織田信奈の野望~かぶき者憑依日記~   作:黒やん

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前期終わったぁぁぁぁぁ!!













尾張~一瞬の謀反騒動~

「万千代……何コレ?」

 

「バナナですよ? 津島で叩き売りしてました」

 

丹羽家の夕方の食卓。そこには美味しそうな一汁一菜が並んでいる。

……俺以外は。

俺の目の前には黄色のブーメラン型の憎いアンチキショウが一本だけちょこんと鎮座していた。

 

というかバナナってもう叩き売られてたんだなぁ……じゃなくて!!

 

「お前はバカか!? 夕飯バナナ一本とかバカなのか!? 二十歳の男の食欲嘗めんなよ!?」

 

「あら、食べるものがあることに感謝して欲しいくらいですよ? 21点」

 

え? 抜きも視野に入ってたの?

 

「まぁ、どうしてもと言うのなら……」

 

慶松に大根の煮物を食べさせながら、万千代は「仕方ないなぁ」とでも言わんばかりに俺を見る。

 

「え? 普通に飯くれんの?」

 

「慶松、バナナ食べますか?」

 

「勘弁してくださいマジで」

 

……グスッ、もうこの二日、朝昼晩三食バナナ。たんぱく質が恋しいとです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「という訳だから肉を食わせろ」

 

「どういう訳よ……ってちょっと!? それ私のてばさき!!」

 

その翌日の清洲城、信奈の部屋。障子を開けるや否やそう言い放ち、信奈の横に置いてあった名古屋こーちんのてばさきをがっつく慶次。

信奈はその暴挙を何とか止めようと頑張っているのだが、いかんせん身長差が凄いのでその場でぴょんぴょん跳ねているだけである。ちなみにどさくさ紛れにてばさきをくすねようとした良晴は早々に粛清されていた。

 

「慶次!? あんた万千代の所でご飯食べたんでしょ!?」

 

「あんなもん飯とは言わん! あれはおやつって言うんだ!」

 

「は?」

 

要領をいまいち掴めない信奈。慶次はそんな信奈を見ながら遠い目で語り出す。

 

「あれは二日前のことじゃった……」

 

「おととい!? 歴史浅っ! というか何で爺口調!?」

 

「まぁ、なんやかんやで俺の飯が朝昼晩全部バナナ一本になりましたとさ」

 

「なんやかんや!? 大事な所省かないでよ!?」

 

慶次にしてみれば絶対に言いたくない所であった。主に朱乃に夜這いされたとか、朱乃に襲われたとか、実は最終的には慶次が勝ってただとか。

 

「バナナって……俺はサルじゃねぇ……サルじゃねぇんだ……!!」

 

「えっと……まぁ、その内いいことあるわよ」

 

てばさきをくわえたまま男泣きする慶次にそっとてばさきを差し出す信奈。優しさが心に刺さった慶次であった。

 

「……俺が気絶してる間に何があったんだ?」

 

そして、気絶から目覚めた良晴はひたすら首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

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「嫌だぁぁぁぁぁ!! 死にたくないぃぃぃぃぃ!!」

 

清洲城の軍議室。信奈の部屋を出て所々に寄り道してから丹羽屋敷に戻るとすぐに万千代に半ば引き摺られて連れてこられた慶次の耳に入ってきたのはそんなどこかで聞いたような声の絶叫だった。

 

「なんだあの声?」

 

「……信勝様ですよ」

 

「信勝? ……ああ、あのオチビの後ろをちょこちょこ歩いてた御曹子か」

 

四年前、何度か信奈の後ろを着いていっていた子供を思い出す慶次。

 

「……ん? その御曹子が何やったんだ? 死にたくないとか叫んでるが……」

 

しかし、どうやら利久の葬儀の時のことはあまり覚えていないのか、土田御前に「信勝に味方せよ」と言われて反発したことは全く覚えていないらしい。都合のいい脳みそである。

そしてそんな慶次を見た万千代は、慶次が来てからやたらと増えた溜め息を吐く。

 

「貴方、本当にバカなんですね……2点」

 

「んだとコラ」

 

「信勝様は信奈様の弟君です。ですが……謀反の常習犯なのですよ」

 

「へぇ~。んで、今回とうとうオチビの堪忍袋の尾が切れたってとこか」

 

弟の謀反。その事実を知っても慶次にあまり驚きは見られない。何せ時代は戦国なのだ。親族で争うことなど日常茶飯事、むしろ前田家や毛利家など、兄弟や姉妹、親子で全く問題が無いという方が珍しいのだ。

まして信奈はその不器用な性格からか味方より敵の方が多い。というか敵が出来やすい。只でさえ母親と仲が悪いのに、その親から一身に、信奈に与えられるはずだった愛情まで注がれた弟が信奈を嫌うというのは有り得ない話では無いのだ。

……まぁ、信勝はただのお調子者のバカ殿なだけなのだが。

 

そして、万千代が障子を開けると、ずらりと並んだ織田の侍大将以上の身分の者達と、泣き叫んでいる信勝、そして何故か白装束の勝家がいた。

万千代が信奈のすぐ近くの席に座り、慶次がその後ろに座ると、信奈が小さく頷いて勝家を促し、その勝家が事の顛末を説明し始める。

 

「信勝様の不始末は家老であるあたしの不始末。この場はあたしの首でどうかご容赦ください!」

 

すがすがしいくらいに堂々とそう宣言する勝家。だが、合理主義者の信奈がそんな提案を認めるはずがない。

 

「勝家。あんたがいないと今川との戦に勝てないわ」

 

「しかし、今となっては慶次さんが……」

 

「慶次が万千代なしで私の言う事に大人しく従うと思う?」

 

「……………」

 

「何とか言えやコラ」

 

信奈のもっともな意見に何も言えなくなる勝家。その様子に慶次が軽く青筋を立てるが、事実は事実。勝家に反論は出来なかった。

……ある意味、慶次は信奈以上のデタラメなのだ。その気になれば軽く一国を取れる戦力を擁しており、更には人脈が尋常ではなく広い。奥羽から中国地方の果ての大名家まで、更には将軍と兄弟弟子であり、公家にも伝手を持っている。

信奈の目下の悩みはこの慶次の扱いであった。……まぁ、万千代のおかげで既に解決しているのだが……

後に、とある猫かぶり腹黒幼女の扱いの難しさに「これが滝川の血か……」と更に頭を悩ませることになることを信奈はまだ知らない。

 

「わかった? 損得を計算すると死ぬべきは信勝だと言う結論がとっくに出ているのよ」

 

「うあああああん! 姉上、名古屋名物のういろうを全国区にしようなんてちっちゃい野望を抱いた僕がうつけでした!」

 

大名が抱く野望ではない。明らかに商人が抱く野望である。

 

「……万千代、なんかバカっぽいぞ、アイツ」

 

「……こう言ってはなんですが、信勝様は世間一般で言うバカ殿です。利口は利口なのですが……20点」

 

慶次が万千代と小さな声で話していると、信奈が立ち上がり、太刀を持って信勝の側まで近付いて行く。そして太刀を抜き、冷たい、ぞっとするような目で信勝を見据えた。

そんな信奈の姿に家臣達が軒並み平伏して震える中、流石にまずいと感じたのか、信奈を諌めるために立ち上がろうとした万千代を慶次が後ろから抑える。

 

「慶次!?」

 

「黙って見てろ」

 

「しかしこのままでは信奈様が人でなくなってしまいます!」

 

万千代の悲痛な言葉にも、慶次は顔色一つ変えない。

 

「いざとなったら俺が止めてやる。ここからなら例えオチビが刀を降り下ろしてからでも間に合うからな」

 

「でも……」

 

「オチビにとっちゃここがある意味分水嶺だ。そして、本当に信頼できる奴がいるかどうかもな」

 

「……それはどういう意味です?」

 

どうやら万千代も冷静さを取り戻したようで、慶次に聞き返す。

 

「……ここでお前や勝家みたいに堂々と意見を言えるような奴がいるかどうか。そんな奴が一人増えればよりオチビは天下に近付く」

 

「!!」

 

慶次の言葉に、万千代は全てを悟った。

 

……諌言を奏上できる家臣。その存在は非常に貴重であり、また稀有だ。

主に天下をとらせるためならば、命を懸けてその主の間違いを指摘する。今の信奈にはくしくも万千代と勝家といそのような家臣が二人もいるが、常に信奈の側に侍っていられるとは限らない。そんな家臣は多いに越したことは無いのだ。

ましてや信奈自身、諌言を理由も無しにに切り捨ててしまう程バカでは無いのだから。

 

慶次は、とある方向に目を向けたまま、立ち上がるための力を抜いた万千代から手を離す。

 

「……いざとなれば、頼みますよ?」

 

「おう」

 

そして、そのような諌言はーー

 

「ーー待てよ信奈!!」

 

 

末席から、上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして丹羽家の夕飯。またバナナか……と肩を落としながら広間に向かった慶次だったが……

 

「あら、遅かったですね。もう昌幸殿と幸村殿は食べ終えて書庫に戻っていきましたよ」

 

「ととさま、おそい」

 

万千代と、その膝の上に座っている慶松。実は慶松は信奈の保護の条件で慶次と万千代の養子として引き取られていたのだ。慶次からすれば「俺と万千代は夫婦じゃない」と主張したいところだったが、慶松が自分をととさまと慕っていたために諦めた。

……実は、一度「夫婦じゃない」と言った時に慶松に袖を引かれて泣きそうな目で見つめられたのに負けたのだが。

 

そして、慶次が半分諦めた顔で机を見ると、そこには三人分の夕飯が。

……三人分?

 

「どうしたんです?」

 

「え? いや……え?」

 

若干訳がわからない感じの慶次に、万千代はむっとした表情になる。

 

「……いらないなら、またバナナに戻しましょうか?」

 

「やー! 美味そうだなー! 」

 

一瞬で席に着く慶次。完全に身体能力の無駄遣いである。

 

「……にしても、何で急に機嫌が直ったんだよ。というかその前に何で怒ってたんだお前?」

 

そんな慶次の言葉にピクッと体を震わせる万千代。慶松は食べさせてもらっていた万千代の箸が止まったのに首を傾げながら、そのまま口を開けている。

 

「えっと、その……そ、そう! 慶松が慶次も自分達と一緒がいいってお願いしてきたからです! あまり勘違いしないでくださいよ!?」

 

「へ? お、おう。ありがとな慶松」

 

「……? ん?」

 

明らかに何の事かわかっていない慶松を見ながら、「何を勘違いするんだ?」と考える慶次だった。

 

……自分でも何でイライラしていたのかわからないのに、説明など出来ない。なので、そう誤魔化すしかない万千代なのであった。


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