織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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美濃~一夜の奇策~

『全部諦めずに拾ってみせる』

そんな何とも欲深な思いを引っ提げ、真田昌幸、幸村姉妹と共に墨俣へと筏で移動する良晴。

墨俣一夜城……正史においては木下秀吉、後の太閤豊臣秀吉が成し遂げた歴史に残る偉業を成し遂げるために今回良晴が採用したのはツーバイフォー方式である。

ざっと簡単に説明するならば、あらかじめある程度組み立てておいた材木を現場で完全に組む工事法である。

 

「うふふ、なかなか考えられた策ですわね、サル殿」

 

「まさか現場に行く前に部品を組むとは……考えが及ばなかったな」

 

「(いや、あんたらは将来一夜城よりもっと凄いもの作るんだけどな……地下城とか、真田丸とか)」

 

良晴の横で後ろで運ばれている木材を見ながら真田姉妹が感心するのを見て、良晴は苦笑いする。本来織田家にいるはずのない彼女達だが、彼女達もまた築城の名手であるのだ。

 

「……そう言えば、昌幸さんや幸村ならどうやってたんだ?」

 

「何をです?」

 

「もし墨俣に城を建てろって言われてたらですよ」

 

それは良晴の素朴な疑問であった。聞かれた側の朱乃は顎に手を当て、愛紗は腕を組んで考え込む。

 

「そうですね……まず、忍を使いますね」

 

「忍を?」

 

「ええ。忍を使って細かな壕をいくつも掘ります。まずこれで騎馬隊の突進は防げますから。次に、兵を動員しての楯隊の準備。これで矢は防げます。後は偽報、撹乱、流言、民の扇動を煽りつつ、直接戦闘を避けて築城、ですか」

 

まず答えたのは朱乃だったが、明らかに朱乃しか出来ない方法である。更に言うなら金と兵がかかりすぎるため、そんなことをするなら確実に堂々と攻めた方がマシだ。

 

「後は、本隊が城攻めをしている間に即席で建ててしまう方法ですね。まぁ、城を盗れば支城を建てた意味がなくなりますし、本隊が全滅してしまうといい的ですが……幸ちゃんは?」

 

「私も似たようなものです」

 

朱乃の言葉に頷きながらもまだ考え込んでいるところを見ると、どうやら本当に同じものしか考えが浮かばなかったらしい。流石は姉妹と言うべきか。

そんな愛紗に朱乃はあらあら、と薄く笑うと、すぐにその表情を引き締める。

 

「……そろそろ、気を引き締めましょう。もうじき墨俣です」

 

「そうですね……」

 

三人が目を向けたその先に、『死地』墨俣が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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墨俣に到着し、夜闇に紛れて順調に城を建てていた良晴達だったが、やはり無理があったか、それとも運に見放されたか、築城が完成した時には、既に斉藤の大軍が目と鼻の先にまで迫っている状況であった。

 

「おい小僧! どうするんだ!? この戦力じゃいつまでも持たないぞ!?」

 

「…………」

 

「小僧!!」

 

「……仕方ねぇ。墨俣城は捨てる! 命の方が大事だ! 全員逃げるぜ、こんなところで死ぬんじゃねぇぞ!」

 

強い口調で指示を扇ぐ前野某に対して、良晴はなんと墨俣城の破棄を決意した。川並衆達はせっかく死ぬ気で建てた城をあっさり捨てた良晴に思うところが無いわけでは無さそうだったが、親分を見守るためにまだ死ぬ訳にはいかないと良晴の案に乗り、すたこらさっさと逃げ出す準備を即座にまとめ、墨俣から退去してしまった。

 

これに驚いたのは斉藤軍の方で、この要所をあっさり捨てるとは何か策があるのではないか、と義龍も疑ったようだが、逃げる良晴達の小勢さを見るとその考えも消えてしまった。

 

「殿、敵はあまりに簡単に逃げ出しましたが……」

 

「何、仕方あるまい。あの小勢だ。恐らくは織田の兵が後から詰めるはずであったのだろうが、それも儂らがこうして墨俣を制圧した今無駄に終わるだろうよ。……なに、ここを囮として稲葉山城に向かっていようとも、城には守備兵をたっぷり残しておる。この城を壊した後で城に急行し、挟み撃ちにしてしまえば儂らの勝ちよ」

 

「なるほど、流石は殿にございますなぁ」

 

義龍は家臣のお世辞にガハハと笑うと、軍配で墨俣城を指す。

 

「世辞はよい。それよりも、早くあの城を壊せ。いくら城攻めの苦手な織田信奈とは言え万が一があるやも知れんからな」

 

「ははっ」

 

意気揚々と前進する家臣の姿を見て、義龍は不敵な視線を尾張、清洲の方向へ向ける。この時、義龍が何を考えていたのかは本人意外は知る由もない。

だがしかし、この時、義龍は大切なことを忘れていた。

 

『敵方に新たな武将が入っていないかの情報収集』という、大切なことを。

 

義龍軍のいる『中洲』の墨俣に向かって、鉄砲水が流れてきたのはその直後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「空城の計……古の諸葛孔明が司馬仲達を謀って撤退させたという策。半兵衛殿が使った十面埋伏の計に比べればいささか簡単な策には見えますが……その分、応用の効き方は群を抜きます」

 

墨俣から更に木曽川を上流に上った先、そこで朱乃は羽扇で口元を隠しながら墨俣を見下ろしていた。

その表情は完全に軍師の顔であり、罠に掛けたことを嗜虐的に悦んでいるようにも見えた。

 

「深読みして、古のように撤退すれば先ずは良し。されど、それを看破、またはそもそも考えが及ばずに墨俣に入ってしまえば……尚良し」

 

眼下では、昨晩からせき止めていた急流と名高い木曽川の鉄砲水によって流されこそしなかったものの、馬が暴れ、漂流物にぶつかったのか血を流す美濃の将兵、あらかじめ備えを作っていたために無事な墨俣城……混乱する美濃勢の様子がありありと見て取れた。

 

「もし、墨俣が制圧されるところまで計算通りだったら? もし墨俣が罠の巣窟だったら? もし、墨俣が織田ではなく斉藤の死地であったなら? ……武勇と中途半端な知略しか持たない貴方はどうするのですかね……斉藤義龍?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「姉上の策が成ったか……」

 

一方、墨俣から少し離れた場所に伏せていた愛紗は、朱乃の策が成ったのを確認すると、側に待たせていた馬に跨がる。真田衆の面々も同じように馬に乗ったのを確認すると、幸村はそちらに向き直る。

 

「慶次様より我らに任されたこの戦……その信に答えぬのは真田の名折れだ。この六文銭も只の形だけの装飾品と成り下がる。そんなことは、この幸村は許せそうにない」

 

静かに闘志をみなぎらせる愛紗と同様に、兵の士気も高まっていく。旗印としてまで掲げた六文銭に込めた覚悟と闘志を裏切ろうというような者は、この中には一人として居なかった。

そして、愛紗は突如馬首を返して駆け始める。それに真田衆が当然だというようにぴったりと着いていく。長年共に戦った阿吽の呼吸であった。

 

「槍を掲げろ! 覚悟を示せ! 真田の戦……始めるぞ!!」

 

『応!!』

 

武神・前田慶次不在の中、その忠臣が斉藤に牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「サル、わかってるわね? これがあんたが足掻ける最後の機会よ?」

 

「おう! わかってる! 尾張の、織田信奈の野望は絶対に終わらせねぇ! だからお前は浅井長政との結婚をチャラにされて悔しがる準備でもしてやがれ!」

 

「ふん、それがただのはったりにならないといいけどね」

 

「はっ、精々強がってやがれ!」

 

織田本隊、仲良く喧嘩しながら稲葉山へ電光石火の進軍中。

 

決着の時は、近い。






中間発表!

学パロ編……3票
中国毛利編……5票
奥州伊達編……9票
出雲尼子編……5票
朱乃襲撃編……6票
ニューリクエスト・慶松の日常編……2票
そして、デレ千代編……32票


…………
カ ン ス ト し と る !?

という訳で、デレ千代編は確定しました~!
投票は月曜日の正午まで受け付けてます

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