織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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美濃~稲葉山城ロリコンの変~

愛紗の暴走を何とか抑え、半兵衛を隠して愛紗を何故かあった縄で縛って事なきを得た翌朝。半兵衛と愉快な仲間達(仮)は稲葉山城のある金華山を登っていた。

元々竹中家仕官面接の目的は半兵衛の初登城を助けることである。今までは半兵衛の立てた策を叔父である安藤伊賀守が義龍に届ける形で大丈夫だったのだが、織田家が本格的な美濃侵攻に乗り出した今、城に出たくないというワガママが通るはずもない。

だがしかし。半兵衛の正体は人見知りの気弱なチビッ子幼女だ。それを知った半兵衛を良く思わない家臣が何をするかはわかったものではない。

 

「き、昨日は本当にすみませんでした……反省してます……」

 

おまけに、仮にも自らの家臣に向かってこの腰の低さである。まぁ涙目の美幼女という絵柄は川並衆の男共が見れば狂喜乱舞しそうな絵ではあるが、ロリコン以外にはあまり効果は期待できない。

 

「いやいや、こっちこそウチのアホが迷惑かけたからな。おあいこってヤツだよ」

 

「フガフガフガ」

 

「ごめん愛紗。お前が何言ってんのか全くわかんない」

 

「全く……貴様らは何かやらかさないと生きていられないのか?」

 

「……今回ばっかりは何も言えないぜ」

 

軽く笑って半兵衛を許す慶次に、鼻に小さく切った布を突っ込んでいるために上手く喋れない愛紗。それを見て溜め息を吐きながら皮肉を言う浅井長政に、言い返したくても言い返せない良晴。そして我関せずというように黙々と歩く犬千代。あらゆる意味でバラバラな一行である。

 

そして……

 

「……登り終えた」

 

ようやく山の中腹にある義龍の居館に辿り着いた半兵衛一行。そこまで来てようやく半兵衛は一ノ谷兜を被り、虎御前を帯びる。本人曰く、「ずっと身に着けていると首が疲れますし、お馬さんも重くてかわいそうです。くすんくすん」だそうだ。

だが、今回ばかりは一ノ谷兜を着けていたのが少々間違いだったようだ。

半兵衛が門をくぐって中に入ろうとした瞬間、門の上から生温かい液体が半兵衛の頭の上にかけられる。長政や慶次、良晴が門の上を見ると、一人の男が柴犬を抱えて立っていた。

 

「思い知ったか、我が主君におもねる文弱の徒が!」

 

慶次はそれを聞いて「ああ、下らねぇ誇りしかない小さい奴か」と判断し、すぐに半兵衛の側に寄る。

 

「おい、大丈夫か半兵衛?」

 

「……………」

 

声を掛けられた半兵衛はしばらく何が起きたかわかっていないように唖然としていたが、門の上の男を視界に入れると同時にその大きな目を潤ませた。

 

「……きゃあああああああああ!!」

 

「げぇっ……お、女子……!? しかも子供……!?」

 

自分が女の子相手に何をしでかしたのかわかった男はみるみる顔を青くする。

 

「ち、違うんだぁっ! 拙者には美少女×おしっこで興奮するような趣味はござらぬのだぁっ!!」

 

「いや、その台詞出てくる時点で色々ダメだろ……ってもういないし」

 

慶次が呆れた風に言うが、既に男は門から飛び降りて逃げ去っていた。

 

「さてと、バカは放っておいて……大丈夫か半べ……え……」

 

再び半兵衛の方を見た慶次は一瞬硬直し、そして全力で駆ける。そして……

 

「何トチ狂ってんだお前はァァァァァ!!」

 

「あぷろぱぁっ!?」

 

鼻血をダクダクと流しながら荒い息で半兵衛に迫っていた愛紗にドロップキックをかますのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~稲葉山城・義龍居館~

 

「どうしてこうなったんですかね……?」

 

「「大体愛紗のせいだと思う」」

 

以上、愛紗が目覚めた瞬間の第一声である。

何故慶次達が堂々と稲葉山城内で愛紗の介抱を出来ているかと言うと、愛紗が慶次のドロップキックをモロに後頭部に受けたせいで更に鼻血を吹き出しながらぶっ倒れたのを慶次と犬千代が必死で介抱している間に、なんやかんやで義龍達美濃将がぞろぞろと出てきて半兵衛に迫り、なんやかんやで半兵衛がキレて式神を召喚しまくり、なんやかんやで稲葉山城を乗っ取ってしまったのだ。

まぁ半兵衛がキレてしまうのも無理はない。何故なら美濃将のほぼ全員がロリコンという知りたくない事実を知ってしまったのだ。あらゆる意味でもう半兵衛が出仕することは二度とないだろう。

ちなみに愛紗が目覚めたのは安藤伊賀守が稲葉山城乗っ取りの事実に気付いた後で、慶次達が愛紗を館の中に運んだ直後だったりする。

 

「あわわ……あわわ……む、むむ謀反しちゃいましたぁ……い、いじ、いじめられますぅぅぅぅぅ……」

 

そして当の半兵衛自身は謀反をしてしまったという既成事実に慌てふためいている。何だこの可愛い生き物は。

 

「はぁ……。半兵衛はとにかく湯あみでもして落ち着いてこい。どのみちそのままだと風邪引くぞ?」

 

「あわわ……で、でも……早く謀反の誤解を解かないと……」

 

「ならばお姉さんと一緒に湯あみを……むきゅ!?」

 

案外お兄ちゃん気質なところのある慶次は、半兵衛の慌てっぷりを見て放って置けなかったのか、暴走一歩手前の愛紗を押さえつけながら半兵衛に湯あみをするように勧める。

その様子を見た犬千代は飼い主が別の犬を連れてきた時の飼い犬のようにムッとしてはいるが、仕方ないと言えば仕方ない。犬千代は犬千代で兄を取られたようでおもしろくないのだろう。

 

「で、でも……へくちっ!」

 

「ほれみろ、言わんこっちゃない……犬千代」

 

「……任された」

 

可愛らしいくしゃみをする半兵衛に慶次は再度軽く溜め息を吐く。そして後を犬千代に任すと、犬千代は小さな嫉妬心からか半兵衛を少し引きずるように歩いて行った。

 

「ああああ……半兵衛、はんべーーーい!」

 

「全く、こんな残念な奴じゃなかったはずなんだがなぁ。ホラ、早く鼻血止めろ。いい加減本当に死ぬぞお前…………ん?」

 

押さえつけられながらも尚半兵衛に手を伸ばす愛紗の鼻に、鼻血止め用の小さな木綿を詰めてやりながら、慶次は何かに気付く。

 

「(長政と安藤の爺がいない……?)」

 

慶次が朱槍を持って部屋を出たのは、良晴が犬千代の朱槍でしばかれて気を失うのとほぼ同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふむ、わっちに話とは?」

 

稲葉山城の門の前。安藤伊賀守はそこまで来るとようやく本題に入ろうと口を開く。

酒を煽ってはいながらも、安藤伊賀守は鋭い目で長政を見定めようとしている。一方の長政は相変わらずの貴公子然とした爽やかな笑みで伊賀守に向き直った。

 

「そこまで警戒なさらずともよろしい。大人しくしていてさえくれれば私とても手荒な真似には及びませんよ」

 

「ふふ、わっちは長ったらしい前置きは嫌いでのぅ……用があるなら手短にな」

 

そろそろ酒を取りに行かねばならんのでな、と伊賀守は酒の入っていた容器を逆さまにして長政に見せる。

 

「ふふ、そうですな。それではーー」

 

次の瞬間、長政の姿が伊賀守の前からかき消える。伊賀守が油断したのではない。酒に少しなりとも酔っていたことを引いても長政が早すぎるのだ。

そして、伊賀守は腹部に鈍い痛みを感じ、そのまま意識を闇に落とす。元々前線に立って戦うタイプでもなかった老骨の身には相当効いたらしい。

 

「……このまま近江に戻り、安藤を人質に取れば半兵衛は必ず私の手の中に転がり込んでくる。そうなれば私の勝ちだ」

 

長政はそうこぼすと、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。そしてそのまま踵を返し、稲葉山を後にしようと……

 

「待てよ、浅井長政」

 

したところで、後ろから声をかけられた。

素早く振り返ってみると、そこには朱槍を担いだ男……前田慶次がいた。

 

「貴様は……」

 

「人質取って忠誠を誓わせる……確かに悪い手じゃねぇ。悪い手じゃねぇが……ちょいと反則じゃねぇかい?」

 

「ふん、反則も何も……勝った方が正義だ」

 

「違いない」

 

槍を担いだまま豪快に笑い飛ばす慶次に、長政はいぶかしがりながら一歩一歩後ろへ下がって行く。

何故かはわからないが、長政の勘が今の状況が危険だと警鐘を鳴らしていたのだ。

一頻り笑い終えると、慶次は朱槍を下ろして長政に向ける。いつの間にかその顔にあった笑みは消え去っていた。

 

「……だったら、今ここでその爺を力ずくで取り返されても異論は無いな?」

 

「っ!」

 

慶次が口を開いた瞬間、長政は懐から何かを取り出して地面に叩きつける。その叩きつけられた場所から煙が辺り一面に撒き散らされた……煙幕だ。

 

「チッ……らぁっ!」

 

いつまで経っても晴れない煙に業を煮やしたのか、慶次は朱槍を振るって無理矢理煙を晴らす。煙が晴れた瞬間咄嗟に周りを見渡すと、かなり遠くに長政が安藤伊賀守を担ぎながら逃げているのが目に入った。

 

「逃がすか……っ!?」

 

当然のように追いかけようとした慶次だったが、何故か足に力が入らずによろめいて倒れそうになる。槍を地面に突き刺して杖にすることで何とか倒れずに済んだものの、既に長政の姿は視界から消え去っていた。

 

「(黄色い粉、鈍い体、ほんの僅かだが確かに匂う土の匂い……トリカブトか)」

 

慶次は僅かに衣服に付着していた粉からよろめいた原因を推測する。仮にも忍の里で育った慶次がこの有り様なのだ。相当強い毒が含まれていたのだろう。

 

「……こんな世の中だからこそ、守らなきゃいけねぇ仁義って奴があんだよ……浅井長政」

 

先日、とある人物によって届けられた実父の訃報。そして理不尽に奪われた義父の命。そして……残された者達だけが味あわされる言葉に出来ない悲しみ。

 

「ったく、またオチビとかかねたんには甘いって言われんだろうなぁ」

 

そのことを思い出しながら、慶次はゆっくりと稲葉山へと戻って行くのだった。






















先日、とある方からこんなメッセージを頂きました

『Ifルートで完全バカップルな慶次と万千代さんが見たいです!』

……えっと、Ifっすか? え? 現代? 戦国時代?

返信して聞いてみたところ、どうやら現代の学校生活での閑話を見たいらしいです。
なので、ちょっと質問です。感想でもメッセージでもいいので、こんな閑話が見たいという方はお知らせ下さい。希望が多ければ書いてみます。

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