城下町のダンデライオンー偽物の10人目ー   作:雨宮海人

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葵回続きでーす。
シリアス回となり、色んな意味で作者の自己解釈が入っており、いつにもまして駄文になってしまってますが温かい目で見守ってくれたら幸いです……

そして、アニメ10話と11話が放送されましたが、やっぱり原作と違うところが多く(時系列や選挙に対する向き合い方など)どうしたものか……




第20話

葵姉さんと話してから数日後、俺は学校で葵姉さんとその友人である先輩方を見かけていた。

 

「見て、葵様が張り紙して回っているわ」

 

「邪魔してはだめよ!」

 

ただの張り紙の作業がパレードのようになっていた。

 

多少人気のある俺でもこうはならない。葵姉さんの人柄などがなせることなろうだけど。

 

それはそのそばにいる友達すらも視線に晒すという意味になり、さらには

 

「お供も連れてるわね」

 

こんなことをいう輩も現れるわけで、人柄がよくない人間なら友達をやってられないと言われてもおかしくない、それでも卯月生徒会長をはじめとする先輩方は小学生のころから葵姉さんと付き合っている幼馴染である。

 

あの人たちは王族とか人の視線とか関係なく葵姉さんと真正面から付き合っているいい人たちだ。

 

「式、葵様来てるのに声かけないのか?」

 

「いいんだよ。今は仕事中だろうし邪魔しちゃ悪い」

 

「それにしてもお前と違って葵様のお供は色んな人に見られて大変だな。茜さんとかならすぐに逃げ出しちゃうだろ」

 

「違いない。だからこそいい人たちだと俺は思ってるよ」

 

「なんだよ!お前あの先輩方の中の誰かに気があるのか?」

 

「そんなんじゃないよ。いい人たちではあるけどな」

 

なにやら桃太郎で自分がどの役割かを揉めている四人の姿を見て、俺は少し笑いながらその場を去るのだった。

 

 

 

 

クラスメイトとくだらないやり取りをして、俺は放課後を過ごした俺はいつもよりも少し遅く帰宅していた。

 

「茜のやつ、大丈夫かな?」

 

茜は自分一人で帰ると言っていたのであえて茜には会わずに俺は一人で帰宅中である。

 

おそらくだけど、俺よりも早く帰ったはずなので、会うことはないと思うが……

 

「茜ちゃん偉いじゃん一人で帰って」

 

「少しでも自立しないとなと思って」

 

思ったのだが追いついてしまった。しかも葵姉さんと卯月先輩、菜々緒先輩、静流先輩も一緒だった。

 

「茜、そう思うなら後に出た俺に追いつかれないようにしてくれ」

 

「えっ!?式!い、いや途中でお姉ちゃん達にあったから遅くなっただけだよ!」

 

嘘だ、それだけなら追いつけるはずはない。どうせ歩くスピードがかなり遅かったのだろう。

 

「式君は今帰りですか?」

 

「はい、クラスメイトと話していたら思ったよりも時間が経ってたもので」

 

「式君、厳しいね。せっかく茜ちゃん頑張ってるのに。あかねちゃん演説もやってるんでしょ?」

 

「すごいです、恥ずかしがりだった茜ちゃんが演説なんて」

 

「私茜ちゃん応援してるよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

茜は恥ずかしそうだがそれよりも嬉しさの方が上回っているようだ。

 

「じゃあ、私たちこっちだから」

 

「それじゃあ」

 

「また明日です」

 

「うん、またね」

 

先輩方は方向が違うので、ここで別れることになる。俺も声は出してなかったが一礼して、葵姉さんたちの方へ歩いていく。

 

「いいお友達だよね」

 

「そうだな。葵姉さんは友達に恵まれてると俺も思うよ」

 

別れてすぐ、茜の言ったことに俺も賛同するがなぜか葵姉さんの表情は晴れてなかった。

 

「そうだね。でも……みんな私の能力でできた友達かも」

 

俺は葵姉さんが小さな声で言った言葉を聞き逃さなかった。確か、俺が見た資料には葵姉さんが能力に気がついたのは中学1年生のころで幼少期には無意識に能力が発動してたが効果時間が極めて短かったというものであった。

 

「えっ?お姉ちゃんもしかして私たちが王族だから先輩達と友達になってくれたんだと思ってる?」

 

「えっ、そ、そうかもね」

 

「でも、きっかけがそうでも今は確かにお姉ちゃんの友達だよ」

 

「そう、かな……」

 

茜のちょっとだけ見当違いの言葉に葵姉さんは暗い表情で答えていた。

 

でも、葵姉さんのその答えは、俺にとって許せるものじゃなかった。

 

「悪い、茜。先帰ってろ」

 

「えっ?どうしたの式。忘れもの?」

 

「葵姉さんちょっと付き合ってよ」

 

「え?なんで?それに茜を一人に――」

 

「いいから、茜は先に帰ってろ。わかったな」

 

俺は茜には申し訳ないが威圧するように言った。

 

「わ、わかったよ。家ももう近いし大丈夫。じゃあ先に帰ってるね」

 

「あ、茜!」

 

茜は家の方に向かって走り出してしまう。これで二人きりだが、話をするにはカメラが邪魔だ。

 

「ごめん、少し飛ぶよ葵姉さん」

 

「わっ!?ど、どうしたの式くん。何か怖いよ?」

 

「大丈夫、茜と違ってスカートにも能力使ってるからみえることはない」

 

「そ、そうじゃなくて!」

 

カメラを避けるために近くにある森に俺と葵姉さんは着地する。

 

これで本当に誰にも聞かれないし邪魔も入らない。

 

「そろそろ説明して!」

 

さすがの葵姉さんも強引に連れて来られたので、怒っているようだが

 

「さっきの茜の言葉。どう思ってる?」

 

「……友達のこと?茜の言うとおりだと思うよ。今は私のちゃんとした友達だよ」

 

しかし、その表情は笑顔ではあるがいつもの優しい笑顔ではなかった。

 

正直に言えないのはわかる。でもそれでも――

 

「葵姉さんのその態度は卯月先輩たちをバカにしている……」

 

「えっ……」

 

俺の言葉に葵姉さんは豆鉄砲を食らった顔になる。それでも俺は続ける。

 

「そんな顔で嘘を吐くなんてどれだけ先輩たちをバカにすれば気が済むんだ言ってるんだよ」

 

俺の言葉に葵姉さんは完全に俯いてしまい、俺に聞こえるギリギリの声で言った。

 

「そんなことない……」

 

「先輩たちはいい人たちだよ。葵姉さんが王族で兄弟の中でも一番注目されやすくて、お供なんて言われるのに葵姉さんと仲良くしてくれて、今も葵姉さんを支えてくれてる。その先輩たちに対して葵姉さんのその態度はなんだよ!」

 

あんなこと誰でもできることじゃない。むしろできる人の方が少ないだろう。

 

「やめて……」

 

「葵姉さんは先輩がたのことどう思ってるんだ」

 

「卯月ちゃん達は……私の大切な友達だよ……」

 

はっきりと言えない葵姉さんの態度に俺は我慢の限界を迎えた。

 

「能力でできたか!」

 

「えっ!?」

 

ここで言うべき言葉ではないのかもしれない、言えば俺の秘密だってばれる可能性があるそれでも我慢できなかった。

 

「能力で作った友達だっていうつもりかって聞いてるんだ!」

 

「どうして式くんがそれを……」

 

葵姉さんからしたらびっくりすることだが、今の俺には関係ない。

 

「答えてくれ!」

 

俺の言葉に葵姉さんは少し黙ってしまうがやがて口を開く

 

「……そうかもしれないって思うことがあるよ。式くんは知らないけど私ね、三人に初めて会った時こういったの『友達になってください』って」

 

「でも、小学生のころの話だろ。効果時間は短いはず――」

 

「それでも!能力を使ってしまった可能性は否定できない……」

 

初めて葵姉さんが口調強め、泣きそうな表情になってしまう。

 

「じゃあ、葵姉さんと先輩たちの友情は能力で縛り付けた鎖のようなものだって言うのか!」

 

「そ、そんなこと言うつもりは……」

 

葵姉さんは自分の絶対遵守がその名の通り絶対だと思ってるからそういう考えに行きつくんだろう。

 

そりゃそうだ。自分が能力を使って言ったことには相手は絶対服従。嫌なことを考えてもしょうがない。

 

でも、そんなのを先輩たちとのつながりの理由にして欲しくない!

 

「じゃあ、使ってみろよ。絶対遵守」

 

「……何言ってるの式?」

 

「もし、葵姉さんが自分の友情がそんなものでできたものじゃないっていうなら、俺がその能力を受けて証明してやるよ。そうすれば葵姉さんも能力は絶対じゃないって思えるだろ」

 

「それは嫌……私は家族に能力を使う気はないよ」

 

葵姉さんは首を振るが、俺は構わずに続ける。

 

「葵姉さんは能力のこと家族にを知られたくないんだろ?ちょうどいい、消してみればいいじゃないか」

 

「式くん!……本当に怒るよ」

 

泣きそうになりながらの葵姉さんの目は本気である。

 

正直俺にも勝算はない。でも、王家の能力は完璧とは限らない。特に葵姉さんぐらい強い能力だと絶対ということはない。遥の確立から未来を変えるように抵抗できる可能性。俺はそれにかけるしかない。

 

「もしこのまま帰るなんて言ったら俺はこのことを家族に言うよ」

 

「式くんはそんなことしないよ」

 

「そうだね。葵姉さんは普段の俺のことよくわかってる。だから、今の俺が本気ってこともわかるよね」

 

「……」

 

俺に威圧されてしまい、葵姉さんは後ろに下がってしまう。よく考えればいつもそうだ、葵姉さんは大きな問題が目の前に出てきたら逃げる傾向がある。

 

家族では長女としてみんなを守ってくれるけど、自分のことは何もできず抱え込んでいたんだろう。

 

なら、その問題から守るのが俺の役目だ。

 

「逃げるな。葵!俺を信じろ!俺は絶対に忘れない!証明してみせる。葵と先輩たちの友情を!」

 

俺は葵姉さんを逃がさないように両手を肩に置き、叫んだ。

 

そして、一度目を閉じていた葵姉さんがゆっくりと目を見開く。

 

「……いくよ。式くん」

 

ようやく、やる気になってくれたようで、葵姉さんは俺の目を見ていった。

 

「いつでも」

 

俺は笑顔で葵姉さんに言った。怖くないかと言われれば嘘だが、今更引き下がる方が俺の流儀に反する。

 

「式くん、『私の本当の能力について忘れなさい』!」

 

葵姉さんが言葉を紡いだ瞬間。俺は葵姉さんの肩から手を離し、その場にうずくまる。

 

「ぐっあっ……!」

 

頭が割れる、まるで能力を使いすぎた時のようだ……

 

「式くん!?」

 

おそらく何も知らないで能力を使われていたら、もう記憶は消されてるだろう。

 

でも、俺は知ってる!なら抵抗もできるだろ!

 

忘れるな!忘れるな!忘れるな!忘れるな!――

 

そのうち頭の中に何かの映像が流れ込んできた感覚に陥る。

 

その光景は俺が自分の秘密を知った日。偶然ではあるがその時葵姉さんのレポートを読んだ時だ。

 

あの時は驚いたな。まさか、葵姉さんが俺達兄弟に隠し事してるなんて思いもしなかった。

 

でも、内容をちゃんと見た時に納得したよ。こんな能力を持ってるなんて知られたくないのは当然だ。優しい葵姉さんなら問題ないと思ったけど、怖かったのだろう。それは俺も同じだ。だから今もこうして秘密にし続けている。

 

そして、この秘密を知った日こそが俺にとっての最大の罪を犯した日だ!

 

俺は父さんに約束した。この日のことを忘れず生きろと、だから仮に偶然見つけた葵姉さんの能力について知った記憶も消されて忘れてなかったことにするわけにはいかない!

 

「忘れて……たまるかぁ!」

 

「きゃっ!?」

 

俺は無意識に能力を使っていたのか、俺の近くに葵姉さんは押されて尻もちをつく形になる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「し、式くん」

 

頭ガンガンする。俺は一体何をしてたんだろう?

 

思考が一度完全に飛んでしまったので俺は、周りの光景を見て確認する。

 

そこには心配そうに俺の方を見ている葵姉さんが目に入った。

 

そこまできてようやく自分が今まで何をしていたのかを思い出す。

 

「頭がメチャクチャ痛いよ。思った以上にやばい」

 

「式くん大丈夫!?今すぐ救急車を――」

 

心配して駆け寄ってきた葵姉さんの肩をつかみその動きを制止させる。

 

「でも、葵姉さんの能力よりも俺の勝ちね。俺に負けるぐらいだ。葵姉さんのその能力は先輩たちを縛り続ける効力なんてあるわけないよね。先輩たちは正真正銘、葵姉さんの大切な友達だ」

 

俺はそう言って葵姉さんの方を見ながら笑った。葵姉さんはその言葉に驚きながらも笑ってくれた。

 

「式くん……うん。私の負けだね」

 

そういいながら葵姉さんは抱きしめてくるが、なんというかさすがに高校一年と三年なので恥ずかしい……

 

「葵姉さん……ちょっと恥ずかしいから――」

 

「ごめん、なんか色々込み上げてきちゃって……」

 

葵姉さんは離す気配もなく、むしろ強くなってる気がする。

 

「全く、しょうがないな。葵姉さんは。でも、こんな葵姉さん滅多に見れないらいいか」

 

「もう……からかわないでよ」

 

「ごめんなさい」

 

どれくらい経ったがわからなかったがそこまで時間をかけることなく、葵姉さんは俺のことを離してくれた。

 

特にすることもないので、俺たちは帰路につく。

 

「ほんとにごめんなさい。私――」

 

「謝るなら先輩たちに謝ったら、俺は葵姉さんが先輩たちのこと甘く見てると思って、怒っただけだよ」

 

「うん。そうする。でも、式どうやって私のことを?」

 

まぁ、聞かれるだろうなとは思っていた。それに隠し通せる気もしない。

 

「それが俺の秘密だよ。葵姉さん」

 

「ずるい!式くんは私の秘密知ってたのに!」

 

「大丈夫、いずれちゃんというつもりだから。ただ今はその時じゃないんだ」

 

「なんか不公平だな~」

 

「そう言わないでくれ。それとも言わせる?」

 

俺は葵姉さんに笑みを浮かべながら問う。心配なんてする必要もないなぜなら葵姉さんはうちの家族で一番優しいのだから。

 

「……使わないよ。私はこの力を私利私欲のためには使わないって決めてるから」

 

「ほんと、葵姉さんがその能力の持ち主でよかったと思うよ。父さんもそう言ってたっけ」

 

「うん、いわれたよ。私が優しいから今まで被害がなかったんだろうって、能力がわかった日に」

 

ほんとにそうだよな。私利私欲の強い人間がこの能力を得たら、王様になることだって容易い。

 

想像しただけで怖くなるよ。

 

「でも、能力が何であれ私の美貌に変わりがないとかも言ってた……」

 

「さ、さすが父さんだね。葵姉さんが可愛いのは事実にしてもそのタイミングで言うか」

 

「もう、式くんからかわないでよ」

 

葵姉さんは恥ずかしそうにそっぽ向いてしまうが、その仕草も可愛い。男子どもが群がるのも当然である。

 

「別にからかってないよ」

 

「嘘、あっ、忘れてたけど。式くんには罰ゲームを受けてもらいます!」

 

「えっ!?俺何かしたっけ?」

 

「お姉ちゃんを泣かせた罪です。もちろん甘んじて受けてくれるよね?」

 

いつも通りの優しい笑みを浮かべた葵姉さんの願いを断ることもできず、

 

「わかったよ」

 

俺も笑顔で返すのであった。




ちょっと補足をいれると、葵が今まで能力を使った時は全て不意打ちのようなタイミングだったので覚悟のできてる人なら抵抗できるのではという設定を勝手に加えております。でないといくらなんでも強すぎるので……
でも、式のようなキャラで何とか抵抗できるので一般人には無理ですけどね。
長々と失礼しました。次はアニメ7話の話となります。

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