織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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近江~慢心と後悔~

「慶次、昼げを……って」

 

二人分の膳を持ち、また隣に同じく自分の分の膳を持った慶松を連れた万千代が慶次の寝ていた部屋の襖を開けるが、そこには既に誰もいない。

やはりですか……、と小さく溜め息を吐く万千代を見て不安になったのか、慶松は今にも泣きそうな眼で万千代を見上げた。

 

「ととさまは?」

 

「またどこかに逃げてしまったみたいですね……14点」

 

「ととさま……またけがするの……?」

 

先程よりもうるうるさせた眼を向ける慶松を、万千代は膳を下に置いてから優しく撫でた。

慶松は撫でられて気持ち良さそうに眼を細めるが、やはり不安の色は消えていないようだ。

もっと言うなら、慶松は誰かが怪我をしたり、気絶したりすると物凄く怖がり嫌がって泣き出してしまうのだ。万千代が包丁で誤って怪我をした時や慶次が愛紗と模擬戦をして叩きのめした時などには大泣きして大変な事になっていたりした。

帰って来た慶次に泣きついたのもその辺りが原因である。

 

「大丈夫ですよ。あのバカは救いようのないバカですが……それでも、約束を破るような人ではありません。慶松と『怪我をしない』と約束したのでしょう?」

 

「うん……」

 

「なら、良い子で待ちなさい。そうしたらきっといつもみたいにひょっこり帰って来ますから」

 

「……うん」

 

まだ少し納得していないらしい慶松だったが、それでも万千代の足に抱きつきながら頷く

 

「でも……」

 

「なんですか?」

 

そして慶松は万千代の足から離れると、再び膳を拾い上げて膨れっ面になる。その様子に万千代は首を傾げるが……

 

「かかさま、ととさまのわるくちいっちゃだめ」

 

「あら……ふふ、確かにそうですね。87点ですよ、慶松」

 

慶松の言葉に苦笑いしつつも、再び優しく頭を撫でる万千代であった。

 

「(全く……少しは心配させないようにしてほしいですね。少しくらい私達の心情を考えてくれてもいいでしょうに……0点)」

 

信奈が将を召集するまで、後二刻。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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自らを囲むように組まれた槍衾。その上から降り注いでくる矢の嵐。

それを唯一空いていた後ろに跳んで避けると、慶次はすぐさま前方に跳躍し、槍衾の上を越える。

更に、振り返りざまに槍を振るうと、まるで漫画のように人がドミノ倒しに吹き飛んでいった。

 

「き、貴様! 何者だ!」

 

「ここを浅井が本拠、小谷城と知っての狼藉か!?」

 

「……鈍い奴だな。浅井長政に喧嘩売りに来たっつってんだろうが。後、何者かってのは……」

 

飛んできた矢を槍を振るって弾きながら、慶次は目の前にいた将らしき人物を見据える。その本人はどうやら武で働く将ではないのか、少しばかり後ずさっていた。

 

「前田、慶次。一武人として、浅井に物申しに参った! 聞きたくなければ倒してみせよ! こちらはそれごと推し通る!!」

 

城内の全員に聞こえるように朗々と叫ぶ慶次。それに答えたのかそうでないのか、奥から騎馬隊が列を組んで駆けてくる。

 

「……いいねぇ。そうじゃないと面白くないってな。……ラァッ!!」

 

『!?』

 

慶次が地面に石突を叩きつけると、轟音と共に地面に小さく穴が開く。

その音に驚いたのか、馬は騎手の制御を聞かずにあらぬ方向へと駆けていってしまった。恐らく、帰って来るまでにはかなりの時間がかかるだろう。

それを見た浅井兵は皆怯えたのか慶次を囲んだまま一向に動かない。兵はおろかそれを率いている将までが腰を抜かしているのだから仕方ないと言えば仕方ないが……。

 

「……なんだ? もう抵抗は終いか?」

 

「う……全兵、あの男に向かって一斉射なの!」

 

華奢な体躯の、兜で顔を隠している将が震えながらも兵に指示を送る。……だが、兵は動かない。動けない。明確な力の差を示されたせいか、矢をつがえようにも手が震えていたのだ。

この時代、兵と言えば農民を集めて訓練しただけのにわか兵だ。それが、突然安全だと思っていた城の中に、とんでもなく強い敵が入ってくればどうなるか……。まず間違いなく、兵は逃げるか混乱する。それを考えれば今小谷にいる兵達は逃げ出さずに立ち向かおうとしているだけマシだと言えるだろう。

 

「み、皆!? 早く射つの! 近づけちゃダメなの!」

 

「……よい。高虎、兵を下げよ。怯えた兵を前に出すは愚策ぞ」

 

華奢な将の頭にポンと手を乗せる壮年の将。その横にはまだ年若い青年もいた。

 

「う、海北様……それに直経くん……」

 

高虎と呼ばれた少女が、海北と呼ばれた男性を涙目で見上げる。その不安を消すように男性は薄く少女に笑って見せた。

 

「なに、殿が戻られるまでこの城を落とさせやせんよ……直経、頼めるか?」

 

「あいよ。あの男の首挙げて名を高めてやんよ!」

 

男性が青年にそう言うと、青年は喜び勇んで慶次の前に躍り出る。

 

「誰だお前は?」

 

「はん、冥土の土産に教えてやる! 俺の名は遠藤直経! てめーをぶっ倒す男だよ!」

 

「そうかよ」

 

槍を片手でぶんぶん振り回す青年に対して、慶次はまるで興味のなさそうな声で返す。

 

「てめー……余裕ぶっこいてんじゃねぇぞコラ! 浅井に喧嘩売ってタダで済むと思うなよ!?」

 

「ごちゃごちゃうるせー。いいからさっさと来いよ。こっちはとっくにキレてんだ。ふぬけたままなら城内の全員シバき倒してもいいんだぞ?」

 

「その言葉、後悔すんなよーー!!」

 

慶次の挑発を真に受けて正面から槍を叩きつける直経。その衝撃は凄まじく、慶次の周りに衝撃波で起きた土煙が舞い上がる。

 

「どうだ! オレの力を思い知ったか!」

 

得意顔で槍を引いて構えようとする直経。だが、槍は何故か固まったように動かない。

 

「……軽いな」

 

「んなっ!?」

 

土煙が晴れた先。直経の槍を押さえていたのは慶次の槍だった。

地面に小さく穴があいているものの、慶次には怪我どころか服に汚れすら見られない。それなつまり、完全に見切られていたということを意味していた。

 

「そんな……確かに当たってたはず……」

 

「はずとかつもりとか、んなことで慢心すんなや」

 

「うっ!?」

 

瞬時に慶次に距離を詰められ、槍の石突での打突が直経を襲う。何とか槍の柄でガードでき、持ち前の怪力故か腕も痺れずにすんだものの、槍の柄にヒビが入ってしまった。

 

「くっ……!」

 

「そいつが……その槍が今の浅井の現状だよ。いい加減気付け」

 

「っ……何にだよ!?」

 

「テメェ等の主君が抱えてる辛さだよ!!」

 

突如叫んだ慶次に、周りが静寂に包まれる。

その中でただ一人、海北と呼ばれた男性だけが苦い顔をして唇を強く噛み締めていた。

 

「な、何を……」

 

「お前らはいつまで浅井長政をあのままにしてるつもりだ!? 何で主君に自分を偽らせてお前らはのうのうと日々を過ごしてんだよ!?」

 

慶次の剣幕に思わずたじろぐ直経。それほどまでに慶次の怒りは凄まじいものだった。

 

「家の事情があったかも知れねぇ。やむを得ない事情があったかも知れねぇ。けどよ……お前らはもう独立したんだろうが!! だったら主君を元に戻す位してやれよ!」

 

顔を伏せる直経。歯を食いしばる海北。ただ一人、高虎だけは海北と直経を交互に見て訳がわからないといった表情をしている。

 

「……少しだけでいい。少しだけでいいから、長政のことに意識を向けてやれよ……家臣なんだろうが」

 

「…………」

 

そう言うと、慶次は門の方へ踵を返し、後ろ手に何かを放り投げる。

 

「そいつは城門の修繕費だ。勝手に門ぶっ壊して悪かったな」

 

ただそれだけ言い残すと、慶次は今度こそ夜闇に消えていった。

 

「……………」

「直経……」

 

直経は、その場から微動だにしない。そんな彼の側に海北が寄ってきていた。

 

「あまり、気にするな。これは儂らが……久政様以来の譜代が背負う責よ。お主ら次代が気に病む必要はない」

 

海北がそう言うも、直経はゆっくりと首を横に振る。

 

「……オレはさ、じいさん。アイツが……お嬢が望んで今の感じになってるって思ってた。いや、思おうとしてたんだよ」

 

「直経……」

 

「バカだよなぁ……ちょっと考えればお嬢が無理してることくらいすぐにわかったのにさぁ……バカだからって……それ以外にいい方法が無いからって……考えることすら止めちまって……!!」

 

「もうよい。もうよいのだ」

 

溢れる涙を拭わずにいる直経の背を、海北はゆっくりとさする。いや、本当は逆なのだ。この中で真に泣きたいのは海北のはずだった。

……三日三晩、徹夜で姫の貞操を守る術を考え続け、『男装』という献策をしたのは海北だったのだから。

 

「くやしいぜじいさん……何でオレは……何でオレは……!!」

 

「…………」

 

直経は泣いた。兵達の前ということすら忘れて泣き叫んだ。そして……覚悟を決めた。

『お嬢の敵となるものは何であれ、誇りを捨ててでも、命を掛けてでも叩き潰す』と。

 

「……此度は完敗だの。まさか、誰一人殺さずして、完全に城を制圧されるとは思わなんだ……」

 

海北の呟きは、直経の慟哭の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あ~……全く、性に合わないことはするもんじゃねぇな。説教役はやっぱ万千代だけで十分だろ」

 

「そう思うなら敵に塩を送るような真似はしないでほちいでござるにょ」

 

「相変わらずかみかみだな。……プッ」

 

「うにゅう~~~!!」

 

松風の背中に安藤伊賀守を縛り付け、慶次は並走する五右衛門と共に一路美濃へ向かっていた。

 

「……いいぞ。先に行け。何だかんだでサルが心配なんだろ?」

 

「それは……」

 

くちごもる五右衛門に、慶次はゆっくりと語りかける。

 

「いいから先に行け。そろそろ副作用も来るしな。こんな松風の本気の2割も出てない速度じゃ墨俣まで半日以上かかっちまうぞ?」

 

「……」

 

「なに、心配は要らねぇさ。この戦はサルの戦。それを邪魔する無粋者を叩っ斬るくらいの余力は残ってる」

 

「……かたじけにゃい!」

 

慶次の言葉に少し迷う素振りを見せた五右衛門だったが、やはり良晴が心配だったのか慶次に先行してあっという間に先に行ってしまった。

それを確認した慶次は、松風のスピードを少し緩める。顔には出さなかったが、やはり丸薬の副作用が辛いのだろう。

 

「……悪いな松風。しばらくこの速度で頼む……流石に少しキツいわ」

 

「ブルル……?」

 

心配するように鳴く松風の背をそっと撫でると、松風はなるべく振動を与えないように走り出す。つくづく出来た馬だ。

 

「さて……舞台は整えた。サル、後はお前次第だぜ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけでいいから……引き摺られてるわっちのこと、思い出して下さい……」

 

「救いだしてやっただけありがたいと思えダメ爺」

 

「ひどい!?」




遠藤直経覚醒条件

・前田慶次の小谷城乱入の際、一騎討ちするを選択し、敗北。
・海北との会話で悔い改めるを選択

武勇に+25の補正→武勇106に(信長の野望革新が基準)


ちなみに慶次は補正で
統率86、武勇120+9(皆朱槍)、知略72、政治9、義理100です。



ちなみに、番外の件ですが、希望があったのが

・学パロ(慶次×万千代or慶次×朱乃)
・中国毛利編
・奥州伊達編
・出雲尼子(鹿之助)編
・朱乃襲撃編(18禁)
・デレ千代編(18禁)

と、なりました。なので、この中で10人以上のリクがあったのをやろうと思います


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