松は本当に足速いよなー」
「……そうでもない」
とか言いながらちょっと嬉しかったり。伊達に村で逃げ回ってたわけではないのです。
「それは思ったわ。何であの砂利道を一回も躓かないで、かつ他の子の倍くらいの速さで走れるのよ……」
「佐吉は一刻走ったら限界だもんな」
「うっさいわよ体力おバカ」
「なっ!? バカって言った方がバカなんだぞ!」
「その発想がバカなのよ!」
もうあの二人のじゃれあいはいつものことなので放っておきます。かかさま曰く、『けんかするほどなかがいい』だそうです。
確かに、いつもけんか(?)してるととさまとかかさまは仲良しです。だから佐吉ちゃんと虎之助ちゃんも仲良しです。
「そろそろ、時間」
「……もうこんな時間か。遊んでたら早いぜ」
「全くね」
帰る時間になっちゃいました。
みんなお家の用事があって忙しいので、ちょっと帰る時間は早いのです。
佐吉ちゃんはお寺の勉強、虎之助ちゃんは鍛冶の手伝い、ねねちゃんは浅野の爺様の手伝い。市松ちゃんは……お昼寝? というよりお夕寝?
慶松はかかさまと朱乃ねえさまとご飯の用意です。……ご飯って考えたらお腹空いてきました。あんなおにぎり3つじゃ慶松のお腹一分目もいかないのですよ。
「んじゃ、俺はこっちだ。また明日だぜ!」
「いっちーもこっち。またね?」
「私はあっちよ。それじゃ、また明日ね」
「ねねは兄さまを迎えに行くのですぞ!」
結局、いつもの分かれ道で全員さよならしました。
……慶松はちょっとだけこのさよならが嫌いです。また明日遊べるのはわかってるけど……でも、やっぱりちょっと嫌いです。
「……んあ? 慶松か。今帰りか?」
「……ととさま」
ちょっとだけボーッとしていると、いつものように槍を担いでいたととさまに声を掛けられました。『今日は尾張の道場でも破りに行くかー』とお茶を飲んでまったりしながら言っていたのでその帰り道かもしれません。
「皆帰ったのか?」
「…………」
慶松が頷くと、じゃあ一緒に帰るか、と言ってととさまは慶松を肩車してくれました。
慶松はどうしても言葉がうまく出ないので、時々意思が伝わりにくいのですが、ととさまとかかさまはすぐにわかってくれます。慶松はそんな二人が大好きです。
……え? ねえさま? 時々怖くなるから微妙です。あ、朱乃ねえさまは好きですよ?
それはともかく、ととさまの背中や肩はおっきくて、ほっとします。
「……け・い・じ?」
「んあ? ……げっ、万千代!?」
「げっ、じゃありません……! 私がどれだけ貴方を探していたか……! 仕事、サボるだけサボって道場破りとはいい御身分ですね……?」
「……さらばだっ! 慶松しっかり掴まれよ!?」
「あっ! コラ逃げるな!! 0点!!」
今日も、ととさまとかかさまは仲良しです。